『仮面ライダーエグゼイド』感想・第35話
◆第35話「Partnerを救出せよ!」◆ (監督:山口恭平 脚本:高橋悠也)
ナレーション「これは、かつてないウィルスから患者の命を守る為に奔走する、ドクター達の物語である」
OPの前に「俺たち特攻野郎Aチーム!」的な煽りが入り(こういうのは、なんと呼べばいいのか)、ドクターではないので、一緒に並べて貰えない新黎斗、ちょっとだけ可哀想(笑)
CRが、飛彩の裏切りに続くレーザーの出現に激しく揺れる中、檀正宗は『仮面ライダークロニクル』の運営状況について悩んでいた。
「足りない……もっとプレイヤーを増やさなければ」
それはそうでしょうね……。
「そんな事をして、どうするつもりだ」
「より多くの人間の命を掌握する。医療が人の命を支える時代は過去のものとなり、ゲームによって命が管理される。命の管理者である私こそが――世界のルールになる」
いよいよ正宗が悪の総帥ムーヴを本格化し、その誇大妄想的な野望を口にするのですが……なにぶんその前提が「既に危険性を公表されているゲームのプレイヤーになる」なので前後の脈絡が完全に見失われており、ムショ暮らしが長くて、時代のニーズが致命的に掴めていないのでは。
バグスターのもくろみにより「ゲームが現実を侵食する」『仮面ライダークロニクル』の発動が、檀正宗の登場により「ゲームを新たな現実とした新世界秩序の構築」へとシフトして以降、「オンラインゲームが、(様々な形で)現実とクロスする」系の物語群の影響がより色濃くなっているのですが……その分野において本邦の代表的な作品といえる、
《.hack》シリーズの展開が2002年~・『ソードアートオンライン』の商業出版が2009年~(WEB連載は2002年~)・『ログ・ホライズン』の書籍刊行が2011年~
で、『エグゼイド』放映時期には既にスタンダードなアイデアとして定着していたといえるだろう上で、いずれの作品も、そのゲーム規模と発生する問題が密接にリンクしている事で物語を成立させているわけですが、今作においては『仮面ライダークロニクル』の浸透度と檀正宗の野心が激しく噛み合っていない為に著しく説得力の不足を招き、理想の設計に基づいた屋敷を建てるには、そもそも土地が狭すぎる、といった風情になっています。
悪の発想としてはインフラ支配型なのですが(ゲームに寄せるなら例えば、全世界のスマホに悪意あるプログラムが仕込まれていた、的な)、そもそも『クロニクル』がインフラになり得ていないので誇大妄想が本当に誇大妄想になっており、これならもう最初から「『クロニクル』全世界売り上げ10億本達成!」みたいな大きな嘘でパワーボムしてきた方が良かったような。
正直、現状から、世界展開だ! おー! と入れてきた事に物語の構成として大困惑しているのですが、スタッフ側は面白いと思って入れてきているであろう「正宗の社長活動」が、個人的には軒並み悪手に見えて仕方ありません。
この後も、社員を集めた会議の席上で「消滅者の命を取り戻す為に頑張ろう!」みたいな事を言うと社員一同から拍手が沸き起こるシーンが描かれ、恐らくその前段階でなんらかの嘘を吹き込んでいるのだろうにしても、プレイすると消滅可能性の高いゲームを世界展開する事が命を取り戻す事に繋がると社員の皆さんは誤認してします、に納得しろというのはあまりにも無理があります。
カモフラージュ的な悪の秘密結社興味も含め、あくまでも「表向きはゲーム会社を装っています」を貫きたいのでしょうが、2クール目以降の幻夢コーポレションは、どう低く見積もっても公安の監視対象みたいな組織なので、「表向き」も「装う」もなにもないとしか思えない為、狙っている面白さを感じられず。
CRに緊急通報が入り永夢が出動すると、エグゼイドの医療行為を妨害するべくレーザーターボが出現。レーザーTにはZゲンムゼロが襲いかかり、あくまでも黎斗が永夢に賛同したとかではなく自分の理屈で動いているのは、ギリギリ一線を保ってくれて良いところ。
プロト自転車ガシャットを操るレーザーTは決め技を発動し、エグゼイドが「まずい」と自分一人だけ鋼鉄化して防ぐ横で、見事に車輪に轢かれたZゲンムゼロがゲームオーバーとなり、いやちょっと、かばう仕草ぐらいしてあげて下さい(笑)
「私の貴重なライフをよくも!」
「てめぇ誰だ?」
まあ黎斗はさっくりその場コンティニューし、重役出勤した大我の詰問に応える形でレーザーTが変身を解除すると、その正体は間違いなく、黒いジャケットをまとった(シャツはあいかわらずボタニカル柄)、九条貴利矢。
「『ライダークロニクル』が……この世界の命のルールを変えたんだよ」
九条はバグスターワープで姿を消し、グラファイトがゲムデウスウィルスの培養を続け、黎斗が打倒クロノスを掲げて新たなガシャット開発の為に修羅場モードに入る中、屋上で黄昏れる永夢とポピ子。
「別人みたいだった……昔の貴利矢はあんな人じゃなかったのに」
まあそんな貴利矢に、ポピ子さんは割と冷たい態度でしたけどね……!
「あれは貴利矢さんじゃない」
プログラムで人格を弄っているに違いない、とターボ貴利矢を否定する永夢の前にパラドが現れると、打倒クロノスの為にレーザーTを倒せ、と囁くのも3回目となると悪い意味でワンパターン。
バグスターの命を弄ぶクロノスに怒りを燃やすパラドだが、永夢はそれに反発。
「おまえだって……人の命を踏みにじってきただろう!
「仲間のラヴリカが殺されて、パラドも思い知ったでしょう? 命を失う事の意味を。……あなたがプレイヤーの人たちを消滅させてきた事の重大さを」
「黙れ。……おまえだって人の命を奪って生まれた存在だろ」
「だからこそ! 私は決めたの。人の命を、人の笑顔を取り戻す為に永夢と一緒に戦うって」
そこからパラドの“変化”の萌芽について触れると、返す刀でポピ子さんの問題へと切り込み……ああようやく、ポピ子さんが、「余命宣告無罪」「陽性無罪」で誤魔化さずに、自分の存在と向き合ってくれた!
人の倫理観からすれば“原罪”を抱えているとはいえ、生まれてきた事そのものの責任はポッピー自身には無い以上、ポピ子が自分という存在をどう捉えるかはバグスター全体にも繋がる重要なテーゼになり得たので、ようやくその点に、完全無視やその場しのぎでお茶を濁す事なく踏み込んでくれたのは、今回の良かったところ。
……とはいえ、宿主の記憶は無かったにせよ「バグスター」の自覚はあったポピ子さんの自己認識についての問題は、周囲のリアクション含めて序盤からしっかりと向き合って組み立てていくべき問題であったと思うので、作品としてそこから目を逸らし適当に扱い続けてきた事は、返す返すも残念でした。
「おまえと一緒に戦う気はない。貴利矢さんの事は、あの人の笑顔は、僕が取り戻す」
最近、笑顔ハンターとしてのレベルが上がりすぎて、いちいち告白みたいになっている永夢先生は、パラドの誘いをはねつけると救急通報に出撃。なんかもうすっかり、次に貴利矢が出てきたらリプログラミンで人格改造する気になっているのですが、笑顔の為なら倫理観は二の次です!
そして、魔法使いバグスターとゲーム病患者の戦いに介入しようとする永夢の前には、グラサンを取り戻した貴利矢が立ちはだかる。
「あなたの言葉が、ずっと僕を支えてくれたんです。僕の中で、貴利矢さんがずっと生き続けていたから、どんな困難も、乗り越える事ができたんです! だから今度は、僕が貴利矢さんを救います。……あなたの笑顔を取り戻す為に!」
「……別に救われる事なんてなにもない」
だいぶ思い出が美化されている気がしないでもないですが、両者は変身して激突。お邪魔虫のクロノスが外野で観戦する中、レーザーTはプロトジェットガシャットにより空飛ぶレーザーTとなり、近接戦闘のやりにくいMAXエグゼイドと空中戦を展開するのは、割と格好いい画面に。
「おいどうしたぁ? やる気あんのかよ?」
(リプログラミンするには、クロノスをどうにかしないと)
移動中の大我も含め、どうして君たちは、そんなに人格改造前提なんだ……(大我も同様に考えている事で、永夢一人の暴走ではないと示す狙いはあるのでしょうが、双方の思い込みによる前のめり感も増す事に)。
そこに珍しく提督スナイプが駆けてきてクロノスを相手取ると、今週のクロノスの見せ場で生まれた隙にMAXエグゼイドは魔法使いバグスターを消し飛ばし、その爆風に紛れて接近戦を仕掛けると、リプログラミング斬の直撃を受けたレーザーTは吹っ飛んで変身解除。
これで洗脳解除だ! と九条に歩み寄る永夢だが、微笑を浮かべて立ち上がった貴利矢の強烈な上段回し蹴りがその顎に叩き込まれ、今回の永夢の行動はだいぶ傲慢な思い込みになっていたと思うので、正直ちょっと気持ちよかったです(笑)
黒九条の言行から、あれは本来の九条の意志ではない、と考えるのは人情として理解はできますし、データ存在と化しているので悪のプログラミングをされたに違いないという発想も頷ける範囲ですが、だからといって、「善意からとはいえ(一応)人間として認識している相手に人格改造光線を安易に打ち込む主人公」は医療倫理的にアウトだと思うので(やるにしても、本当にどうしようもなくなってからの最後の手段だよな……と)、カタルシスウェーブによる改造手術が失敗に終わって心底ホッとしました。
「なーんか勘違いしてるみたいだけど、自分は自分だ」
「彼が私に従っているのは、彼自身の意志」
「クリスマスのあの時、自分はおまえに全てを託した。でもバグスターを根絶するどころか、『ライダークロニクル』を止められずに犠牲者を出した。期待外れもいいとこだ」
貴利矢は愕然と座り込む永夢に冷たい言葉を投げつけ、あれこれ、永夢先生、ストレスで消滅しませんか?(笑) (「ゲーム病」における永夢の現状は、さっぱりよくわかりませんが……)
「結局おまえは一人じゃなんにもできない。天才ゲーマーだったのはパラドの力があったからだ」
胸ぐら掴んで永夢を立ち上がらせた貴利矢は、その耳元で何かを囁き、絶叫した永夢は、立ち去ろうとする九条の顔面に拳を叩き込む。
「そっちがその気なら、こっちもノってやるよ。おまえはもう、僕の仲間じゃない!」
そもそも、仲間にしてくれと頼んだ覚えはない!
……はまあさておき、ここで「ノる」という言葉が選択されているのは両者の繋がりを示すキーワードとして意味ありげで、永夢の心を激しく揺さぶる存在として、嘘で自分を固めたトモダチ・九条貴利矢の復活は、いいスパイスになってきました。
その一方で、正体を明かしたパラドの賞味期限がほぼ切れているのは不安材料ですが、「最強の敵」の座も、「舞台を引っかき回すトリックスター」の座も失ったパラドが、グラファイトとの友情パワーで捲土重来する時は来るのか?!
九条と共にその場を去ったクロノスが、新たなガシャット『タドルレガシー』を飛彩の前で取り出す一方、黎斗もまた金色の新たなガシャットを作り出しており、独り雨に打たれる九条は果たして何を思うのか。
「レーザーに何を言われたんだ?」
「……知らない方がいい」
そして、永夢を爆発させたレーザーの言葉とは。
次回――分裂を超え、顔面アーマーを超え、なんかまた凄いの出てきた。