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ウルトラマンが(3人)欲しい

『TDG 超時空の大決戦』感想

◆『ウルトラマンティガウルトラマンダイナ&ウルトラマンガイア 超時空の大決戦』◆ (監督/特技監督小中和哉 脚本:長谷川圭一
 『ウルトラマンガイア』放映中盤ごろ(3月)に公開された劇場版。
 夜の街に姿を見せる、郷里大輔声で喋りバルタン星人笑いをして見た目ゼットンモチーフという情報量過多の宇宙人に対し、やたらヒロイックに立ち向かう高山我夢の姿に少々困惑していると、実はそれは、TV番組でしたで始まるメタ構造。
 「本物の我夢に会いたい!」
 番組内の我夢に憧れるウルトラマン大好き少年・勉が、秘密基地で見つけた赤い玉の声に導かれるままに祈ると空に逆さまの海が生まれるのは、ねじれて繋がった時空の表現として格好良く、ファイターEXごと勉少年の世界に召喚されてしまう我夢。
 劇中、勉少年が「我夢が超格好いい!」と繰り返し主張するので、そ、そうだっけ……? と懸命に記憶を辿っていたのですが、実物の我夢は、ちょっととっぽい感じで、安心しました(笑)
 自分に自信を持てない内向的な少年・その友人・何かと突っかかってくる悪ガキトリオ・不思議な雰囲気の美少女転校生、と徹底したジュブナイル構造で、続けて悪ガキトリオにより召喚されてしまう、怪獣サタンなんとか。
 勉のウルトラマン好きを馬鹿にし、“抑圧する大人”のミニチュア版(取り巻きともども、少々戯画化された、厭味な中間管理職的な喋り方を繰り返す)と思われた悪ガキリーダーが、実は怪獣マニアであったひねりが一つ配置され、怪獣サタンなんとかを目にした我夢は混乱しつつもガイアに変身。
 颯爽と登場したガイアは、ろくに戦わない内からカラータイマーが点滅し、バリアも張れずに一方的な攻撃を受ける羽目に陥るが、うにょんバスターで辛うじて逆転勝利。
 ところが我夢の受難はまだまだ続き、校庭に着陸させたファイターの周囲には、それをドラマの中の戦闘機だと思っている子供達が群がり、ガイア「変身」コールの大合唱に包まれた我夢は、狼狽の挙げ句、そのままファイターを置き去りにして逃亡(笑)
 「なんなんだこの街は?! どうしてみんな僕がガイアだって知ってるんだ?!」
 小学生軍団の追跡をかわした我夢は、身を隠す為に飛び込んだ玩具屋でTV番組として放映されている『ウルトラマンガイア』と、ソフビ人形その他を見つけてますます困惑し……コミカルに描写されてはいるのですが、我夢主観だと物凄く悪夢的であり、裏返すとそのままスリラーとして成立するのは、長谷川さんらしいところではありましょうか。
 事の元凶である少年・勉、その友人・優、転校生の少女・リサ、の3人連れと出会った我夢は赤い玉に関する説明を受け、勉の好きな『ガリバー旅行記』への思い出から量子物理学とパラレルワールドを繋げて説明を挟むと赤い玉を分析調査するが、国籍不明の戦闘機に乗って現れた不審者として警察隊に囲まれてしまう。
 「どこの世界でも、最後に人はわかりあえる」
 「……ホントに、そう思う?」
 「駄目でも、当たって砕けろさ」
 笑顔を浮かべるも見事に砕け散る我夢だが、突如としてファイターと共に消滅し、本来の時空へと帰還。勉世界の記憶を失っていた我夢は、所持品に増えていた勉の『ガリバー旅行記』から記憶を取り戻すと計器に残っていた赤い玉のデータを解析し、それが別次元で作られた願望実現システムである事を突き止める。
 「私は、人が生み出した究極のマシン」
 しかしそれは、善悪と関わりなく人の欲望を現実化してしまう事で、マシンの意志の及ばぬところで数多の世界を破滅に追いやっており、その事実を知った我夢は勉たちの世界を守る為、実験段階の時空移動メカ・アドベンチャーに乗り込み、再び時空を超える!
 突然出てきたスーパーメカを、『ガリバー旅行記』に登場する船の名前と繋げる事で物語の中に落とし込むのが冴えたテクニックで、ある種のメタ世界を抜け出してホッとしたところから、再び勉世界に至る流れの巧さは、手腕が光ります。
 だがその頃、赤い玉を手に入れた悪ガキたちは理想の怪獣を粘土で造形しており……君たち、だいぶ凄いな。
 そして、人の心の鏡面でもある赤い玉の作用により、心中に抱えた鬱屈と破壊衝動を解放された悪ガキトリオは、最強合体怪獣キングなんとか(並べて見たら全然違うかもしれませんが、なんとなく、『ゴジラvsデストロイア』のデストロイアを思い出させるデザイン)を、現実化させてしまう。
 「壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ! ぶっ壊せーーー!」
 赤い玉に汚染されているような描写とはいえ、原因が小学生だし……と油断していたら、キングモンスは手近の団地を木っ葉微塵に粉砕し、ビームで大地を焼き払い、画面右下で物凄い勢いで回っていくキルカウンター。
 勉の『ガリバー旅行記』を座標代わりにした我夢はそこに辿り着くと、アドベンチャーホイールアタック! からマニピュレーターを展開して拘束すると電流を流し込み、劇場版の勢いで投入されるスーパーメカニックだが、反撃を受けてアドベンチャーが木っ葉微塵に吹き飛ぶと、ガイアに変身。
 だが子供たちの抱える破壊願望を糧に強化を続けるキングモンスには渾身のうにょんバスターさえ弾かれ、ガイアの苦戦に勇気を出した勉が悪ガキから赤い玉を奪い取るも、今度は友人の眼鏡がその魔力に魅入られてしまう。
 「僕はちっとも自由じゃないもん。全部壊れたらいいんだ」
 「駄目だよ優、そんな事を願ったら、駄目だ!」
 キングモンスは素材となった3体の怪獣に分離し、子供たちの夢が生み出した怪獣が、負の側面を見せつけるまさに悪夢として顕現するとガイアを袋だたきにし、その光線は、景気良く学校を真っ二つに。
 「何も変わらない事なんて、無いよ!」
 少女、そして我夢との出会いを通して、世界に対して少しずつ向き合い踏み出す勇気を手に入れた勉少年は、冒頭の我夢と重なる形で赤い玉へのダイビングを成功させると、既に不可能となってしまった怪獣の消滅に代わり、一つの答を見出す。
 「そうだ……一人なんかじゃない。ウルトラマンだって!」
 半壊した学校ごと、流れ弾で思い切りよく吹っ飛ぶ子供たちだが、その時、時空を超えて彼らを助けたのは、新たな二人の光の巨人。
 ウルトラマンティガ!」
 ウルトラマンダイナ!」
 ファンサービスと商業的には当然なのでしょうが、逆転の一手がタイトルで力強く判明しているのは今作のなかなか難しいところであり、わかった上で燃える、には、この2作への思い入れは必要なところ。
 勿論、そもそも“そういう映画”なので文句は全くなく、素直に喝采をあげるところなのですが、リアルタイム直撃世代ではない事もあって、ティガ・ダイナ・ガイアの3人が並んで戦い始めると、正直、個々の区別はつきません(笑)
 観客が知っている前提の完全客演なので(そもそも、あの本人かどうか不明)、個体を識別させるようなやり取りも全くなく(重ねて、これは“そういう映画”なので、批判的な意図は含みません)、3人のウルトラマンと3体の怪獣の戦いは陸空海に別れ、海中の大口怪獣、宇宙まで飛び出したカマキリ怪獣、そして地上のキングを、それぞれの必殺技で撃破。
 世界を破滅の淵に追いやった死闘が3ウルトラマンの勝利に終わると、勉少年は赤い玉の消滅を願い、赤い玉の意識が人格化した存在であったリサもそれを望み、ちょっと不思議な少女との出会いと、それを切っ掛けにした変化、そして痛みをともなう別れまでを描く、少年ジュブナイル構造が貫かれます。
 「もう勉は、自分自身で決められる筈だ」
 我夢に励まされた勉は、赤い玉に向けて、最後の願いを叫ぶ。
 「玉よ、消えろーーー!!」
 「……ありがとう。……君は、未来を守ったんだよ」
 リサが消滅したのに続いて、我夢、ティガ、ダイナ、それぞれの姿も消えていき……街は多分、赤い玉発見以前の状況まで巻き戻り、再びやってくる転校生。
 少女の名は、七瀬リサ――
 「……僕が、守った未来」
 好みとしては、少女との直接的再会は無くても良かったですが(予感はあってもいい)、『ガリバー旅行記』に記された我夢のサインとメッセージを二人で目にするシーンが入り、その我夢は、実用試験の強行の結果、別次元でアドベンチャーを失って帰ってきて減俸6ヶ月を言い渡されたが、僕には特許権収入があるから問題なんか無いのさ! とエリアルベースから力強く飛び立ち、
 「この世界は滅んだりしない。絶対に」
 TV本編の要素と繋げて、エンディングへ。
 『ウルトラマンガイア』を特徴づける「対怪獣の分析的アプローチ」「多彩なクルーとの共闘」「筋肉」といった要素を大胆に削り、“理想のヒーロー”としての我夢に憧れる少年の出会いと成長を中心に描いた、割と大胆な作りの劇場版。
 『ガイア』映画という以上に、《ウルトラマン》(『ティガ』『ダイナ』『ガイア』)を主要ギミックとして取り込んだ、正調少年ジュブナイル映画といえ……これで夏休み映画だったら完璧だったのに(笑)
 ラスト、ウルトラマンを“卒業”しないけど、勉強とかも頑張るよ、と母親に向けて自分の気持ちをしっかりと話し、「人はわかりあえる」を実践しようとする少年の姿は気持ち良く、少年期の夢や憧れを尊重しつつ、そこからの変化や成長を描く全体のテーマは好きな一方、憧れの対象である『ガイア』などがTV番組として放映されている世界、はメタすぎて好みからは少しズレてしまったのですが、我夢の世界(現実の我夢)と勉の世界(理想の我夢)を繋ぐクロスポイントが、ガリバー旅行記』という先人の創作物であるのは、世界を動かし得るものとして、幻想に溺れてはならないが、しかし幻想は現実の糧になりうる、事を象徴しているようで、素敵でした。
 最後に余談ですが、今作を好きな方には、正統派のジュブナイル・ファンタジーを照れずに真っ正面から映像化してくれたアニメ映画『ペンギン・ハイウェイ』(原作:森見登美彦)をお薦め。