『仮面ライダーアギト』感想・第14話
(※サブタイトルは存在しない為、筆者が勝手につけています。あしからずご了承下さい)
◆第14話「風を巻き上げて」◆ (監督:田崎竜太 脚本:井上敏樹)
真魚を狙うサソリアンノウンは、復活の氷川G3が苦戦しつつもなんとか撃退。病院に運び込まれ、アンノウンによって謎の金属体を打ち込まれた事を知らされた翔一は24時間以内に死亡する可能性を報されると、病院で沢木と擦れ違う。
沢木はなにやら翔一に見覚えのあるような反応を見せるが、記憶喪失の翔一は当然そのまま通り過ぎ、第12話ラストの意味ありげな記名から、謎の青年との接触、そして翔一くんへのリアクション、と段階を踏んでリムジンの男を印象づけてくるのが手堅い巧さ。
氷川は風谷家での発見物をG3チームと共有し、謎のボールは、裏と表が逆転したテニスボールだと判明。真魚父も超能力者だった可能性が浮上する中、再生されたビデオテープの中身は……
「真魚、私が秘密裏に開発していたGXスーツを装着し、世界を救うのだ」
……じゃなかった、一面の黒と僅かな白い光のみで意味のある映像は映っておらず、何故隠されていたのか、全くの謎のままに。
賑やかし兼ツッコミだった尾室がしきりにビデオを気にするが状況はこれといって進展せず、警視庁内部で北條さんと擦れ違う氷川くん。
「……そうだ氷川さん。実は言い忘れていた事があるんですが」
互いに数歩離れた後で、わざとらしく足を止める北條さんの無表情が前回とは逆方向で怖い(笑)
「なんでしょう?」
「……あなたに殴られたところが、未だに痛みますよ」
「それは……」
「冗談ですよ、冗談。気にしないで下さい」
北條は笑顔を浮かべると立ち去っていき、演出家も演者も、含みのあるやり取りの見せ方が急速にレベルアップしていくのが、凄く『アギト』です(笑)
なにアレ……と北條の背を見送る氷川くんだが、その北條は上層部にアギト捕獲作戦を上申。
一方、父の失踪の真相を探ろうとする葦原は、手帳に書かれた新たな住所の元へ向かうが、空振り。しばらく前に引っ越したという住居のドアが開いていたのでなんとなく入ってみると、そこに転がっていたのは、裏返ったテニスボール……?
当然、涼はそれを気に留めることもなく部屋を立ち去り、翔一と沢木、氷川と北條、葦原とボール、と三つのすれ違いが繰り返し描かれる事でそれぞれの印象を強め、一人だけ、相手が人間ではない可哀想な葦原さんへの応援のメッセージは東映まで!!
「あと4時間で俺死ぬかもしれないんだ……忘れてました」
「忘れてた? 君は怖くないんですか?!」
「んー……わかりません」
テニスボールとビデオテープについて真魚に報告し、風谷教授が超能力者である可能性が低い事を確認した氷川くんは翔一の様子を気にするが、当の翔一は笑顔でキャベツを収穫中。
「わからない?」
「俺、なんか死なないような気がするんですけど」
「なぜ、なぜそんな風に思うんです?」
「だって、今生きてるじゃないですか」
凄い、凄すぎるよ翔一くん……。
前回に続いて、翔一くんの強烈な現実肯定が描かれ、前向きというか――今向き。
「……なにが言いたいのかわからないな」
毒づく氷川くんですが、事によっては被害者候補としてパニック状態の相手に「警察は何をしてるんだ!」と詰られる可能性もあったわけで、知らず翔一くんのペースに巻き込まれており、氷川くんは氷川くんで心配はしているけどやや暢気ではあり。
迫り来る死の可能性、をあっけらかんと受け止める翔一くんの態度で『アギト』流に調理した後は、翔一くんが自分の命をカタに氷川くんに生キャベツを食べさせたり、コミカルな描写で緊張を緩和。
「……あーあ、もうすぐ死ぬかもしれないのに。死ぬ前に氷川さんと、草むしりしたかったのに……」
「…………わかりましたやりましょう津上さん!」
引け目は感じているらしい氷川くんだが、草むしりも出来ない不器用な男の烙印を押されて戦力外通告を受け、翔一は真魚からの信頼に、今生きてる自分の命の使い道を考える。
「もし、俺が死んだら……誰が守るんだ。真魚ちゃんの事」
鏡で自分の顔を見つめる翔一の決意でカチッとスイッチを切り替えるのが小気味よく、真魚を連れてケーキの材料を買い出しに行く翔一だが、そこへ再びサソリが出現。
迫り来る触手に気付いた翔一が迎撃するよりも早く、後方から護衛していた氷川くんが覆面パトカーで割って入るのが大変格好良く、氷川に真魚を託した翔一は、アギトへと変身。
「……アギトは、もうすぐ死にます」
「…………まだ早いよ。アギトは、貴重なサンプルだ。アギトは、殺してはならない」
本日も緑の光に照らされた謎の二人が思わせぶりな会話をかわす一方、剣が駄目だなら蹴りだ、と必殺キックを放つアギトだが、またもサソリの盾による不可視の障壁に阻まれてしまう。
ならば轢く! とバイクにまたがった所で謎の青年が窓に手をかざすと、青年の紋章の力が宿ったバイクは、空中に浮かび上がりながら、ねじりを加えて前後に引き延ばされ――いわば、空飛ぶツイストパンのような形状へと変形。
新たな挿入歌に合わせ、高速で滑空するマシントルネイダー(挿入歌の歌詞で連呼してくれる親切な作り(笑))が誕生し、謎の青年の謎の助力による謎のニューアイテムが、SF映画に出てきそうなガジェットなのは、成り行きはともかくインパクト大。
商業展開としては、前作のマシンゴウラムの『アギト』版といった扱いなのでしょうが、こういうのが、なんとなく……で済まされていくのは、良くも悪くも『アギト』でありましょうか。強化展開としては雑の部類なのですが、なにぶん謎の青年が謎すぎるので、物語とどう繋がっていくのか、しばらく様子見せざるを得ないのが、巧妙というかズルいというか(笑)
今を生きる順応力に優れたアギトは、サーフボードの要領でバランスを取ると、空中で急停止したトルネイダーから弾き出されるアギト大砲キックでサソリの構えた盾を突き破り、処刑執行。
……サソリからすると、上司?から切り捨てられた疑惑のある不幸な敗北となりましたが、謎の青年の思惑、その力、アギトに助力を促す沢木、とあれこれ謎は深まるばかり。
美杉家では翔一自作の誕生ケーキで真魚の誕生日が祝われ、美杉家の食器棚に、真魚父が死の直前に訪れた喫茶店で配っていた記念品のマグカップがある事が判明。ところがマグカップは太一ミラクルによってゴミ箱行きになってしまい……バイクの強化はざっくりな一方、太一には瓶と100円玉の一件があるので、やりそうだなと思わせて実際やる、のがサスペンスの面白さになっているのが非常に鮮やか。
まあそもそも本当に事件に関わっていたらそんな証拠品を2年間も手元に置いておかないとは思いますが、なにやら美杉教授も怪しげになってきたところで(含みのある表情が素敵)、つづく。