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風を切るAOカード

仮面ライダーアギト』感想・第4話

(※サブタイトルは存在しない為、筆者が勝手につけています。あしからずご了承下さい)
◆第4話「今、君の居る場所」◆ (監督:長石多可男 脚本:井上敏樹
 処刑キックを防がれるも巴投げで窮地を切り抜けたアギトが変身を解除すると、翔一くんを追いかけてきて、一連の出来事を目撃した真魚ちゃんとバッチリ目が合い……バレるの早かった!
 ヒーローとしての行動目的判明よりも身内バレが早かったのは予想外ですが、真魚ちゃんがただの好奇心本位ではなく、翔一くんを心配しているからこそ変身を目撃するのは、説得力の確保と好感度の上昇が一つに繋がっていて、鮮やかな流れ。
 これは私自身の“慣れ”や“好み”もありますし、2010年代の作品に比べると“1エピソードに詰め込むノルマが少ない”といった要因もあるでしょうが、テンポの良いやり取りから構築されるキャラの奥行きと関係性の表現が実に気持ち良く、全盛期の井上敏樹の力量の高さを改めて感じます。
 今作立ち上がりにおいては特に、「翔一くん」が光るポイントで、「翔一さん」でも「翔一」でもなく、記憶喪失の青年・津上翔一の人間性が、真魚ちゃんと「翔一くん」の距離感に濃縮・象徴されているのが、実にお見事。
 だが、翔一の変身と戦いを目撃した真魚は思わず逃げ出し、翔一はそれを無言で見送る事しか出来ず……二人が去った後の現場に到着して土中の死体を発見した氷川は、どこかのぼんくらがG3スーツを壊しちゃうから肝心の時に橘じゃなかった役立たずで存在が軽いんですよ、と北條からお小言を頂戴していた。
 「G3が如何に優れていても、装着員が無能ではどうしようもない」
 前回、G3関連の予算強化を口添えしてくれた北條さんは素敵です! とキラキラした眼差しを向けていた氷川くんも、やっぱりこの人、僕の髪の量に嫉妬しているのでは……と真実に気付き始めていた。
 「馬鹿ね。正しいか間違ってるかなんかどうでもいいの。男はね、気にくうかくわないかで判断すればそれでいいの」
 小沢は前回に続いて熱した鉄の球を軽々と投げつけ……これは、氷川くんがどう判断するか、ではなくて、小沢さんの男に対する判断基準が「気にいるか気にいらないか」という事ですよね(笑)
 G3サイドはG3サイドで、北條さんに厭味を言われて反発は見せつつも、その言葉に一理はあると納得して考え込む氷川くんの真面目さと、その上司である小沢さんの傍若無人ぶりがテンポ良く描かれ、演技に危なっかしいところはありつつもやり取りの面白さでぐいっと引き込みつつ、直接の絡み無しに小沢さんと北條さんの関係性が窺えるのもお見事。
 一方、翔一くんは割と綺麗なペン字の置き手紙を残して家出しており、「津上翔一様」宛の中身のない封筒だけを手に握り、砂浜に倒れていたところを発見された過去の顛末がようやく明らかに。
 翔一を心配しつつも出来ることのない真魚だが、学校から帰宅すると、家庭菜園に佇む翔一を発見。
 「随分早いじゃない。格好良く家出したんじゃなかったの?」
 「……こいつらの面倒頼むの、忘れてたから」
 「面倒なんか見ないわよ。翔一くんが作ったんだから、自分で責任持ちなさいよ」
 真魚は敢えて突き放すような調子で“いつも通り”に翔一を受け入れ、こういった会話の気持ちよさは、凄く井上敏樹
 逃げた事を謝って事情を聞く真魚だが、当の翔一にも、自分がなぜあんな姿になれるのか、怪人は何者であるのかさっぱり不明。
 「ただ……オレ戦わなくちゃならないんだ。あいつらと」
 「……みんなの居場所を、守る為に?」
 無言で頷き、ヒーローとしてはかなり心許なく、またその動機も非常に漠然としているのですが、“記憶喪失の青年”なので、果たして翔一とは、アギトとは何者なのか? それ自体が、物語を引っ張るミステリーとなる事に。
 「だったら、自分の居場所もきちんと守りなさいよ。ここが、翔一くんの居場所なんでしょ。昨日そう言ってたじゃない」
 「じゃ、ここに居ていいの?」
 「いい」
 「オレのこと、怖くないの?」
 「怖くない。だって、翔一くんは翔一くんでしょ?」
 真魚ちゃんの好感度ゲージが高いので大型ブルドーザーを繰り出すような勢いで土砂が片付けられていきますが、「居場所/家」というのは、2年後に再び井上敏樹がメインライターを務めた『555』とダイレクトに繋がるテーマであり、更に後の『キバ』においても、出生の秘密を抱えた主人公が世界の中における自らの立ち位置を探す側面を持っていた事を考えると、井上敏樹の作家的テーマという面はありそうでしょうか。
 そこに氷川くんが訪れて空気が切り替わり、粗茶ですが冷めない内にちゃちゃっと駄洒落で、数日前に二度に渡り片方が片方を撲殺しようとしていた二人はそれを知らぬままに対面。
 ところが今度は川の中から亀アンノウンが出現して一家四人が皆殺しにされ……謎の取っかかりとして不可解な殺人事件が必要な為、ヒーローが守れない被害が続発し、それが突きつけられるのは今見るとかなり凄惨。
 再び美杉家を訪れた氷川に対し、教授はガラス瓶の中の100円玉はトリックであるとの見解を示し、空気を読まずにお総菜を並べる翔一のペースと駄洒落が肌に合わず、視線が冷たくなっていく氷川くんの見せ方も巧み。
 ガラス瓶を砕いてコインの正体を確かめようとしたその時、亀アンノウンが再び出現し、氷川は急ぎ現場へ。3-4話は特に、サスペンスドラマ風の演出が意識されているのですが、氷川を見送った真魚がそういえば、と家の中に駆け込むと、洗い物の途中で水を出しっぱなしのまま翔一の姿が消えているのは実に格好いい見せ方。
 道交法を守る理性が残っているのかちょっと不安になる翔一はバイクで移動中に変身し、「変身」の見せ方は、だいぶさらっと路線。アギトへの変身と共にバイクも赤と金の派手な姿に変貌し、《平成ライダー》の中でいつしか消滅していくのですが、今作はまだ、『クウガ』が重視していた「移動手段」へのこだわり、が作劇に継承されています(バイクを見せる、という点も含め、これは残す意味がある、と判断された感じ)。
 第4話にして、チューンナップされた新生G3が市民をきっちり怪人からガードするが(その前に、通りすがりの警官が狙われた少女を守る姿が描かれているのも、いい目配り)、W亀の挟み撃ちを受けて大ピンチ。
 そこにアギトが到着すると……轢いた!
 G3を!!
 ……あと、亀も。
 東映ヒーローのイニシエーション達成と共に処刑ソングが流れ始め、W亀がアギトに向かっている間にバイクから武装を取り出したG3が、直撃弾で金の亀を爆殺し、記憶の5倍ぐらい強いぞG3。
 アギトはバイクアタックで銀亀を倉庫の中に引きずり込むと角を開き、足下に浮かび合った紋章が、アギトの構えに合わせて渦を巻くように両足に収束していくのが、物凄く格好いいエフェクト。
 処刑キックに対して今回も甲羅ガードで対抗する銀亀だが、アギトが追い残心を決めると大爆発し、いちいち決めポーズの格好いいアギトですが、ヒーローとしては理屈よりも外連味重視の姿勢を明確に打ち出します。
 そして再び対面する、G3とアギト。
 「おまえは敵なのか? それとも、味方なのか?」
 G3の問いに無言のままきびすを返したアギトはバイクで走り去り、今見ると凄いJPさんみなのですが……これに関して、2011年発行の『伊上勝評伝』に寄せた井上敏樹の「回想 伊上勝」(非常に名文)補足における、父・伊上勝の手法と絡めた、2011年当時の井上敏樹のヒーロー論が実に面白いので、ちょっとご紹介。


 私たちがチンピラに絡まれたとしよう。そこに颯爽と強いお兄さんが現れて私たちを助けてくれる。さて、私たちにとってこのお兄さんが次に取る一番ありがたい行動はなにか。
 黙って立ち去ってくれる事だ。
 「助けてやったっんだからお礼をくれ」とか「これから君の友達になってあげよう」とかは言わない。なにしろお兄さんは強いので、友達になっても同等の立場ではいられないのだ。

 助けた者とかかわりを持たない――これが理想のヒーローだとするならキャラクターづけをしない方がいい。もし個性を持たせたならドラマ的には助けてもらった方はそれを理解しなければならなくなる。そして理解するためには交流を持つことになってしまう。理想のヒーローではなくなるのである。昔のヒーローが大体同じようなキャラ(性格)なのはこう言う理由による。
 父はこの原型の信奉者だった。だから人間を書く必要がなかったのだ。

 ウルトラマンは三分の間に怪獣を倒し、なにも語らずに宇宙に消える。ヒーローの原型を壊そうとすれば彼は自動的に死ぬ事になる。なんというありがたいヒーローだろう。ウルトラマンという存在は、実はヒーロー物の原型を壊さないための強力なロックになっているのだ。
 我々とはかかわりを持たない理想のヒーロー、その時代を父は生きたのである。

 2001年当時の井上敏樹がどう考えていたのかは定かではありませんが、今作立ち上がりにおけるアギトはまさにここに言語化された“ヒーローの原型”そのままであり、伊上勝の時代を恐らくは意識的に甦らせているのは、大変興味深いところ(そして『特捜ロボ ジャンパーソン』も、そういった古典的ヒーロー像への回帰を起点にして「ヒーローとは何か?」を突き詰めていった作品なので、重なるのは必然といえます)。
 その頃、美杉家では帰宅した太一が、100円玉の入ったガラス瓶を発見。その重要さを全く知らないまま、100円玉欲しさに無造作にガラス瓶を叩き割ると、中から出てきたのはトリックコインではない、紛う事なき本物の100円玉……100円玉の謎について気を持たせるのかと思いきや、予想外のところからその正体が明かされる見せ方が物凄くて、いやー、筋書きの小技だけで面白い。
 一方、病院を抜け出し、腹がぺかーっと光り、水泳部に退部届を出した葦原涼は、水泳部のコーチに全てを語ると告げ……OPでどうなるかは明確なのですが、これ以上は情報量が過積載と考えたのか、こちらはじっくりと引っ張ります。
 そしてオーパーツ研の三雲は、オーパーツパズルの中から出てきた謎の物体を遺伝子モデルと考え、ためしに塩基配列を仮定して再現してみたところ……なんとそれが、人間(?)の赤ん坊を生み出してしまい、つづく。
 前回はヒーローの活躍も中途半端でいまいちな出来でしたが、キャラクターが躍動を始め、バラバラだった人間関係と謎が繋がり始め、G3とアギトがきっちり仕事を果たし(一般警官の奮闘もポイント高い)、トドメに太一の100円玉がクリティカルで、グッと勢いを増して引き込まれる第4話でありました。
 果たして、オーパーツから生み出された赤ん坊は何を意味するのか? アンノウンはなぜ人を襲うのか? アギト、そして翔一くんの正体は……?


 その後、ヒーローたちはおずおずと理想の座から降り始める。気持ちはわかる。きっと尽くすだけの立場が馬鹿馬鹿しくなったのだ。ヒーローたちは我々に交流という報酬を求めるようになる。だが、これはまた別の話だ。
(「回想 伊上勝」/井上敏樹