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ターニングポイント……?

仮面ライダー鎧武』感想・第21話

◆第21話「ユグドラシルの秘密」◆ (監督:諸田敏 脚本:虚淵玄
 紘汰はミッチに、貴虎から聞かされた森の真実を語り……
 ・貴虎がどこの何者かは聞いていない
 ・裕也の件は問い詰め忘れる
 ・戦極ドライバーもそのまま持っている
 の、一つ一つはどさくさで忘れかねない事項ではあるのですが、3つ重ねると話の都合丸出しで雑に見えてしまうのが、凄く『鎧武』で……全体的に、そういう“誤魔化し方”が妙に下手なのは、今作の気になるところです。
 恐らく、シナリオ的には「貴虎が自分の事は説明しなかった」「森の秘密が衝撃的で紘汰は色々それどころではなかった」「ドライバーの件は(恐らく貴虎の思惑で)有耶無耶」は別々の要素なのでしょうが、東映ヒーロー作品の圧縮作劇においてはそれが1セットになる(裏を返せば、1セットにする事で情報と筋立てをコンパクトに圧縮する)点についての認識で、どうも脚本と監督の意識が噛み合っていない部分があるような気がします。
 どちらが良い悪いというよりも、その間を取り持って調整する人が不在というか。
 あと、『外伝』「斬月編」冒頭の紘汰と貴虎のやり取りはてっきり本編第21話をそのまま持ってきたのかと思っていたのですが、本編には影も形も存在せず……後からのフォローが綺麗にはまるのは当然とはいえますが、二人の考え方の明確な相違は、本編でも描いておいた方が良かったような。
 「でもな……やっぱり俺は納得できないんだ! だって、結局嘘ついてるって事だろ?!」
 青臭いと言えば青臭い真っ直ぐさを剥き出しにする紘汰に対し、隠しておきたい事が多いミッチが今回も紘汰を丸め込んでいた頃、すっかりチーム鎧武の根城に入り浸るザック(メタ的には撮影場所の都合でしょうが)は、気さくな兄貴分の地位を手に入れつつあった。
 真実は力ある者が受け止めればいい、と紘汰に告げたミッチは、情報のコントロールが出来ないんですけど! と兄さんの元に怒鳴り込むが、兄さんは兄さんで「なんかあいつ、青春を感じるよね……いや冗談」とふわっとした反応を返してきて、ユグドラシルに入るという事は、各方面からのストレスに曝されるという事だ!!
 「ああいう男には、敗北して、絶望して、逃げ出してほしいものだ。そうなれば私も、自分のやっている事に諦めがつく」
 ミッチが去った後、窓ガラスに向けて呟く貴虎は、紘汰に「理想の答を探し続ける自分の幻像」を見出して「現実と折り合いをつけて答を出してしまった自分」と対比しているようであり、ここのシドとのやり取りは大変良かったです。
 「おいおい? まだ迷いがあるっていうのか、あんたにも?」
 「……だがそれ以上の覚悟もある。私は、リーダーだからな」
 呉島貴虎は、それが一種の「諦め」や「割り切り」と誹られるものであっても、既に答を出しており、今作が繰り返してきた「大人」と「子供」の対比も効果的なスパイスになりました。
 「葛葉紘汰が、諦めもせず逃げ出す事もなかったら、……奴はあんたの敵になるぞ」
 貴虎の揺らぎを感じるシドは、戦極Pに紘汰の始末について相談。
 「聞けば聞くほど、虫唾が走るような奴なんでな」
 「ふむ……ま、私はデータにしか興味が無い」
 紘汰が使っているゲネシスコアの潜在能力を引き出した後なら自由にどうぞ、と戦極Pが毎度ながら気軽に許可を出す一方、そのPから「彼が本当にヘルヘイムの秘密に辿り着けたなら、局面は大きく変わる」と言われた戒斗は、ヘルヘイムの森で人捜し中。
 「私は力を求める人が好きなだけ。どこまで辿り着けるか、見届けたくなるの」
 衣装の寒そうな耀子は思わせぶりな言葉と共にそれぞれの思惑の隙間を回遊し、姉やパフェ屋の言葉を聞いた紘汰は、力と真実の関係について煩悶する。
 多人数ライダーによるバトルと複雑な人間模様の思惑入り乱れる群像劇、は今作のコンセプトではありましょうが、紘汰と対になるキャラクターが多すぎる&目まぐるしく変わりすぎるのはやはり難点で、TV特撮の様式においては主人公とネガ存在の関係性は一つかせいぜい二つぐらいに留めておくのが限度、という気がします。
 戒斗にしたいのか、貴虎にしたいのか、ミッチにしたいのか……いや全部、というのは残念ながら欲張りすぎで、光を当てる角度で主人公の陰影を浮き上がらせるどころか、むしろ色々な方向から光を当てすぎて輪郭が不明瞭になる事に。
 その癖、姉やパフェ屋の店長は、紘汰に対して不動のメンターポジションとして機能してしまうので、主要人物がそれぞれの答を探して藻掻く物語構造とは非常に相性が悪く、そういう存在を持っている人間関係そのものはおかしくないものの、“言わせたい長台詞を言わせる為に出てくるキャラ”になってしまっているのがどうも残念。
 そんな折、ザックからインベス強盗の連絡を受ける紘汰だが、それはシドの罠。
 「俺たちが守ってるのは秘密そのものだ。こんな街なんて、ただの隠れ蓑でしかない」
 シドは紘汰に、ユグドラシルタワーの屋上には沢芽市を焼き払う兵器が搭載されている事を明かし、そう、自爆は宇宙最強のセキュリティ!
 「俺は逃げない! あんた達の好きにはさせない!」
 「歯向かうつもりか? ……ユグドラシルに」
 「目的が正しくったって、やり方を間違えてたら意味が無い! やっとわかった……ヘルヘイムの秘密も、世界のピンチも、ユグドラシルには任せておけない!」
 「じゃあおまえは……俺たちの敵ってことでいいな」
 紘汰はまんまとシドに煽られて、両者は変身。前回それなりに時間をかけて貴虎と話したにも拘わらず、「シド=ユグドラシルの考え方」みたいに扱う視野の硬直(狭窄というか硬直)は、紘汰からすれば当然の錯誤の面はあるものの(ここは対等の相手とみなして名乗らなかった兄さんの問題でもあり)、見ている側としてはストレスの溜まる展開ではあります。
 シドはシドで明らかに自分をユグドラシルの代弁者と思わせるような物言いで分断を図っているわけですが、他人のビートに乗せて踊らされている事に気付かず自分の正しさを叫ぶ姿を物凄くヒーロー演出されるのは、ヒーロー作品としては倒錯気味でさえあり、今作の露悪傾向がまたも、個人的には引っかかるところ(ゲームシナリオ的、ともいえるのですが、実際にゲームでやられると萎えるパターンでもあり)。
 「おまえは人を迷わせる。諦めの悪い奴に余計な夢を見させちまう。つくづく目障りなんだよ」
 「迷って何が悪い! 夢見てなにがおかしい! あんたこそ言ってることが出鱈目だ!」
 「大人にとっては迷惑なんだよ……そういうの!」
 更に、「型破りの新人が硬直した組織の体制に変化をもたらす」文脈が持ち込まれ、え、紘汰、そういうポジションだっけ……??? と疑問符が隊列を組んで脳内を行進していくのですが、これといって明確にやりたい事の見えないモラトリアム青年(多分に話の都合ではありましょうが、バイト探しも脈絡が無かったわけで)がそれを見つけていくというよりも、実は誰よりも強い信念を持っていました! と無から鋼の精神が湧いてくるのでだいぶ困惑します。
 街を守りたいという紘汰の意志や行動は明確に描かれていたので、その部分を否定するつもりはないのですが、これだと「社会にコミットしようとしていた人間がヒーローを選ぶ」物語ではなく「結局社会にコミットできなかった人間がヒーローとしては輝ける」物語になっていて、若干以上のそれでいいのか感。
 勿論、そういった規範から外れたところに正義――英雄性――を見出すのは珍しくはない物語構造なのですが、ではそれを今作における英雄性として肯定的主題にしているのかといえば、むしろ常に一定の否定的なニュアンスが付きまとって見える上で、それが物語にとっての“面白さ”に繋がっていない印象です。
 物語のキャパシティを越えて要素を詰め込みすぎて、悪い意味で“ややこしくなりすぎている”といいましょうか。
 また紘汰の場合、少なくとも初期は“変わろうとする”指向性を持っていたキャラクターだったので、それがここに来て紘汰の「変わらなさ」と「正しさ」が「真っ直ぐさ」を媒介に接続される接続されるのは、物語全体の指向性が巧くコントロールされていないように見えるポイント。
 ……そろそろ折り返し地点を前に葛葉紘汰論めきましたが、一言にまとめるとキャラとしてもテーマの投影としても“欲張りすぎた”のかな、と。
 作り手の側からすると、OPでフォーカスされている、鎧武・バロン・龍玄・斬月、の4人を主人公と見てほしい意識なのかもしれませんが、実際には「主人公」として鎧武/紘汰が圧倒的な戦力の恩恵を受けるので、狙いと環境が噛み合っていないし、狙いに見合った環境をセッティングできなかったし、環境に狙いをアジャストしていく作業もあまり巧くいっていない印象。
 そして、紘汰を他の3人の誰と絡めても互いが引き立つようにしようとした結果、肝心の紘汰が最も曖昧になってしまった、ような気がしてなりません。
 シグルドのチェリーアローの直撃を受けて一度は変身の解ける紘汰だが、挿入歌に乗せて陣羽織を発動。アローを活かした射撃合戦の末、理不尽に強い陣羽織は大回転レモンキックでシグルドを倒すと、チェリー錠前を強奪。
 レモン陣羽織、デザインそのものは格好いいと思うので、せめてこれが「紘汰の善行」や「試練の突破」の結果として入手したものなら印象も違ったと思うのですが、実際は、見守りDJおじさんとの面談で「おもしれーやつ」認定を受け、SNSでウォッチし続ける代わりにやるよ、と貰った物(そして紘汰は、それをきっかけに何故かDJを全面的に信用)なので、凄く肩入れしにくい強化フォーム(笑)
 先を見越したパズルのピースそれぞれの意味、へのこだわりは見えるところなのですが、それにこだわるあまり、ある期間ごとの好感度のコントロールがそっちのけになっているのは、週1のTVシリーズとしては相性の悪さを感じます。 
 恐らく今作の世界観として、「力」とは個人が制御できるものではなく、望みが大きくなればなるほど、それは手に余るようになる、といったものがあるような気はするのですが(例えば兄さんにとっての「ユグドラシル」もこれに該当する)、それはそれとして、第20話も過ぎて主人公が「力」に無自覚に振り回され続けるのを見るのはあまり楽しいものもでなく……我ながら『鎧武』感想は、ちょっと面白くなってきたと思ったら明後日に外れていく上下動が激しい。
 シド敗北を目にした龍玄は、こっそりとインベスを召喚して逃走の隙を作ると、何食わぬ顔で紘汰と接触
 「でも、シドの奴を逃がしちまった……あと一歩だったのに」
 ……紘汰、君は、捕まえたらどうするつもりだったんだ(笑)
 「まずいぜミッチ……やっぱりあいつら、この街を滅茶苦茶にするつもりだ」
 そして、戒斗とは別のスイッチを持っている紘汰は、大量破壊兵器の使用を前提に会話を進め、つづく。