東映特撮に踊らされる駄目人間の日々のよしなし。 はてなダイアリーのサービス終了にともない、引っ越してきました。
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君は翼を持っているか

ウルトラマン80』感想・第41話

◆第41話「君はゼロ戦怪鳥を見たくないかい?」◆ (監督:東條昭平 脚本:石堂淑朗
 矢的とチーフはパトロール中にゼロ戦大好き少年と知り合い、高性能なラジコンを買う為に、他のあらゆる事を諦めて少年がお小遣いを貯めた日々がプレイバック。
 「子供はゼロ戦、父親はゴルフ。私も何かに凝ろうかしら」
 「どうぞどうぞ。これはカーボンのブラックシャフトでね。一本20万円もしたんだ。そんじょそこらのものとはわけが違う」
 「たかが棒きれ。竹箒の柄で十分じゃないの」
 石堂さんは、こういうやり取りを入れずにはいられないのでしょうか(笑)
 「何を言ってる。ゼロ戦がタケオの命なら、これは私の命だ」
 「玩物喪志」
 「……玩物喪志?」
 「中国のことわざ。物にこだわりすぎると、人間が駄目になるってこと」
 「ははははは、このクラブの為なら、駄目になっても大いに結構」
 「うちの男は二人とも救いがないわ」
 盛大に呆れる母役は桜井浩子、定年退職後に離婚されそうな父役は石浜朗で、今回は特に石浜さんの芝居が良いはまり具合で、ここまでの石堂脚本では最も見やすいエピソードでした。……というか、前回からまた新たなユニバースに移動したので、OP・EDの変更含めて完全に石堂『80』になってきたというか。
 矢的とチーフは少年の話題をUGMに持ち帰り、皆で少年の出場するラジコン大会を見学中、ゼロ戦が故障。怪獣が出現しそうな深刻なBGMが流れる中、ラジコンは会場を遠く離れて飛んでいってしまい……
 「戻ってこい……戻ってこい……! 僕のゼロ戦! もどってこーい!」
 なにぶん12万円なので気持ちはわかるのですが、少年の悲嘆に被せて劇中で最も深刻なBGMを使われると、ギャップの大きさについ笑ってしまいます。
 心配をして見に行った矢的とチーフは八つ当たりを受け、落ち込む少年を慰める両親だが……
 「父さんのゴルフ棒、もしあれが折れたらどうする?」
 藪から蛇のクロスカウンターが顎に直撃し、好機を逃さず「ゼロ戦が見つからなかったらゴルフ棒を売る」ようにと母に畳みかけられた父は、20万のゴルフクラブを守る為、少年のゼロ戦探しに協力すると約束。
 両親役がなじみ深いキャストというのもありますが、ホームドラマ路線もここまでやると段々面白い事になり、看板掲げてゼロ戦を探す息子と、それを恥ずかしがって距離を取ってついていく父の2人の探索行は、いつしかバスに乗って山奥へ。
 父子はそこでゼロ戦を目撃した老人と出会うが、ラジコンが入り込んだのは、数十年に一度、人を食う宇宙鳥がやってくる場所だから近付いてはいけないと忠告され、老人の軽い脅かしの要素もあったのかもですが、いったいここはウルトラユニバース何丁目の何番地なのか……。
 「あのゼロ戦と共に僕の命はあるんだから! ゼロ戦と一緒なら死んだっていい。ねえ、父さん!」
 「……うん。……ゼロ戦が出なければゴルフのクラブもなくなる。クラブか命か……その辺が問題じゃな」
 石浜朗さんが平々凡々とした駄目人間を飄々と演じ、某時村とか棒柳田とかより、よほど人間性に好感が持てるのが困りますが、それはそれとして先程から私の心の中の釣りおじさん(第34話)が「おまえの命は12万円か! 離せ!」と警告を発し続けています。
 「変な親子だのう……」
 Bパート入ってようやく怪獣の気配がし出したところで父子は谷に分け入っていき、その後を追うチーフと矢的は、巨大宇宙怪鳥バレバドンを目撃。
 背中と前肢から生えた4枚の翼を複葉機に見立てたデザインが面白い怪鳥は、何故か少年のリモコン操作に反応して大空を飛び回り、怪獣を着陸させた少年はこれ幸いとその背に飛び乗ると自ら空へと飛び立ってしまう!
 広大な地平をミニチュアで表現した飛行シーンの映像は素晴らしく、怪獣の背にまたがって大空を翔る! というシチュエーションの夢も物凄くあるのですが、それを目にした父とチーフはぼんやりとした対応を繰り返し、緊張感のスイッチが入るタイミングが合わないのが、石堂脚本回の困ったところ(さすがに明確な倒壊描写こそ無かったものの、市街地に怪獣の巨大卵が落下しているのですが……)。
 UGMに至ってはON/OFFのスイッチが行方不明なのですが、このユニバースのチーフは恐らく、存命の婚約者と無事に結婚して新婚ほやほやであり、魂まで蕩けきってしまっているに違いありません。
 状況を不審に感じた矢的猛は、ダブルエックスレントゲン光線(とナレーションさんが言った)で怪鳥を透視。ラジコンを飲み込んだ怪鳥がリモコンの電波に反応している事に気付くが、怪鳥を意のままに操る悦楽に溺れ始めた少年は、矢的たちを驚かし、飛行機を追いかけ回し、
 「悪戯にしては度が過ぎている」
 「ホントですよ!」
 とか言っている場合ではないと思うのですが……。
 「でもいい子なんです。ゼロ戦の事さえなければ……」
 父親も明後日の方角にあるラフにボールを打ち込み(一般人が目の前の事態についていけない表現としては頷けない事もないですが)、見上げるばかりの地上の大人たちだが、上空では事態が急変。リモコンの制御よりも食欲の勝った怪獣が、カラスを追いかけている内にラジコンを吐き出してしまい、少年のコントロールを離れて大暴れ。
 事ここにいたってようやく危機感が大人たちを突き動かし、チーフと二手に分かれた矢的は、80に変身。
 80と怪鳥のハイスピードな空中追いかけっこは素晴らしい出来映えで、80は背中から振り落とされた少年を空中キャッチ。落ち着きを取り戻した怪鳥は地球を離れていき、終始あくまで「怪獣」ではなく「巨大な宇宙渡り鳥」扱いなのですが、宇宙生物と共存する世界というよりも、巨体×食欲×産卵を考えると、人類からは駆除対象なのでは……。
 物に執着すぎるのは良くない、とチーフに諭された少年はさすがに納得し、そもそも父のゴルフ狂いが良くなかったのかも、と父子は揃ってちょっぴり反省を見せ、朗らかに大団円。
 アンコウ・クワガタ・バルタンにつづく、石堂『80』動物(園)シリーズでしたが、「怪獣をリモコン操作」する“子供の夢”の部分の表現がこれまでで一番美しく(とにかく今回は飛行シーンの特撮が素晴らしい)、石浜朗さんの好演も効いて、『80』通常運行の粗はありつつも、割と楽しめたエピソードでした(東條監督とは演出のテンポ感が合うので、それも良かったのかも)。
 次回――サブタイトルは更なる地平へと突入する!