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銀河を貫く伝説を掴め

海賊戦隊ゴーカイジャー』感想・第20話

◆第20話「迷いの森」◆ (監督:中澤祥次郎 脚本:香村純子)

 ――「おまえはもう俺の代わりなんかじゃない。ギンガレッドはおまえだよ」

 「閉ざされた森の戦士といえば、星獣戦隊ギンガマン!」
 鳥の断片的予言を戦隊解釈し、便利だ伊狩鎧。
 そしてさらっと青山父の絵本を取り出すと、ギンガの森についても立て板に水で解説し、大変便利だ伊狩鎧。地球の小学生は、学校でこの絵本を読んで、投石と破壊工作の大切さに目覚めます!
 「宇宙海賊と戦ってたの? 僕らと相性悪そう」
 ハカセが当然の不安に眉を寄せる中、皆からキラキラした視線を向けられる鎧だが、さすがにギンガの森の場所は特定できず、海賊たちは一斉にコケ芸。この際、椅子の中に大きく沈み込んだマベの頭を、横に立っていたアイムが支えにしており、何者かの組織的陰謀を感じます(笑)
 うちのシマで好き勝手やってくれてるようじゃのう、といきなりケジメを取らされる恐怖に震えるハカセは手土産に黄金のドーナツを用意し、絵本の解釈からギンガの森らしき地を訪れる海賊戦隊だが……いつの間にやらループする空間にはまってしまっており、それに気付いた瞬間に揃って戦闘態勢を取るのが格好いい。
 ところが突然、空間を破って一人の男が地面に転がり出てくると、それを追ってバスコとサリーが登場。
 「バスコ!」
 「あれ? マベちゃん、奇遇だね~。こんなとこで会うなんて」
 この時点で、3000年戦士集団であるギンガの森にカチコミを仕掛け、アース無しとはいえヒュウガを追い詰めているわけで、恐るべし、バスコ&サリー。
 「え? なに? マーベラスさん達、お知り合い?
 「そんな呑気なもんじゃねえよ。こいつは宇宙最大のお宝欲しさに、仲間を裏切って、ザンギャックと手を組んだゴミ野郎だ」
 マベちゃんは、罵声の語彙を、バスコにぶつける為にキープしています。
 「……ゴーカイジャー。……そうか……君たちが」
 転がり出てきたのが黒騎士ヒュウガと気付いて大興奮の鎧は、状況そっちのけで絵本を手にサインを求め、バスコは新たなレンジャーキーによりマジ夫婦とデカマスター、という大変ヤバい番外戦士を召喚し、負傷しているヒュウガを離脱させるよう鎧に指示したマーベラス達はゴーカイチェンジ。
 バスコに斬り掛かる赤だが今回もサリーに阻まれ、猿、強い、普通に強い。
 そして緑は、ドーナッツを頭に乗せながら戦っていた。
 サリーの相手をしている内に赤はバスコを見失い、残り4人は、炎の父・氷の母・地獄の番犬の猛攻を受け、川落ち。そしてヒュウガに応急処置を施す鎧は……ときめいていた。
 「俺、ヒュウガさん達、スーパー戦隊の皆さんに憧れてて、小さい頃から、この星を――宇宙全体を守るヒーローになるのが夢だったんです」
 憧れの人に対面できた喜びを全身から放ち、謙遜以上にへりくだる鎧の態度はまさに、スーパースターに出会ったファンそのもので納得は出来つつしかし、その姿に表情を改めるヒュウガ。
 「俺、もっとヒュウガさん達の戦うとこ見たかったです」
 「じゃあ――それ俺にくれよ」
 「え?」
 「俺がゴーカイシルバーに変身する」
 ゴーカイシルバーを名乗りながら、スーパー戦隊ファン気分の抜けない鎧に対し、選択を突きつけるヒュウガ。これまで、マーベラスらにレンジャーキーの返却を求める過去ヒーローは居ましたが、自分たちのものを決して譲る気が無かった海賊たちに対して、スーパー戦隊リスペクトの強い鎧に対して持ちかけられる問い、というのは追加戦士のスタンスの違いから面白い対比に。
 「ヒュウガさんが、ゴーカイシルバーに……?」
 「そうだ」
 「でも、ヒュウガさんは黒騎士じゃ……」
 「俺は黒騎士でありたいわけじゃない。この星を護りたいんだ」
 仮面とアイデンティティを紐付ける鎧に対して、ヒュウガは行為にこそアイデンティティを求め、肝心なのは黒騎士であるかどうかではなくこの星を護れるかどうか――その為のより有効な力を鎧は手にしており、けれど同時にそれが、たとえ力を失ってもそれぞれのやり方で護ろうとし続ける(意志を失わない)事は可能であると示す事により、今そこで力を持つ事の意味を、尚更強く鎧に問いかける事になるのが、大変いい台詞。
 また、生まれついての宿命とは違う形で戦列に加わる事になった黒騎士ヒュウガの本編での立ち位置も取り込んでいるのが、オマージュとしてお見事です。
 ゴーカイセルラーを使えば、ヒュウガでもシルバーとして戦えると思い至った鎧は、ゴーカイチェンジを妄想する大サービス。
 「ゴーカイシルバー、ヒュウガ!」
 (やばい。かっこいーーーー!!)
 だがそれは同時に、伊狩鎧が地球のどこにでも居る(……?)ただのスーパー戦隊ファンの一市民に戻る事を意味する。
 (けど、この星を守る為なら……俺より、俺より、ヒュウガさんの方が……)
 「どうした、伊狩鎧」
 スーパー戦隊を愛するが故に、自分よりもこの星を、そして宇宙全体を護るのにふさわしい適任者が居る、と煩悶する鎧はセルラーを手にヒュウガへと歩み寄るが、そこにバスコが再登場。
 「“大いなる力”、いただきにあがりました-」
 「ギンガマンの“大いなる力”を手に入れられるのは、俺たちが認めた者だけだ。おまえなどには渡さない!」
 ところがどっこい、バスコはラッパの力で強引にヒュウガから“大いなる力”を吸い出しはじめ、なんなんだラッパ(笑) ……まあこれもアカレッドが用意していたプレシャスの一つなのかもですが、吸引機能をビジュアルで見せるとなると、ギターでも笛でもなく、ラッパになった事に一定の納得ではあります。
 相棒は喋る掃除機とかではなくて本当に良かった。
 01パワーによりギンガマンの“大いなる力”が奪い取られる寸前、ゴーカイレッドが横から切りかかって吸引は中断。バスコは手にしたラッパで赤の斬撃をいなしてみせ、楽器は基本、手持ち武器です。東映の伝統です。
 バスコはレッド対策として黒騎士を召喚し、激突する両雄。手助けしようとした鎧はセルラーを取り落とした事に気付き、拾おうとする途中でヒュウガの言葉を思い出し、硬直してしまう。
 「マベちゃん、ここらで諦めた方が、賢いと思うけど?」
 マジ夫婦とデカマスターの力も合流し、追い詰められたマベは変身解除。見下ろすバスコの言葉から苦悩する鎧の表情へと繋ぎ、人は、それぞれの分をわきまえて、賢く、諦めるべきなのか?
 歩みを止めてしまった鎧の姿を見たヒュウガは、自らセルラーを拾おうとする、が……
 「へへっ……ははははっ、どうしたら賢いなんて考えてたら、海賊なんかにならねぇよ。宇宙最大のお宝は、俺の夢だ! へっ、夢を掴む事を、誰が諦めるか!」
 不敵に笑ったマベは生身のままで4つのキーの力に立ち向かい、その姿に打たれる鎧。
 (俺の……夢は……俺が掴みたい、夢は……!)
 再び走り出した鎧はヒュウガを突き飛ばしてセルラーを手にし、ザンギャックの支配する世界を覆す、という巨大な発想の転機を海賊にもたらした鎧が、夢を諦めずに立ち上がり続ける事をマーベラスに教えられて再び前を向く事により、互いの関係がくるっとひとまとまり。
 「すいません! この星を護るためなら、ヒュウガさんが変身する方がいいかもしれません。でも俺……ゴーカイシルバーやりたいです。俺がやりたいんです! だから……すみません。ヒュウガさんでも、譲れません……この星は! ヒュウガさんの分まで、俺が護ってみせます!」
 それは、最善最良の賢明な選択ではないのかもしれない、けれど……手に入れた力にふさわしい自分として、憧れの人達を見上げるのではなく、肩を並べて「この星を護る」為に――ヒュウガとマーベラスに導かれた鎧は熱烈なファンからの脱皮を果たし、他の誰かでもなれるかもしれない、でも……「ゴーカイシルバーやりたいです。俺がやりたいんです!」は、星を護る決意の表明として大変良かったです。
 「――その言葉が聞きたかった。自分がやるといえない奴に、この星は、任せられないからな」
 「ヒュウガさん……」
 ファンが高じたヒーローが、真のヒーローになっていく姿を描く今回の構造は、下敷きにしたであろう『星獣戦隊ギンガマン』第26話ほぼそのままで、ここまででも屈指の過去作オマージュになっているのですが、そこで鎧をジャンプさせる踏み切り板として、ヒュウガだけではなくマーベラスも引き立てる事で、しっかりと『海賊戦隊ゴーカイジャー』の1エピソードとして成立させているのが、お見事。
 ヒュウガに認められた鎧がセルラーを手にマベの横に並ぶと、十数年経っても好青年ぶり全開の炎の戦士に川で拾われ、ぐちゃぐちゃで水浸しのドーナッツをお礼に渡してきたハカセ達も合流して、一同ゴーカイチェンジ。からの銀河転生で、そういえば久々の気がする正調レジェンド回。
 「スーパー戦隊の力、悪い事には使わせなーい!」
 シルバーはレジェンドリームで黒騎士を撃破してそのキーはヒュウガの手に戻り、残りも燃え上がる星獣魂からファイナルウェーブで撃破するが、こちらのキーはサリーによって回収されてしまう。バスコは、ギンガマンを諦めて他の“大いなる力”を集めると告げると、サリーの腹からつっきーくんを呼び出して、撤収。
 バスコ回はサリーマジックで巨大戦を消化して帳尻合わせられて大変便利ですが、使い方的には着ぐるみ改造怪人?ながら、やけに金色で豪華な感じのつっきーくんは、烈火大斬刀とドリルドリームの合わせ技で砕け散るのであった。
 「伊狩鎧」
 「はい」
 「ギンガマンの“大いなる力”と共に、これを君に託す」
 ヒュウガは鎧に黒騎士キーを託し、卒業証書授与、みたいな雰囲気なのは意図的でしょうか。高原の真ん中で画角を広く使ったシーンが、地球の自然と親和性の高いギンガマンらしさを補強して良い感じ。
 「今、スーパー戦隊の力は一つに集めておいた方がいい。それに……俺の分までこの星を護るんだろ」
 「……はい!」
 オリジナルの力に対して遠慮気味の鎧に向け、『199ヒーロー大決戦』で触れられた未曾有の危機対策の理由付けも補強し、「この星を――宇宙全体を護るヒーローになる」為に、力強くそれを受け取る鎧。
 かくして3000年戦士の力を手にゴーカイガレオンは飛び去っていき、それを見送る炎の兄弟。
 「まさか宇宙海賊が、35番目のスーパー戦隊になるなんてな」
 「やっぱり海賊は信用できないか? リョウマ」
 「いや。兄さんが認めた戦士なら大丈夫さ。それに……俺も信じたいと思ったんだ。仲間の為に、自分の身を顧みずに、走り出したあいつらの事を」
 リョウマはリョウマで、傷だらけでも大切な仲間の為に迷わず立ち上がったジョー達の姿を目にしており、走れ! 地球せましと駆けめぐれ! と、爽やかに笑い合う兄弟がガレオンを見送って、つづく。
 『ギンガマン』本編の重要エピソードを下敷きにして、トンデモ追加戦士・伊狩鎧が、「ファン」から「ヒーロー」へ向けて脱皮していく姿を描き、好篇でした。『ギンガマン』通っているかどうかで印象のかなり変わりそうなエピソードかも……とは思いますが、本編同様に、自分の「役目」を的確に演じきってくれたヒュウガ兄さんが素敵でした。
 本編を踏まえた脚本の意図を掴んだキャラ作りというメタ的な意味も含めて、自分の役目、をどう果たすのか、を考えて動くのが凄くヒュウガ兄さんだなと。
 次回――OB会から、使命とか役目とかどうでもいい人、襲来。