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欲しけりゃこの手で掴め

海賊戦隊ゴーカイジャー』感想・第16話

◆第16話「激突! 戦隊VS戦隊」◆ (監督:中澤祥次郎 脚本:香村純子)

 ――からっぽの手を にぎりあうのさ いっしょに明日へ 行くために

 「やっほーい、マベちゃん。元気?」
 マーベラスにはあくまでにこやにに接するバスコが(これはこれでマーベラスを馬鹿にしているし、挑発しているのでしょうが)、捕らえたジョーを冷たい無表情で見下ろすと、鼻で笑って顔面に蹴りを叩き込むのが、バスコとは何者か、をわかりやすく見せて掴みのインパクト。
 このタイミングでの悪玉サイドの新キャラという事で、1クールを経たヒーロー達に対して十分以上に伍するキャストを、というのは当然あったと思われますが、幾つもの表情を使い分け、一筋縄ではいかない男、としてぐいぐいと見せてきます。
 「こいつら4人と引き換えに、あの日俺が手に入れる筈だったものを全部よこしな。全てのレンジャーキーとゴーカイガレオン、あとナビィ。宇宙最大のお宝探しに必要なもん全部だ」
 謎の動力や高精度の占いなど、回を追うごとにプレシャスじみていた鳥ですが、ここで「宇宙最大のお宝探しに必要なもん」として明確にカウント。そして、いつのタイミングからかはわかりませんが、これらを一通り揃えていたアカレッドはつまり、実質的な長官ポジション。
 「あれ? あれれれれれー? まさかマベちゃん、迷ってる?」
 嘲弄するバスコに考える時間を与えられたマベが、ブリッジの柱に頭突きを一発入れる姿で追い詰められた状況を強調し、囚われのジョーはそんなマーベラスの心情を気遣う。
 「宇宙最大の宝を手に入れるのはあいつの夢だ。大事な人との約束なんだ。その夢を……簡単に捨てられるわけないだろ」
 「だったらおまえらを捨てればいいんじゃね? 何かを得るには、何かを捨てなきゃ」
 一計を案じたルカは、なら命を取ってマーベラスを捨てる、とバスコへの詐術を試みるが……
 「よぉしわかった! ……て、言うと思った?」
 他人を一切信じていない、と言い切るバスコはサリーに命じて4人を牢屋に放り込み、マーベラスの夢を奪わせない為に、自力での脱出を目論む4人。
 「手足が使えない分、全力でやらなきゃ」
 「そうですね。ではわたくしも」
 「あんたはやめなさい!」
 ハカセは牢屋を見張るサリーと交渉を試み、参加しようとするアイムを全力で止めるルカ(笑)
 ハカセ渾身の猿語に反応を示したかに思われたサリーだがハカセの顔面にバナナを叩きつけて去って行き、その隙に一行は牢内の通風口からの脱出を試みると物凄い姿勢で細い通路を這い進んでいくが、出た先には全てお見通しで一行を弄んでいたバスコが待ち受けており、ふりだしに戻る。
 ……まあ、牢屋内部の通風口がわざとらしすぎたのですが、焦るジョー達の心境を読み切ったかのような、大変いやらしい悪役度がアップすると共に、一人+猿で海賊たちを翻弄するバスコの格もアピール。
 一方、キーを見つめるマーベラスは“赤き海賊団”に入る前、一匹狼の海賊としてまだ見ぬお宝を求め闇雲に剣を振るっていた日々を思い出していた。
 ザンギャックを襲撃し、開いた財宝の中に見つけたのが、アカレンジャーのレンジャーキー。そして、それを探していたアカレッドとの出会い。
 「これじゃないんだろ? 君が欲しかったものは。君が欲しいものはなんだ?」
 「……別にねぇよ。……でも、宇宙最大のお宝ってやつなら、探してみたいかな」
 とりあえずアカレッドに斬り掛かって見るもあしらわれると素直にレンジャーキーを渡し(潔いといえば潔い)、そっぽを向いてみるも照れくさげにでっかい夢を語り……若かりし日のマベちゃんが、割と典型的な“ここじゃないどこか”に憧れるちょっとひねたヤンキー感丸出しなのが予想外というか予想通りというかストレートでいっそ微笑ましい(笑)
 「あんたも海賊なら聞いた事あるだろ? ま、ただの伝説だろうが」
 「伝説じゃない」
 「え?」
 「君が諦めたのでは、手に入らない。……後は君の決断だけだ」
 そんなマーベラスアカレッドは“道”を示し、ビフォーアフターが描かれる事で、今のマーベラスが形成されるに至るアカレッドの存在の大きさが納得のいく形で物語と接続。
 そして現在――マーベラスは空っぽ同然になったガレオンの船内を見回す……


君が欲しいものはなんだ?

 ――「君が諦めたのでは、手に入らない。……後は君の決断だけだ」
 「…………そうだな。決めるのは、俺だ」
 口の端に不敵な笑みを取り戻したマーベラスは、お宝を手にバスコとの交渉に臨むと、取引をきっぱりと拒絶。
 「こいつはやらねぇよ」
 「へぇ~。じゃあこいつら見捨てるんだ?」
 「いや。仲間達も返してもらう」
 「……あのさ~マベちゃん。何も捨てずに何かを得ようなんて、無理なんだって」
 「知ったことか。欲しいもんは全部この手で掴み取る。――それが海賊ってもんだろ?」
 何かを得るためには、何かを捨てる――目的の為なら他者を平然と切り捨てるバスコのやり口をアンチテーゼとする事で、これまでしばしば口にされてきた“海賊の流儀”をヒーローのテーゼへと昇華し、「夢を得る為に何かを切り捨てず、諦めてしまわない者たち」としての海賊戦隊を、今作におけるヒーローの姿として改めて確立する見事なジャンプ。
 啖呵を切ったマーベラスが宝箱を高々と放り上げると、宙にこぼれた無数のレンジャーキーの中にモバイレーツが潜ませてあり、「手足が使えない分、全力でやらなきゃ」と、ハカセ口でそれをキャッチ。
 ルカとアイムがサリーを妨害している内に、同じく口でキーをくわえたジョーがハカセを変身させて囚われの4人は拘束を脱し、状況の割に妙にコミカルに描かれていた脱出騒動、雰囲気が重苦しくなりすぎるのを嫌ったのばかり思っていたら(そういう意図もあったでしょうが)、まさかの伏線でした(笑)
 「相変わらず大胆な事するねぇ」
 「でも、マーベラスさんらしいです」
 「あたし達が気付かなかったら、どうするつもりだったの?」
 「……気付くだろ。おまえらなら」
 「フッ。まあな」
 自分の決断を――仲間を信じ抜く事が逆転に繋がるのも、バスコとの対比として鮮やか。
 「マーベラス、あれもぜーんぶ獲りにいくんでしょ?」
 「へっ、当然だ」
 再結集したゴーカイジャーを前にバスコは太陽エネルギーで金銀軍団を召喚し、復活したゴーカイジャーは揃ってゴーカイチェンジ。
 「派手に行くぜ!」
 戦いが始まるや、その間を堂々と闊歩してぶちまけられたキーを回収しようとするバスコだが、いつの間にやらナビィが拾って宝箱に詰めており、鳥、大変いい仕事(笑)
 派手vs派手、の対決は金銀軍団優位に運ぶが、2対1から4対2に戦況が変わると、ありそうでこれまやっていなかった気がする女性コンビのツインカムパイレーツ攻撃を境に戦況が逆転し、“偽物”は個人技頼りだが、“本物”は連携で勝利する、という趣向でしょうか。
 「マベちゃん昔より強くなったじゃん。今日のところは退散しとくか」
 トドメのファイナルウェーブが炸裂してラッパヒーローズ金銀は全てレンジャーキーの姿に戻り、これを高みから見下ろしたバスコはサリーを呼びつけ、腹の、蓋が、開いた!
 「リキッドロイドのワテルくんだ。可愛がってくれ」
 サリーの腹の中から巨大ぬるぬる生物が飛び出してきて、猿の便利能力により巨大戦のノルマがこれにて消化。壊滅の危機を乗り越えたゴーカイジャーは、逆に15のレンジャーキーを一挙獲得するのであった(そしてゴセイナイトキーが、文字通りのキーアイテムとして劇場版『199ヒーロー大決戦』に繋がる事に)。
 「悪いな、おまえら。面倒に巻き込んじまって」
 「……なに言ってんだ? 今に始まった事じゃないだろ」
 「そうそう。もう慣れちゃったよ」
 「毎日刺激があって、楽しいですよ」
 「嫌んなったら勝手に出てくから、お気遣いなく」
 視線は夕焼けの空へ向けつつ、謝罪の言葉を口にするマーベラスに対して4人がそれぞれの言葉で「気にすんな」を返し、各キャラクターの完成度の高さの中で、ルカの言い回しの面白さが特に光ります。
 「…………ありがとな」
 食事の準備に向かう4人の背に向けてマーベラスはそっと呟き……一方、同じ夕陽の下で不敵に嗤うバスコ。
 「マベちゃんなかなかやるじゃん。でも……まだあったりして」
 その手にはまだまだズラリとレンジャーキーが……で、つづく。
 マーベラスの仇敵、新たな悪役の登場に合わせ、そういえば使われた事の無かった追加(&番外)戦士相当のレンジャーキーにスポットが当たり、「実はまだ持っていなかった」事が判明(考えてみると、メタ的にはビッグワンのキーが目くらましになっていたのが巧い)。
 マーベラス達は「スーパー戦隊に興味がない」ので、5色1セットとばかり思い込んで「それに気付いてもいなかった」のは十分な説得力を持ち、そこから本命の追加戦士に繋がっていくのは、成る程のアイデア
 そしてその事が証明するように、未だ、レンジャーキー(スーパー戦隊)の力の本質とは向き合おうとしていないマーベラス達ですが、“大いなる力”を得ようとする中で、力の意味と向き合っていく事(いけるのか)が、改めて今後の旅路の意味になっていくのかもしれません。
 エピソードとしてはシンケン編(第11-12話)の変奏曲というか、海賊戦隊結成に至る始まりの裏表:マーベラス編といった作りになっており
 〔海賊戦隊結成前の過去にまつわる重要人物との再会・それにともない明かされる過去・尊敬する人物との別れ・敗北・失ったものと新たに得たもの・マベ←→ジョーの熱い想い・孤独の道を振り切り仲間の元への帰還と絆の再確認〕
 そして、

 「……ただいま」
 「「「「え?」」」」
 「なんでもない。飯だ飯」
 最後にぽろりと心情がこぼれる所まで要素が重なっているので、意図的な仕立て直しであったのかな、と。
 この辺り、極めて重要なエピソードながらサブの香村さんに任されている事や、劇場版や震災の関係でスケジュールが厳しかったという事情を聞くと、プロットを共用する事で話を作りやすくする狙いがもしかしたら制作側にあったのかもしれません。
 その上で今回は、バスコというマーベラスのネガ存在を出す事により海賊の流儀をヒーローの在り方へと綺麗にジャンプアップさせたのがお見事(後、口キャッチに至る伏線の組み方)。
 そんなわけで、シンケン編ではマーベラスが「出会いは運命」を語ったように、今回は随所でジョーがマーベラスに対して強い信頼感と夢への理解を示し、
 「覚えてるか?」
 「当たり前だ!」
 であります。
 そしてこの2篇が対応していると考えると、マーベラスにとっての「俺の分まで生きろ。そして、宇宙最大の宝を必ず手に入れろ!」は、ジョーにとっての「生きていれば、宇宙のどこかでまた必ず会える」であり、ジョーはこの後も、バリゾーグではなく「シド先輩と再会する」事を目指すのであろうな、と感じさせるのが大変凶悪。
 「大事な人との約束なんだ。その夢を……簡単に捨てられるわけないだろ」
 が、マーベラスとジョー、双方にかかっているのが巧い。
 時系列としてはこの後に劇場版『199ヒーロー大決戦』(「ゴセイジャー編」)を挟んで天使会との抗争を乗り越えて固めの杯をかわし、地球汚染源認定を回避したゴーカイジャーの前に現れたのは…………次回――凄い猿顔の男。