東映特撮に踊らされる駄目人間の日々のよしなし。 はてなダイアリーのサービス終了にともない、引っ越してきました。
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戦闘民族ウルトラ人

ウルトラマン80』感想・第6話

◆第6話「星から来た少年」◆ (監督:湯浅憲明 脚本:広瀬襄)
 「先生、僕は、僕はどこの星から来たの?」
 エリート一家の落ちこぼれ少年は、いつしか、自分は地球以外の星で生まれたと考えるように。
 「僕、ゆうべ、UFOを見たんだ! あれは僕の星から、僕を迎えに来たに違いないんだ!」
 “ここではないどこかへ”という普遍的なテーマを、身内に強い劣等感を抱き家庭を居場所だと思えない少年の鬱屈と接続して学園要素とし、《ウルトラ》シリーズなら実際にそういう事もあるかもしれない、というサスペンスをスパイスにまぶしたのは、興味を引く導入。
 折しも地球にUFOが飛来して各地に被害を発生させ、警戒態勢を強めるUGM。なにぶん5年間冷や飯ぐらいの部署だったので明らかに人手不足が窺えるのですが(矢的を隊員としてねじこめたのもその為でしょうし)、通路や部屋の背後を走る一般隊員の姿が適宜織り込まれるのは、組織感が出て好きな演出。
 神出鬼没のUFOはUGMのレーダー網をすり抜けて姿を消し、昼間の顔に戻った矢的は、「口笛を吹くと、周囲に風が起こる能力」を宇宙人である証明と考える少年に対し、「口笛を吹くと風が起こる」のではなく「風が起きそうなのを感じて口笛を吹いている」のであり、その感覚にたまたま優れていた事から因果関係を誤解してしまったのだ、と説明。
 「アキオ、これが先生の答だ。わかってくれたな?」
 思春期の思い込みにより強化された現実逃避を正そうとする姿勢は間違っていないと思うのですが、それをわざわざクラスメイト全員の前で行う矢的先生の無神経さが地獄。
 ナレーション(僕の事をなにもわかってはいない。僕の事を本当にわかってくれる友達は、あの星空の彼方にしかいないんだ、と、アキオは思った)
 当然、少年は内心でますますこじれ、第2話の感想でも触れましたが、40年前の学園ドラマには、根本的に感覚の掴みにくい部分が出てしまうのが今見ると難しいところ。
 宇宙への望郷の念を強める少年はUFOを目撃して追いかけ、本日も電話対応に追われるUGM。着陸した円盤へ攻撃を仕掛けようとするUGMだが少年の接近に気付き、それを止めに向かった矢的の前で、少年の必死の呼びかけに応える筈のない円盤から宇宙怪獣が出現する!
 おどろおどろしい怪獣はなかなか面白いデザインなのですが、神出鬼没が売りだったUFOがいきなり公園に着陸してしまうのは、あまりにも雑。怪獣の放つ熱線で負傷した少年を安全なところまで運んだ矢的は80に変身し……あれ、80の顔、ちょっとシャープになった……?(夜戦で少し締まって見えているだけで、全くの勘違いかもですが)
 怪獣にげしげし踏まれる80だったが、子供達の声援を受けて最後の力を振り絞るとバックルビームで大逆転勝利を収め、UFOも焼却。緊急手術を受ける事になったアキオ少年は、心配して探し回っていた同級生達の輸血を受ける事になり、ウルトラ人として輸血の出来ない事に歯噛みした矢的は、こっそり80に変身すると謎の光線を放って少年を回復させ…………“ヒーローが特定個人に肩入れして病気や怪我の治療に便宜を図る”のは、救う者と救わない者の恣意的な分別があまりに明瞭になってしまうので、慎重に行われるべき、という個人的な判断基準からすると、完全にアウト。
 教師と生徒という個人的関係は存在しますし、一応、UFOに近付く事を止められなかった為に……と責任を感じた解釈も可能ではありますが、そこに焦点を合わせず教頭先生に不条理になじられてから変身する流れは教頭も矢的も得をせず、そもそも、アキオ少年の“居場所”という意図を当然含んだ、「級友たちの輸血」で助かって問題なかったように思えるので、だいぶ余計な奇跡を付け加えてしまった印象。
 そして少年の退院の日、おまえの宇宙人願望は卑怯な甘えなんだ! と母親や友人達の前でズバズバ切りつける矢的先生の無神経さが再び地獄。
 今みんなで退院を祝福して、女子から花束とか渡しているところなんで、先生は待合室の隅っこで京子先生の盗撮写真とか見ながらニヤニヤしていて下さい!
 根本的にウルトラ人なので少しズレている、というニュアンスもあったのかもですが、自分が思ったよりも周囲から心配されている事を思い知らされた少年が、逃避願望を捨てた事を「僕は間違いなく人間だ。だってこいつらの血を輸血してもらって助かったんだもん」と笑ってみせる方がよほどウィットに富んで爽快でもあり、矢的先生は待合室の隅っこで石でも並べていて下さい!
 普遍的なテーマを今作らしく味付けしようとしてみせた導入は悪くなかったのですが、結局、怪獣バトル要素(UFOの追跡)は雑に着陸、学園ドラマ要素は矢的の関与がさしたるキーにならないまま周囲の優しさで解決してしまい、作品コンセプトの難しさに直撃。主に矢的先生が見せる、当時的な要素が今見ると軒並み悪い方向に転がっているのも、辛いところ。
 ……変な話これが東映特撮だと、「洗脳してもらえば、勉強好きの子になるわ」とか明らかに頭のおかしい方向に行くので対応もしやすいのですが、そういう点では『80』は真面目すぎるな、と(笑) まあ、主人公が教師なので真面目でないと困るわけではあるのですが!