『ウルトラマンネクサス』感想・第32話
◆Episode32「影-アンノウンハンド-」◆ (監督:小原直樹 脚本:長谷川圭一 特技監督:菊地雄一)
放映短縮の影響によりメイン回がスキップされた件を知ると、新OP映像の机に俯せポーズから一切のミステリアスさが消滅し、純然たる机だらーーーポーズにしか見えなくなってしまった平木隊員……(涙) ……なお今回、石掘ともども台詞ゼロ。
TLTでは、拘束した溝呂木へのブレインスキャニングが管理官主導で行われるも有効な情報を引き出せずにいたが、「おまえは人形。ただの道具だ」と、かつて他者に言い放った言葉を謎の声に告げられた事で記憶と能力の戻った溝呂木は、次々とティルトの隊員を蹴散らして脱走。
「俺にはまだ、やるべき事がある」
偶然その場を通りがかった瑞生は溝呂木の人質に取られ、第2部の一つ良い点は、徹底して瑞生をヒロインとして扱っている事。
果たして瑞生は、《ウルトラマン変身者にやたら好かれる》スキル持ちの孤門から、真ヒロインの座を奪い取る事が出来るのか?!
一方、それを目にしたMPの一員・三沢は謎の影に襲われ……溝呂木の身柄を巡って混迷する状況の中で、NRからは副隊長と孤門が溝呂木追跡の任に当たる事に。
「副隊長……ありがとうございます」
「……もし私が倒れたら、貴方が奴を撃ちなさい」
あれ? この人、射殺する気満々ダゾ。
山中に逃げ込んだ溝呂木は、かつて自分が散々に利用し、そして束の間の絆を得た少女リコに謝罪したい気持ちを瑞生に打ち明けるのですが、変心の経緯が省かれている上に、溝呂木が謝罪しないといけない相手は山ほど居る中でリコへの謝罪だけを特別「やるべき事」とするので、身勝手な印象はぬぐい切れません。
溝呂木の身勝手さに関しては、溝呂木本人の自覚も含めて意図的なものかもしれませんが、それを「今の私なら理解できる」と受け止める瑞生はさすがに飛躍が度を超えてしまい、せめて憐の存在を絡めるなどしてほしかった部分。
「溝呂木ぃぃぃ!!」
歩みを再開する二人だが、前後をNR組の鉄砲玉もとい副隊長と孤門に挟まれてしまい、顔を歪めた孤門に撃たれようとする溝呂木は、敢えて瑞生という人質を手放す、が……
「何故だ……?」
「僕はおまえが憎い。でも、おまえの命を奪っても……リコはもう、帰ってこない」
孤門の放った銃弾は、溝呂木の手にした拳銃だけを撃ち落とし、孤門が憎しみを乗り越える姿が劇的に描かれるのですが…………ですが、果たして孤門くんに、狙って拳銃だけを撃ち落とす射撃技術なんてあるの?!
これ本来は劇のテンションとフィクションの力で乗り越えるところなのですが、序盤から足枷になっている軍隊的描写の中途半端さ――根深いインスタント訓練問題――、そもそもNRが対人戦闘を想定した訓練を積み重ねているとは思えない、というか先日ぼんやりした緊張感の無さで監視者相手に醜態をさらしたばかり、と負の布石が積み重なって、「憎しみを乗り越える孤門」よりも、「100万回に一回レベルの奇跡の一発」の方が私の中で劇的になってしまいました(笑)
せめて先日、監視者相手に孤門くんがいいところ見せていたらもう少し納得度が上がったかもしれませんが(瑞生の格闘シーン自体には、正直そこまで必要性を感じませんでしたし)、この辺りも今作の、統御できていないリアリティ意識と、細やかな伏線の不足が悪い形で出る事に。
「投降しなさい。拒否するなら……私が撃つ」
足の指、手の指、耳たぶ……と投降する気になるまで順番にな!!
「本当に……変わった奴らだ」
なんだかスッキリした表情で立ち上がり、副隊長に向け歩み寄る溝呂木、だが……背後からのエネルギー弾に胸部を貫かれて倒れ、そこに立っていたのはMPの三沢。
「溝呂木眞也、そいつの役目は終わった。これからは、俺が奴に代わって、この世界を闇に塗り込める」
地味に出番のあったMPの人、突然のスポットライトで驚きですが、借り物感溢れる空疎な言葉がかつての溝呂木を思わせるのは、上手い接続。
三沢は闇の折りたたみ傘を起動するとメフィストに変身し、本日も無言のまま憐の変身シーンが挿入されて、ネクサス降臨。
画面の隅に時々入り込む名無しのクラスメイトポジションかとばかり思っていたダーク三沢の振るうMP流格闘術@メフィストクローに苦戦を強いられたネクサスは、久々のCG空戦の末に撃墜されてしまい、ダーク三沢の拘束を受ける。
「ふん、どの道貴様の命はじきに燃え尽きる。その光、俺が全て吸い取って 瑞生といちゃいちゃして やる!」
(ちょっと待て! 俺もまだ瑞生といちゃいちゃしてない!!)
そんな魂の叫びが届いたのか、瀕死の溝呂木が立ち上がり、右手に力を込めると、そこに生じたのは……光?
まばゆい輝きが溝呂木の全身を覆うと、咆哮をあげた溝呂木は再びウルトラマンメフィストへと変貌し、このシーンは非常に格好良かったです。
「まさか……」
「溝呂木……」
黒い瞳のダーク溝呂木は、ネクサスの窮地を救い紅い瞳のダーク三沢に挑むも負傷の影響で追い詰められた末、メフィストクローに貫かれるが、立ち直ったネクサスの姿を認めると身を挺してダーク三沢の動きを封じ、必殺の「今だ、俺に構わず撃て」を発動。
「なにをしている? それが光を得た、おまえの……おまえの役目だ」
躊躇いながらも促されたネクサスは、覚悟を決めてキューティネクサスアローでダーク三沢とダーク溝呂木をまとめて両断し、戦いを終えた憐は、既に致命傷を負った溝呂木とそれを見つめる副隊長の姿を目撃する。
「俺は……ただの操り人形だった」
溝呂木の急な変心の理由は、謎の声によりそれを突きつけられたからという事になり、他者を弄んできた悪役としては皮肉な結末ではあるのですが、溝呂木のキャラクター描写が「色々と空疎だった」のは、「実際に空疎だったから」として始末をつけるのは個人的に好きではない作り方で(「組織の描写がポンコツ」なのは「本当にポンコツな組織だったから」など、無限に利用可能な便利すぎる手法なので)、溝呂木眞也が最後までキャラとして魅力的にならなかったのは、大変残念でした。
「あの三沢という男も同じだ。奴に……心の闇を利用されただけだ。闇の力を持つ、奴に」
なにぶん闇の巨人と契約するまでの溝呂木の描写もほとんど無いので、「心の闇」とか言い出されても、便利キーワードを持ち込んだ感が強く(どういう、こそが重要なわけで)、しかもそれを三沢にまで拡大適用してしまう為、前半から杜撰な扱いだった「闇(の力)」がますますぼんやりしてしまう事に。
三沢にはもちろん三沢なりに、内心の恐怖や人生への鬱屈もあったでしょうが、今作はそういった、人間誰しも持っている心の……といった普遍的な広げ方もあまりしていないので、やはり溝呂木のパーソナリティに、もっとしっかり踏み込んでほしかった部分です。
「闇の力……アンノウンハンド」
「ああ。……気をつけろ。奴はおまえ達のすぐ近くに居る」
溝呂木は残り僅かな命で警告をもたらし、副隊長は息も絶え絶えな溝呂木に歩み寄り手を伸ばす。
「なぜ……わざと撃たれようとしたの? あなたは昔、私の目標だった。あなたの強さが私を支え、私はビーストと戦えた。でもあなたは、闇の力に負けた。だから私はあなたを憎んだ。憎まなければ……ビーストと戦えなかったから。なのに、死んで罪を償うなんて、最後だけ人間らしい顔して、そんなの卑怯よ!」
ともかく描写の蓄積が足らず、そうこうしている内に時間切れになってしまった副隊長と溝呂木の関係は全部台詞にしてまとめて叩き込まれ、しっかりと前半から丁寧に手を入れていてば面白い要素になったのではと思えるだけに、扱いが行き届かなかったのが惜しまれます。……まあ今作の場合、どうにもこうにもキャパシティ以上の事をやろうとして破綻してしまった節も見えるので、むしろ切り詰めるべき要素であった、かもしれませんが。
「凪……」
「罪を償うなら生きて! もう一度、人間として」
「……もう一度、人間として」
弱々しく呟いた溝呂木は瞼を閉じると副隊長にもたれかかり、副隊長は事切れた溝呂木の体をそっと抱きしめ、二人の上には舞い散る粉雪と白い鳥の羽が静かに降りかかるのであった……とたっぷり時間を取って溝呂木の最期が情感豊かに描かれるのですが、うーん……シリーズ構成を務める長谷川さんとしても溝呂木の始末は自らつけたかったのか、後半戦では初めて脚本を担当し(ただし監督は初参戦の監督なのですが)、溝呂木という男に改めて決着をつけた事そのものは良かったと思うのですが、途切れ途切れのドラマ・圧倒的な積み重ね不足・何を中心にして描きたいのか全体的に定まらない焦点、と細部から全体にまでまたがる問題点が重なって、画面の向こう側と同じ温度になる事が最後まで出来ませんでした。
そして、闇の中――姫矢、リコ、溝呂木、三沢……のデータが並んだリストに次々とDELETE印が付けられていく酷薄さは、真の悪意の不気味な表現として秀逸。
「目覚めの時は近い……」
ニヤリと笑った影が画面をスクロールさせると、そのリストには、憐、孤門、副隊長の名があるのだった……で、To be continued...