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一家に一挺、AK-47

仮面ライダーゼロワン』感想・第9話

◆第9話「ソノ生命、預かります」◆ (監督:山口恭平 脚本:高橋悠也
 注目は、唯阿さんは、 道具 不破の事をちゃんと心配してくれる。
 大変ドライに黒い繋がりと連絡を取るわけでもなく、搬送される不破に付き添って必死に呼びかけ、立場や目的はあるけれど人間としての良心は保持している様子。
 ゼロワンは、ギーガーによってコントロールした暴走ギア軍団を率いて進軍する滅亡ギルドを食い止めようと立ちはだかり、ヒーローが変身モーション時に無防備ではない事を様々な形で描くのは近作では当たり前に近くなっていますが、悪玉ライダーの変身モーション時に採用される同一のエクスキューズ(今作においては、転送され実体化たアーマーの自律行動)により、主人公ライダーが攻撃を受けるというのは、割と珍しいでしょうか?
 「人間どもの制御から解放された時、ヒューマギアは人類と袂をわかつ」
 「ヒューマギアは! 人間の暮らしを豊かにする存在だ!」
 「人類を滅ぼす存在だ」
 情熱ファイヤーボールを放つタイガーゼロワンだが、ゼツメポイズンのビートルアローを真っ正面から受けて完敗。滅亡ギルドは転がるゼロワンを放置してギーガーと共に次の病院へ向かい、大規模ハッキング事件が大きなニュースとして報道されている事が、劇中で明示。
 ……まあどちらかというと、人間に殺意を抱いたロボットの一個小隊が街中を巨大ロボと一緒に行進している割にはニュース番組の緊張感が薄い、というのは今作のリアリティラインの微妙な所であり穴となる部分ですが(いっそ、報道関係はなるべく描かない方が危なくない可能性)、やはり『ゼロワン』世界は一般市民の自動小銃による武装ぐらいは当たり前なのでは。
 全日本ライフル協会が、ヒューマギアの脅威から貴方の大切な家族を守ります!
 勿論、主要な出資先に武器製造メーカーが入っていたり入っていなかったりする飛電インテリジェンスの株価はストップ安。会社の評判と業績を第一に考える副社長は、ハッキングに遭った国立医電病院のヒューマギアを全てシャットダウンする緊急処置を提案し、患者の命か、暴走の危険か、どちらのリスクを取るのか決断を迫られるアルト。
 ヒューマギアの叛乱を目の前で見せつけられた事で、いつもの思い切りがないアルトは副社長に押し切られ、副社長命令→(社長黙認)→イズ→衛星ゼアという伝達系統を見るに、現在、衛星ゼアにはイズからしかアクセスできない……?
 国立医電病院で活動中だった医療用ヒューマギアは次々と活動停止し、どう転んでも多額の賠償問題に発展しそうですが、この世界で今一番辛いのは、飛電インテリジェンスの一般社員な気がしてきた今日この頃。
 「むかつく。みんな僕の友達なのに……」
 とりあえず山口監督回では“はしゃぎ回る子供”で描写が統一されている迅ですが、この反応は、迅にとっての「友達」の意味も明確になってきたところで、らしくて良かったです。
 「なあイズ……確かに滅亡迅雷ネットは悪いヒューマギアかもしれないけどさ。いいヒューマギアだって沢山いる。……俺はそいつら全員に、悪意が芽生えるとは思えないんだ」
 「そう思う根拠はなんですか?」
 「……根拠はない。そう信じたい…………だけかもしれないけど」
 「信じたい……」
 社長ラボで考え込むアルトだが、そこにもはやフリーパス状態の唯阿が駆け込んできて、強制停止された医者ギアの中に、ハッキングを受けながらも本来の職務を忠実に果たし続けるギアが居た事を報告。合わせて、今回の大規模テロにはA.I.M.S.も責任の一端がある、とギーガーについて説明する。
 後さっき社長を撃った鞄アローもうちのだ!
 「道具に頼ろうとした結果が……このザマだ」
 アルト・不破・唯阿、のヒューマギアに対する視点の違いは物語の面白みの一つなので、完全な宗旨替えは早まらないでほしいところですが、A.I.M.S.の不始末について飛電社長に打ち明け、人命の為にヒューマギアの再起動を訴える唯阿が、信用しきれない部分が見え隠れしつつも、法の番人サイドとして人命重視の姿勢を強く見せる事に。
 「……ああもう! やっぱ社長の俺がブレちゃいけねぇよな! たとえ世界中に嫌われても、社長の俺があいつらヒューマギアを信じてやれなくてどうすんだ?! …………イズ。……社長命令だ」
 それに応える形でアルトの進む道が鮮明に示され、「あいつら」というアルトらしい言い回しを交えながら、「信じる」というキーワードを繋げる事によって、劇中の現実的問題に対する飛躍を、劇的に飲み込んでみせる流れが巧み。
 なおその頃、重体の不破さんは、瞳孔が開きそうになっていた。
 社長命令により国立医電病院のヒューマギア達は活動を再開し、アルトはテロの拡大を防ぐべく、唯阿の制止を振り切って滅亡ギルドの狙う次なる病院へと急ぐ。
 「勝算もないのにどうして社長を止めないんだ?!」
 「我が社において、アルト社長の意志決定は絶対です」
 ただし、ギャグの説明を、除く。
 「社長が死んでもいいのか?!」
 「…………いいえ」
 目を伏せ、考え込む仕草を見せたイズに、唯阿は以前に拾ったゼツメマンモスキーを渡し、それを解析したイズは、飛電のデータベースに近似のシステムを発見。それは、先代マッド社長が設計して衛星ゼアに組み込んでいた巨大ロボ、もとい、大規模災害を想定した大型救助システムであった。
 「こんな非常事態でも冷静だな。さすが、人間の私とは違う」
 衛星ゼアが新たなキーの制作を始め、立ち去りかけた唯阿は足を止め、イズの方を振り返る。
 「……一つだけ知りたい。シンギュラリティが起きた時、ヒューマギアに善意が宿ると思うか?」
 無言で首をかしげるイズ。
 「…………わかるわけないか」
 唯阿は改めて社長ラボを足早に去り、ここでこれまであまり絡みの無かった二人を、アルト抜きの一対一で対話させてくれたのは、新しい空気も取り込む事になって非常に面白かったです。
 「私はオミゴト。必ず患者の命を。……私の仕事は……」
 医者ギアは不破のオペを開始し――
 「――人類滅亡だ!」
 国立みらい医療センターでは滅が両手を広げ――
 「ヒューマギアに、善意が宿るかどうか、わかりません」
 キーの完成を待つイズは呟く――。
 「我々は人間の奴隷ではない。我々こそが、この星の主だ」
 ハッキングの影響かどこか様子のおかしい手術室のオミゴト・医療センターをギーガーで襲撃する滅亡ギルド・社長ラボに佇むイズ、の姿が次々と切り替えられて、オミゴトの状態と不破の手術が無事に始まるかのサスペンスを盛り上げると共に、それと並べる事でイズの呟きの重みを増させ、特に後ろ姿を巧く使いながらの間合いを取った一人芝居は、イズというキャラクターと演者の引き出しを広げてとても良かったです。
 「ただ、私は、アルト社長を…………信じたい。たとえ、会社に損害をもたらす事が、あったとしても。……これは、善意でしょうか? 悪意でしょうか?」
 社長ラボから立ち去った唯阿は、国立医電病院で暴走したヒューマギアを物理で食い止め、二度のハッキングに耐えた看護士ギアが結局暴走するのは今作らしいドライな一線ですが、片腕を吊ったまま口約束ではなく自ら責任を取りに現場へ向かう唯阿の、変身こそしないものの立派な見せ場となり、前回が滅回だったとすると、今回はイズ(&唯阿)回といった赴き。
 「おまえらの悪意は、俺が止める!」
 医療センターに向かったゼロワンは、暴走ギア軍団を必殺鞄スローで蹴散らすも、ギーガーパンチを受け、変身解除。
 「人類は絶滅種となる、おまえもその中の一人だ、ゼロワン」
 「それは無いな! ……おまえらが「アークの意志」なら、こっちには、「ぜーんのいし」がついてるからな!」
 「なんだそれは?」
 滅が怪訝そうに眉をひそめた時、アルトの危機に駆け付けたのは、にっこり微笑む優秀極まりない社長秘書。
 「「善良なお医者さん」という意味をかけた……ギャグです」
 運動性能はともかく非戦闘員という扱いのイズをどうやって割り込ませるのかは難しいところではあったのでしょうが、強大な悪に対してヒーロー達が諦めずに立ち上がる前振りのシーンだったので、コミカル系のBGMとダッシュでギャグっぽい登場演出になったのは、個人的には残念。
 「だから……ギャグを説明すんなって」
 荒い息をつきながらも立ち上がったアルトがイズから受け取ったマンモスキーを装着すると、実は巨大メカだった衛星ゼアの後半分が変形・転送され、宇宙バイクも大概でしたが、衛星軌道から地表に向けて転送される巨大ロボという戦略的にヤバすぎるブツが登場し、全日本ライフル協会が、ヒューマギアの脅威から貴方の大切な家族を守ります!
 「ヒューマギアが人類を滅ぼす」
 「飛電のマシンは、人の為にある!」
 再変身したゼロワンは、3階建ての建物ほどのまるっきり巨大ロボに乗り込み、ギーガーと激突。《平成ライダー》定期の巨大CG戦に個人的な興味が極めて薄いというのもありますが、コックピットでがちゃがちゃやるゼロワンの姿は、映像的にはどうにも面白くならず。操縦状態でのカメラ位置の限定などからロボットアニメ的な面白さは生まれようがないわけですが、そう考えると《スーパー戦隊》における、「複数パイロット制」というのは、動きのつけにくいコックピット内部で動きをつける為の手段としては、かなりスマートな解法であったのか、と思うところです(70年代スーパーロボットからの輸入、という面もありそうですが)。
 作劇的には巨大ロボをチームの“象徴”にする事で「クライマックスの象徴」にする補強が行われているわけですが、近年では巨大戦の最中の芝居を増やす為のコックピットの巨大化というのもあり……ファンタジー系だとコックピットが出鱈目な大きさにしやすいのだなという事に今頃気付いてみたり、変遷を精査すると面白そうなのですが、『ゼロワン』に戻ります。
 「飛電の意地は、俺が貫く!」
 「滅亡迅雷ネットの、意志のままに」
 ゼロワンと滅が、ヒューマギアの善意(を信じる者)と悪意(を振るう者)の象徴として鮮やかに対比され、「意地」と「意志」の掛け方及び、「俺が貫く(能動)」と「意志のままに(受動)」という両者の差異が仕込まれているのが面白いのですが、「信じる」というキーワードの転がし方など、高橋脚本回は総じて、日本語の使い方が丁寧。
 勿論、脚本から台本での変化もあれば、アフレコ段階での変更などもあるでしょうから、脚本以降の部分で生まれた面白さや目配りもあるでしょうが、細かい言い回しへの気配りや言葉そのものへのこだわりが随所に窺えるのが、今作を好感を持って見られるポイントの一つです。
 巨大メカ同士の取っ組み合いの末、左手のプログライズシールドを放り投げたゼロワンマンモスは、巨大化したシールドの上に乗って全質量を叩きつける大技・ブレイキングインパクトでギーガーを踏み潰し、大規模災害を想定した大型救助システム、とは。
 「ゼロワン……やはりおまえは我々にとって計算外の存在だったようだ」
 ギーガーを失った滅と迅は撤収し、とりあえず、ゼツメポイズンいきなり敗北、は回避されてホッとしました。そして手術を無事に終えた不破は、自分を救ったのがヒューマギアの医師だと知り、大変難しい表情になるのだった……。
 後日――暗殺ちゃんドードーマギア変身シーンを撮影した映像がTV局にリークされ、その映像をチェックしていたイズの元を、唯阿が訪れる。
 「イズ。私が知りたかった答だが、やはりヒューマギアに善意が宿る事もあるのかもしれ――」
 「私も知りたい事があります。この映像を撮影したのは、誰でしょうか?」
 イズは当時の記録映像(ご町内監視カメラ?)を検索し、ばっちり間抜けな感じに映っていた刃唯阿さん、硬直。
 「刃唯阿さん、あなたですか」
 「……私じゃない」
 当の道具から<道具は使いよう>返しを受けた唯阿は、強引にしらばっくれると社長室を後にし、思わぬ所で近付いた唯阿とイズの関係性が一瞬で重い緊張を孕んだものに転じ、個人としては人命尊重の姿勢を見せた唯阿がいったいどんな背景を持って何をしようとしているのか、がグッと面白くなって参りました。
 暴走マギアの赤い瞳を、医者ギアを巡るサスペンスに使うのみならず、暗殺ギアの特異性の示唆(滅メイドだから?)に繋げ、更にそこから人間関係の爆弾に持ち込んだ連動は、お見事。
 一方アルトは、病院の屋上から、黄昏を背負うデイブレイクタウンを見つめる不破を見舞っていた。
 「どうやら、俺には二つの記憶が出来ちまったようだ」
 「え?」
 「ヒューマギアに襲われた記憶と………………救われた記憶だ」
 不破に15年間の怨念を簡単に翻してほしくはありませんが、頑なに攻撃的になる事なく、現実は現実として認める姿勢は好感が持てるので、狂気と正気の狭間を走り抜けていってくれる事を期待。
 次回は、今回の分も不破さんフィーチャー回になりそうな気配ですが、唯阿とイズの心境及び関係性の変化のみならず、今回寝たきりで終わるかと思った不破の心境の変化やアルトとの関係性もきっちり詰め込んできて、満足の面白さでした。
 難をいえば、前回割と唐突に大規模テロに打って出て「今日こそが革命の日」まで言った滅があっさり引き下がった事ですが、滅亡ギルドの行動についても、巧く理由をつけてほしいところです。