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夏の映画祭り5

名護さんは最高ですか

◆『劇場版 仮面ライダーキバ 魔界城の王』◆ (監督:田崎竜太 脚本:井上敏樹
 大古代展の準備会場に突如現れたスカラベファンガイアに挑む、秘密結社・素晴らしき青空の会に所属するファインガイアハンター・麻生恵だが、例の如く例のように叩きのめされ、げしげし踏まれていたところに、
 滅茶苦茶!
 格好良く!
 登場する名護さん!
 「君は相変わらず役に立たないな。どきなさい」
 肩にひっかけていたベルトを巻き付けた名護さんはフィストオンして仮面ライダーイクサへと変身し、この感想を書いている人は、基本的に名護さんの顔が好きです。
 景気良くスカラベを切り刻む名護イクサだったが、展覧会の目玉だった巨大な石碑の中から、黄金のミイラ怪人が復活。その肉体から飛び出した仮面を貼り付けられた人々は、次々と体内に吸収されてしまう。
 「俺が甦ったという事は、あの御方が覚醒しつつある、という事か」
 名護イクサと恵は、なんだかんだと華麗に連係攻撃を決めてスカラベを追い詰めていたが、そこに現れる黄金ミイラ。
 「ファンガイア? 違うな。こんな奴らと一緒にするな」
 ミイラ怪人は足下に転がるスカラベに仮面を貼り付けて下僕とし、このデザインが、大変、気持ち悪い。名護イクサはミイラの包帯グルグルで投げ飛ばされて怪談落ちの上、毒霧攻撃を受けて変身解除に追いこまれ、敢えなく撤退。そしてこの戦いを、カード越しに妖怪三銃士が見ていた……。
 「まさか……あいつ」
 「ああもしそうなら……人類絶滅へのカウントダウンが始まった事に――なる」
 思わせぶりな次狼の言葉からタイトルを挟み、何故かその頃、紅渡はとある高校に転校生として入学していた。民生委員の人に勧められて……て、そもそも、そういう年齢だったの?! と色々いきなりの展開ですが、高校生・紅渡というIFが、「劇場版(番外編)の記号」として機能。
 「なにが青春よ、馬鹿馬鹿しい。あなたキバでしょ。キバに青春なんて必要ないのよ。戦ってればいいの」
 酷い、恵さん、酷い……。
 声優陣特別出演により『電王』ネタの連発されるクラブ見学がしばらく軽妙に描かれる中、何をやっても上手く行かない渡は、放課後の校舎でバイオリンの音色を耳にする、が……
 「私、バイオリンなんて大っ嫌いなんだから」
 バイオリンを奏でていた同級生・机なつきは、吐き捨てるように言い残して去ってしまう。
 その頃、刑務所から脱走を図る男が、自動小銃で威嚇射撃されていたが、『キバ』世界は日本国内で合法バウンティ・ハンターが活動する異世界なので、大丈夫。
 男は刑務官らを振りほどこうとする内に強大な力に覚醒して脱獄に成功し……名護さんはボルダリングに励む首領Sから、22年に渡って容姿が変わらず、一度は死刑を執行された筈のこの脱獄囚・杉村の調査を命じられていた。
 ゴミ置き場に転がっていた杉村にいきなり膝蹴りを叩き込んだ妖怪ボタンハンターは、追跡劇に巻き込まれた渡の助けも借りて杉村の身柄を確保するが、護送中のパトカーが、ミイラとコブラに襲われる!
 「お迎えにあがりました」
 「我らがロード」
 アップダウンの激しい名護イクサが袋だたきにされている所に駆けつけたキバは先制のバイクアタックを決めると、召喚されたスカラベファンガイアを月面野球キックで葬り去るが、包帯攻撃でイクサともども変身解除に追い込まれ、絶体絶命の危機に。だがその時、白いキバットが二人の窮地を救い、純白のジャケットに身を包んだ、ちょっと髪型の古い謎の男が、氷雪を纏った第三のライダーへと変身する!
 毛皮や巨大な爪の意匠が獣じみた白いライダーに圧倒されたミイラとコブラは、杉村の身柄を確保して逃亡。そして、変身を解除した男は――
 「やあ、久しぶりだね、名護くん」
 「……白峰……さん」
 スリーダブルエー(「WWWA」なのか「3AA」なのか)なる組織に所属する白峰天斗を演じるのは、後に本編で若社長こと登太牙として登場する山本匠馬さんという珍しい気がするキャスティングなのですが、そこはかとなく昭和な髪型(全体的に、京本政樹風といいますか)の二枚目をしっかり演じきっており、印象的。
 「あれは――レジェンドルガ」
 謎の怪人達の正体はかつてキバの力で封印された筈の存在であり、22年前、脱獄を図った杉村が刑務所の地下で古代遺跡を発見したのが全てのきっかけである事を知った渡は、次狼らの協力を得てドラゴン城の扉から22年前へ――杉村の人質にされる運命にある、バイオリニスト・榊原とわの刑務所慰問を止めようとする渡だが、ファンガイアに狙われているとわをガードしていた真紫スーツのバカ、もとい紅音也と出会ってしまう。
 ここまで封印していた時制の移動を、渡の「時間の移動」という形で用いる事で物語の流れがわかりやすくなった上で、移動早々に、思い切りよく出会う父と子。
 音也を振り切りとわを強引に連れ去った渡は追いかけてきたゆりの攻撃を受け、いきなり鞭剣を振るうゆりさんもゆりさんですが、その鞭剣の一閃をさらりとかわすバイオリニストがとんでもない(……伏線? と思ったのですが、そんな事はなく)。
 そこにパトカーがやってきて、誘拐犯と間違われた音也が逮捕されそうになったどさくさで渡がとわをパトカーに押し込もうとする大混乱の末、渡と音也は二人でパトカーに乗って走り出す事に(何故そうなった)。
 そしてパトカーの中で、渡はこの真紫スーツの男が、自分の父親である事に気付く。
 「嘘じゃありません! 僕は未来から、2008年からこの時代に来たんです。れっきとした、あなたの息子です」
 「未来から来た俺の息子か……すげぇぇ! 熱いなこれ!!」
 ……じゃなかった、
 「おまえ……警察より、病院に行ったほうがいいな」
 劇場版、を理由にして好き放題にサービスシーンを詰め込んでいく今作ですが、渡がこのぐらいアグレッシブなら本編後半の展開がだいぶ変わった気はしてなりません。
 その辺りも含めて、今作は物語の内容以上に、『キバ』は『キバ』でもアナザー『キバ』なのですが、『キバ』の『キバ』たる所以であるややこしい部分を大きく削ぎ落とした結果、大変スッキリした作りが『キバ』であって『キバ』でない独特の面白さを生み出すに至っているのは、この当時のライダー映画の位置づけでもあったでしょうか(前年の『電王』は、本編と明確に繋げるという挑戦に成功した作品ですが)。
 『キバ』の二大ややこしいは、〔錯綜するメロドラマと頻繁な時制の移動〕ですが、作品として最大の特徴である二つの時代の行き来を、主観人物を直接移動させてしまう事でスッキリさせたのは、劇場版として良い判断だったと思います。それにより、時間の経過と情報の錯綜を活かしたトリッキーな面白さは失っているのですが、テンポの速い急展開に次ぐ急展開と、『キバ』独特の大雑把さがプラスの化学反応を生んで、アトラクション的な楽しさが飽きさせずに繰り広げられるのが、今作の長所。
 音也は行く手を阻んだパトカーから降りてきた婦警(これまた特別ゲスト枠の秋山莉奈)に悶絶してくねくねし、
 (父さん……? なんなんだこの人は)
 父への幻想がだいぶ崩れそうになる渡ともども、逮捕、そして、問題の刑務所に収監され、これ、確実に、素晴らしき青空の会の手が回ったな……。
 渡の危惧通りに榊原とわを人質にとっての脱獄事件が発生するが、渡&音也はとわの救出に成功し、脱獄は失敗。ミッション達成した渡は現代に回収される、が……牢屋からの脱出に利用した刑務官が馬ファンガイアに変貌し、現場が大混乱している隙に、杉村は刑務所の壁が崩れた先で古代遺跡を発見。そこに眠っていたレジェンドルロードの棺に触れてしまう……。
 ゆりからイクサナックルを受け取った音也は音イクサに変身して馬ファンガイアを焼却し、渡は現代の教室へと帰還するが、学校では教師が怪人に変貌し、巨大な瞳を持った月が見下ろす地上にはミイラパニックが発生し、現在の情勢はむしろ悪化しているのであった……!
 「いつ聞いてもいい。人間の悲鳴は」
 「ああ、我々の音楽だからな」
 再び、1986年――渡が残していった二千円札と携帯電話を調べた音也は、渡の言葉を真実だと感じ始めていた。
 「もし奴の言葉が本当だとすれば、今22年後の世界ではすごーくやばーい事になっている筈だ」
 「その通りだぜぇ」
 「……なんだおまえは?」
 「連れてってやろうか、未来に」
 キバの力を追い求めるゾンビ軍団から逃走中の渡と恵は、キバットによって現代に連れてこられた音也とゆりに危地を救われ、落下しかけた恵を助ける為に父と子の手が重なる、というのは本編を思うと印象的なシーン。
 かくして父と息子、母と娘が時空を超えた思わぬ出会いを果たし、親馬鹿というかナルシシストを発揮しまくる音也は、何故か渡を女装させて街をそぞろ歩きしていたところで、急展開に次ぐ急展開で存在を忘れそうになっていた白峰と出会い、音楽! デザイン! 雑! 素っ頓狂! 雑! 濃すぎるキャラ! 突然の格好良さ! 雑! と『キバ』本編の長所も短所も約1時間の中にぎゅぎゅっと濃縮された上で、一番ややこしい要素が外されている事で全体としてはスッキリ見る事が出来てしまうという、色々と凄い映画(笑)
 「キバはもうすぐ、滅びる事になる」
 音也のナンパ中に思わせぶりな事を呟く白峰だが、音也がナンパしていたフードファイターの正体は、コブラレジェンドルだった!
 渡はキバに変身すると、揃い踏みしたレジェンド四天王に対してなんだか本編で1回ぐらいしか見た記憶のない強化バイクで回転轢きを浴びせ、その勢いのまま植物っぽいレジェンドルをあっさり轢殺。
 妖怪三銃士も格好良い音楽で駆けつけてキバに協力し、なんかしれっとチームぽくなっている割り切りぶり、本編では色々あって簡単に出来ないけどやっぱりこういうの見たいよね?! というサービスシーンの数々が惜しげもなく投入されるのが概ねプラスに転がって物語としての気持ちよさに昇華されてしまっているという、何とも不思議な映画です(笑)
 勿論、トレードオフとして、『キバ』本編の持つ面白さの一部を排除してしまってはいるので、『キバ』に求めているのはこういうものではない、という向きも出てはくるでしょうが。
 三銃士と共闘しながらキバはフォームチェンジを連続し、チェンジシーンを強調するのではなく、カット割りとSEで、戦闘中に次々とチェンジしていく、というのが格好いい見せ方。這々の体で逃亡するレジェンドルだが、キバは突如として白キバットに襲われ、優雅に爪を磨きながら白峰が姿を見せる。
 「てめぇ! 俺のこと尊敬してるんじゃなかったのか?!」
 「……勿論ですよ。ですが、これとそれとは話が別です」
 白峰が変身した仮面ライダーシロクマは両腕の鎖をブレイクアップするとキバに猛然と襲いかかり、スリーダブルエーの開発したライダーシステムという事ですが、今作ではその筋では有名らしいキバの力をベースに研究開発した、という事なのか。
 そこに助けに入る麻生母娘だったが、まあ、例の如く例のようにさして役に立つわけがなく二人揃ってシロクマの人質にされてしまい、時空を超えた仕様です。
 シロクマのライダーシステムは普通の人間には扱う事は出来ず、白峰はその為にレジェンドルに魂を売り渡したらしい事が明らかになり、ライダーシステムに不備があるのも、時空を超えた仕様です。
 「弾いてやろう。おまえの母親の曲を。おまえの母親と同じ演奏でな」
 決着の時が近い事を感じる音也は、2008年の喫茶店を訪れる最後の機会かもしれない……と、榊原とわの娘であり、母との間にわだかまりを抱えるなつきの為に母親の曲を届け、ここまでのバカ一直線からいいところを見せました。
 (父さん……やっぱり凄いよ、貴方は)
 白キバットによりレジェンドルの拠点である魔界城に招かれる父子だが、渡は道中で音也を気絶させ、一人で玉座の間へと乗り込んでいく。だが変身を妨害された渡は、キバの力への復讐に燃えるロードレジェンドルの毒牙を撃ち込まれた事で、音也の目の前で異形の怪物へと変貌。駆けつけた名護イクサもレジェンドル軍団に阻まれていたその頃、囚われの麻生母娘は地下牢の扉に体当たりを繰り返しており、助けを待っているかと思いきや、物理で脱出を図っているのが、凄く井上ヒロインです(笑)
 「体重なんキロ?」
 「45キロ」
 「……二人合わせて80キロか。なんとかなる!」
 「……あれ? じゃ、お母さん35キロ? 嘘つき!」
 玉座の間で名護さんがミイラに殺されかけたその時、脱出に成功した母娘が床に落ちた“二つの”イクサナックルをそれぞれ拾い、駄目な男達に変わって女性コンビが立ち上がるのが、凄く井上ヒロインです(笑)
 「「変身!!」」
 名護イクサと音イクサの時空を超えたイクサ共演があるのだろうな、と思わせておいて、先に母娘コンビが並ぶというのは、今作のサービス精神が非常に格好良く出た名シーン。
 レジェンドルの洗礼を受け、ロードの言うがままにWイクサに襲いかかる渡バードだったが、それを身を挺して食い止める音也。
 「息子であるおまえに殺されるなら、この命、惜しくない。だが……今のお前は渡じゃない! せめて……せめて、渡に戻ってから俺を殺せ!」
 音也が渡バードを抱きしめると眩い光が玉座の間を見たし、その混乱状態の中で母娘イクサはコブラレジェンドルを撃破し、渡は音也の手の中で、人間の姿を取り戻す。
 「……なんか、親子っぽいな、こういうの」
 「……親子ですよ、本当の」
 玉座から立ち上がったロードは新たなキバットモドキを装着すると、宙に浮いたそのままの目線の高さを維持する、まさかの巨大変身を見せ、一回り大きいとか極端な巨大化ではなく、おおよそ2倍の人型とのバトル、というのは非常に面白い絵とアクション。
 矢継ぎ早の展開を繋ぐ戦闘シーンそれぞれに特徴が付けられている(別々の見所が存在している)のも、今作の良いところ。
 ガーゴイルレジェンドルと場外で取っ組み合っていた恵イクサは、乱入したシロクマによりレジェンドルもろとも葬られそうになるが、名護さんが飛びついて恵イクサを助け、名護さーーーーーん!!
 シロクマと睨み合う名護さんの表情が超格好良くて、名護さーーーーーん!!
 そして恵は、変身を解除してイクサナックルを名護に託し……
 「頼んだわよ、名護くん」
 「ああ――任せない」
 恵には視線を向けず、シロクマを睨んだままナックルを受け取る名護さんを後ろから映したカットが大変格好良く……名護さんは、最高です!!
 玉座の間ではゆりも変身を解除して音也にナックルをパスし……まあこちらは、それで長時間変身していると健康に悪い仕様ですからね!(台無し)
 「頼んだぞ」
 「ああ――任せとけ」
 「変身」「変身」
 ここで、場所は違うが二人がシンクロ変身、と思いきや、ポーズだけでいきなり戦闘に入ってしまったのは、或いは尺の都合で省略されてしまったのか、残念だったところ。
 それぞれのパートナーとの連係攻撃で優位に戦うWイクサだが、ロードレジェンドルの圧倒的膂力にに大苦戦中のキバは、キバットになんとか助けられるとタツロットを召喚し、エンペラーキバが降臨(タイミング的に、この劇場版で初お目見え……?)。
 音イクサはミイラの毒霧を浴びながらも零距離イクサフィンガーでミイラを撃破し、名護イクサは、怒濤のラッシュ攻撃でシロクマを追い詰める。
 「残念でしたね。俺はもう昔の俺じゃない。その命、神に還しなさい!」
 イクサダイナミックでシロクマをずんばらりんすると、爆発を背に歩み去る完璧なヒーロームーヴを決め、名護さーーーーーん!!
 掴みのバトル担当に始まり、動揺するレベルで怒濤のイクサフィーバーなこの映画ですが、特に、展開の都合で“人間として駄目な部分”を全て切除され、格好いい成分だけが残った名護さんがひたすら格好良くて大満足。白峰との因縁が掘り下げられたら、駄目な部分が色々と出てきた予感がするので、この映画に関しては、掘り下げられなくて結果オーライな気がします!(笑)
 白峰の変身するシロクマは、獰猛なクラッシャーをはじめ獣じみた意匠を取り込みつつ、『キバ』文脈においては一目でライダーとわかるデザインが印象的でした。劇場版ライダーとしては、結構好き。
 エンペラーキバは洞窟の天井に逆さ立ちするコウモリらしいアクションからロードの顔面を殴り飛ばし……ここで、教室でバイオリンを奏でるなつきの姿が挿入されたのが、凄く良かったです。
 意識的にオミットされた事がわかるものを除き、ここまでの今作に欠けていた『キバ』最後のピースが、完全に入った、という印象。
 バイオリンの音色をBGMに、父子の共闘が効果音・台詞無しで描かれ、キバ渾身の全裸パンチがロードを地面に転がす……!
 「我が一族に、最後の力を……!」
 だがロードは、月の力を引き出しウェイクアップ。月の表面に張り付いていた巨大な目と合体する事で更なる邪悪な姿へと変貌し、溶岩の翼を背負った有角の悪魔、というデザインが文句なく格好いい。
 その火炎攻撃から音也をかばったキバはキバドラゴンへと変身し、本編ではものすごーーーく唐突だったドラゴンですが、劇場版からのネタだったのか!
 両者は巨大な満月を背に空中戦に突入。ドラゴン城も支援に入り、最後は月面大炎上キックが炸裂し、ロードは月へと封印されるのであった――そして渡の通う高校の学園祭、なつきと共にバイオリン同好会を立ち上げた渡は、その舞台で音也との共演を果たす。
 「時間だ。幕を下ろすんだ」
 万雷の拍手に包まれるステージ上で、金色の光に包まれていく音也、そして、ゆり。
 「ありがとう父さん。父さんに会えて、本当に良かった」
 「……自分らしく生きろ、渡」
 「強く生きよう、恵。私も……生きる」
 この最後のやり取りのみで、音也にしろゆりにしろ、二人に会った子供達がどうしてこれだけ嬉しそうなのか、その理由を勘づいている事を仄めかす、というのが大変上手く、非常事態だったとはいえ、キバットは色々、酷い事したよな……!
 「父さん……父さん。忘れません。僕、決して。父さんの魂を」
 音也とゆりは過去へと帰り、再び幕の上がった舞台では、渡となつきがバイオリンの音色を響かせ……魂の継承というテーマが織り込まれたその演奏に重なる形で、エンド。
 TV本編を踏まえつつ、TV本編とはやや位相のズレた世界で展開されるパラレル劇場版ですが、ところどころ実に『キバ』らしい大雑把さと馬鹿馬鹿しすぎる部分が顔を出しつつも、学生渡をIFの記号に置いた上でスッキリした構成により抽出された『キバ』の格好いい部分に、井上敏樹の作家的テーマである「いい男・いい女」が上手くはまり、特にクライマックスにおける、自力で脱出を果たした母娘イクサの活躍と、そこから音名イクサへのバトンタッチは、素晴らしい流れでした。
 またそれにより埋没しかねない渡/キバには、父子の物語という要素を与える事でしっかりと中軸をキープさせたのも、上手い構成。
 『キバ』本編視聴から時間が経過して、私の側に適度な距離感が出来ていたのも良かったのかなとは思いますが、パラレル劇場版ならいっそここまでやってしまえ、というサービス精神が良い方向にはまっていて、望外に楽しめた一作。
 油断すると、『キバ』の記憶が、今作に上書きされそうです(笑)
 ……いや、本編は本編で、この映画とは違うテイストの面白さがあるわけですが、良くも悪くも、この映画でいうとクラブ見学のシーンを必要以上に悪ノリして延々と時間使ってしまうのが『キバ』本編であり、映画の圧縮によりハイテンポに詰め込まれた『キバ』らしさが別種の面白さを生み出すという、一風変わった肌触りの作品でありました。