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虎よ虎よ

ウルトラマンガイア』感想・第43話

◆第43話「銀色の眼のイザク」◆ (監督:根本実樹 脚本:太田愛 特技監督:佐川和夫)
 「イザクってあの……」
 「そうだ。誇り高いアルテスタイガーの、最後の一頭だった、銀色の眼のイザクだよ」
 絶滅動物のクローン再生プロジェクトを行っていた、岩倉財団・自然科学研究所が落雷によって木っ葉微塵に吹き飛ぶが、それは破滅招来体の恐るべき策謀であった。研究所で再生中だったアルテスタイガーの肉体を入手した破滅招来体は、それを巨大な怪獣に改造して、地球へと送り込む!
 どんよりと暗雲立ちこめる空を背景に、風にたなびくたてがみの表現が格好いいイザク怪獣が巨大コンビナートに出現し、その細胞組織から地球の生物である事を解析する我夢。怪獣は火炎放射でコンビナートを火の海に変え、やむなく攻撃を仕掛けるチーム・ライトニングだが、そこに現れたアグルが怪獣をかばうと、怪獣の猛攻を敢えてその身で受け止める。
 大胸筋シールド!で火炎放射すら防いでみせる……と思ったら直後にそのまま後方にひっくり返るのが、凄くアグルです。
 (藤宮、なぜ……)
 ライトニング各機の攻撃を受けて怪獣は逃走し、変身の解けた藤宮は気絶。怪獣の正体がアルテスタイガーであるとXIG内部で共有され、神山と梶尾という、割と珍しい絡み。
 「イザク達にとっては私たち人間が、破滅招来体のような存在だったのかもしれませんね」
 ファルコンの米田リーダーは階級も高そうなのに目下の相手にも丁寧な喋り方なのですが、神山さんも大変丁寧なので、梶尾さんだけガラが悪いんですか!!
 一方、藤宮は今回も病院のベッドに横たわっており、もともと役者さんの線が細いので、筋トレよりもこちらの方が似合うといえば似合うのですが(笑) 我夢はそんな藤宮を見舞い、瀬沼さん辺りが手を回したガード関係の施設かと思われますが、たぶん我夢が、身許保証して入院費用を肩代わりしている。
 「俺は……思い上がっていたんだ」
 知人がプロジェクトに参加していた事から、イザクの存在を知っていた藤宮は、イザクの怒りを和らげようとその攻撃を甘んじて受けていたが、倒れる前、同じ地球に生まれた存在として、イザクの声が聞こえたと、我夢に語る。
 「俺は、イザクが俺達人間を憎んでいると思っていた。……でもな我夢、自分が最後の一頭だと、どうしてイザクにわかる?」
 かつて、地上でハンター達に追い詰められていったアルテスタイガーは、その一頭一頭が、生きるために戦い続けた。
 「イザクは自分が地上で最後のアルテスタイガーだと知る事もなく、大勢のハンター達を相手に、その一生を戦いぬいた。……我夢、イザクはその時と変わっていないんだ」
 「それじゃイザクは……」
 「ああ。イザクには、憎しみよりも激しい意志がある。イザクは生きようとしている。この星で。自分の生まれたこの地球で、アルテの虎として、生きようとしているんだ。そのイザクの意志が……」
 「今度は多くの人間の命を、奪う事になる」
 人と獣の断絶が語られ、獣の心を人の主観で推し量った事を驕りであったと感じる藤宮の姿は、「人間」ゆえの過ちであると同時に「人間」でこその視点であり、かつて“地球の代弁者”たらんとした藤宮博也という男の変化が、端的に示されていて巧い話運び。
 その頃、かつてのアルテスタイガーの生態から、虎怪獣が重油に引きつけられるのではないかと推測したコマンダーは、首都圏近傍のコンビナート地帯に重点的な警戒態勢を敷くよう指示。
 「どんなに姿は変えられても、あれはやはり、アルテの虎、銀色の眼のイザクだ」
 という、どこか叙情的な台詞の置き方が、なんとはなしに太田脚本ぽさ。
 コマンダーの読み通りに虎怪獣は川崎のコンビナート地帯に近付き、連絡を受けた我夢は、ウルトラマンの力を持つ者としての決断を迫られる。
 「我夢。……躊躇えば、おまえがやられる」
 一足先に怪獣と接触したチーム・ライトニングでは、軍人としての職務を貫こうとする梶尾もまた、神山の言葉に一瞬の迷いを生じさせていた。
 目の前の獣は、破滅を招く「怪獣」なのか? それとも人類による「被害者」なのか?
 「……あれは怪獣だ、怪獣なんだ」
 自らに言い聞かせるように呟きながら攻撃を断行する梶尾さんの心境変化が盛り込まれているのは面白く、これが律子さん(怪獣被害者の遺族)との関係に絡んで一つのテーゼとして練り込まれてくれると面白そうですが、拾ってくれる時間があるかどうか。
 川崎へ急ぐ我夢のEX機@独自改造には、コマンダーからの通信が届く。
 「コマンダー、僕は……」
 「我夢、破滅招来体がなぜ、怪獣となったあいつの細胞に、地球動物の痕跡を残したか、わかるか? ……俺達にわからせる為だ。あれは俺達人間が、絶滅させた動物だと。しかしもし、俺達がイザクを倒す事を躊躇すれば、破滅招来体はまた、絶滅した動物を、イザクのように利用する。そんな事を許すわけにはいかん」
 人類が生き残る為に、人類の罪を背負え、とコマンダーは告げ、ライトニングの砲火に包まれる虎怪獣を目にした我夢の胸には、藤宮の言葉が去来する。
 ――イザクは生きようとしている。この星で。自分の生まれたこの地球で。
 「ガイアーーーーー!!」
 ただそこで、生きようとするものを、人類のエゴで殺す事は許されるのか? コンビナート爆発の被害を防ぐ為に、人類の犯した「罪の亡霊」に立ち向かうガイアはアグトルニックするも苦戦するが、ラリアットから空中パンチを浴びせて弱った怪獣に必殺光線を放とうとしたその時、地球パワーを介してその声を聞いてしまう。
 (俺は生きる。ガイア。俺は生きる)
 生きる為の戦い……その意志に気圧されたガイアは再び怪獣ともつれ合い(互いの種族の生存闘争として、五分にぶつかり合う事を選んだ、という解釈も出来るかなと思う場面)、やや切ないトーンの音楽をバックに激しい投げを打ち合った末、最後はガイア渾身のハイパーエージェントキックが直撃し、イザクは粉々の光る粒子となって消え去るのであった……。
 「……許してくれ」
 変身の解けた我夢は精根尽き果ててガックリと膝を付き、そこに現れる藤宮。
 「……僕にも、イザクの声が聞こえた。イザクは、この地球で生まれ……この星で生きたいと、そう望んだだけなんだ。それを僕は……!」
 「戦うのが辛ければ、その光を捨てればいい!」
 そんな我夢に、藤宮は敢えて強い言葉を投げつける。
 「……イザクを葬ったのはお前じゃない。彼らアルテスタイガーを絶滅させてしまった、俺達人間なんだ。我夢、いつかおまえは言ったよな。人間は変われると。俺は、それを信じたいと思った」
 続く藤宮の言葉に我夢は顔を上げ、夜空を見上げる藤宮もいい表情。アグル復活編を踏まえ、「今の藤宮」が何の為に戦うかを更に補強し、「人間」として「我夢の友」として、再び歩き出した藤宮博也が、ヒーローとして完全に新生。
 ここに玲子さんが絡まないのが今作全体の舵取りとして良し悪しの悩ましい所ではあるのですが、個人的には今回のエピソードによって、新生藤宮とは何か、がスッキリと収まりました。
 ちなみに新生藤宮は今回、黒の繋ぎのライダースーツ姿(でバイクにもまたがる)なのですが、後に参加する『仮面ライダー龍騎』を知っていると趣深いと共に、新生藤宮的な“ヒーローぽい”服装として、それで通すつもりなのか、気になります(笑)
 いっそ、白いギターを背負うとより没入感が深くなって良いと思うぞ藤宮!!
 或いは、タンクトップを身に纏い、「俺達!」「チーム!「ハーキュリーズ!」「「&」」「筋トレ!」「ブラザーズ!」に加わって戦隊になるか。
 閑話休題。大変真面目な話に戻ります。
 「だがな我夢、人間は、人間が過去に犯した過ちを、自分たちの痛みとして背負っていかない限り、本当に変わったりはできないんじゃないか?」
 「……藤宮」
 「俺達は、イザクの事を忘れない」
 「ああ」
 立ち上がった二人は、“肩を並べ”、夜空を走った一筋の流れ星を見つめるのであった……で、つづく。
 コマンダーの言葉を藤宮がわかりやすく翻訳した上で積み重ねてきた要素と絡めながら未来への希望と繋げ、良いバランスの着地でした。
 今回巧かったのは、簡単に答を出しにくいテーマを扱うにあたって、ガイアに今そこに生まれる罪を犯すかどうかの選択を強いるのではなく、既に行われてしまった絶滅という罪、その「罪の亡霊」とどう向き合うのか? という構成にした事。
 これにより、過去の罪から目を逸らすのでも、今そこにある罪だけを回避してちょっといい話として有耶無耶にしてしまうのでもなく、過去の過ちは厳としてそこに存在し、それについて受け止め考えていく必要(義務)があるという課題を提起した上で、そこから未来に向けて変わっていける、いきたい、いこう、というテーマを鮮やかに描き出す事が出来ました。
 またそれを、かつて我夢から投げられたボールを藤宮が返す形にした事で、両者を補い合う関係に並び立たせた、というのがお見事。
 年間の構成としての必要な要素を取り込みつつ、1エピソードとしても大変バランスが良く、今作における太田脚本のアベレージの高さがまたも光った一本。
 次回――攻撃は最大の防御なのか、はたまた、血を吐きながら続けるマラソンなのか!