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「おまえの症状の方が重そうる」

『騎士竜戦隊リュウソウジャー』感想・第6話

◆第6話「逆襲!!タンクジョウ」◆ (監督:渡辺勝也 脚本:山岡潤平
 トワを蝕む犬マイナソーの毒は、感染性であった! Youtuberデビューを検討するスライムキノコに襲いかかった黒、トワと早苗を看病していたアスナとういが次々と毒に倒れてしまうが、同時に、マイナソーはもう一体存在していた事が判明する。
 「ドルイドンは人間の飲み水に、毒を入れようとしていたとバンバが言っていた」
 コウとメルトは、解毒剤の原料となりうる犬マイナソーの体の一部を入手するべく浄水施設に向かい、「人間の飲み水」という言い回しからすると、「リュウソウ族」は「現生人類」とは別の種族である、という理解でいいのでしょうか。
 ニュアンス的には、「生物学的な違い」というより「所属している社会の違い」という事かもしれませんが、それはそれで、現代文明とリュウソウ族文明の対比というのがここまで無いに等しいので(むしろスマホを使って普通に動画見ているぐらいで)、その要素を視野に入れたいのか入れたくないのか、戸惑います。
 「犬は、早く動くものを追う習性がある」
 首尾良く発見した犬マイナソーを捕らえようとする赤と青は、はやソウルを使って罠へと誘導し……2-3-4話と、“素体の執着”に従って行動していたマイナソーが突然、“モチーフの習性”に影響を受け、これまた困惑。いや、双方の性格を持つならそれはそれで構わないのですが、ならばそれは、第2話でわかりやすく見せておかないといけないだろうな、と思うわけで。
 今作ここまでの短所を突き詰めると第2話で示された〔マイナソーの基本設定とその見せ方〕に大きな問題があったのが見えてくるわけなのですが、これが今作の基盤設定の一つである事を考えると、戦隊初プロデューサー・東映ヒーロー作品初参加脚本家・戦隊初参加&初パイロット版監督、という組み合わせが負の方向に転がった、設計図段階での失策、と思えてしまうのが辛い。
 Youtuber家では、一向に改善されない状況に業を煮やしたバンバが、もうこの女を殺して根本的に解決しよう、と早苗に剣を向けるが、トワとアスナに止められる。
 地球を守る為に俺達が死ぬわけにはいかないからこの女を殺そう、と剣を構えるバンバに対し、それは命を軽んじる行為だ、とトワが諭すのは極めて真っ当なのですが、「信じよう、兄さん」と言われてもバンバがコウ(&メルト)を信じるに足る説得材料がどこに存在しているのかわからない為、着地点が空虚で、大変残念。
 ここで“バンバがコウ(&メルト)を信じる方を選ぶ事を、受け手が納得できる材料を揃えていく”事に物語の役割があるのですが、今作にはとにかく、そういった意味での物語が、存在していません。
 その為、
 A〔地球を守る為に、少数の犠牲を割り切る使命感〕
 B〔好きで一般市民を刺殺したいわけではない感情〕
 C〔最後までコウ(&メルト)を信じ抜く気持ち〕
 の間の綱引きが成立せず、Cを後押しするトワの言葉――つまるところ、綱引きのバランスが崩れる瞬間――により発生する
 A(-B)
 が劇的にならないどころか、せいぜい
  < (+C)
 に見えてしまうので、AとCのウェイトが揃ってウェハースのように軽く崩れ落ちてしまう事に。
 一方、コウとメルトは遅ればせながら毒が発症し、変身不能の大ピンチに陥っていたが、敢えて犬に噛みつかれたコウが、「犬にとって、攻撃は最大の弱点なのだ。牙を使うには、敵を口の中に入れなくてはならない!! その時、指で舌をつかんでしまえば、犬は肉体の構造上、何もできない!!」という『MASTERキートン』殺法により、牙を折る事に成功。
 犬とキノコは逃げ出すも、毒の作用で気を失ってしまったコウとメルトだが、ティラミーゴの背に乗せられ、ここでマスターの背とティラミーゴの背を重ねる、という見せ方は良かったです。……回想シーンで、足をくじいた弟子に対し、無言で背を向けてかがむマスターレッドが、ちょっと青春ラブコメマンガの読み過ぎみたいになりましたが!
 マスターはいつもそうやってナンパしていたんですか?!
 ティラミーゴがコウとメルトを連れて行ったのは、富士山麓ケバブ屋に扮し、村の復興のために外貨獲得に勤しんでいた長老の元。さらっと、「村が破壊されて行く所がなくてな」と爆弾発言が飛び出しましたが、村人は離散して人間社会に紛れ込んでいるという事なのか、それとも全滅してしまったのか……単体だと面白シーンなのですが、第2話でさらっと村を出たままYoutuber家に居着いているコウ達が、村(&そこに残っていた筈の人々)をどう認識していたのかますますわからなくなり、浮かぶ笑いがどうしても引きつります。
 マジカル長老パワーにより牙から解毒剤を作り出した長老は、ラストにケバブカーで人里にも姿を見せ、いつでもどこでも登場できるジョーカーキャラと化し、この先に向けてだいぶ不安。
 一方、街ではW地震パワーでタンク様が巨大化。
 リュウソウジャーが毒で全滅した頃合いを見計らって「時は来た」と巨大化するタンク様が物凄く情けないので、それに対して
 「時は来た! おまえを倒す時がな!」
 と5人並んで次々と啖呵を切るリュウソウジャーも今ひとつ格好良くならず、
 初めての5人並びリュウソウチェンジ&主題歌からの5人フル名乗り
 だというのに、「コウとメルトが毒を乗り越える」パートと「残り3人が赤青を信じて待つ」パートが物理的な距離そのままに全く繋がっていなかったので、揃い踏みの場面が物語の集約として機能せず、本来は渡辺監督の得意技といえる構成にも関わらず、これだけ「心が一つになっている感の薄い」初めてのフル名乗り、というのも、戦隊史に残るのでは、という悲劇的もとい非・劇的な惨状。
 「「「「「正義に仕える5本の剣! 騎士竜戦隊・リュウソウジャー!」」」」」
 決め台詞もマイナーチェンジされましたが、お陰でいったい何が「5本の剣」なのか、首をひねるばかりです。
 「こざかしい」
 「俺達の騎士道――見せてやる!」
 ここから即座に騎士竜を召喚する、という流れに今作の目指す方向性は見えるのですが、「俺達の騎士道」=騎士竜召喚、と繋ぐならば、5人とそれぞれの騎士竜の関係性、そして変形合体にも繋がる「ソウルは一つに」とは何か、をもっと丁寧にやらなくてはならなかったのでは、と思う部分。
 それが著しく不足している為、《スーパー戦隊》としてのセオリー崩しが面白い面白くないとは別に、ロボット物としても物語の焦点が合っておらず、そのまま5体合体して「ファイブナイツ」になられても、どうにもピンぼけ。
 「何体合わさろうが、無駄だぁ!」
 ええと……前回、4体合体の肉叩きに完敗した歴史は爆発のショックで忘れてしまったのか、某マッドガルボ並の記憶捏造を始めたタンク様は騎士竜王五騎士に切りかかるが、ファイブナイツはティラノ鍋掴みでがっちりキャッチ。
 「タンクジョウ! おまえを倒して、マスターの仇を討ちたいと、ずっと思ってきた!」
 え。
 主人公まで記憶の捏造を開始。
 「でも今は、マスターや長老が守ってきたこの星を守る為に、おまえを倒す!!」
 映像上は、5人の心を一つにファイブナイツ、みたいに描かれているのですが、ここで焦点を合わせたタンク様に対する赤の心情に他の4人がほぼ無関心+「マスターや長老が守ってきたこの星を守る為に、おまえを倒す」想いで一致団結が描かれているわけでもない&勿論メルトとアスナのマスター青と桃への想いなど1秒も尺を割かれない+バンバとトワの心情にも1行も踏み込まれない、の合わせ役満で、徹頭徹尾、赤の脱皮が描かれているだけの為(しかもそれに影響を与えているのがせいぜい前回のメルトだけ)何故かこの局面でレッドが一人でタンク様と戦っているような構成になってしまい、地上にマイクロブラックホールが出現しているのですが……ですが……もしかしてこれ、脚本と実際の映像作品で、全く違うものが出来上がっているのではないか、という疑念が生じてきました。
 「5人の力が合わされば、地震エネルギーにも勝てるんだ!」
 え。
 前回の勝利の歴史はやはりコウの中でも消滅しており、もはや「三郎くんがジャングルで出会った、ロボットだな」(『大鉄人17』)ばりに辻褄が合っていないのですが……ですが……もしかしてこれ、脚本と実際の映像作品で、全く違うものが出来上がっているのではないか、という疑念が消えなくなってきました。
 完全に邪推の類いではありますが、5-6話とセットで上げた脚本段階では、第5話の肉叩きはタンク様を倒しきれずに終わっていたのが、諸々の都合でタンク様に完勝してしまった為に、タンク様vsファイブナイツのやり取りが端から端までおかしくなってしまったのでは……。ついでに言うと今回、どこを取っても全く「逆襲!!」要素が無く……サブタイトル詐欺はままある事とはいえ、なんだか、脚本と映像の間にだいぶ乖離があるのではと心配になってくる中、5体合体の必殺剣が炸裂。
 「やったか?!」
 しかしわざわざフラグを立てた事で、爆炎の中から立ち上がるタンク様。
 「アルティメットスラッシュも効かないのか?!」
 え。
 いやまあ、リュウソウジャーからすると、肉叩きでミンチにしてやった筈のタンク様が平然と復活してきたように見えているのかもですが、視聴者からするとピントの外れ方が面白くもなんともない上、ここで必殺剣でスッキリ倒さずに、タンク様に悪あがきさせるというのも、折角の5騎士の株を下げるだけになって首をひねる流れ。
 タンク様を困難な壁として描くならば巨大化の前にやっておくべきだと思いますし、「このままだと俺は爆発して大勢の命を巻き込むジョウ」というのは、“それ以外の選択肢との葛藤”が提示されてこそ効果的になるのに、直後に速攻でぷくぷくソウルを使う為……いやホント、個別の演出の不備というよりは、脚本と演出と諸事情による調整の間に深刻な意思疎通の不具合が発生しているのではと疑いたくなるレベル(勿論、脚本段階で“書けていない”可能性もありますが)。
 騎士竜王はぷくぷくソウル(こういうのも、前回早い内に軽いギャグで使っておいたりすると劇的さが段違いになるのですが)でタンク様を風船のように膨らませると、爆死の影響の出ない高度で5体合体光線を浴びせ、タンク様は宇宙の藻屑となるのであった。
 ……第6話にして、アルティメットスラッシュとかファイナルキャノンとか、この後どうなるのか、ネーミング方面もちょっと不安に(笑)
 「礼なんていらない。仲間だろ?」
 「……仲間だとは認めていない」
 握手と同居を拒否したバンバはトワを連れて去って行き、もはや「5本の剣」とは何だったのか、全方位にひねりすぎた首が寝違えそうになったところで、つづく。
 第6話で最初の一区切りとなりましたが、ここまでの印象をシンプルにまとめると、やりたい事と、やらないといけない事と、両取りしようとして車裂きの猟奇殺人事件が発生というもの。
 やらないといけない事があるならば、それに合わせて物語を設計するしかないと思うのですが(その上で、やりたい事をどうねじ込むかが腕の見せ所なわけで)、やらないといけない事とやりたい事、優先順位を付けずに並行して突っ込んだ結果、ボトルネックで衝突して前に進めなくなってしまった為、ならば、A,B,C……を一つの瓶の中で混ぜ合わせるのを諦めて、それぞれ別々の瓶に誘導しよう、みたいな事になり、それぞれがそれぞれの言いたい事を別々のルートで唱えるが、瓶の中なので互いの声は聞こえておらず、もちろん関連し合って高め合う事もない、という希に見るタイプの阿鼻叫喚。
 やろうとしている事の主・従が決まっていれば、必要な情報の選択とそれをどう配置すれば主従がより引き立つかも設計できるわけですが、やろうとしている事の全てが“主”扱いの為に、情報の効果的な選択と配置が出来ずに作品全体が迷子になっている感もあり……次回から新展開で良い方向の変化が出てくれる事を、祈りたいです。