『快盗戦隊ルパンレンジャーvs警察戦隊パトレンジャー』感想・第35話
◆#35「良い人、悪い人、普通の人」◆ (監督:杉原輝昭 脚本:香村純子)
「入り口からとは、今日は普通の登場ですね」
いつか言おうと思ってずっと暖めていたな、そのイヤミ。
買い出し当番で街に繰り出した魁利は、情報収集活動の前にエスプレッソを嗜んでいたコグレとばったり遭遇。ところがそこに、光線を浴びせた人間を、〔善・悪・本体〕の3つの人格に分裂させてしまうコレクションを持ったモグラギャングが現れ、なんとコグレがその被害に遭ってしまう!
パトレンジャーの介入により、一般市民(コグレですが……)に被害が出るという描写は大変よろしくなかったのではと思うのですが、脚本ベースかもしれないものの、杉原監督のブレーキの緩さが悪い方向に転がったのでは、という根強い不信感。
その後、同じく分裂して暴れ回る一般市民の悪の人格によってたかって囲まれるので、とりあえずの精算とはいえなくもないですが。
そんな騒ぎは露知らず(完全に連絡網から省かれている)ジュレではノエルがブレイクタイムと洒落込んでおり、買い出しから帰ってこない魁利を猫のように気まぐれなサボタージュでは、とからかっていた。
「おまえもサボりに来てるんじゃないのか」
ち、違うよ僕は、国際警察に居づらいだけだよ!!
そこへ汗だくで現れたのは、ひとまず警察の目を逃れようとジュレに駆け込んできたコグレだが、振り返ってみると同行していた筈の善と悪のコグレが居ない。魁利が戻ってきてノエルも交えて事情を確認し、6時間以内に元に戻らないと消滅してしまうコグレを救うべく、ルパンレンジャーは奔走する事に。
「あんたが居ないと、俺ら困るんだよ」
4人は店を飛び出していき、透真と初美花は人助けを繰り返してジュレに辿り着けずにいた良いコグレを発見し、なんとかジュレへ。
「また、彼らに迷惑をかけてしまいましたねぇ……」
「……また?」
「私たちは、自分の手に負えないハードな仕事を、あの若者達に、託しているわけですから……」
自らの純粋な良心である白コグレと向き合い、コグレの中に3人に申し訳ないと思う気持ちがある事が判明する一方、魁利は紫色の特攻服に身を包んだ悪いコグレと遭遇していた。
「平成も終わるってのになんのギャグだよ」
ビジュアル的にわかりやすいのは理解できるのですが、悪人格=オールドファッションな不良、というのも抜け出せないパターンだなと思っていたところに突き刺さる、魁利の強烈なメタツッコミ(笑) ……まあこの辺り、あまりリアルな悪人化を描写すると色々と危ういという事情もありそうですが……そういえば『炎神戦隊ゴーオンジャー』では、かなり際どいネタがあったり。
「いいから早くジュレ帰るぞ。もうあんま時間ないし」
肩をいからせながら近づいてくる黒コグレに冷静にチョップを浴びせ、パンチをひょいとかわしてゴミ捨て場ダイブを見つめる魁利……ホント、場慣れしています(笑)
かくして黒コグレもジュレに連れ帰ると、なんと肝心の本コグレが姿を消していた……そのタイミングでスマホにモグラギャングのアジトの情報が伝えられ、突入したルパンレンジャーは、作業員に変装して潜入していたコグレを救出。
「で……なにらしくない無茶しちゃってんの? ――コグレさん」
「貴方がたに、コレクションを回収していただく事が、私の仕事ですから。そのためなら、多少の無理は、します」
自らの良心と向き合って何か思うところあったのか、危険を承知で自らの仕事を果たしたコグレは、変装を剥ぎ取って照れ笑いのような笑顔を浮かべる。
「今の顔……いいコグレさんみたい」
「え?」
「あれもコグレさんの一部というわけか」
実質的に、いつもは全く善良には見えない、と言っている透真のツッコミが全般的に厳しい!
「とにかくあんたは無茶すんな。体張るのは、俺たちの仕事だ」
「コグレさんに何かあったら困っちゃうんだ!」
「あなたは俺たちの……希望の糸ですから」
見つめてくる3人に向け、いつもの皮肉な笑みを浮かべかけたコグレはそれを収め、丁寧に応える。
「…………こちらこそ、あなたがたが頼りです。よろしくお願いします」
台詞だけ取り出すと、年に一度の博士回で、サポートキャラの無茶に実働部隊の戦隊メンバーが感謝とそれぞれの役割分担を示す構図であり、バラード調テーマ曲をBGMに“裏街道を行く者達の間に生まれた連帯感”が何となく漂ってしまい、俺たちの絆で大逆転しそうな良い雰囲気になっているのですが…………そのコグレさん、悪成分の抜け落ちたコグレさんなので、今からオチが大変不安です。
「待ってな……とっととケリつけてやるよ」
3人は快盗チェンジすると敵陣に飛び込み、構成員を薙ぎ払いながら名乗りを決め、その背を見送りながら口元を緩める本コグレ。
「予告したろ! あんたのお宝、いただくって」
狭い地下通路での乱戦の中、銀は物陰から戦いを見つめるコグレに気付く。
「どうしました?」
「…………駄目ですね。なるべく、見ないようにしてきたのに」
あくまでも互いに利用する関係として距離を取り、3人の若者達の痛みや苦しみから目を逸らしてきた事を独白するコグレですが…………このコグレさん、悪成分の抜け落ちたコグレさんなので、今からオチが大変不安です(2回目)
コグレと銀Xが見つめる中、マグナムを取り出した赤は銃身に軽く口づけしてから二丁拳銃でスピーディかつ派手に構成員を吹き飛ばし、映像は格好良いのですが、色々、引き返せない感が募ります。
寂しかった魁利の部屋に真っ赤なマグナムという薔薇が咲きました!
カバーアクション無効のルパンマグナムの一撃で吹き飛んだモグラから青と黄が連携でコレクションを回収し、丸裸になった所で今回もオーバーキル。ゴーシュが出てきて巨大化するが、なんと巨大モグラは、引きこもりに戻って地下の穴蔵へと逃亡してしまう(笑)
「今更逃がすかよ。――行け、ルパンマグナム」
レッドが地下への縦穴に向けたマグナムのダイヤルを回すと、ものすっごく唐突にマグナムが人型に変形。
ルパンマグナムロボは地下道へと突入し、挿入歌をバックにトンネルの中を疾走していく新ロボ、という映像は新鮮みもあって面白かったのですが、久々にこういう雑な新ロボ登場を見た気がします!!(笑)
とはいえ、雑な追加装備登場は幾らでも例があるので、自律型ロボの追加登場自体が久々というだけかもしれませんが……一つ前はもしかして、データスハイパー(『天装戦隊ゴセイジャー』2010年)まで遡るのか? ちなみにデータスハイパーは、もともと人格を持ったサポートロボが力を欲したらベルトですらなく地面の上に新たな天装術カードが出現して巨大化するという……うむ、ものすっごく雑だった。
…………ま、まあ、『ゴセイジャー』自体が、財団とプロデューサーとスタッフの間に深刻な不和があったのでは、と恐怖を感じるぐらい、物語とギミックを繋げる気が見えて来ない作品ではあったのですが(特に前半)。
そんなわけで、まあ概ね戦隊標準かもしれない雑な初登場となったマグナムロボですが、狭い縦穴に突入する事で使用に映像的な必然性は与えた一方、周囲に大きさを比較できる物が無い上に、見せ場の都合で(何故か巨大化した)構成員が立ちはだかる為に、人型に変形しただけなのか、同時に巨大化もしているのか、やや困惑する映像になってしまったのは残念。
巨大モグラが掘った穴なので話の成り行きとしては巨大な筈ではあるのですが、脳で理解するのと目で納得できるのとは違いますし、スピード感溢れるデビュー戦そのものは面白かっただけに、後半の立ち回りでは明らかに意識して入る建設車輌との大きさ比較シーンのようなものを、どうにかスタートで入れて欲しかったです。
撃って走って殴って撃って、八面六臂のマグナムロボの活躍により巨大モグラは地上に撃ち出され、その二次被害で3人揃って殉職しかける警察戦隊だが、咲也、奇跡のドライビングテクニックで殊勲賞。
今回は終始コメディリリーフの役割で戦隊としては全く活躍していないパトレンジャーですが、“怪人の能力”ではなく“コレクションの能力”の為に、怪人を倒しても自動回復しない分裂被害者を救っており、警察官としては地味に活躍していた、というのはオチに繋がるのも含めて上手い一ひねり。
ルパンカイザーは右腕にルパンマグナムを装備すると、カイザーマグナムでモグラギャングを永遠にアデューし、国際警察はまたしても、ルパンマグナムの恐るべき破壊力を眼前で見せつけられるのであった。
本コグレを慌ててジュレへ連れ帰った魁利達は、黒コグレと白コグレを押しつけて何とか元の姿に戻し、一足先にコグレと一緒にジュレに戻って回復させるわけでなく、国際警察の状況を確認しに行ったと思われるノエルは、コグレ<一般市民、の優先順位が明確で地味に……偉いのか、酷いのか。
今回、快盗サイドがコレクション回収だけを優先していたら多数の被害者が出たと思われるので(放置しておいた際の致命的な影響が分かりづらいのが割と悪質なコレクション)、ノエルが国際警察にコレクションの情報を提供する事で「コレクションを手に入れる事と、平和を守る事は両立できる」を行動で示したのは、良かったと思います。
失態への照れくささや、表面化した3人への引け目もあってか、そそくさと立ち去ろうとするコグレだがノエルを含む4人に引き留められ、傷の手当てを受けて透真の料理を食べていく事になるのだった……でつづく。
これまでジュレでの食事を避け続けていたコグレが遂にシェフの執念に膝を屈し、表向きは“苦難を乗り越え連帯感の強まるルパン一味”の姿を麗しく描いているのですが、双眼鏡問題や直前の回の怪しげな表情をはじめ、今までコグレが覗かせてきた不穏な言行にはそぐわず、果たしてどんなどす黒さがその裏に存在すると描かれるのだろうと身構えていたら一切触れられないまま終わってしまう為、もやっとせずにはいられないオチ。
さすがに、自分の中の良心と向き合ったコグレが快盗たちに申し訳なく思う本心に気付いて心変わりした……とは思えないのですが、見方を変えれば、良心も人並みの情け心もあるのに他人を駒にできるのが一番怖いのかもしれず、純然たる悪よりもいっそ厄介なのかもしれません。
未だ本性のハッキリしないコグレですが、魁利達を使ってルパンコレクションを集めるコグレにもし、どうしてもかなえたい「願い」があるならば……3人を利用する事でその目的を果たそうとするコグレの姿は快盗の鏡写しになるといえ、人間はいったい、己の「願い」の為にどこまで出来てしまうのか、第33話の少年快盗団に続き、表面上は軽妙で楽しく装いながら、その中に物凄くえげつないものを仕込んでいるエピソード、だったのかも。