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ヒーローはデオドラントを欠かさない

ウルトラマンルーブ』感想・第11話

◆第11話「アイゼン狂騒曲」◆ (監督:武居正能 脚本:伊藤公志)
 戦いが終わった後に笑顔で手を振りながら走ってくるウルトラマンしぐさとか、くねくねしながら残念のテーマを口笛で吹くとか、部分部分には面白く笑えるシーンもあるのですが、通してもう一つ、第8話以降の愛染汗だく編にノり切る事が出来ないのは何故なのか、というのをずーっと考えながら見てしまったのですが……一つこれかな、と思ったのは、愛染にとってウルトラマンオーブとはどんな存在なのか、が見えてこない事。
 言い方を変えると、愛染にとって“オーブ”が特別なのか、“ウルトラマン”なら誰でも良いのか、が伝わってこない事。
 もしかすると、今後の展開の中で説明する予定がある(或いは、理由を付けられる)のかもしれませんが、この提示を後回しにしてしまった事により、今作は現時点でウルトラマン”が物語の中に収まっていません。
 そもそも立ち上がりの描写を見る限り、『ルーブ』世界は「ルーブを除くと過去にウルトラマンの存在していない(認識されていない)世界」と判断して良いかと思うのですが、とすれば、そこに現れた「ルーブ以外にヒーローとしてのウルトラマンを認識している」愛染星人は、この世界における異分子、といえます。
 まあその辺りは厳密に考えないで下さい、という事なのかもしれませんが、例えば愛染星人が、かつて別の世界でオーブに出会ってその 残念な生き様 ヒーローとしての姿に感銘を受けた、など劇中で明示されれば、愛染星人はオーブへの憧れをこじれにこじらせて別世界にまで来てしまった存在、として『ルーブ』世界とウルトラマンの関係を定義付けられない事もないのですが、その要素が抜け落ちてしまっている為に、愛染とオーブの関係、ひいては、世界とウルトラマンの関係、という非常に重要な位置づけが、不明瞭になってしまっています。
 つまり愛染星人とオーブの因縁が示されていない事や劇中の言行を見る限り、愛染が成り代わろうとしているのは「個々のウルトラマン○○」ではなく「象徴化されたウルトラマン」と捉えるのが妥当と思われ、ではその、「象徴化されたウルトラマン」がどこに居るのかというと、それは「劇中世界にはこれまで存在していなかった」けど「視聴者はみんな知っている」ウルトラマンであり、すなわち、『ルーブ』世界の外、に居るわけです。
 ここ数話の今作に欠けてしまったのは、これを『ルーブ』世界の中へ引き込む作業ではなかったか、と。
 事が愛染一人の問題であれば、好き嫌いは別の問題として、メタ要素を持った悪役、というだけの話だったのですが、厄介なのは湊兄弟がこれに真っ正面から飲み込まれてしまった事で、物語世界の“中”にウルトラマンを呼び込むのではなく、愛染を通して物語世界の“外”のウルトラマンに接続されてしまった事。
 これにより兄弟の「ウルトラマンの名の下に」や「ヒーローってなんだ?」という言葉が全て、物語の中に収まらず、物語の外側に存在する《ウルトラ》に紐付けられてしまい、どうもしっくり心に響いてこない事に。
 合わせて、愛染マコトはそれほど嫌いではないのに、オーブダークにどうも魅力を感じない理由が腑に落ちたのですが、愛染は何故オーブを選んだのか、という理由が一切描かれないので、オーブダーク自体がメタ的な《ウルトラ》のシンボルにしか見えない(言ってしまえば商業的事情にしか感じられない)のだな、と。
 その、商業的事情を物語化する、という機能も含めて、そこに背景としての情念が描かれないと、ウルトラマンである事、が物語の中に収まらないわけで、愛染-オーブの間にある線は、最初に明示しておく(無ければ作る)べきではなかったかな、と。
 それが最初に描かれなかった事で、ただでさえ不透明だった“ウルトラマン”の扱いがメタ化してしまった上に、兄弟が劇中における「ウルトラマンとは何か」ではなく、メタな「ウルトラマンという概念」と向き合う事になってしまい、ボタンの掛け違いが延々と続くという、負の連鎖を生んでしまっているように思えます。
 ……まあこの辺り、私が《ウルトラ》シリーズの視聴数が少なく、歴史的な文脈に対する理解と把握が薄い影響はあると思い、全く同じ手法を《スーパー戦隊》《仮面ライダー》で仮に行ったとすると、すんなり受け入れたりする可能性はないでもありません。
 どちらにせよ、人を選ぶ作劇ではあるのかな、と。
 ところでこれ、何か思い出すなと思ったら前作『ジード』の最終回なのですが(以下の文章で『ジード』最終回の内容に触れますのでご留意下さい)、個人的に『ジード』最終回で凄く不満だったのが、ウルトラ組に公式に認められて公認ウルトラマンになりました、という着地により朝倉リク個人という「僕の名前」のヒーローがどこかに消し飛んでしまい、『ジード』独自のテーマ性が《ウルトラ》シリーズの大波に飲み込まれてしまった点で、今作もまた、一からヒーローになろうとしていた二人が、《ウルトラ》という巨影に飲み込まれつつあるようにも見える気が。
 ウルトラ兄弟の完敗後、120%茶番劇で狼怪獣を撃破したダークオーブはヒーローとして持ち上げられ、大衆を煽る愛染は満足げにその喝采を浴びる(この辺り、悪役としての愛染はパロディで煙幕しながら実にどぎつい悪役をやっているので、この路線をひたすら膨らませる展開も面白そうではあるのですが……)。
 翌日、自分がヒーローを演じる為に、街の被害をお構いなしの愛染に怒りを燃やす兄弟は、街を守れるのは自分たちだけだ、とウルトラマンである事を諦めずに再び変身。オーブダークの茶番劇に乱入して怪獣を倒すと、もはやヒール路線もやむなし、と2人がかりでダークオーブを締め上げるが、そこに、狼怪獣が再び出現する。
 前半戦クライマックスにして登場した今回の真の黒い人枠が、第4のガシャコンハンドルで召喚した狼怪獣は瞳に凶暴な紅い光を宿して立ち上がり、それはそれとして、巨大兄弟タッチをアサヒが目撃していた! でつづく。
 ここしばらくの今作に抱いていたスッキリしない感覚の分解から入りましたが、第三勢力?の登場で、愛染がトリックスター的立ち位置に入るなら、面白いかもとは思ってみたり。
 どうやら次回こそ愛染汗だく編の決着となるようですが、靄を吹き飛ばしてくれる展開を期待。