『救急戦隊ゴーゴーファイブ』感想・第32話
◆第32話「ウェディングベル」◆ (監督:長石多可男 脚本:小林靖子)
「まったく。あたしがお嫁に行ったら、この家腐っちゃうね」
「ふん、相手も居ないくせに」
決められた日に掃除をするという事は、決められていない日にはしないのが俺達のジャスティス、とだらけきった兄たちに向けて炸裂したマツリ怒りの一撃が机の上に建設中のドミノの街を倒壊させたある休日、巽家を訪れたのは、マツリとやけに親しげな青年・高井裕治。
「やった! とうとうやったよ!」
「やったって、もしかしてあの?!」
歓喜のマツリが青年に飛びつくと、二人はそのまま玄関先で回転をし始め、ナガレは硬直し、ショウは口を開けたまま愕然とし、マトイは慌てて机の上で転がり、ダイモンだけが「やる~」みたいなポーズを取る中、災魔一家では年功序列を唱えるコボルダが猛り狂っていた。
「お兄様、こんなところで怒鳴っているなんて、暇なのね」
「なんだとぉ?!」
ディーナスがサラマンデス追い落としの為にコボルダに協力を求めていた頃、高井はかつてマツリと同じ病院に務めていた先輩医師であったとわかり、部屋の様子が気になって気になって仕方ないマトイは、覗き見と盗み聞きという、人間として底辺の所業に手を染めていた。
そこではなんと、高井が指輪を取り出してマツリにプロポーズの決意を告げており……まあもう、この時点で概ねオチはわかるわけですが、あまりの衝撃に床に尻餅をつき、ひぃひぃ言いながら慌ててその場を去っていくマトイ兄さんの演技が、面白かったです(笑)
「結婚?!」
「間違いない!」
「マツリが? ……はぁん」
そこから妄想結婚式シーンが始まり、マトイ、絶叫。
「……駄目だぁ! ダメダメ……駄目だぁ! やっぱり早すぎる!」
かつてなく情緒不安定なマトイが階下で大騒ぎしているとはつゆ知らず、高井がプロポーズを考えているのは、マツリの元同僚・はるかだと早くもネタが割られる一方、コボルダが生み出したのはカードサイマ獣。
着々と進行する災魔の陰謀どころではないマトイら4人は高井の性根を確かめるべく車で尾行すると、本来のプロポーズ相手である女性・はるかに指輪を渡そうとしている所を目撃し、二股野郎だ許せん! と殺る気満々でヒートアップ。
……4人の中では、マツリを最も子供扱いで、どちらかというとしみじみモードに入っていたナガレが、無言で、ふーーっと息を吐き出すのが怖い(笑)
同じ「妹が心配」でも、4人それぞれのリアクションを細かく描き分けているのがきっちりとしており、プロポーズを承諾したはるかが指輪を受け取ろうとして不穏な気配に身をすくめると、高井の背後に迫っていたサイマ獣……ではなく、揃ってグラサンで殺気を放つ怪しい男達、はわかっていても面白く、大体、『超光戦士シャンゼリオン』の時の長石監督。
「な、なんですか」
「随分ふざけた真似してくれんじゃねぇか」
マトイが高井の胸ぐら掴んでマツリとの関係を問い質そうとすると、割って入ったナガレが問答無用で顔面に一発叩き込み、高井は気絶。
……既にこの時点で明確な犯罪行為になっており、サングラスで顔を隠しているのが大変タチが悪いですが、
「あの……!」
「あいつは結婚詐欺師だ。忘れた方がいい」
「……えぇ?」
警察へ連れて行くという名目で、ナチュラルに拉致った(笑)
「おまえキレると怖い奴だな」
人間を運ぶプロフェッショナルである兄弟は、ベイエリアから沈めそうな勢いで高井をさらっていき、余りにも手慣れた反社ムーヴに通報も出来ず取り残されるはるかの背後に、今度こそサイマ獣が出現。
サイマ獣は人々をカードの中に封じて生贄に変えていき、ゴーゴーファイブが駆けつけたところで、コボルダとディーナスも直接出馬。
はるかもカードに封じられて生贄の数を揃えた災魔は素早く撤収し、取り残されるゴーゴーファイブと目を覚ました高井が揃っていい加減に誤解が解ける……かと思ったら、シスコン制御不能の4人は話を全く聞かずに、高井を詐欺師呼ばわり。
「いい加減にしろ! あんた達さっきからおかしいぞ!」
至極真っ当な抗議が浴びせられるが、それで理性を取り戻せるなら、人間はおかしくならない!
かつてダイモンが目撃した、高井の写真を手に涙をこぼしていたマツリの姿が証拠だ! と敵意を加速させるマトイは、マツリの気持ちを踏みにじった男、として高井に怒りを向けるが、ダイモンの不用意な目撃証言を耳にしたマツリの顔が戸惑いから焦りに変わり、そこに一片の真実が含まれていた事が、話を更にややこしくこじらせる事に。
「マツリはな」
「やめて!」
「そんだけおまえのことが好きだったんだよ!」
「やめてよ!」
デリカシーは産湯に捨ててきたマトイが、番組史上最高値、絶縁レベルの最低さを叩き出し、シリーズで見ても、戦隊ダメンズ史上の殿堂入りを狙えそうな勢いです。
……おかしい、マトイ兄さんが超絶格好良かった第27話と、脚本家の名前は同じに見えるのですが……おかしい……とにもかくにも、最高で最低なのが最高なマトイ兄さんですが、これだけ上げ下げの振り幅が激しくても面白いレッドは、後の不滅の牙と、シリーズでも双璧をなす気がします(笑)
「ごめんなさい。あたし、ぜんぜん、そんな事なくて、お兄ちゃん達の、勘違いです。高井さんは、仕事の仲間だし。はるかは、親友だし。だから、ずっと応援してて……ずっと……」
マトイに平手打ちを浴びせたマツリは、高井に向けて事態を弁解すると、涙をこらえきれずに走り出し、戦隊シリーズとしては踏み込んだ恋愛要素の描き方でしたが、芝居・脚本・演出が噛み合って、心情に説得力の出た良いシーンでした。
「…………マツリちゃんが、俺を……?」
今の今まで気付いていなかったらしい高井は呆然と呟き、高井についても、マツリへの相談の仕方とか、はるかに指輪を渡す際のぎこちなさなどで、いい人だが仕事以外ではどこかぼんやりとした感じの男、である事に納得できる描写が施されてきたのが、効果的。
まさか宿敵ゴーゴーファイブが、痴情のもつれとデリカシーの壊滅的欠落から空中分解の危機に陥っているとは知らぬディーナスとコボルダは、カードサイマ獣による生贄の儀式をもって冥界の扉を開き、ジルフィーザの魂を現世に呼び戻そうと考えていた。
「ジルフィーザお兄様さえ居れば、サラマンデスなど……」
弟妹から一定の敬意は得ていたジルフィーザの復活により、サラマンデスの若頭就任をひっくり返そうとするクーデターが画策される一方、巽家の男衆4人はさすがに大変反省しながら家に戻り、独りベンチで川面を見つめるマツリ……これは、「家出」にカウントしても良いでしょうか。
高井への憧れと親友からの恋愛相談、自分の気持ちに蓋をして身を引いたマツリの想いが尺を採って描かれ……まあマツリはともかく、はるかの方は、友人ではあるが潜在的ライバルに対して先に牽制球をぶつけてきたような気がしないでもないのですが、愛ってなんだ、ためらわないことさ、って宇宙刑事ギャバンが言ってた。
「吹っ切らなきゃ。自分で決めたんだから」
マトイ以下4人は後でベイエリアから東京湾に向けて吊すとして、マツリは大好きな2人の祝福へと気持ちを切り替え、はるかがカード化された際に落としたプロポーズの指輪が、それを拾ったマツリの手の中で蓋を閉められる、というのが小道具の使い方として効果的。
ベイエリアで儀式の反応がキャッチされると、高井に指輪を渡したマツリは親友を助けると宣言して着装し、先に現場に到着した赤青緑黄の前では、ディーナスがジルフィーザの魂を冥界から一本釣りしようとしていた。
「ジルフィーザお兄様! 応えて下さい! 妹の為に!」
サラマンデス憎し、のエゴを軸にしたディーナスに「妹」をアピールさせるのが巧い台詞で、コボルダ&サイマ獣を前に危機に陥る兄ーズの元へ、桃が到着。
「まったく。お兄ちゃん達がこんなにだらしないんじゃ、まだまだ結婚できないじゃない!」
「……マツリ……」
「ありがと。心配してくれて」
「……よっしゃ! 兄ちゃんが、もっといい男見つけてやる!」
5人揃ったゴーゴーファイブが猛反撃に転じる一方、門の向こうにシルエットが浮かぶもディーナスが逆に冥界に引きずり込まれそうになるとコボルダが助けに走り、兄が退場すれば悪口を言い、弟の台頭には不快感を示すコボルダですが、良くも悪くも物事の捉え方がシンプルというか、それを“情”と呼ぶのかはさておき、下が頼ってきたら助けるのが上の務め、といった思考で動いていそう。
取り残されたサイマ獣はビッグVバスターの塵と消え、ジルフィーザは結局戻ってこないまま冥界の扉は閉じて生贄たちが解放され、ピエールによってサイマ獣は再生巨大化。
今回は最初からVマーズを繰り出すと、カード攻撃で動きを封じられてしまうがライナーボーイが救援に駆けつけ、そこはかとなくレーダーアイを感じるシャトルミサイルからのV+VはX斬りでビクトリー。
裏でコソコソやろうとして無様に失敗したんですか兄上姉上プププ、と自分の事は88段ある棚の上にあげたサラマンデスが嘲笑して災魔兄妹の亀裂が深まる一方、高井とはるかは無事に結婚し、一同おめかし出席。
マツリの結婚式は神前と教会とベイエリア55で派手に花火を打ち上げよう! と盛り上がり、訴えられなくて良かった巽ブラザーズであった。
マツリ回……というよりも、以前からその気配はあった兄4人のシスコン制御不能の方に面白みがあったエピソードでしたが、写真と涙の一件も勘違いで片付けずに、明確に存在した恋心を描いたのは印象的となり、これが80年代藤井邦夫脚本回だったら人死にが出ていたかもしれない、と思うと穏当な決着にホッとします(80年代に曽田戦隊のサブライターとして活躍した藤井先生は、とにかく悲恋物が大好き)。
また、巽家の兄妹関係の掘り下げと同時に災魔サイドの兄弟関係にも触れて対比を成立させるのは、手堅い作りでした。
惜しむらくはマツリの結婚情報が兄4人で止まって父モンドまで届かなかった点ですが、その場合、モンドの魂が消滅して廃人になるか、こんな事もあろうかと開発されていた99ミサイルが発射されて高井の存在が世界から消滅するかの二つに一つだったと思われるので、情報にストップがかかって幸いだったといえるかもしれません。
「乾には秘密だがな、ベイエリア55から発射できるのが、煙幕弾だけなわけがあると思うか? マトイ」
「それでこそ、俺達の父さんだぜ!」(かつてなく高まる父子の絆ゲージ!)
作劇上の(恐らく意識した)ちょっとズルいテクニックとしては、高井は高井で、マツリの気持ちに全く気付いていなかった男、とする事で、兄ーズの一方的な暴虐を訴訟に持ち込みにくい空気を生じさせており、戦隊史上空前にして絶後、身内からの絶縁と裁判沙汰によるチーム解散は辛うじて回避される事になりました。
それからジルフィーザ、個人的にはやる事やったので復活の可能性は無いと見ていたのですが、ここで名前が出て、冥界でバカンス中な事が明言され、サラマンデスの酸化が早い事を考え合わせると、年末ぐらいにもう一度、長兄として踏み台の仕事をやりに戻ってくる可能性も出てきたような気がして参りました。
2話連続、災魔の作戦と全く関係ないところで発生したチーム消滅の危機をくぐり抜けたゴーゴーファイブですが、次回――えーと…………なに??