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読書の秋の読書メモ3

或る放課後の百物語

 読書メモの前に……個人的に“物語をどう見るのか”についてかなり影響を受けた、作家の西澤保彦さんが亡くなられたとの事。
 「超常現象を取り入れても、それに伴うルールが明示されていればそこにロジックは成立しうるし、突飛で奇抜な要素に“制約”を与える事により、“ルールの設定”が“物語の面白さ”を生み出す」
 ことを教えてくれた作家で、私が割と物語の中で「ルールの提示」にこだわるのは、根っこのところで西澤作品の影響があります。
 特に好きな西澤作品は、<チョーモンイン>シリーズ、『七回死んだ男』、『聯愁殺』。
 後、好きとはちょっと違いますが、とにかく強烈にしてミステリとして美しかったのは、『仔羊たちの巡礼』。
 エログロ趣味が強いので、なんでもかんでもお薦めはしにくいのですが、『七回死んだ男』はその辺り控え目(だった筈)で、奇妙な設定とロジカルな謎解きの融合も鮮やかで、お薦め。

●『おそろし 三島屋変調百物語事始』(宮部みゆき
 17歳のおちかは、よんどころのない事情で生家を離れ、江戸で袋物屋を営む叔父夫婦に預けられていた。
 心を暗く閉ざし、自ら女中仕事を願い出て、日々の仕事に没頭し続けるおちかだが、ある日、急な仕事で店を離れた叔父の伊兵衛に代わって、来客から曼珠沙華にかかわる不思議な因縁話を聞かされる。
 思いがけず他者の過去に触れたおちかの心の動きを見て取った伊兵衛は、それまで碁敵を招くのに使っていた座敷――黒白の間に、不思議な話を持った客を招いては、おちかにその聞き手を務めるように告げる。
 ――「何が白で何が黒かということは、実はとても曖昧なのだよ」
 かくして、姪を気遣う伊兵衛の荒療治として、おちかは変わり百物語の聞き役となり……全体に主人公おちかの“再生”の物語として縦軸を通しつつ、別々の語り手が別々の物語をする形式により自在にバリエーションを操る、といった骨組みの連作短編集。
 タイトルに「百物語」と置いているように、ベースは「怪談」となり、此の世ならざる存在が否定されない世界として描かれていきますが、それらはあくまでも、“人の業”を描き出す為の道具立ての面が強く、「怪異による恐怖」を目的にはしていないので、ホラー苦手の私でも読んでいく事ができました。
 勿論、語られる物語の中に人の業にまつわる恐ろしさや哀しさは含まれておりますが、後に引きずるゾッとする恐怖、の効果を狙っているわけではなく(敢えて言えば、心の奥に塗り込まれて、考えさせる系)、総じて「ホラー」というよりは「ファンタジー」寄りの感触。
 とはいえ、主人公の背負う事情は重く、語られる物語も悲劇性をともなうものが多いので、さくさく読み進む、とはいきませんでしたが、おちかを巡る人間関係の暖かさや、締めのエピソードにおいて描かれる人間の“格好良さ”の部分は、さすがの宮部みゆき
 シリーズ続刊も、のんびり追いかけていきたいと思います。
 コサンジさん、お薦めありがとうございました。


 古い行李を開けてみたら、そこに入れた覚えのない、でも確かに自分のものに違いない懐かしい玩具が、ぽつりと底にしまい込まれていた。見つけた途端にわかった。ああ、これは大事なものだった。いつの間にか忘れていたけれど、でも大事なものだった。これが大事だということを考えてさえみなかったけれど。

●『私の嫌いな探偵』(東川篤哉
 関東地方の海沿いのどこかにある烏賊川市を舞台に、高い所から落ちやすく、タダ働きが多い「町いちばんの名物探偵、略して名探偵」鵜飼杜夫を探偵役とした短編集。
 全5編、総じて今ひとつの出来でしたが、闇夜の中で口から金色の輝きを吐き出した墜落死体の謎を追う「死者は溜め息を漏らさない」は、目撃者である中学生の少年に対する鵜飼の眼差しに味があって悪くなかったです。
 個人的には意外な、作者の引き出しでありました。

●『5A73』(詠坂雄二)
 都内で起きた4つの自殺……事件性は考えられないその死体にいずれも、「日」と「非」を組み合わせたような一つの文字が残されていた事が発見される。
 それは、かつて国が漢字を規格化した際の手違いから生まれた、“読み”も“字義”も無い漢字――幽霊文字であった。
 果たして、死体に残された文字に意味はあるのか? 死者たちに関係性はあるのか? 連続自殺を演出する何者かの存在が背後にあるのか?
 4人の自殺者と、幽霊文字。
 そこに事件性(犯罪)は存在するのか? を見出す為に、死者の共通項である奇妙な文字を刑事たちは追いかけ始め、文字の謎を巡るミステリとサスペンスが、もしかしてオカルトなの? までをかき混ぜながらテンポ良く二転三転していき、なかなか面白かったです。
 “事件未満の事件”を調査するというアプローチも面白く、通常の捜査には向かないが思索をこねくり回すのを得意とする事から、そんな“事件の芽”の調査に専任であてられている刑事コンビも、いい味。
 物語全体の構造、を謎の中核に置いた作品なので、結末の好みでだいぶ評価が割れそうですが、個人的には、ギリギリありでした。
 難を言うと、どうも作者の過去作品とキャラクター的な繋がりがあるようで、今作単独でも充分楽しめるのですが、物語の仕掛けを全て楽しみには、過去作も把握していた方が良かったような雰囲気。
 そんなわけで、遡って作者の過去の作品も読んでみたいところ。

●『動くはずのない死体』(森川智喜)
 全5編収録の短編集。
 表題作がビックリするほど面白くなくてビックリ。
 個人の合う合わないもありますし、どんな作家だって微妙な作品を書く事はありますが、なんというか“純然たる凡作”としか思えないものを、久々に読んでしまいました。
 初めて読む作者だったので、普段の作風かどうかは判断つかないのですが、収録5編中4編において、地の文が地の文を引用して「この叙述はこういう意味でした」と説明を繰り返していく文章も個人的にはマイナス。クライマックスでサスペンスを高めてほしい場面でも、テキストを紐解く「解説」が始まってしまうので、いやそこは普通に書いた方がもっと劇的になるのでは……? と思ってしまい、肌に合いませんでした。残念。

●『或るアメリカ銃の謎』(柄刀一
 著者のシリーズ探偵であるカメラマン南美希風と、その知己で有り長期休暇で訪日中の検死官エリザベス・キッドリッジを主観人物として、エラリー・クイーンの《国名》シリーズに題を採り、
 名古屋にある米国領事館で発見された不審者の死体は、自殺か他殺か。もう一人の侵入者の存在が浮かび上がる中、新たな死者が生まれ、“姿無き狙撃者”の謎を追う「或るアメリカ銃の謎」
 通信障害と山火事により陸の孤島となった研究所で起きた二重殺人を描く「或るシャム双子の謎」
 の2作を収録した中編集。
 2作ともオマージュ元の作品は未読なので、原典に絡めた仕掛けなどはさっぱりわかりませんが、「或るアメリカ銃の謎」は、足跡の謎解きと、オマージュ作品ならではの“タイトルの使い方”に一工夫があったのは、面白かったです。
 「シャム双子」の方は、もう一つの出来。

●『放課後はミステリーとともに』(東川篤哉
 右投げ右打ち、広島カープファンのミステリマニアである、私立鯉ヶ窪学園探偵部副部長・霧ヶ峰涼が、探偵根性で様々な事件に巻き込まれたり首を突っ込んでいったりする連作短編集。
 最近、東川作品に続けて手を出しているのは、初読の作家や普段読んでいるのとちょっと傾向の違う作品に挑戦しようとする時に間に挟むと丁度良い、という距離の取り方に気がついた為ですが、比較的シンプルなアイデアの謎解きを色々と詰め込んでドタバタ学園探偵物に仕立てた、といった作りで、ぼちぼちぐらいの出来。
 ドタバタ、とはいっても、登場人物のリアクションの軽さに対して起きる事件はそれなりに重苦しい場合もあるのですが、割とその辺り“作り物”と割り切っている節が、今のところ読んだ東川作品には感じられます。
 多かれ少なかれ、謎解きミステリ(特に短編)にはそういう性質は付きまといますが、人が居て、物事があって、奇妙な事件が起こるのではなく、奇妙な事件の付属品として人と物事が存在する、というのが露骨。
 うーん……なんというか、言語化というには漠然とした印象論になりますが、個人的に東川作品にはあまり“人間味”を感じないというか、実はドライで機械的でさえある物語に“笑い”でオーバーな装飾を施している、といった感触で、個人的な「ユーモア・ミステリ」のツボに合わない、というのも多分そういうところに起因しているのかなーとメモ的に。