『救急戦隊ゴーゴーファイブ』感想・第27話
◆第27話「イエロー戦線離脱」◆ (監督:小中肇 脚本:小林靖子)
「グランドクロスという機会を逃したとはいえ、我らが宇宙に君臨すべき一族である事に変わりはない。グランドクロスに匹敵する、マイナスエネルギーで、地上を満たせ」
上半期の営業目標達成に失敗した災魔一族が、前回の社長挨拶「どんな姿になろうと、妾の目的は、大宇宙に君臨すること」を受ける形で、
大目標:「宇宙に君臨」
と、
その為の中期目標:「グランドクロスに匹敵するマイナスエネルギーで地上を満たせ」
の二点を改めて明示し、やるとやらないでは物語の見通しがだいぶ変わってくる部分を丁寧に抑えてくる、手堅い作り。
ジルフィーザ亡き後の若頭気取りでコボルダが場を仕切ると、如何にも腹に一物抱えるサラマンデスがへりくだって御追従を述べ、コボルダ、ふんぞり返って肩で風を切るような歩き方に変えている(多分)のが完全に、兄貴分が無期懲役食らって態度が大きくなった元舎弟ムーヴで、芸が細かい(笑)
「まあ正直言って、ジルフィーザ兄上のやり方は、ちょっとばかり甘かったしなぁ」
言動がもはや狙ったチンピラギャグみたいな事になっており、一人だけヤクザ映画に片足突っ込んでいるコボルダ、組織の内部抗争で土手っ腹に風穴開けられて下水くさい路地裏に転がりそうな雰囲気が急速に高まり、ドキドキしてきました!
「ではその甘くないやり方、早く見せていただきたいものですわ」
ディーナスの挑発的な言動もそのまま受け止める、ある意味ポジティブシンキングなコボルダが、弓術サイマ獣ドグルを地上に送り込む一方、グランドクロスで瀕死の重傷を負ったモンドは、松葉杖を突いて歩き回れる程度にまで回復していた。
「まったく、怪物並の回復力だよね」
「日頃の鍛錬の、賜物だ」
やはり、物事の基本は体力……!
優秀な科学者たる者、体を鍛えているのは当たり前ーーーと大胸筋と昆虫の羽ばたきがシンクロしかけるその前にミントから通信が入り、子供たちの校外写生大会を襲撃するインプ軍団。
かつてない物量作戦に困惑するゴーゴーファイブだが、本命のサイマ獣が別地点で弓矢による遠隔攻撃を敢行し、阻止に回った赤青緑黄の姿を見ると、あっさり撤収。
一方、今回も調子づくイエローは、インプ軍団を蹴散らし最後の一体をVマシンガンでハチの巣にした際に、逃げ遅れていた小学生を負傷させてしまい、久々の「任務完了!」直後に血まみれの小学生が倒れ込むのは、容赦なくショッキングな映像。
イエローは目を見開き、言葉もなく膝をつき、さすがのマトイも病院で目の当たりにしたダイモンの様子に出会い頭の鉄拳制裁を躊躇し、そのリアクションによってダイモンの精神状態の危うさが伝わってくるのが、恐るべき積み重ね(笑)
その上で、少年の両親に向けて真っ先に進み出て名乗るがのマトイの良いところであり、茂みの下に見えたスケッチブックに気付きながら、万が一を考えて銃撃を中止しなかった自身の確認不足と慢心を痛感するダイモンは失意の末に家出(16話ぶり2回目)。
少年の病室をこっそり見舞ったダイモンにモンドが声をかけ、ブレスを外した左手首を父親の視線から隠すようにするのが、細かく良い芝居と演出でした。
「……古傷、みたいなもんだな。取り返しの付かない失敗てのは、いつまでも、うずくし、消えない。だからもう、そいつ抱えて、立ち上がるしか……ないんだ。自分で立つしか」
「……僕は、そんなに、強くない!」
第10話に続き、やはりダイモンにはちょっと甘いところを見せるモンドですが、その辺りのニュアンスも取り込んで、今回後半はダイモンにとって一つの“通過儀礼”として描かれる事に。
巽家では、いずれも命に関わる仕事をしてきて、自他の責任とは別に恐らく大なり小なり同様の経験をしてきていそうな兄妹が、ダイモンをそっとしておこう、と相談するが、
「そっとしておく? そんなんでいいのかよ」
約1名、目が据わっていた。
苦難の夜が明け、翌日――モグラサイマ獣は、地中に潜ませた分身を操る真の能力を発揮して広範囲で地割れや陥没を引き起こし、メイン武器の弓矢が威力の割に気の抜けた効果音だと思ったら、分身を扱う為の楽器を兼ねていた、というのは小道具の巧い使い方。
「優しいだけが家族か! 今戦わなければ、あいつは! 二度と立ち上がれねぇ!!」
弟妹の反対を押し切り、マトイはブレスとジャケットを手に病院へと向かい、その間にモグラサイマ獣の元に向かった青緑桃の前に立ちはだかったのはなんと、コボルダとサラマンデスの二大幹部。
3人が苦戦必至の中、モンドと共に屋上に佇んでいたダイモンは、マトイの手にするブレスとジャケットから目を背ける……。
「駄目だよ! 僕にはもう戦う資格なんか……!」
「資格? 馬鹿野郎! そんなもん誰も持ってねぇんだよ!!」
小中肇×小林靖子は今作ここまで鉄板の座組みですが、ここぞのマトイ兄さんは、異次元の格好良さを出すな……!!
資格があるから戦うのではない、あるのは自分で決めた意志とそれに伴う責任だけ、というのは、マトイの立ち位置として実に明快で痺れました(……恐らくそれは、巽マトイという男の半生そのものでもあり)。
「いいか。あるのは責任だけだ! 戦う責任。あの子を傷付けちまった責任。そいつを果たすには、この地球を守るしかねぇんだ!! ……俺はなぐさめねぇぞ。励ますつもりもねぇ。自分の責任は自分で取れ! 立ち上がってこい、ダイモン! ……そしたら俺達はいくらでも支えてやる」
「……マトイ兄さん」
既に就職こそしていたものの、兄妹物の作劇の要請もあって劇中描写では常に、どこかみそっかすの4男坊扱いだったダイモンに対して、マトイが“本当の大人になれ”と突きつけると共に、そうやって傷つきながらも立ち上がった時に支えるのが「家族」だと告げ、構造としてはダイモンの独り立ち――精神的成人式――でありつつ、「家族」はその時どこにあるのか? の描き方が絶妙で、ブレスとジャケットをダイモンに突き出したマトイは、弟妹たちの元へと駆けていく。
「……戦う方が、辛い事は、マトイにも、わかってる。でも、信じてるんだおまえを。おまえの、強さをな」
“今日の痛みを昨日にしていく”のは、小林作品の幾つかに見られるヒーローテーゼであり、後の『烈車戦隊トッキュウジャー』に集約されていくラインを一つ見るところですが、父と兄の言葉を受け、自らの足で“本当のヒーロー”へと一歩を踏み出したダイモンは、屋上を駆け出したところで少年の両親とバッタリ出会ってしまい、ここでハードルを下げずに、乗り越えるべき痛みを眼前に容赦なく突きつけてみせるのが、お見事。
母親から難詰されたダイモンは、全力で頭を下げると走り出し、なお声をかけようとした母親を無言で止める父親が少々立派な人物すぎる感じは出ましたが、感情的に責める役回りが居ないと空虚になってしまうが、かといって揃って責め立てると地獄絵図がきつすぎるので、夫婦で役割分担するのは、フィクションとしては納得のいくバランス。
幹部二人を前に(俺達また小林脚本に殺されかけてるな……!)に陥る赤青緑桃だが、駆けつけたダイモンのVメランがモグラの弓を破壊すると、地震虫が消滅。
殊勲のダイモンは高い所からロープで崖を降りてくると着装し、新たに宿る重みを胸に――人の命は地球の未来!
改めて5vs3の戦いとなると黄とモグラの一騎打ちとなり、Vマシンガンを手にした黄は、己の不始末のケジメを付けるその日まで、戦い抜く為にトラウマを克服すると引き金に指をかけ、モグラめがけて零距離シュート。
コボルダの指示にこっそり舌打ちしたりするサラマンデス(つい最近まで赤ん坊だったのに、世渡り上手……)はそそくさと撤収し、ビッグVバスターが炸裂すると、モグラ災魔は再生巨大化。
強烈な体当たりでVロボを苦しめるモグラだったが、ライナーキックで迎撃されると、駆け足のマックスノヴァで吹き飛ぶのであった。
少年の病室に謝罪行脚を続けるダイモンは、少年の描いたゴーゴーファイブの絵に救われ、それを見つめる家族の姿で、つづく。
ヒーローの致命的失敗-糾弾-再起を真っ正面から掘り下げた意欲的な一本で、諸作を探せば作例は色々あるとは思いますが、《スーパー戦隊》シリーズでここまでやるのは、相当珍しいでしょうか。
パッと思いつくところでは、病院送りではないですが子供心に深手を負わせる『電撃戦隊チェンジマン』第12話「ママはマーメイド」(監督:山田稔 脚本:曽田博久)が、印象深い名作。
後、『五星戦隊ダイレンジャー』第3話「魂ちょうだい!」(監督:坂本太郎 脚本:杉村升)では、戦隊メンバー2名が公道バトルを始めて小学生を轢きかけ病院送りにしますが、この二人の反省と再起には特に主題が無く……そもそも「ヒーローとして轢きかけたわけではない」のですが、「ヒーロー以前のところで駄目人間」という、『ダイレン』の特性がよく出たエピソード(そして大五さんが格好いい)。
この手のアイデアは、下手に作るとショック描写そのものが目的化してしまったり、逆に諸々の描写が手ぬるく形ばかりになりかねませんが、そこは、《スーパー戦隊》デビュー作である『電磁戦隊メガレンジャー』第16話「激ヤバ! オレたち 死ぬのか?」(監督:辻野正人 脚本:小林靖子)以来、“精神的な揺さぶり”を得意とする小林脚本、きっちりとダイモンを追い込んだ上での再起を描き、シビアにやるべき部分を的確に押さえた小中監督の演出もお見事でした。
……まあ、終わってみると、立ち直る側のダイモンよりも、立ち直らせる側のマトイの方が圧倒的な存在感を出しているのは……もはや『ゴーゴーファイブ』の宿命。
マトイ兄さん格好いい話として満足度が高かったです。
一方で、エピソードのお題の為に、少年に大怪我をさせる(後遺症の可能性を示唆する)事には口当たりの悪さもあったのですが、ラストシーンは希望の光を強く感じさせる演出でフォローされる形となったのは、ホッとしたところ。
今作における小林さんはサブライターの立場から、1エピソード1エピソード、「ヒーローとは何か」を取り上げ、テーマ重視の書き方をしている節が窺えますが、それがキャラの掘り下げと共に絶妙に『ゴーゴーファイブ』全体を補強して底上げに繋がっているのはさすがの見通しの良さと筆力で、今回も、一山越えて後半戦の入り口で、“期待されている仕事”を見事にこなしてくれました。
次回――来た! ライナーボーイ回!
と、なんか見覚えのある敵。