『仮面ライダーBLACK』感想・第3-4話
◆第3話「怪?怪・改造人間」◆ (監督:辻理 脚本:上原正三)
「シャドームーンを次期創世王とせよ」
全身をラップに包まれて体育座りする秋月信彦――シャドームーンは、ゴルゴムの次期創世王として指名を受け、光太郎と信彦、二人が同時に世紀王として改造されたのは、両者を戦わせて次期組長を選び出す為であったと判明。
「人間どもの抹殺、文化・文明の破壊。それこそゴルゴムがこれからなさねばならぬ仕事」
……だいぶ先が長そうですが、その為には、太陽の石――キングストーンを身につけたまま裏切ったブラックサンの存在が邪魔であり、悪の組織サイドの事情から仮面ライダーBLACKのパワーの源までを説明し、ヒーローと悪が根を一つにする改造人間テーゼを改めて本歌取り。
ひとまずゴルゴムの目的は、人類文明に打撃を与え、BLACKを血祭りにあげる事とされ、巨大なイメージボードでBLACK生首オブジェ計画をプレゼンした大神官ビシュムの発案により、トンネル内部でSLを襲う、クワゴ怪人。
乗客乗員の大量消失事件を知った光太郎は、事件の起きた大井川鐵道(当時:鉄道)へと向かうと警察とマスコミのやり取りを立ち聞きし、70~80年代初頭ぐらいの勢いで、片手で挨拶をして平気な顔で捜査に加わらなくてホッとしました(笑)
トンネル内部を探った光太郎は生存者の少年と出会い、事件にゴルゴムが絡んでいる事を確認。怪人の奇襲を受けるとダイビング変身し、自ら吐き出す糸で吊り橋ロープアクションしていた怪人から、ジャンプ一発で少年を奪い返すと一時撤収。
「もう一息でトドメが刺せたのに……」
ゴルゴムのアジトでは3神官の一人がこぼし、い、いつ?!
早くも現実を見失い気味の発言に不安が募りますが、ここで前回のパーティに参加していた“各界の大物”が姿を見せ、立場を利用してゴルゴムの為に様々な工作をしている事が描かれたのは、組織の在り方を具体的に示して面白かったところ。
クワゴ怪人が糸を巻き付けたホテル上階のレストランを、コウモリ怪人がどこかへ運んでいくのは映像も展開もダイナミックで非常に面白く、果たしてゴルゴムは何をしようとしているのか……困惑するブラックサンを死地に招く為に3神官は餌をばらまき、クレーン車にぶらさげられた人々を助ける為に、普通にクレーン車を動かすヒーローは、どういう意図のシーンだったのか悩みます(笑)
……役者さんが、重機の免許とか持っていたのでしょうか。
怪人の痕跡を追った光太郎はアジトらしき石切場に潜入し、さらわれた人々と奪われた人工衛星その他が、怪人の糸によりコーティングして組み合わされている不気味な情景を発見。
「ようこそ、南光太郎。……お待ちしておりました」
「おまえは?!」
「ここは、ゴルゴムのアトリエです。只今巨大オブジェを製作中ですの。タイトルは――「人類の最期」」
人間を使ったアートは猟奇犯罪描写の典型ですが、生きた人間とホテルの一部や人工衛星その他を組み合わせて巨大オブジェと称する歪んだ感性に、ほとんど一発芸の為に人工衛星を強奪してくる無闇なスケール感とが組み合わさって、“ゴルゴムとは何か”を象徴してみせたのは、大変鮮やかでした。
人員も大量に投入して、囚われ、アートの一部にされてしまった――自由と尊厳を剥奪された――人々の姿に、“数の迫力と説得力”を持たせたのも、作品立ち上がりにおける見せ方として、秀逸。
「貴様、人間をなんだと思ってんだ!」
最後の素材はBLACKの生首、と宣言され、人間をコーティングしていく怪人と大神官ビームを放つビシュムに挟撃を受けた光太郎は、拘束から解放されると、凄くチカチカしながら怒りの変身。
第1話の感想で、光太郎には「怒り」のイメージを感じると書きましたが、思えば同期の『超人機メタルダー』は変身コードがズバリ「怒る!」であり、光太郎と剣流星の風貌には(単純に時代の流行かもですが)ちょっと似たものも感じるところ。
「仮面ライダーBLACK!」
変身したBLACKは高々と名乗りをあげ、ゴルゴム側が「ブラックサン」の呼称にこだわってくれているだけに、どこからともなく「仮面ライダー」が飛び出してきてしまったのは、改めて勿体なさを感じさせます。
オブジェの一部を落とす嫌がらせを行うも回避され、クワゴ怪人を投げつけられた大神官ビシュムは撤収し、BLACKは外に飛び出して怪人と激突。
明るいところで見ると肌の質感や造型がこれまた気持ち悪いクワゴ怪人の死んだフリにまんまと騙されたBLACKは、糸コーティングを受けて地面に転がるが、死んだフリ返しからの圧倒的太陽パワーで拘束を爆破すると、ピカピカライダーパンチ、そしてキックを叩き込み、怪人はしゅぼっと消滅。
ガッツポーズを決めたBLACKは、取って返すと人々を救出していき、解放した人々に向けて高いところから、
「みんな! ドグマの検査など気にするな! その代わり、幸せになるのも、不幸せになるのも、君たち自身の責任だ!」
じゃなかった、空気を読まない謎の説教などせずに、やっぱりガッツポーズを決めて帰るのであった。
……上から説教モードに入るほどヒーロー度が高まっておらず、かといって何もしないのも愛想が無いしな……という葛藤をちょっぴり感じます(笑)
「ママねー、仮面ライダーBLACKに助けてもらったんだって」
少年は母親と無事に再会を果たし、謎の怪人に立ち向かう漆黒の戦士として広まっていく「仮面ライダー」の名。
ナレーション「仮面ライダーBLACKは、改造人間である。改造人間の苦しみと、悲しみを、よく知っている。だからこそ彼は、人々の平和と、自由を守る為、ゴルゴムに立ち向かう。戦え、仮面ライダーBLACK」
初期シリーズで定番だったOPナレーションをエピソードの締めに持ってくるのは今作ならではの一ひねりと言えますが、ひたすらナレーションさんがメタ領域から既成事実を積み上げていって、つづく。
新聞のテレビ欄に合わせて苦し紛れ、みたいなサブタイトルとは裏腹に、ゴルゴムとは如何なる悪なのかと、それに怒りを燃やして抗う光太郎の姿をインパクト充分に描いて、物語の基礎をしっかりと固めてみせた秀逸回でありました。
最初に巨大なイメージボードが出てきた時はどうなる事かと思いましたが、TVに怪人の姿が映ってでも人工衛星にこだわりを見せる職人芸(医療カプセルは別にいらなかった気はしますが……最新型治療マシンを無駄にするところに眼目があったのでしょうか)や、宇宙空間に飛び出し、巨大建造物を持って運ぶコウモリ怪人の出鱈目な能力によるゴルゴム怪人の脅威、ブラックサンを呼び込む罠も兼ねているとはいえ、それらを地下に飾って満足している壮大な無駄遣いの贅沢さ、といったスケール感の表現が面白く、立ち上がりにおける暗黒結社ゴルゴムの性格の示し方として、満足度の高い一編。
なおマリン喫茶には、第1-2話にも登場していた、信彦のガールフレンドらしき女性・紀田克美が加わり、女子高生一人に任される状況は改善されましたが、そんな喫茶店に生存者の少年を笑顔で丸投げしていく光太郎の頭脳回路については、引き続き、改造手術の影響による不具合が懸念されます。
次回――レーサー改造! 広瀬匠!
◆第4話「悪魔の実験室」◆ (監督:北本弘 脚本:上原正三)
街をバイクで流していた光太郎は後方からコウモリ怪人に強襲され、前回に続いて1話1殺のやられ役に限らない怪人の使い方は面白く、濃厚な原点回帰テイストの中に新機軸も取り入れてくるのは、作品への好感度が上がるところ。
バトルホッパー召喚からのライダーチョップを浴びたコウモリ怪人は、本拠に逃走すると大神官バラオムにお叱りを受け、演じているのが高橋利道さんなので、聞き覚えのある声に別のキャラがちらついて困ります(笑)
「なんて、だらしのない奴だ。恥を知れ、恥を。……ブラックサンの奴め……」
(※ここの言い回しが凄く、デスギラーっぽくて……!)
「巷では、仮面ライダーBLACKと呼んでいるそうだ」
「仮面ライダー、BLACK?! ……仮面ライダーBLACKめ、このままでは済まさん」
仮面ライダー問題についてはゴルゴムの側からも既成事実の強化が図られ、個人的にはゴルゴム視点では「ブラックサン」と呼び続けてくれるのが好きだったので、これを契機に呼称が変わってしまうようだと、ちょっと残念。
「まだまだ打つ手は幾らでもある」
打倒BLACKの為に南光太郎を分析しようと考える大神官ダロムだが、
「それは無理だ。奴を捕らえる事は、不可能に近い」
同僚は、凄く弱腰だった(笑)
「南光太郎も人間の若者……」
「なるほど」
ハニートラップとか、ホイホイひっかかりそうですね!
なにぶん組織の次期トップとして考えてきた素材の上に、虎の子のキングストーンを内臓し、既に怪人3体を葬る実績をあげているBLACKに対し、第4話にして早くも、あいつと真っ正面からやるのはヤバい……と判断した3大神官は、光太郎の弱点を探らせるべく優秀なスポーツマンを利用する事を思いつき、黒松教授に命令。
教授は、光太郎の知己でもあるバイクレーサー・速水(演じるのは翌年『超獣戦隊ライブマン』でドクター・ケンプを演じる広瀬匠さんで、私が得)に接触すると、「世界一早いレーサーになりたくないか」と囁きかけ、教授の研究室を訪れた速水は……いきなりの、拘束!!(笑)
教授が右手を改造手術用のサイバーアームに取り替える姿が実にグロテスクで、モノクルを嵌め、怪しげな装置を起動すると、暗闇の中で髪が逆立ってマッドフォームに変身するのが、素晴らしく芸が細かい(笑)
「何をするんだ、先生?!」
「君を世界一早いレーサーに……ノミ怪人様!」
そんな姿で、隠し部屋から現れたノミ怪人に「様」付けで頭を下げるのがまた異様さを際立たせ、前回今回と、ゴルゴム描写の特徴付けと面白さが光ります。
手術台に拘束された速水は、恐怖心を取り除く血液エキスをノミ怪人に注入され、一仕事を終えた満足感を胸に怪人は帰宅。
かくして、どんなコーナーでも恐れない精神と、教授開発の筋肉増強剤を打ち込まれた速水は、連戦連勝を重ねるサーキットの狼に生まれ変わるが、かつて速水にバイクテクニックを叩き込まれた光太郎は速水のレースぶりに異変を感じ、その後を追跡。
すっかり黒松に依存する速水は光太郎の尾行を千切り捨て、黒松印の怪しいホルモンを注射されると、突如、無くした筈の激しい恐怖心に襲われるようになり、全ては、光太郎にも有効な薬物を作り出す為の実験であったと明らかにされ……「優秀なスポーツマンを強化して超戦士に育成する」定番アイデアから、「優秀なスポーツマンを強化するだけ強化してから、その弱体化に成功した薬なら光太郎にも通用する筈」にジャンプするのは、面白い一工夫でした。
薬の副作用に苦しみ、狼男のような獣面に変貌していく速水は、妹と光太郎の制止を振り切って夜の街に飛び出し、完全な野獣と化すと「実験動物としての、使命は終わった」と始末されそうになるが、拘束を引きちぎって脱出。
速水を助けようとした光太郎はノミ怪人の奇襲を受けると臆病ホルモン(大神官が命名しました! 私のせいではありません!)を注入されて動きが鈍るが、迫り来る怪人を前に義理の父の惨殺シーンが脳裏をよぎると、ゴルゴムへの怒りが恐怖を上回り、BLACKへと変身!
ノミ怪人の素早い跳躍をマルチアイにより見切ると、ライダーパンチで足を潰し、弱ったところにキックを叩き込んで勝利を収めるのであった。
「なぜ臆病ホルモンをはね除けた……解せぬ」
「仮面ライダーBLACKには、謎の部分が多すぎます」
黒松教授(再登場してほしい)はお仕置きビームを受け、自分たちの作り出してしまったSSR改造人間のスペックがよく把握できていない辺り、ゴルゴムには、ブラックサタン風味も漂って参りました(笑)
旧シリーズだったらさっくり「悪いのはドグマの心だ!」されるか、そうでなくても息絶えていそうだった速水は薬品の効果が抜けるとレーサーに復帰し、やけにマイルドな始末だなと思ったら、仲睦まじい速水兄妹の姿を見た秋月杏子が「お兄ちゃん……」と呟く事で、間接的に秋月信彦の存在感を出してみせたのは、成る程。
また速水には、たとえ一度は悪魔の誘惑に屈しても、(ヒーローの助けの後で)人は自らの力で立ち直る事ができる――或いはそうでなくてはならない――、という意味づけも与えられて、“ヒーローの伸ばす手”と“それを受け取る人間”の一つの在り方が示されて、つづく。
第1-2話は、初代『仮面ライダー』をなぞる要素や、原点回帰色の押し出しの強さが重苦しい部分があったのですが、前回今回は、それを受ける形で、暗黒結社ゴルゴムとは何か? をシリーズ従来作における悪の組織との差別化、ないしより洗練された形で表現していったのが上手くはまり、グッと面白かったです!
これぐらいの出来が続くと今後も楽しみですが、次回――予告の映像がひたすら怖い(笑)