『仮面ライダーBLACK』感想・第1-2話
◆第1話「BLACK!! 変身」◆ (監督:小林義明 脚本:上原正三)
タイトルの後、扉が開くと奥から現れた漆黒のライダーがしばし足音だけを響かせ、バイクに近づく足下のアップに合わせて主題歌イントロが流れ出すと、またがるライダー、ふかすアクセル、唸るエンジン、赤く輝く瞳、握るグリップ、そして発進――は、新時代の扉を開く新たなる仮面ライダー登場として凄まじく格好良く、またこのイントロが凄く良くて、やはり、特撮OPはイントロが命。
……その後の、主演俳優の歌唱力にだいぶ癖が強いのですが、楽曲そのものは大変格好いいので、なんとか主題歌として聞けるレベルにしようとした方々の苦労が偲ばれます。
「逃げても無駄だ南光太郎。おまえは改造手術を完了し、ゴルゴムの世紀王、ブラックサンになるのだ」
夜の街に現れた白フードの3人組が、逃げ惑う青年を追い回す謎めいたスタートで、回想による説明を挟みながら、記憶処理をされる前に逃げ出した青年――南光太郎とゴルゴム3フードの追いかけっこがひたすら描かれる、だいぶ暗い導入。
追い詰められた光太郎は、意識朦朧としながら白い幼虫のような姿を経て漆黒の戦士へと姿を変えると、超人的なパワーで3フードを追い払い、なんか、緑のバイクが、迎えに来た。
家に帰った光太郎は、手術室から自分を逃した義父のメッセージを発見し、逃走劇から始まり、飛び回る異形、触手まみれの手術、義父の抱えてきた秘密の告白、と詳細不明のままサスペンス色がかなり強めで時制も前後し、配信だと気軽に前に戻りながら確認できますが、リアルタイム視聴だと割と飲み込みにくかったのでは……? と結構思い切った作り。
「私は、あの日から死んだも同然の人間になってしまった……」
――19年前、日食の闇の中で生まれたのが秋月信彦、そして南光太郎。
3歳の時に事故で両親を亡くした光太郎は、秋月家に引き取られると信彦と実の兄弟のように育てられ、サッカーやらシャワーシーンやら、兄弟として友人として仲睦まじく成長してきた“宿命の二人”の存在と関係性が強調されるのが、シリーズとしては新しい切り口。
かつて光太郎の父と共に遺跡の発掘を行っていた秋月博士は、資金難に苦しんでいたところにもたさらされた援助の申し出に飛びつくが、それはゴルゴムの紐付きだった!
……のが、闇社会に引きずり込まれていく端緒として大変嫌なリアリティで、ヤバい金に手を出しても遺跡を発掘したかった秋月はゴルゴムプレミアム入会届(今なら一ヶ月無料キャンペーン中!)にサインをするが、断固として拒絶した南はその妻もろとも事故に見せかけて暗殺されてしまう……。
「ゴルゴムに一度目をつけられたら逃げる事などできやしない! ゴルゴムは悪魔の集団だ!」
何度「退会します」ボタンを押しても、「今ならこんな特典が!」に延々とループして戻されるのだ!
「悪魔の集団に……あなたは俺達を売ったんだ!」
秋月博士の立ち位置は、初代『仮面ライダー』における緑川博士と意図して重ねられているのでしょうが、シリーズ開闢以来、繰り返されてきた、「悪の組織に弱みを握られて協力を余儀なくされているエピソードゲスト」を拡張した存在、であるのもちょっとした面白み。
「これからの世界はゴルゴムによって選ばれた人間だけしか生きられない! 人類は淘汰されてしまうのだ!」
怪獣映画みたいなゴルゴム怪人イメージシーンが幾つか挿入されると、生き延びる為には従うしかない、と抗う意志を持たない義理の父に対し、光太郎は改造手術により植え付けられた超人的腕力を見せつけ、憤る。
「なんてことを言うんだ父さん……そんなこと聞きたくない!」
「光太郎! おまえと信彦だけは、ゴルゴムの世紀王となって生き延びてくれ」
「冗談じゃないよ父さん! 奴ら人間の自由を奪おうとしているんだ……父さんだって戦わなければこの廃墟と同じじゃないか!」
支配vs自由の構図が打ち出されると、人としての尊厳を失い抗おうともしないのならば、それはただ朽ち果てていくだけの廃墟と同じだ、と突きつけるのは印象深い台詞。
倉庫を飛び出そうとする光太郎だが、いつの間にか張り巡らされていたクモの糸により出入り口を塞がれており、19年間ゴルゴムに従ってきたが、記憶の消去を知って土壇場で子供たちを助けようとした秋月博士は、クモ怪人に捕まり、無惨に墜落死。
「杏子を……信彦を……頼んだぞ……」
遺体を抱き、怒りと嘆きに震える光太郎は迫り来る5体のクモ怪人を前に漆黒の戦士へと変身し、スカイライダー系のシンプルなデザインの中、ワンポイントとして強調もされる、左胸に入った謎のマークが気になります。
とにかく顔が気持ち悪いクモ怪人は、四つん這いの姿勢で画面に入ってくるのも大変不気味で、改造人間というより(元より近似ですが)「妖怪変化」や「魑魅魍魎」といった印象ですが、包囲を受けるブラックサン(仮)は、後に命の恩人と判明する忠実なバイク――バトルホッパーを召還すると体当たりで撥ね飛ばし、東映ヒーローのイニシエーションを本能的に達成。
まあ出自からすると、このバイクが忠誠を誓っているのはゴルゴムの世紀王ブラックサンなのでは疑惑はあるのですが、ゴルゴム謎科学で生み出されたとおぼしき意志を感じさせるバイク、にする事で、召喚に応える自律行動などに説得力を与えているのは、割と好き。
ベルトに太陽パワーを溜めると、ライダーパンチそしてキックでまとめて倒す初回のトドメは凄くざっくりで、怒りが戦士に姿を変える変身シーン――初回の光太郎は基本的に、「怒る」主人公といった感じ――はともかく、戦闘シーンのヒロイックさは割と低め。
信彦のガールフレンドの車で現場に遅れてやってきた秋月杏子が、蜘蛛の巣で雁字搦めにされて地面に転がる父親の死体を発見する物凄いトラウマ案件(ここも初代と重ねる形に)で、つづく。
ナレーション「南光太郎は、暗黒結社ゴルゴムによって、改造人間にされたが、悲しみを乗り越え、人間の自由の為に、人類の敵ゴルゴムに立ち向かう、自由の戦士・仮面ライダーBLACKとなった!」
1981年の『仮面ライダースーパー1』終了から、6年ぶりのTVシリーズ復活となった今作、同期作品は
『超人機メタルダー』/『世界忍者戦ジライヤ』
『光戦隊マスクマン』/『超獣戦隊ライブマン』
『おもいっきり探偵団覇悪怒組』/『じゃあまん探偵団魔隣組』
となり……実際にそういう事があり得たのかはわかりませんが、上原-高久-曽田-江連脚本をハシゴできる週とかあったのかもしれません1987年。
秋月博士の扱いや、怪奇色を強く押し出した怪人など、初代『仮面ライダー』の本歌取りの趣が強い中に、ところどころ新機軸を盛り込んでいる今作、3フードの存在などは《スーパー戦隊》や《メタルヒーロー》の文脈を感じるところ。
先週まで見ていたのが、派手・割と明るめ・外連味重視の『スーパー1』だった事もあり、初回としては暗い・重い・割と話がごちゃついている、といった印象が強くなりましたが、長年の宿題の一つだったので、この機会に見ていきたいと思います。
なお、さすがにシャドームーンの見た目ぐらいは知っているのですが、逆に言うと、それ以外は全く知らないので、コメント欄では、その点をご配慮いただければと思います。
◆第2話「怪人パーティ」◆ (監督:辻理 脚本:上原正三)
信彦奪還をモチベーションとして、脱走時の記憶を頼りにゴルゴムのアジト探しを始める光太郎。
(あの日もバッタが多かった……異常に)
その記憶は信彦19歳の誕生パーティへと舞い戻り……両親を早くに喪ってこそいるものの、光太郎の描写における、いいとこの坊ちゃん育ちのおちゃらけ大学生感は、ライダー主人公としてはこれも新機軸になっています。
表向きは和やかな誕生パーティには、今思えばゴルゴムの確かな影があったのだ……という見せ方は今作の基軸をなす陰謀論的世界観の表現として面白く、自称「あの日から死んだも同然の人間」だった秋月博士ですが、回想シーンを見る限りでは、完全にゴルゴムに染まっていました(笑)
……お父さん、廃墟どころか積極的にゴミ処理施設とかやっていたのではないか。
パーティの様子に不審を感じた光太郎と信彦は、父の書斎を調べに向かおうとしたところでゴルゴム3フードにキャプチャーされて前回の手術そして脱走に繋がり、二人はそれぞれ、ブラックサンとシャドームーンに改造されてしまうのだった!
「人間どもはやがて滅びる……生き残るのは創世王に仕えし我ら、怪人。そして、ほんの一握りの人間」
3フードは創世王に使える大神官と判明し、ゴルゴム怪人の寿命は5万年!
暗黒結社ゴルゴムに頭を垂れる人間が、新世紀への生き残りと不死に等しい生命力を求める代わりにその支配を受け入れようとする構図は、初代『仮面ライダー』におけるショッカー首領の
「君は今や改造人間なのだ。改造人間が世界を動かし、その改造人間を支配するのが私だ。世界が私の、意のままになる」
を彷彿とさせ、作品の土台部分における原点回帰路線がより明確に感じられますが、締めのナレーションも、これと対になる本郷猛の「及ばずながら、私も全力を尽くして、人間の自由の為に戦います」を踏まえたものになっており、オマージュとか語り直しというよりも、シリーズの存在をメタ前提にしているぐらいの勢い。
ゴルゴムの情報を求める光太郎は、パーティー会場で口を滑らせかけた女優・月影ゆかりに接触を図るが、一足遅く口封じに抹殺されてしまい、光太郎を襲うのは、クモ怪人に続いて生もの感の強い毛むくじゃらで顔が怖いヒョウ怪人。
……早く別物と頭を切り換えるべきなのですが、なにぶん6年の空隙がなく、先週までジンドグマの愉快な上層部と器物怪人を見ていた為、怪人のギャップに頭がクラクラしてきます(笑)
そして、本当に、顔が、怖い!
窓から投げ出された光太郎は第2話にして空中変身を決めると、四足歩行のヒョウの姿になった(ここの特撮は格好良かった)怪人を追ってバイクを走らせ、真っ正面から轢いた!
通過儀礼の達成を確固たるものとしたブラックは、立体駐車場での攻防から、両者思い切りよく海に落下、そして即復帰、と跳躍力をアピールすると(この為の怪人チョイスな感)、おもむろにライダーパンチとキックを叩き込み…………地味。
太陽パワーに覆われた怪人は、しばし苦しむとしゅぼっと爆発して消滅し…………地味。
……これも『スーパー1』後遺症なのですが、《昭和ライダー》の中でも軽快で多彩、見栄えのする殺陣が重視されていた『スーパー1』直後に見ると、地味さがどうしても増してしまいます。
そこは作品としての狙いもあるでしょうが、『スーパー1』が抜けるまで、ややチューニングに時間がかかるかもしれません。
後それを抜きにしても、前回にしろ今回にしろ、必殺攻撃が飛び出す流れが唐突で、戦闘のストーリー構成が雑なのは、気にかかるところ(『ウルトラセブン』辺りの殺陣を見ているような印象)。
秋月杏子は、光太郎の先輩が経営するマリン喫茶に匿われると、海に呼ばれてしまった先輩の代わりに店を切り盛りする滅茶苦茶な状況に放り込まれており、それを笑顔で放置していく、光太郎! 光太郎ーーー!!
ゴルゴムの改造手術による、脳への不具合が心配されます。
貴重な情報源を失うもゴルゴムの刺客を退けた光太郎が原宿の歩行者天国を眩しそうに見つめる姿が描かれ、穏やかな日常とその影に巣くう闇との対比が強調されて、ナレーションさんだけが「仮面ライダー」を連呼して、つづく。