『ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー』感想・第9話
◆第9話「アンブレイカブルウルフ」◆ (監督:田崎竜太 脚本:井上亜樹子)
「願いもなければ夢もねぇ。だがヒサミツ兄ちゃんだけは生きていてくれた」
吠モノローグで始まり、あるべき世界を持てない異邦人の虚無を抱えた主人公像そのものは嫌いではないのですが、前回の感想で書いたように、ここまでの書き込みはだいぶ不足している印象。
「兄ちゃんは相変わらずなんでも出来て、格好良くて、でも……」
なんか、ねっちゃりしていた。
指輪を放り捨て、一匹狼のはぐれ者に戻った(そもそも、それが解消された状態があったの……?)吠は、コンセプトカフェでバイトを始めると、素の雑な接客が“マイルドヤンキー系ぶっきらぼう執事”として好評を博して天職を見出すかと思われたが、そこに客として姿を見せたのは、元ヤンキー感なら負けていないファイヤキャンドル。
人間界のルールを把握せずに無銭飲食して帰ろうとしたキャンドルは、無敵接客能力を持つ店長に顔面を鷲掴みにされて体で払う事になり、ここに始まるナンバーワンホスト……じゃなかった、執事対決。
その頃、テガソード神殿でだらっとしながら吠を気に懸ける禽次郎ら4人の前にはクオンが姿を見せ、気持ち悪いお兄ちゃんぶりを全力で見せつけていた。
「吠は僕の愛、僕の希望、僕の……お人形」
まだまだ真意の窺い知れないクオンが、どいつもこいつも吠の友達失格! とお兄ちゃんジャッジメントをくだし、現状、吠が自他共に認める唯一の友達である常夏元総理の評価が気になるドッカン大噴火。
一方、ロンリーウルフは行きがかりの執事対決にさえ魂の炎を燃やすバトラー・キャンドルに思わず内心を吐露しており、この場面のキャンドルさんの芝居とか、倫理観は人間社会と合わないが良くも悪くも一本気な面が表情の変化から伝わってきて味のある芝居なのですが、敵味方の心の交流には、今作に付きまとう『ドンブラ』の二番煎じ感はどうしてもちらつきます。
「俺は怖い。……もう誰かに裏切られたり、何かを失いたくない。怖いんだ。誰かと関わるのが。だったら一人で居る方が……」
「今のおまえは負け犬じゃねぇ、それ以下だ。ナンバーワンそのものじゃねぇ。戦うことに意味があるんじゃねぇのか? 俺はあいつと戦いてぇ。戦って、その魂の形を感じてぇ。…………そうだ。何度負けようが、俺の炎は……決して消えねぇ」
吠と気付かぬままのロンリーウルフとの会話を通して、なぜゴジュウウルフとの戦いにこだわるのか、の本質を見出したキャンドルさんが満足して去っていくと、残された吠には看板からテガソード様が語りかけ、随分久しぶりに喋った気がするテガソード様が、妙に吠にこだわってみえる理由も今のところハッキリしませんが…………お兄ちゃん?! 生き別れのもう一人のお兄ちゃんなの?!
「戦うこととは、向き合うこと。彼等は待っている。戦え――おまえ自身の世界を切り開くのだ」
ここまで見てきましたが、やはりどうしても「指輪バトル」の基本設定そのものにノれない上で、比喩表現の部分もあるとはいえ戦え戦え連呼する一方で、肝心のメインメンバーは“しばらく戦わないで馴れ合っていてほしい都合”ありきで動いているのが、どうにもこうにも、物語に入っていきづらい部分。
“指輪バトルの煽り”と“それはそれとして出したいチーム感”が正面衝突しているようにしか見えないのですが、そこを両立させる工夫こそを練り込んでほしかったです。
「君たちは吠となにも関係もないだろう。繋がりも、絆も」
青黄緑黒は、ガリュードと召喚戦士に追い詰められており、そこは、セルフでツッコんでいいのか……。
「確かに。奴と私たちにはなんの関係もない! ……だが!」
そこは、セルフで認めていいのか……と馴れ合いでぐずぐずだった5人の関係を、一旦白紙に戻してから再構築してくれるのかと、この瞬間、ちょっぴり期待したのですが……
「絆とやらはないが、この通り、借金ならある!」
う、うーん…………オムライスの時もそうでしたが今作、《スーパー戦隊》としてはねじれた基本設定や、突飛なナンバーワン対決などを仕掛けてくる割に、ここでこそ“『ゴジュウジャー』らしさ”を出してきてほしい、という肝心の部分で凄くありきたりなカードでお茶を濁してくるのでガックリが続きます。
ありきたりそのものは使いようなのですが、とにかく、ありきたりの使いどころが悪くて、自分たちでややこしい設計をしておきながら、ここぞ要所の部分で、床に落ちていたネジを拾ってこれでいいや、みたいな処理をしてしまうのが、とても残念。
どうにもこうにも、スタッフとの勘所の置き方が合いません。
「俺も……俺だって! おまえらと、全身でぶつかってみたい。戦ってみたい! おまえ達と! この世界と!!」
4人の言葉に兄の囁きをはね除けた吠は、世界や他者と向き合う為に、“戦う”事を選ぶとエンゲージ。
「負け犬上等。……何度負けても、その度にてっぺん目指せるんだからな」
“負ける”事からさえも逃げていた吠が、ヤンキー魂をインストールされると共に、負けても負けても世界に他者にぶつかっていく覚悟を胸に宿すと、新たな牙がその手に生じ……成る程、これまでの吠が陥っていた孤高は、そもそも己を世界という舞台に上げようとしなかった点において、『山月記』(中島敦)の虎のようなものであったのか、と腑に落ち、たびたび吠の抱える獣性が強調されていた点も納得。
つまるところ吠が最も恐れていたのは、世界にとって吠が“価値なき者”であると決定的に知ってしまう事であり、何も手に入れようとしなければ何も失わないという理屈の行き着く先は、求めなければ求められもしないと知らずに済む、という事であったのかなと。
「俺は負け犬、ナンバーワンだ!」
自己防衛の殻を破り、自身の世界を切り開く一歩を踏み出したゴジュウウルフは次元さえ切り裂く剣で召喚戦士とガリュードを撃破し、このレトリックは、割と好き。
ガリュードがドラム缶から撤収後、おまけみたいにキングキャンドルが出てくると、釣り合いの悪い被り物と巨大な爪を装備したテガソード赤が降臨し、強化バージョンの力で、キングキャンドルを粉砕。
「おまえの魂……感じたぜ……」
ファイヤキャンドルは、《完敗してもなんかいい感じに誤魔化して撤収する!》の技を覚えた!
「吠ぅ……! この戦いから逃げ出すことを、許さない。ふふ……俺がおまえを壊してやる。そして、おまえが……ボクを、壊すんだ……ふふふ、へへ、は! はぁはぁはぁッ!」
一方、ノーワン世界に戻ったクオンはおもむろに服を脱ぎ出すと、その背中には無惨な十字の傷が刻まれており……今作への熱量が高ければ、ここで延々と傑作マンガ『ジーザス』&『闇のイージス』(作:七月鏡一/画:藤原芳秀)について脱線して与太話を繰り広げるところですが、そういうわけでもないので、クオンの一人称の変化は意図的かな……と思うに留め、お兄ちゃんのねっちゃりにぐへへが追加されて、つづく。
兄との再会を経て獣になりかけた吠が人界に戻って新たな一歩を踏み出し、第一章・了、という感じとなりましたが、前回触れたように、「各人の願いを指輪バトルの動機付けとしているのに、その願いへの執着の押し出しがとにかく弱い」点が、登場人物の情念重視派の私としては不満が大。加えてそこに話の都合で当面誤魔化しておきたい事情が露骨に見えている為、物語の要所がちっとも引き締まらず……なぜ、この基本設計で、個々の情念を活かすのではなく、個々の情念を押し込めて曖昧にぼやかす構造にしてしまったのか。
ひとまず一区切りがついて、立ち上がりの個人的評価も固まったところで、完全にリタイアはしませんが、しばらく『ガヴ』再起動の方にエネルギーを回したいと思います。