『ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー』感想・第8話
◆第8話「正邪ゆらめく、指輪の狩人」◆ (監督:加藤弘之 脚本:井上亜樹子)
背後からの狙撃に倒れたティラノ考古学者は敗者判定を受けてリングは突如現れた拳銃仮面の手に渡り、意図的なのでしょうが、拳銃要素を除いた顔デザインがやたらと宇宙刑事風味(名前からするとバイオハンターも入っているのでしょうが)。
「おいてめぇ、何者だ!」
「隙を突いて背後からとは、少々やり方が汚いな」
……挨拶代わりに空から奇襲で銃撃してきた人がすぐ後ろに立っていますね……。
それはそれとして君ら、そこに倒れているオムライスの人の心配をもう少ししてあげたら、と思っていたら拳銃仮面はオムライスの人をさらって無言で去っていき、その正体は女王の切り札――リングハンター・ガリュード。
「私は欲する。指輪と、我が婿を」
ガリュードの招聘に合わせて、女王テガジューンが初めて口を開くと、指輪の戦士の何人かは既にガリュードに狩られている扱いとなり、ゴジュウジャーを得物と定めたガリュードは、ファイヤキャンドルを挑発すると、再び人間界へ。
テガソード神殿には禽次郎が引っ越してくると、デリバリーサービスを始めていた神殿にバイトとして雇われており、竜儀に筋力で黙らされた吠が無人になった店でお冷や……ではなく、飾ってあった花の蜜を吸って貴重なカロリーを補給しているところに姿を見せたのはなんと、ノーワン界で死に別れたとばかり思われていた吠の兄・クオン。
…………んー……んー……んー…………これはもう、全くもって個人的な好みの話になるのですが、が、が、クオンが私の二枚目センサーに全く引っかからなかった為、この後実際に変身を見せるまで、これはあれだ、クオンの兄でガリュードの正体と思わせて、まるっきりミスディレクションのパターンだな! と自分に言い聞かせていた事を先に白状しておきます(笑)
いや、だってほら、前回の予告で〔再会した生き別れの兄??×拳銃仮面の正体候補〕まで盛られた時点で、玉山鉄二(大神月麿)か葛山信吾(一条さん)クラスのファンタジーな美貌が必要だと思うのが人情なわけですよ!?
そんな感じで勝手にハードルを高く高く設定しすぎていた為ちょっとガックリ来たのですが、そもそもハードルを上げすぎていたので、クオンについてはしばらく見ていれば慣れるかもしれませんし、今後の人格の見せ方や演技の方向性でも印象は変わってきそうとは思っております。
○と×の「おまえは俺の獲物だ」ポーズで本人確認され、現在は社長をやっているお兄ちゃんについてくれば、特上寿司を好きなだけ食わせてやる、と誘われほいほいついていった吠に斡旋されたのは、闇バイト、もとい、ゴジュウジャー抹殺のお仕事。
戸惑う吠に向け、クオンはテガスナイパーを取り出して拳銃仮面の中の人であることを示唆し、「優秀で憧れだった兄は、特上寿司もとい優しさの仮面の裏で、非情なハンターに様変わりしていた」とされるのですが……引っ張る正体ではないにしても、社長のCM撮影とかに妙な尺を使った割には、ネタばらしの方は至極あっさりで、バランスの悪さを感じる組み立て。
クオンは吠に対し、あまりに多くのものを失いすぎた吠は、たとえ“みんなのヒーロー”の真似事をして、人間らしく“己の願い”を手に入れようと足掻いてみても、決してまともな人間に戻れはしないのだ、と囁きかけ
「二度と誰からも踏みにじられたくないなら――やれ。……吠、お兄ちゃんを信じろ。おまえの得物は、僕が決めてやる」
て言われましても……。
遠野吠は空っぽの器であり、“願い”に象徴されるなにかをそこに埋めていく事で人間になろうとしている――という有り様の定義づけそのものは嫌いではないものの、ノーワン界で何があったのかは引き続き曖昧ですし、過去の兄弟関係について現在出ている情報は、ザ・テンプレートでしかないので、クオンの吠に対する精神的支配に説得力を与えるには、だいぶ不足した感。
割と根本的なところでは、ここまで7話、遠野吠を「“願い”を持たず、異世界での経験から大きな人間的欠落を抱えて生きてきた一匹狼」として上手く描けていたようには思えず、第8話で大きな揺らぎを主人公に与えてはみたが、そもそも揺らぐほど明確な主人公像が結ばれていないので、描写の優先度に難があった気がしてなりません。
これなら“みんなのヒーロー”をやる事で、“この世界に受け入れられた気持ちのする吠”みたいな部分を、もう少し強調してきてほしかったな、と。
その為、まんまとクオンに転がされ、咆哮をあげ変身するとブライ団ではなくゴジュウジャーに牙を剥くゴジュウウルフの姿にどうにも納得し辛く、最初は、騙されたフリの頭脳プレイかと思ったぐらい。
「偉いねぇ。おまえは正しい選択をした」
クオンもガリュードへとエンゲージし、テガソードと同じメロディで、不協和音をピアノで奏でるテガスナイパーの起動音は格好いい。
「君が吠くんになにか吹き込んだのかな?」
「僕は弟を解放しただけだよ。しがらみという鎖から。――リングハンター・ガリュード。おまえ達に罰をくだす」
バッテンポーズを取ったガリュードは、黒マントとバッテン銃を駆使して華麗な立ち回りを見せ青黄緑黒を翻弄すると、ニンニン赤とゴセイ赤を指輪から召喚して戦わせ、個人的には、凄く萎えるやつがまた。
「いいねぇ。おまえら。使ってやる」
拳銃仮面は更に、召喚戦士を武器に変える能力を見せると二刀流を振るい、
「自分の仲間を、武器にしたのか?!」
「仲間じゃない。しもべさ!」
と非情さをアピールするのですが(まあ、「カードから召喚されたモンスターは“仲間”か否か」みたいなニュアンスは取れないことはないにしても)指輪から飛び出した人形を仲間認識する方が普通に無理があるのでは……と、どうもテンプレートが空回り(テンプレートが悪いわけではなく、テンプレートを雑に処理しているのが悪い)。
一方、雪辱に燃えるファイアキャンドルから一騎打ちを申し込まれてテガソード赤を召喚したはいいが、寿司があたって腹が痛い、みたいな戦いぶりで劣勢に追い込まれた吠は、為す術なく炎に燃える必殺剣の切っ先を突きつけられるが――
「今のおまえからはなんの炎も感じねぇ。からっぽの人形なんだ。倒す価値ねぇんだよ!」
バトルジャンキーの美学を発揮したキャンドルは踵を返して去っていき、例えばこちらは「なんの炎も感じねぇ」でそのキャラらしさを感じさせる言い回しになっていたのは良かったところ。
キングキャンドル2世が帰っていくと、いかなるわかけガリュードも極太ビーム砲を放って撤収。
巨大戦が終わると、テガソード様のサービス精神により、割とみんなの近くに降ろされた吠は、ではこれから貴様を袋だたきにしよう、と宣告されると、空っぽの自分、今までもこれからも何も手に入らないであろう自分を認め、指輪を放り捨て――
袋だたきを回避し、4人の醜い争いを見物する会心の策……!
ではなく、
「俺……ゴジュウジャー辞めるわ」
…………いや、まあそれ、前回ラストに結成されたばかりのやつですが。
言い回しとしては肝心要の部分に“なんの重みもない”ので思わず噴き出してしまいましたが、青黄緑桃は予想外の展開に呆然となり、ひとり去っていく吠の背中をロックオンするのは、兄クオン。
「おまえは僕の獲物だよ。愛しい弟」
で、つづく。
個人的に今作ここまでで最大の問題点は
「個々人の“願いの強さ”を上回る共闘の理由を行動原理として設定できていない」
事にあると思っているのですが、言い方を変えると、個々人の願いの強さを「10~8」としたら共闘(共同歩調)の理由を「12」で作ってほしかったところを、共闘の理由付けがなし崩しと言い訳じみた「3」ぐらいなので、個々人の願いの強さも「2」ぐらいに見えてしまい、すると必然的に吠における“願いの欠落”の扱いも軽くなってしまい、今回ラストで皆が口々に「これからおまえを殴る理由」を口にするのも取って付けたようになってしまう、見事な負のドミノ倒しが発生した印象です。
次回――吠の再起と共に、これら骨組みの難点にも多少は手が入ってくれると良いのですが。