東映特撮に踊らされる駄目人間の日々のよしなし。 はてなダイアリーのサービス終了にともない、引っ越してきました。
旧ダイアリー保管用→ 〔ものかきの倉庫〕
特撮作品の感想は、順次こちらにHTML形式でまとめています→ 〔特撮感想まとめ部屋〕 (※移転しました)
HP→〔ものかきの荒野〕   X/Twitter→〔X/Twitter/gms02〕

残暑のざっくり読書メモ

霊能探偵と民俗学と迷えるお化け

●『濱地健三郎の呪える事件簿』(有栖川有栖
 霊能探偵・濱地健三郎と、その助手・志摩ユリエの活躍を描くシリーズ短編集3作目。
 収録6編はいずれもコロナ禍に社会が揺れる世相を背景にしており、登場人物の心境に影を落としつつ、間接的に事件に影響を及ぼしていたりとコロナ禍を積極的に物語に取り込んでいるのですが、個人的にはもうひとつ面白くは感じない趣向でありました。
 個人的にこのシリーズで好きなのは、ミステリーとオカルトの境界を題材にしつつ、有栖川さんの作風もあって“品の良い洒落っ気”といったものを漂わせる手並みなのですが、今回はそこもちょっと弱くて物足りず(別に品が無くなったわけではないですが)。

●『歩く亡者 怪民研に於ける記録と推理』(三津田信三
 ふとした縁から、大学に特別講師として招かれるも断った、市井の民俗学者にして大衆小説家・刀城言耶。学長の強い要望により、実態の無い特別講師ながら図書館棟の地下に一室を与えられた言耶は、そこを「怪異民族研究室」と称すると、同学の卒業生にして作家の卵・天弓馬人に留守を任せ、馬人の元には言耶の蒐集する怪異譚が持ち込まれる事に……という体裁の、《刀城言耶》シリーズのスピンオフ的なシリーズ短編集。
 怪異譚が語られ、諸事情あって天弓がその謎解きをする形式で構成され、文体や雰囲気としては《刀城言耶》シリーズの短編集を更に軽くしたような具合で、語りのおどろおどろしさやホラー要素は薄め。
 総じて、出来は今ひとつでありました。

●『あかんべえ』(宮部みゆき
 料理屋「ふね屋」の娘おりんは、高熱で生死の境を彷徨ったのをきっかけに、「ふね屋」に迷う5人の亡者の姿を目にし、意思疎通ができるようになる。開店早々トラブル続きの「ふね屋」だが、そこには30年前に起きた忌まわしい事件が関係しているようで……。
 家庭を見舞うトラブルに次ぐトラブルの中で、不思議な力を手にした少女が健気に奮闘する長編時代小説で、毎度ながら著者の人物造型と描写の巧さが光り、特に終盤、5人のお化けの素性が判明するくだりにおける陰影の描き方には妙味があるのですが、そこまでだいぶ時間がかかり、個人的には物語が加速を始めるまで(バネのたわみの期間が)が長い作品でした。
 中盤までに散りばめた歯車が噛み合って一気に物語が動き出す後半は非常に面白かったです。