東映特撮に踊らされる駄目人間の日々のよしなし。 はてなダイアリーのサービス終了にともない、引っ越してきました。
旧ダイアリー保管用→ 〔ものかきの倉庫〕
特撮作品の感想は、順次こちらにHTML形式でまとめています→ 〔特撮感想まとめ部屋〕 (※移転しました)
HP→〔ものかきの荒野〕   X/Twitter→〔X/Twitter/gms02〕

待ってろよ生きてろよ

救急戦隊ゴーゴーファイブ』感想・第13話

◆第13話「弟たちの反乱」◆ (監督:小中肇 脚本:小林靖子
 新型ロボの投入もあり、かつてない死闘を切り抜けたゴーゴーファイブだが、グランドライナーからのダメージその他の為、モンドはアンチハザードスーツを修理&再調整中。
 長兄はその間に勇んでレスキュー訓練のスケジュールを一方的に組み立てるが、ダイモンがもらってきた無料お食事券4枚の誘惑に流された弟妹4人は揃って脱走し、リビングの机の上に綺麗に並べられた4人分のヘルメットとロープを真上から撮ったカットに、サブタイトルを乗せる入りが秀逸。
 なおモンドは「外食嫌い」だそうで、引きこもり学者タイプという事なのでしょうが、基本的にあまり他者と接したくない(人付き合いが得意ではない)感への傍証がまた一つ。
 一方、東京バーニング作戦に失敗した災魔一族はグランディーヌの魔力が残るマグマゴレムの破片を回収しており、それが一枚のカードに変じて敵サイドのパワーアップの布石が置かれると、コボルダの眷属・暴食サイマ獣が地上へと送り出される。
 新たな脅威が間近に迫っているとは知らず、弟たちの訓練サボタージュに腸の煮えくりかえるマトイは……何故か、家中のカップラーメンにお湯を注いでいた。
 「とりあえず買い置き全部食ってやる!」
 麺が伸び、自身が腹を壊す可能性も辞さない、悲しい、あまりにも悲しい復讐であった。
 「マトイにいちゃん、ちょっと可哀想だったかな」
 高級フランス料理に舌鼓を打つ弟妹たちは、横暴で無神経でデリカシー皆無でがさつで鬼軍曹気質のマトイ(そこまでは言っていない)の短所を愚痴り合い、ナガレが何かパーツを組み立てていたり、ダイモンが将棋を指していたり、と映像の中でキャラの肉付けが行われているのは良いところ。
 だが束の間の平穏はサイマ獣の襲撃によって破られ、なんでも食べてエネルギーに変えてしまう暴食サイマ獣の攻撃により、レストランの入っているビルが、炎上・倒壊の危機に陥ってしまう!
 サイマ獣出現を知ったマトイは、「戦えなくったってレスキューは出来る」とブレス無しで単身出撃していき、優先順位をはき違えず、“今できる最善のこと”を躊躇無くやろうとするメンバーの姿勢が一貫して描かれているのは、今作の大きな長所。
 現場で避難誘導を行っていたマトイは、ビル内部に突入していたレスキュー部隊の隊長が負傷した事を知ると古巣への臨時復帰を勢いで押し切って現場指揮権をぶんどり、ここまで来ると厄介な人ではあるのですが、そこは「横紙破り」性という“ヒーロー(イレギュラー存在)の理屈”で突破する作りになっており、今回はこの、“人の属性”と“ヒーローの属性”の間を行き来する(双方を描く)事への意識が窺えます。
 ナガレらは救助袋を展開すると、ビルの中に取り残された人々の避難をてきぱきとサポートして4人の株もしっかり上げたところで、レスキュー装備に身を包んで現場に乗り込んできたマトイと目が合って、ちょっと気まずい。
 それはそれ、これはこれ、と手分けして救助活動を続行するが、ベランダが崩れ、火が回り、ナガレら4人が取り残された状態で「退くぞ」と決断を下すマトイ。
 「マトイ兄さん!」
 「待ってくれ! マツリだけでも!」
 だがマトイは、他の要救助者の退避を優先して弟妹を振り返らずに退避していき、アクシデントに次ぐアクシデントで絶体絶命の窮地に置かれる4人。
 火事場ではしっかりと姿勢を低くしながら動き回り、厨房へ繋がる扉を発見して一縷の望みを賭けるもバックドラフトで吹き飛ばされた4人は進退窮まり、間接的にはサイマ獣の手によるものとはいえ、変身ヒーローが火災に巻き込まれて風前の灯火、はなかなか珍しいシチュエーションといえそうですが、第1話の冒頭パートに続いて小中監督が、等身大の災害現場をサスペンスたっぷりに描いて緊張感を途切れさせない好演出。
 そんな極限状態の中で、ナガレとショウが年長にして現場経験を活かした言行を一貫して見せると、水をかけた布をマツリにかぶせ、マトイのギリギリの決断を評価し、それぞれの優先順位や行動原理を大事にしながら個性を積み上げていく描写がさすがで、“戦隊で見たいもの”をきっちり見せてくれて大満足。
 ……このところ《スーパー戦隊》へのハードルがとみに下がっている中で、25年ぶりに見る『ゴーゴーファイブ』がどんぴしゃに突き刺さってこようとは(笑)
 酸欠が先が、倒壊に巻き込まれるのが先か、意識を失いかける4人の耳にマトイの声が響いてくると……天井突き破ってゴーレッドが登場し、“人の属性”から“ヒーローの属性”へ、問答無用で盤面をひっくり返すと、私情剥き出しの大突貫。
 「……前言撤回。なにが優秀なレスキュー隊員だ」
 「やっぱり無茶苦茶で……自分中心で……」
 「喧嘩っぱやくて!」
 「でも、いつもあたしたちの側に、居てくれるんだよね」
 主題歌のフレーズ――「待ってろよ 生きてろよ 絶対そこに辿り着く」――を彷彿とさせるのも劇的さを後押しし、炎の中を強引に突破した赤からブレスを受け取った4人は着装によって奇跡の生還を果たすと暴れ回るサイマ獣へと挑み、人の命は地球の未来!
 「おまえ達も喰う!」
 伸びる右腕による攻撃に対し、ライフバードを分解状態で用いた個別攻撃からカラミティブレイカーで任務完了するが、ピエールがゴレムカードを放つと、サイマ獣は着ぐるみ改造による豪華仕様で強化復活。
 救急マシンは修理中、と納得の理由付けにより挿入歌に乗せて初手からゴーライナーが空を飛ぶと連結合体するが、グランディーヌの魔力の一部を宿したゴレムサイマ獣は一斉射撃で塵と化す事なく耐える力を見せ、「笑ってしまうほどの秒殺」を待ち構えていたら覆される、まさかの展開。
 至近距離で土手っ腹に一撃を浴びるグランドライナーだが、アッパーカットで反撃するとグランドストームでサイマ獣を光に変え……だいたい、箱であった。
 巽家では、居間のテーブルに御馳走を並べたマトイが豪勢な食事風景を弟妹に見せつけるが、買い置きのカップラーメンを一人で平らげていたのが途中でバレると反撃を受け、ドタバタ騒ぎとなって、つづく。
 1クール目は、
 “巽兄妹(マトイ・ショウ)にとってのゴーゴーファイブとは何か?”
 に焦点を当ててきた小林靖子が、2クール目の初球として
 “巽家の弟妹にとっての長兄マトイとは何か?”
 に焦点を当てて巽マトイというレッド/リーダーを掘り下げ、相変わらずの目配りと見通しの良さ。
 カリスマでも完璧超人でもなく、身内の扱いが雑になりがちで必ずしも全肯定されないが、家族を愛し、家長(代理)として強い責任感を持ち、弟妹たちから強く信頼される強さを持った、長所も短所も合わせて巽マトイ、がしっかりと描かれて、持ち上げすぎず貶めすぎない描写が気持ちの良いバランスでした。
 また、激戦を乗り越えたアンチハザードスーツの修理という無理の無い設定で5人を“人”に戻したとこをから始まって、〔訓練脱走・ケチな報復・身内の愚痴〕から、〔マトイの古巣復帰・避難サポート〕で補強し、〔現場撤収・極限状況での抵抗〕……と、“人の姿”“人としてギリギリまで出来ること”を描き、人事を尽くした末に“ヒーローだからできる事”が天命となって奇跡を呼び込む、“人として”と“ヒーローとして”の対比そして融合に、組み立ての妙味のある一本。
 (※《ウルトラ》シリーズとしての文脈もありますが、同時期の『ウルトラマンガイア』も意識の強かった要素と思うと、興味深いシンクロニティ)
 下げて・上げて・下げるマトイの描写、長兄と弟妹たちの分割展開、“人の属性”“ヒーローの属性”が交差してクライマックスに至る構成、と総じて緩急の付け方が鮮やかで、脚本・演出ともにテクニックの光る好篇でした。
 次回――ナガレは、今度こそ知性を見せられるのか?!