『救急戦隊ゴーゴーファイブ』感想・第9話
◆第9話「盗まれた能力(ちから)」◆ (監督:渡辺勝也 脚本:宮下隼一)
「地上の、ありとあらゆるものから、能力を吸い取ってみせる!」
ディーナスの眷属である吸血ならぬ吸力サイマ獣・バンパイラが地上へ送り出される一方、マツリは救命活動中に事故で足を怪我した先輩・城戸ミズキの見舞いに病院を訪れていたが、先輩は“手術には成功したが足が動かずリハビリ拒否でやさぐれる”定番のモードに突入していた。
「目をそらすな。諦めるな。先輩が、教えてくれたんじゃないですか」
先輩を励ますも逆に救命士退職の件を問い詰められたマツリは言葉に詰まり、親父が、極道親父が全部悪いんです……と言うに言えなくて困っているところに、周囲の人間関係とかに頓着する機能は付いていないミントから緊急通信が入り、店先の事情とかお構いなしに出るまで電話を鳴らし続ける上役みたいですね!(個人的怨恨)
まあゴーゴーファイブ、事がダイレクトに人命に関わるので、いついかなる時でも緊急呼び出し、はやむを得ず、メンバー5人も前職から引き続きの環境なので順応している、のは“ヒーロー以前の職業経験をヒーロー活動にスムーズに繋げる”上手い作り。
街ではサイマ獣が吸力光線を放つと、自動車はまともに走れなくなり、ヘリコプターは空を飛べなくなり、墜落・炎上による、結構ストレートな人命被害。
事故現場の上空から本部に状況を連絡するヘリの横にぬっとバンパイラが現れるのは、天災の怪物化でもあるサイマ獣の嫌らしさと怖さが出て、秀逸でした。
「あのサイマ獣はあらゆるものの、能力を吸い取ってるんだ!」
なにをもって“能力”とするのか、概念に干渉するともいえる割と出鱈目な能力持ちのサイマ獣に挑むゴーゴーファイブは、開幕早々に末の妹を力強く放り投げ、ブラザーフォーメーションで誰が投げ飛ばされるのかは多分、ゴミ出し当番と同じ感覚で決められています。「今日は第3週の水曜日だから、マツリが飛ぶ番なー」。
だが、人力爆弾で一撃受けたバンパイラが吸力光線を放つと、赤をカバーリングして直撃を受けた桃は、“ゴーピンクの力”を奪われてしまい、強制変身解除。
不審すぎる後輩を車椅子で追いかけてこの現場を目撃した先輩は、果敢に飛び出して車椅子アタックを決めると、奪った能力が結晶化されたクリスタルを奪い取り、先輩が、ただ覗きに来て事態に巻き込まれるのではなく、「マツリを助ける為」に躊躇無く飛び出していったのが、ゲストの根の人間性をワンシチュエーションで補強してみせて鮮やかでした(この後の先輩のあらゆる言行へのベース好感度に繋がる)。
ところが勢い余って階段から転がり落ちた拍子にクリスタルが先輩に融合してしまい、動揺を突かれて一斉射撃を受けたサイマ獣は撤収。
マツリが足を負傷する一方、先輩の足は奇跡のように回復し……
「わあびっくり! 完治どころか、全身の筋肉・骨格、全てが強化されています」
ミズキ先輩は、人類の科学と災魔の魔術が奇跡の融合を果たした、アンチハザード人間になっていた。
“ゴーピンクになる”という概念を奪われているマツリが再着装する事も出来ない中、奪い集めた能力を破壊エネルギーに変えたバンパイラver.2が出現。やむなく男4人が出動しようとしたところにモンドが姿を見せると、
「4人で行くより、確実な方法が、一つだけある」
と鋼の救急超人に新生した先輩に「マツリに代わって戦ってくれないか」と持ちかけ、さすがの極道親父も事が事だけに面と向かって頼みに来てギリギリの人間味を見せましたが……
「だいたいミズキさん着装できるの?」
「いや、そこまでは出来ない」
……面と向かって頼みに来れば許されるレベルの話ではありませんでした(笑)
「じゃ、ミズキさん、あの姿のままで戦えっていうのか」
「無茶もいいとこだよ」
期待を遥かに超えてくる極道親父の無体な妄言に対して一斉に非難を浴びせる男衆だったが、自身の不甲斐なさと人を救わねばならないという想い、責任感と使命感が魂の奥底でスパークしてしまったマツリが巽家の遺伝子に息づく火消しの血に覚醒。
オレンジジャケットを手に取ると先輩に突きつけ、あの業火の中に飛び込んでこそ無限の未来を救うこと、あんたの救命魂を見せてみろよ、と出陣を求め……いや、あの、なんというかもはや、力とか、心意気とか、そういうレベルの話ではなくなっているわけですが……。
これ以上ここに居たら、地球を救う為に職業も名前もプライベートも全て消されてしまう、と逃げ出した先輩は、後を追ってきたマツリに、現場での事故以来、救命士の仕事に戻るのが怖くなり、リハビリからも逃げている自分の状況を包み隠さず打ち明け、戦う勇気など本当は無いのだと、涙をこぼす。
それを聞いたマツリは、松葉杖を突いたままながらも、手にしていたオレンジジャケットを再び自ら羽織り、先輩に背を向けて歩き出し……
「……マツリ?」
「目をそらすな。諦めるな。私、救命士は辞めたけど、人を守る気持ちは、先輩が教えてくれた、前を見る勇気だけは、今もずっと、心に持ってます。だから、こんな私でも、できる限りの事はしたいんです」
幾らアンチハザード人間になったとはいえ、秒速で? 素手で?? 顔をさらけ出したまま??? と、問題点が山盛りで、一般市民にヒーロー基準を一方的に押しつけすぎて力と意志の関係を問うには論点がちょっとズレてきたところから、先輩に笑顔を向けて死地に趣くマツリの姿によって“マツリのヒーロー性”へと焦点を更にずらして豪腕で軌道修正してみせたのは、鮮やかとは言いにくいも好きな荒馬の御し方(笑)
またそこで、私のこの想いは、先輩が教えてくれたものだ、と“魂の継承”の要素を盛り込むのも、ヒーローフィクションとして良い目配りとなりました(そして先輩の常識的姿勢を否定しない意味でも笑顔で前に進む)。
その頃、傍若無人な破壊活動を繰り広げるバンパイラは、「この地上はもう終わりだ!」と叫びながら何故か荒野で土木工事に勤しんでおり、1999年の進化した滑空攻撃の前に蹴散らされる赤青緑黄だが、駆けつけたマツリがサイマ獣の後頭部に松葉杖を投擲。
「ゴーピンクも居るわ!」
「小娘が! 邪魔だ!」
気持ちで勝てるならゴーゴーファイブなんて要らないですよね、と諦めない心で立ち向かうマツリだが手も足も出る筈がなく、首をねじり上げられ、地面に叩きつけられ、兄妹仲良く人生から退職寸前のその時――悩みに悩んだ末、マツリの言葉に奮起して駆けつけた先輩の、華麗な飛び蹴りが常識の壁を破って炸裂。
先輩のアンチハザード人間化をホップ、マツリの笑顔をステップにした今回のエピソードは、この飛び蹴りをジャンプにして次のステージへと飛躍すると、そこから更に予想だにしなかった方向へと加速していくのですが、過去に<レスキューポリス>3作全てに脚本参加していた宮下さん、今回に関しては『特捜ロボ ジャンパーソン』にちょっとはみ出しており、どこからかラスボス(JPさん)の、「人の命を救うという、人間の力を見せてみろ!」」という声が聞こえてきそうな気がしないでもありません。
「あたし、やってみる! マツリの代わりに戦ってみる! どこまで出来るかわからないけど、精一杯!」
「先輩……!」
女性ボーカルの挿入歌をバックに先輩がオレンジジャケットを羽織ると、立ち上がった赤青緑黄のセンターに立って4人と共にサイマ獣へと躍りかかり、4人の変身ヒーローのスクラムを踏み台に、見た目一般人女性が怪人に飛び蹴りを決める、とんでもない映像が炸裂。
更に、背後のマツリの指示を受けながら、先輩を砲弾としたVアタックが放たれ、全員、正気を失っていた。
光線による迎撃を見た目生身で浴びながらも、先輩渾身のアタックが突き刺さると、追い詰められたバンパイラは吸力光線を放つが、先輩後輩が咄嗟に息のあった呼吸を見せて、先輩から吸い出されたゴーピンクの力をマツリが回収し、改めてのOPインストに乗せての着装で、正真正銘のゴーピンク復活。
「人の命は地球の未来! 燃えるレスキュー魂!!」
変身能力喪失の解決手段として、敢えて敵に特殊光線を撃たせる、は入れ替わり系の定番アイデアですが、策を凝らして敵を騙したりするわけでなく、徹底的に筋肉で敵を追い詰め、結果的に撃ったので利用した、はなかなか見ないパターンかもしれません(笑)
粘り腰を見せるバンパイラのフライング頭突きに苦しみながらも、食らいつく桃は至近距離からの射撃を叩き込み、兄たちが足を掴んで地面に叩きつけたところを、カラミティブレイカー。
今作スーツの特徴ではありますが、ライフバード召喚からブレイカー発射まで、透明フェイスシールドで中のマツリの顔を繰り返し映すのも、なかなか思い切った演出。
「能力を奪う事はできても、悪に立ち向かう気持ちまでは、奪うことはできないわ!」
ビクトリーロボが高速緊急合体すると燃える街を足下に夜戦となり、巨大戦でも決め台詞の所は全てマツリの瞳を見せての、ビクトリープロミネンスで勝利を飾るのであった。
なお、戦隊ヒーローの目出し演出の先達としては『超新星フラッシュマン』の例があり、今作ほど大胆ではありませんが、渡辺監督による、長石監督オマージュの部分もあったのかもしれません。
生身Vアタックでサイマ獣に突っ込んでいくのに比べれば、人の世にさしたる怖いものなし、と先輩は懸命なリハビリに励み、
――「おまえが本当の戦士なら、歩ける筈だ!」
って、天堂竜が言ってた。
やたら扱いの良いゲスト(演じた田邊智恵さんは、90年代を中心に《スーパー戦隊》シリーズなどで活躍されたJACのアクターで、経歴を見る感じ、引退公演みたいな意味合いもあったのかもしれません)、スタッフの愛を強く感じるマツリ、遠巻きに二人を微笑ましく見つめる兄貴たちで、幕。
冒頭の流れから、〔車椅子とリハビリ・変身不能・戦士に必要なのは力だけではない〕といった定番要素をバランス良く組み合わせてくるのかと思いきや、マツリが先輩にオレンジジャケットを渡そうとする辺りで風向きが変わると、あれよあれよと70~80年代的な戦士の狂気に接続されたまま、フルスロットルで断崖絶壁を跳び越えてみせる仰天のトンデモエピソードで、これは個人的に放映当時よりも、過去作品を色々と見た今だからこそ面白さが増したエピソードかもしれません(笑)
なんだか、大変いいものを見せて頂きました。
フォージャスティス!!