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夢の彼方

救急戦隊ゴーゴーファイブ』感想・第6話

◆第6話「カビが来る!」◆ (監督:長石多可男 脚本:小林靖子
 「マトイにいがリーダーって、誰が決めたんだよ」
 「オレ。やっぱ、長男=リーダーだからな」
 激震! 第6話にして救急戦隊に勃発する、リーダーの座争い!!
 「何それ。おまえ、絶対職場で嫌われてたろ」
 「おまえって誰に言ってんだおまえってのはよ」
 直情的で少々我が強く、調子に乗りやすいところのあるショウと、万事に前のめりで暑苦しく、責任感の強さと仕切りたがりが融合しているマトイが、レスキュー活動の帰路に車中で取っ組み合い寸前となり、そういえば巽カーは左ハンドル。
 ダイモンが無責任に囃し立て、マツリが止めに入り、ナガレが呆れる中、家に帰るとショウには、花形チームのチーフパイロットに任命するから帰ってこようぜ、と昔の職場から手紙が届いていたが、勝手に開封していたクズ父は「今のおまえには関係ねぇだろ」と平然と言ってのけ、あと1分ほど帰宅が遅かったら存在を知る事もないままシュレッダー送りだったと思われるので、そこは、変身してからパンチしても視聴者は許すと思います!
 「親父も、マトイ兄も、仕事と家を一緒にしすぎて、けじめがなくなってんだよ! これだから家族と一緒に仕事すんのはやなんだよ!」
 冒頭では首都消防局と連携しながらレスキュー活動に当たっていたゴーゴーファイブ、すっかり「家業」扱いになっていますが、父と長兄の絶望的なデリカシーの低さに怒ったショウがジャケットを脱ぎ捨てると家を飛び出していく一方、災魔一家ではディーナスがスライムサイマ獣を地上へと送り込んでいた。
 「愚かな人間ども。自分で自分の命を縮めるのだわ。うふふふふふふふ」
 マトイはショウの復職を阻止するべく家族会議を始めるが弟妹の反応は鈍く、そもそもショウの夢を止めてよいものかとナガレが気遣いを見せると、ショウが猛勉強の末に航空隊に合格した際に家族でお祝いしたイベントムービーが再生され、ご家庭カラオケを熱唱して祝福してくれるマトイ兄さんの、真心しか無い面倒くささ加減が絶妙(笑)
 古典的ヒーローテーゼとして、個人の夢と公の正義が天秤にかけられ、そもそも私たち、強制無職のショックに乗せられて、無法親父の蛮行を受け入れすぎていたのではないか、と改めて一同反省する一方、デリカシーの無い家長どもの強権発動に腹は立つがゴーゴーファイブの存在意義は理解しているショウは「そろそろ反省してるだろう」と家に戻ろうとするが、実家の壁が、新たなゴーグリーンを募集していた(笑)
 「おい、玄関にショウのブレスが落ちてたぞ」
 気遣いの掛け違いが家族仲のこじれを加速させ、ブレスを捨てて前の職場に顔を出したショウだが、毒性の強い細菌カビ・トリプルXを狙うスライムサイマ獣が基地を襲撃し、ショウは実家に緊急連絡。
 「助けに来たぜ! 航空隊のチーフパイロットさんよ!」
 「そりゃどうも!」
 ところが輸送用のアタッシュケースが破損してトリプルXが空気中に噴き出してしまい、カビの拡散を防ぐ為にショウは隔壁を作動してブロックを決死の封鎖。
 「ショウ! 大丈夫か?! ショウ!」
 「ここは俺がなんとかする。マトイ兄は災魔を……」
 ここでメットの中のマトイの表情(左右に揺れる目)がチラリと挟まれ、
 「……わかった。なんとかならなかったってのは、無しだぞ!」
 ショウにその場を託すのが、兄弟の繋がり、「葛藤」と「決断」の描き方に今作スーツの特徴を活かし、視線を重視する長石監督の演出ともはまって、巧妙でした。
 赤青黄桃vsスライムサイマと、緊急用の解毒装置を起動しようと解除キーを探すショウの姿が並行して描かれ、カビ毒に冒され体力の限界に達しようとするショウは、通信から響いてくる兄の言葉に、厭味でも皮肉でもなく、昔からの夢として兄が本気で部隊復帰を応援してくれている事を知る。
 「しょうがねぇな……マトイ兄、折角だが、肝心なとこ忘れてるぜ。俺の作文はこうだった。……将来は、航空隊に入って、一番のパイロットになりたいです。そして……兄妹みんなで、街や人を救いたいです。……あの頃は、ゴーゴーファイブなんて、無かったからさ」
 「ショウ……!」
 今作の基本ラインとして父親の蛮行に対して甘いところはありますが、ショウは決して、個人の夢を捨てて家業の宿命や公の大義に尽くす道を選んだわけではない、とされて社会人としての巽兄妹に一つの解が与えられると共に、それをただヒーローやるのに都合の良い考え方に収めるのではなく、“子供の頃の夢”と“スーパーヒーローチームの存在”が繋げられる――有り得なかった夢を実現する場としてゴーゴーファイブが位置づけられる――のが、物語としてもメタ視点としても、非常に鮮やか。
 「終わりだな、ゴーゴーファイブ
 「……くっくっくくくあはは……」
 「ん?」
 「おい聞いたかナガレ、俺は最初から変だと思ってたんだ」
 「なんなんだ急に?!」
 「ああ。身内の事だから、放っといてくれ」
 外ではショウの真意を知った赤青黄桃がファミリーパワー充填100%で再起動すると、星川兄妹ばりのブラザーフォーメーションによって3人がかりで緊急発射された赤が、サイマ獣を一撃粉砕。
 だがショウは解毒装置の起動キーを見つけるも体力の限界で気を失い、巨大スライムと取っ組み合うビクトリーロボは4人乗りでは必殺剣を使えず、絶体絶命のショウにコックピットから呼びかけ続ける赤は通信機のボリュームをひねり……何をするのかと思ったら、
 「ショウ! しっかりしろ! なにか喋れ! ……待ってろ! 今目ぇ覚まさせてやるぜ!」
 力強く歌い出すのは、してやられました(笑)
 なまじシリーズ過去作品を見ている為に、回想シーンにおける祝いのカラオケはマトイのキャラ付けとして、矢沢永吉の楽曲熱唱については、てっきり監督が趣味でねじ込んだ(長石監督は過去にも何度か、矢沢永吉の楽曲を演出として使用)とばかり思っていたので、まさか! れっきとした布石だったとは!!
 「……音痴が。……それに古いんだよ……これだから、家族ってのは……」
 解毒システムの起動に成功したショウが家族の元へと走って行くシーンの背後に流れるのがマトイの歌、という第6話にして思い切った演出で、図ったかのように玄関に姿を見せたモンドがショウにブレスを手渡し、なんだか、父さんは全てわかっている空気を出していますが……この人は一発ぐらいぶん殴っても司法は許してくれると思います!
 「着装!」
 地面に倒れるビクトリーロボに緑が乗り込むと、家族の揃ったVロボは再び立ち上がり、驚愕のハシゴ大回転キックから、ビクトリープロミネンス。
 三男坊の脱退騒動を乗り越えた兄妹は、モンドはショウの作文の内容を一番正確に覚えていたのでは、と大変いい方向に解釈するが、当のモンドは照れくさいのか本当に覚えていないのか、なんともいえない態度で兄妹一同を呆れさせ、ハイ解散で、Mission Complete.
 ……まあ父さんはまだ、10年ぶりに再会した子供達との距離感を掴みかねている様子の演出をされており、後々の為にも、どちらとも取れる表現に収めたと思われますが、この辺りは今作ならではの面白みとなっています。
 前作『ギンガマン』でメインライターを務めた小林靖子がサブ2番手として参戦し(第4話が宮下隼一との事)、戦隊のコンセプトを活かす軽妙な兄弟喧嘩から、失業戦士たちの抱える“公と私の対立”テーゼを経由して、
 ゴーゴーファイブは彼(等)にとってなんだ?」
 を鮮やかに意味づけ、期待に応えてくれる出来でした。
 作品の基本設計の部分を補強しつつ、実に“ヒーロー作品らしい”形でキャラの掘り下げに繋げてくる手管は、お見事。
 次回――よしいいぞナガレ! 君がディーナスと絡んでくれると、私は信じていた!!
 でも、
 「君のハートを、スーパーレスキュー」
 ……は、5点(100点満点)。
 自分で自分にオチを付けていく路線が癖にならないか、心配です。