東映特撮に踊らされる駄目人間の日々のよしなし。 はてなダイアリーのサービス終了にともない、引っ越してきました。
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夏また夏の読書メモ

夏の読書スイッチ

●『刀と傘-明治京洛推理帖-』(伊吹亜門)
 明治政府に対する武装蜂起を主導した罪で投獄されていた元志士・平針六五が、処刑執行の当日、食事に混ぜられていた毒によって死亡する。黙っていても死ぬ筈だった平針は、何故、それよりも早く死なねばならなったのか。東京から平針の裁判の為に京都を訪れていた、司法卿・江藤新平と、その部下で元尾張藩士・鹿野師光は、事件の真相を探るのだが……。
 著者の出世作となった「監獄舎の殺人」は以前にアンソロジーで読んでいましたが、犯人の動機、事件の真相、改めて読んでもいずれも鮮やかな出来映え。
 その「監獄舎の殺人」を中心に前後に2編を置き、江藤と鹿野の出会いから、明治新政府が樹立して間もない混迷の時代に翻弄される人々と幾つかの事件を描く連作短編集で、戊辰戦争前夜から佐賀の乱まで、史実の流れと短編ミステリに二人の男の生き様を組み合わせた組み立てはどこか山田風太郎の諸作を思わせますが、それも含めてなかなか面白かったです。
 白眉はやはり、動機から真相への流れが冴える「監獄舎の殺人」。
 難点としては、「監獄舎の殺人」以外の4編いずれにも見える謎解きそのものの弱さと、場面描写の読み辛さ。先に読んだ『焔と雪』もそうだったので、これは私と作者の相性の問題もありそうですが、とにかく描写がくどくどしくて要点を掴みにくいところが多く、そこはマイナスでした。

●『逢魔が刻-腕貫探偵リブート-』(西澤保彦
●『異分子の彼女-腕貫探偵オンライン-』(〃)
 久方ぶりの西澤保彦、久方ぶりの腕貫探偵。
 ……だったのですが、『リブート』の方は収録4編中、腕貫探偵が直接登場するのは1編に留まり、残り3編の中の1編は舞台こそ櫃洗市であるものの腕貫探偵は間接的に名前があがる事さえなく、ひたすら西澤さんのエログロ趣味を読まされるだけの正直駄作で残念。
 『オンライン』の方は、悩みを抱えた相談者が市民サービス出張窓口の死神のような男に鮮やかに謎を解かれるシリーズのフォーマットは守られているものの、ある程度は意図的なのでしょうが、収録3編のいずれも一人称の語り手がひたすらぐちゃぐちゃとした喋り方かつあまり好感の持てない人物として造型されているのが読んでいてなかなか辛かったところ。
 理路整然とせずに話が前後に飛んだり脱線したり、回り道が繰り返されるのはリアルな一面はあるのですが、それが読み物として面白いかはまた別であり、究極、別にこの人たちの悩みが解決しなくても特に気にならないな……とまでなってしまうのは、もう少し手心と整理があっても良かったのでは、と思いました。
 ただ、表題作の「異分子の彼女」は、ちょっとした引っかかりはあるものの、綿密な伏線と、著者の得意とする、人の記憶の誤魔化し・勘違い・書き換え……などが徐々に剥ぎ取られて真実に近づいていく“恐怖”、とが巧く噛み合って秀作でした。