『仮面ライダーガヴ』感想・第31話
◆第31話「辛苦マリアージュ」◆ (監督:上堀内佳寿也 脚本:内田裕基)
「え、絆斗とラキアがくっついた?! よくわかんないけど、すぐ行く!」
相変わらず相性の微妙な絆斗とラキアだが、それより何より、ラキア、その面妖な柄の上着は、どこで手に入れたの……?
ショウマには黙って「井上みちる」を追っていた絆斗は、別人の井上みちる(男性)が2週間前に失踪していた事件に行き当たるが、別口でプリン店主の失踪を探っていたラキアとバッタリ。
一方ストマック社では、最高権力者に膝を折る忍従の道を選んだランゴだが……相変わらず社長の椅子にどっかりと腰掛けてはいた。
「ランゴ兄さん、そこはもう兄さんの席じゃない。リゼルの席だ」
言・わ・れ・た。
「ジープ……随分偉そうじゃない?」
「偉そうじゃない。偉くなったの。最近仕入れが少ないんだから、さっさと仕事してくれる?」
「質のいい材料を厳選しているからな。焦って目先の利益に飛びつくだけじゃ、会社は長続きしない」
経営哲学を力強く語るランゴ元社長の先を見る目は、F・U・S・H・I・A・N・A。
「口答えしないで! 今は私が副社長。私の命令は絶対よ」
「…………ヒトプレスの回収に努めます。――副社長」
前回の成り行きからてっきり、真っ逆さまに転落して会議室の机磨きと灰皿掃除から始めているかと思っていたランゴ兄さんですが、意外や屈辱や怒りを表に出す事なく淡々とした態度に徹し、この逆境を跳ね返すべく虎視眈々、といった風情。
……まあ兄さんのFUSHIANAはFUSHIANAなので、FUSHIANAではない未来が待ち受けているのかどうかは大変FUSHIANA、じゃなかった、不安です。
「……ジープ。あんた、こんな事してなんのつもりよ」
「大丈夫。グロッタ姉さんには何もしないから」
ジープの目はランゴの背中だけを睨みつけるが、その背のグロッタは怖い表情で苛立たしげに指を動かし、生まれついての教育の賜物とはいえますが、姐さん、狂犬だけど割と会社好き(笑)
裏社会ファミリーとして、守られるべき序列による秩序があり、それをよそ者に乱されるのが気に入らない、という意識も強いのでしょうが……今閃いたのですが、頭足類と武闘派繋がりで、グロッタ姐さんが大統領と再婚すれば、万事解決?
リゼル「ちょっと、あたしを誰だと思ってるの?」
グロッタ「それは勿論、私の可愛い娘よぉ?」
リゼル「娘ぇ?!」
ボッカ「はっはっは、そういえばまだ言ってなかったね。彼女が今日からおまえの、新しい母さんだ」
グロッタ「ふふふ、よろしくぅ」
かくして始まる、血湧き肉躍る継母子肉弾バトル! 勝つのはどっちだ?!
に期待が高まる中、絆斗とラキアは失踪者の点と点を結ぶ理髪店に辿り着くが、慎重に探りを入れようとする絆斗に対し、待ちくたびれたラキアが乗り込んできた事で、グラニュート(ハナカマキリ?)の正体を露わにして店主は逃走。
圧倒的にコミュニケーションと友情パワーの不足する絆斗とラキアは、俺が俺がとやっている内にグラニュートの吐き出した粘着弾を受けて絆斗の左手とラキアの右手ががっちりくっついてしまい、なんとか剥がそうと互いに引っ張り合うが、腕力では圧倒的不利なので、思わず銃口を向ける絆斗(笑)
「もげるもげるもげるもげる……もげるっておまえ! っなろ! あいててて! ○□●△××ぐ×*◇! ちょい待て! 待て! 待って、待って、待っちょいちょごめんごめんごめん!」
それは良くない。
気の弱そうなカマキリグラニュートがその隙に逃走すると、追いかけようとした2人はまたも息が合わずに七転八倒し、絆斗は尻に、ラキアは顔面にダメージを受ける。
「……だる」
そんな騒動はつゆ知らず、前回の猿グラニュート探しの際に見つけた駄菓子屋を訪れたショウマはキャラメルと出会い、大変意味ありげな店主ですが、2話連続登場でショウマと絡むも名前がクレジットされず、もしかすると「井上みちる」の兄とか弟の可能性もありそうでしょうか。
人間界を散策中のリゼルはアンティークショップを訪れ、支払いはグーパンで、とバトラー召喚。
リゼルのレベルになると、そもそも「支払い」という概念を持っていなさそうですが、ストマック社の闇バイト各自が現地通貨をどう調達しているのかは多少気になる点ではあり、前回-今回と、まるで誰かに“成り代わった”かのように、明確な根城を持った闇バイトが登場しているのは、グラニュート描写の変化として意図されているの気にかかる点(洋菓子屋は移動していたので……例外(笑))。
絆斗とラキアは幸果社長に救助を依頼しており、見よ、このノミ、ハンマー、チェーンソー!!
だが社長の秘密兵器も歯が立たず、ひたすら揉め続ける辛味と苦味。
「おまえ、俺のことバカにしてんだろ」
「そうだな。バカにしてるおまえはバカだ」
「なんだと、俺のどこがバカなんだよ?!」
目を剥く絆斗に対して、ラキアはこれまでの絆斗の失点を次々と叩きつけ……個人的に、物語がキャラクターに与えた“情念”の存在を無視して、外野の視点から正論で殴らせるのは、キャラクターに対してアンフェアな印象があってあまり好きではなく。
予告を見るに次回跳ね返ってきそうな刃ではありますし、ラキアだからこその言葉だと納得できればまた話は違いますが、どうもちょっとメタ視点が入っている印象ではあり。
幸果社長が間に入ってなだめようとするが、両者和解の提案は受け入れず……
「グラニュートだからじゃねぇ。俺はこいつがっ、気にいらねぇんだ」
「ああそうだな。人間かどうかは関係ない」
ドタバタメインで進みつつ、こういった一線に目配りがあるのは、良いところでした。
辛味と苦味のマリアージュが甘味で全く緩和されない中、眷属ライダー隊からグラニュート発見の報告がもたらされると、2人は手に手を取り合って(ラキアが絆斗を引きずって)再出撃。
神社に潜んでいたカマキリグラニュートから参拝客を守ると、あ、そのまま変身できるんだ……からプリンの海に溺れかけた絆斗はゴチゾウに助けを求め……ううーん……今作、複数の監督が画面に台詞の文字やマンガ記号を乗せてきますが、まともに喋れない状況や人語で意思疎通できない存在について、そこに全て文字を乗せて説明してしまったら、状況設定の意味そのものが薄くなってしまうように思うので、好きではない手法。
やるなら、「文字を出す事そのものが面白くなる」まで工夫してこそと思うのですが、芝居を潰してただ唐突に視聴者に向けた字幕が出るだけですし、ゴチゾウに至っては、ストレートな意思疎通できない事こそが愛嬌なのに、テロップで説明を入れたら全て台無しでは。
ヴァレンとヴラムがなんとか変身に成功していた一方、幸果から連絡を受けるも路地裏で響く悲鳴を聞きつけたショウマが目にしたのは、リゼルが放ったバトラー(眷属?)が、アンティーク店の主を痛めつけている光景。
「邪魔をするな……赤ガヴ」
「…………おまえ、何者だ」
気取った仕草で服を直し、ストマック社のエージェントよりも格上感を出すバトラーに対して、ショウマは器用に駄菓子の袋を持ち替えながら変身。
ハナカマキリグラニュートと戦うヴァレンとヴラムはどうにも息が合わないが、鎌から四方八方に放たれたカマキリ衝撃波が直撃すると、硬化していた粘着液が砕け散り、うーん…………両者手を取り合った状態でのアクロバットなアクションの工夫に多大な期待をしていただけに、あまり活用されずに残念。
ダブル射撃を受けたカマキリグラニュートは抜け殻を用いてしぶとく逃走するが、境内の樹に残る鎌の傷跡を見たラキアは表情を変え……それは、コメルの背を切り裂いていた斬撃の跡と一緒……?
いっけん気弱なカマキリグラニュートは、ストマック社の始末人だったのか? 思わぬ繋がりが浮上する中、ガヴは優れた体捌きを見せるバトラーに苦戦中。
「強い……おまえはいったい?」
「私のパパの眷属よ」
リゼルに付き従う執事の正体は、リゼルどころか大統領の眷属と判明し、それは強いわけだと深く納得。
「ねえ赤ガヴさん、ちょっと私に付き合ってよ」
前門のバトラー、後門のリゼル、かと思いきや、何故かバトラーに拳を収めさせたリゼルはガヴへと誘いをかけ、果たしてその真意や如何に、でつづく。
ストマック社のお家騒動により背後で大きく物語を動かしつつ、ショウマサイドは明るく楽しく増量で展開するのは第29-30話と同じ方針であり、酸賀ヴ編からの起伏としても納得はいくのですが、クライマックスバトル前の演出と、サボテン直撃の辺りは特に羽目を外しすぎた感。
また、後編にいいところを見せるのだろうとは思われますが、基本的に強キャラ扱いであるラキアに、絆斗がぐっちゃぐちゃに振り回され通しなのも、あまり面白くは感じられず――絆斗は絆斗で、普段かなり気を遣われているキャラなので、このぐらいでバランスが取れるという判断だったのかもですが――アクション面での消化不良なガッカリ感もあり、もう一つ楽しめないエピソードとなりました。
なんというか、ラキアが絆斗に対してヒエラルキー上位者として振る舞うと、筋力の差がそのまま出てしまう事になり、特に今回はそれが(或いは意図してのものなのか)映像とも重なってしまったなと。
……これまでの描写を考えると、ラキアの魂はアメフト部のキャプテンであり、絆斗の事は、いっつも調べ物ばかりしてやがるが肝心なところで役に立たない干からびたピーマンみたいな野郎、と本気で見下している可能性も充分ありますが、後編で上手くまとまってほしいところです。
そんなわけで次回――プリンがいっぱい(ば、買収された?!)。そしてニエルブとデンテが邂逅!