『仮面ライダー(新)』感想・第52話
◆第52話「洋の父が生きていた! 改造人間FX777とは?」◆ (監督:奥中惇夫 脚本:江連卓)
「暗黒星雲の帝王にして、ネオショッカーの大首領よ! なにとぞお怒りをお鎮めくだされ、なにとぞなにとぞ~!」
追い詰められたらオカルトだ! と魔人提督がLINEメール完全無視の大首領に舞いと千の耳を捧げると、突如として画面外から巨大な手が伸びて提督を鷲掴みにし、ワシがなんで怒ってるかわかってんの? と言われた魔人提督は散っていった怪人たちの幻を見せられる、回想大爆死祭。
「今度仮面ライダー打倒に失敗したら、命が無いと思えぇぇ!!」
「既にその覚悟で、万全の策を、講じております」
「ならばゆけ! 行って仮面ライダーを、自らの手で殺してこーい!」
巨大な手にぽいっとされた魔人提督は魔人像の間まで投げ飛ばされ、第32話以来20話ぶりに大首領が口を聞くと共に、大首領の正体(今回の器)が示唆され、いよいよキャリアの崖っぷちに立つ魔神提督は、筑波洋へと憎悪を向ける。
その洋は筑波家の墓に手を合わせており、洋両親は3年前に自動車の爆発で死亡していた事が判明。
(時限爆弾を仕掛けたのは、ネオショッカーだった)
えええ?!
……ま、まあ、この1~2年の間に「両親の死にネオショッカーが関わっていた事が確認された」で話が通じないわけではないですが、両親の死後(天涯孤独の身の上は、第1話で言及あり)、志度博士と出会うまでネオショッカーのネの時も知らなかった筈の洋が、両親の死とネオショッカーを繋げているのはあまりにも唐突で、また新しいユニバースへ移動している疑惑さえ漂います。
いきなりクライマックスが始まりがちなのは時代の作劇とはいえ、これなら、子供洗脳パターンを2話続けていないで「両親の死にネオショッカーが関わっていたと知る話」が欲しかったなと。
TVシリーズ中断期間を挟み、仕切り直しで新たな“改造人間の物語”を始めようとしながらも、初期シリーズから“物語としてのアップデート”を行えないままだったのは、今作の残念なところになりました。
ナレーション「その頃、城茂は、ネオショッカーのアジトを発見した!」
墓参りの用事でもあったのか、またも来日していた城茂は、ライダー悪のあるところセンサーによりネオショッカーのアジトを発見。そこで、亡き洋父の親友であり、こちらも3年前から消息不明になっていたナガヌマ博士の姿を目撃すると洋に連絡し、ナレーションによる説明連発で物凄い勢いで話が進んでいくと、洋の父が「筑波博士」なのもナレーションでさらっとねじ込まれます(笑)
なにかと雑でお馴染み我らが城茂先輩は、アリコマンドにしか効かないから大丈夫(信用度50%)と、催涙弾を屋敷に向けて放り込み、アリコマンドが外にいぶり出されている間に洋がアジトへ突入。
ナガヌマ博士を無事に助け出すとブランカで事情を聞き、博士が3年の間、ネオショッカーへの協力を強制されていた事と共に、驚くべき真実を告げられる。
「君の、お父さんとお母さんは、生きてるぞ」
人工心臓学の権威であった父もまた、ネオショッカーに勧誘を受けていた事を知った洋は、遺骨も確かに収めたし、父がネオショッカーに協力している筈がない、とナガヌマ博士の目撃証言を強硬に否定。
肉親の情としてはわからないでもないですが、母親が人質扱いらしき様子も窺えますし、父の生存とネオショッカーへの協力を頭ごなしに否定すればするほど、似たような状況下で(多分)心ならずもネオショッカーに手を貸していたナガヌマ博士を詰るも同然であり、遡れば志度博士にまで飛び火しているのは、少々デリカシーを見失いすぎた感。
洋と茂は、ナガヌマ博士に教えられたアリコマンドドックへと向かい、組織因縁の敵を素通しするドクターX、セキュリティ意識薄すぎ(笑)
洋と茂はドクターXから3年前の真相を強引に聞き出し、洋父がネオショッカーのスカウトを断り続けた末に、時限爆弾によって爆殺された事を改めて知る。だが……
「あの時の爆発でおまえの父はバラバラになって死んだ。だが、心臓と脳だけは、少しも破損されずに残っていたんだよ」
「それでは」
「そうだ。おまえの父はおまえと同じように、改造人間として、甦ったのじゃよ。……その手術をしたのは、この私じゃよ!」
「……父が……父が改造人間に……」
まだ意識のあるアリコマンドに廃棄処分の札をにこやかに貼り付けるなど、狂気を宿す瞳を爛々と輝かせるドクターX、てっきり洋父ご当人かと思っていたのですが、そうではなくてちょっと残念(笑)
「改造人間ナンバーFX777……それが……俺の父さんなんだな」
「そうだ。姿形はすっかり変わってしまったが、おまえの父親は、儂が作った改造人間の中では、最高の芸術作品じゃよ。ぬはははははは!!」
「黙れぇ!!」
洋は怒りに任せてドクターXの首を締め上げると殴り飛ばし、恐らく首がポキッと折れましたが、多分きっとアリコマンド程度の自己改造はしていると思われるので、実質的に改造人間です、セーフです。
激情のまま洋はバイクを走らせるとスカイ変身し、第三支部へとライダーブレイク!!
……ライダーブレイク!!
ライダーブレイク!!(感涙)
怒りのあまり優に30話以上ぶりのライダーブレイクが飛び出し、この勢いなら再び空も飛べそうですが、正義のヒーロー概念が服を着て歩いているような無味無臭優等生だった洋の背景を肉付けし、パーソナルな感情を引きずり出そうとするアプローチ自体は面白いものの、肝心の洋父があまりにも無から出現した為、視聴者に準備運動をさせないまま洋が日本海の荒海に飛び込んでいってしまう事となり、岸辺から見送るしかないのが、惜しまれます。
FX777は半年前に栄転しており、今度はアリコマンド養成所だ! と怒濤のカチコミを続けようとするスカイライダーだが、それにストップをかけたのはなんとガンガンジー。
ネオショッカーのまっただ中へと無謀な突撃を仕掛けようとするスカイライダーを止めるガンガンジーはここでは“理性の象徴”となっており、スカイライダーが“私の感情”剥き出しで暴走している事を示してもいるのですが、筋に絡まずやかましいコメディリリーフとして投入されてより18話、まさか主人公を諭す“理性の擬人化”に収まって、ブランカでその他大勢に飲み込まれていた谷の仕事をさらっていくとは夢にも思わず。
もっとも、ヒーローとしては必要薄めの理性とはいえるので、言動とは裏腹に、ガンガンジー自身は鎧の神通力が消えて“ただの人間”に戻りつつある事も窺えます。
「それでも行かなければならないんだ! どけ!」
ガンガンジーを振り切ったスカイが訓練中のアリコマンドのまっただ中に突っ込んで手当たり次第に蹴散らしていくと、そこに現れる迷彩服にコブラヘルメットの改造人間。
生前の姿はどこへやら、下衆なチンピラ感丸出しの養成所教官は剣を振り回すが、その正体はFX777ではなく、FX797。
既に777は関東管区司令官に抜擢されており、父さんは、悪の組織で成り上がりの道を爆走していた(笑)
……まあ、ナガヌマ博士が改造後に出会っている筈なので、博士の言葉が正しければ以前と変わらぬ姿の筈なのですが、怪しげな情報提供者ではあるナガヌマ博士の目撃証言と、ドクターXの「姿形はすっかり変わってしまった」発言の間の矛盾に、整合性を取る気があるのかどうか。
関東司令部の場所は魔神提督しか知らない、とボールがパスされると、そろそろテンションの保たなくなってきたスカイライダーは多勢に無勢でピンチに陥るが、そこにS先輩が駆けつけると電ショック!
あいつはマジやばい、のはネオショッカーでも有名なのか、途端に逃げ出すアリコマンド(笑)
責任者の意地で抵抗を見せる797は奮戦するがあっさり爆死すると、S先輩が養成所の破壊を請け負いスカイは魔神提督のアジトへ急ぎ、ままあるといえばままあるのですが、関東司令部の位置はわからないけど、魔神提督のアジトの場所は知っている!
返す返すも『仮面ライダーX』第21話における「待てアポロガイスト! 俺はアポロン第二宮殿に行く道を知らない」は素晴らしかったと思う次第です(笑)
養成所の内部へ入り込むS先輩の姿がわざわざ描かれ、ちょっと尺稼ぎ……? と思っていたら、なんと、落とし穴に落ちた!
背後でS先輩が華麗なるライダー仕草をキめているとは思わず、バイクを駆るスカイライダーの前には、とうとう魔人提督が正面から登場。
「待っていたぞ仮面ライダー。今日こそおまえの息の根を止めてやる」
「待て魔神提督! その前に一つ尋ねたい事がある」
殺し合いの前に、ちょっと話し合おう!
「スカイライダー、FX777の秘密を知ろうとするな!」
「教えてくれ魔神提督!」
食い下がるスカイだが、こちとら貴様のせいで築き上げてきた栄光のキャリアに泥を塗りたくられ、人生という名のレールから途中下車寸前なんじゃーーと当然の拒絶を受け、戦闘開始。
全身を機械化しているらしい魔人提督は、左腕をスカイに投げつけ、右腕から毒ガスを噴射。実に30話以上も大幹部の座に君臨してきた魔人提督といよいよ決戦! ……なのですが、ナレーションさんも「改造人間・FX777は本当に洋の父親なのか?!」と別の話題で頭がいっぱいのまま、つづく。
上述したように、ヒーローのパーソナルな部分を引きずり出そうとするアプローチは面白かったと思うのですが、ただでさえ急に飛び出してきた「洋の両親」に、「洋の父は実は人工心臓学の権威でネオショッカーから度重なるスカウトを受けていたが断った為に爆殺されていた!(が洋はそんな事には全く気付いていなかった!)」はいくらなんでも盛りすぎで、洋とネオショッカーの一部の盛り上がりに、置き去りにされてしまいました。
そもそも洋の父もFX777も見た事が無いのに「FX777は本当に洋の父親なのか?!」で盛り上がるのは難度が高い上、「FX777」とか「ドクターX」とかも、どうも世界観の違う言い回しで浮いており…………は?! つまりここは、洋がライダーブレイクを忘れなかったユニバース?!
谷が髭を伸ばし始めた辺りから、何かが変わってしまったかもしれない世界で、果たして洋はセイリングジャンプを思い出す事が出来るのか。次回――魔人提督、殉職!