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仮面ライダーガヴ』感想・第29話

◆第29話「ジープの電撃結婚!」◆ (監督:諸田敏 脚本:香村純子)
 ――あれから一ヶ月!
 この「ひと月のできごと」がOPにダイジェスト風味で描かれ、ショウマは幸果社長から、更なる餌付けを受けていた。
 体調が回復したショウマがポップコーンのゴチゾウなどを産み出す一方、ラキアは酸賀の研究室に勝手に住み込み、ラキアの住居問題が凄くアクロバットに解決してデンテと絆斗、どちらと同居するかの二択は回避されるのですが、その研究所は研究所で、ニエルブがゲートを繋げているのでは……?(笑)
 下手をすると寝ている間に、変身してから数時間後に確実にこむら返りに襲われる仕様にドライバーをアップデートされる悪質な嫌がらせを受けかねませんが、それを抜きにしてもあの酸賀の研究室に寝泊まりできるところに、感覚の違いが窺えます。
 心配された絆斗とラキアの友好度は、絆斗からの貢ぎ物の進呈により上…………昇…………?
 はぴぱれでの仕事や、ストマック社の闇バイト退治が描かれる一方――
 「――俺たちの知らないところで、兄さんたちにも変化が起きていた」
 いつのまにやらグラニュート界に戻るも、砕かれたシータのメモリを手に弱々しく彷徨っていたジープに、どこかの令嬢らしき風情のグラニュートが声を掛け……歯形のUSBメモリ、どうやらグラニュート感覚だと人形に見えるらしい、のは一周回って納得というか「わーー何それ? 壊れたお人形? 可愛い!」が強烈すぎて、カブト男子回で浮かんだ引っかかりが綺麗に吹き飛びました(笑)
 そして現在――ショウマは絆斗の奢りでチョコフラッペの眷属を量産しており、鉄砲玉のお値段……600円ぐらい?
 ……なんか気になってきたので、例しにスターバックスのメニューを調べてみたところ、「コーヒーフラペチーノ」が、お値段504円~635円(税抜き/サイズ別)になっておりましたが、ん? あれ? 「フラペチーノ」と「フラッペ」って見た目は似ているけど同じものなの?? と更なる疑問が生じてインターネットジャングルに分け入ったところ、「フラッペ」は日本においては大体「かき氷」の別称ないし細かく砕いた氷にアイスやヨーグルトその他を混ぜ合わせた「フローズンドリンク」全般の意で用いられ(元々はまた、別の飲み物の名称らしい)、「フラペチーノ」とは、「フラッペ」と「カプチーノ」を組み合わせたスターバックスのオリジナル商品名との事。
 なお命のお値段は、喫茶店の席代を加えずにコンビニで確保すれば、500円以内ぐらいでは済むようです。
 閑話休題
 「この世界のどっかに、みちるさんの家族が居る筈だ。それはつまり……おまえの親族でもある。……おまえが望むなら、探してみようと思って」
 絆斗はショウマに、人間界における「井上みちる」の痕跡を追う気はあるかと持ちかけ、絆斗の中で諸々の整理がついて次のステップへ進み出せるようになった事を、ショウマの母の存在に踏み込む事で象徴。
 「母さんの、さらわれる前の、家族……」
 「……どうする?」
 「……ありがとう。でも……怖い、かな」
 「そっか。……まあ、そうだよな。ゆっくり考えろよ」
 そんな二人の傍らを通り過ぎる、青いドレスに銀髪縦ロールのどこか浮世離れした女……酸賀の消えたOP映像には、巨大な城のような邸宅と、新たに二人のグラニュートが加わり……ランゴ兄さんの、立場がまた危ない!
 「いつになったらヒトプレスの仕入れ数が戻るわけ? 闇菓子の生産数が落ちちゃってつまんないんだけど」
 重役会議ではのっけから工場長に非難を受け、ランゴ兄さんの、立場がまた危ない!
 基本的に、間を取り持ち潤滑油になる人物が居ないこの兄妹、本日もギスギスし始める会議だが、そこに乗り込んできたのはなんと、家出したまま放置を受けていた(兄さんのダメなところが詰まってますね……!)三男ジープ・ストマック。
 「戻ってくるなら、まず言うべき事があるんじゃないのか?」
 「だから、報告に来たの。……リゼルー」
 「ストマック家の皆さん、はじめまして」
 「私、彼女と結婚したの!」
 「はぁ?」
 驚きの予告で既に炸裂していた爆弾ですが、シータを喪い「此の世に存在する意味を失っていた」ジープが、お望み通りに政略結婚の駒になってあげたから文句は言わせない、ただしこのカードは私が武器に使うという形でランゴに痛烈な仕返しを行うと共に、復讐の為の刃を手に入れようとするのは、実に鮮やか。
 底の底に堕ちた者同士でジープと酸賀が出会ったら面白いかな……と思っていましたが、新キャラの投入手段としても非常にスムーズで、見事にしてやられました。
 ドレスの令嬢は、ネズミのようなグラニュートの姿を現し、その名を、リゼル・ジャルダック。
 その正体は、エージェントを軽々と粉砕して会議室に闖入してきた、ボッカ・ジャルダック大統領の娘であり、大統領たるもの体を鍛えていなくては、いざという時にゾンビや宇宙人と戦えません!
 会議室に殴り込んで有無を言わせない 最高権力者の登場にランゴ兄さんらはかしこまり、既にジープにより、人間界に繋がるルートの独占についてバラされていたストマック社、急転直下の大ピンチ。
 「……ジープ……おまえ……」
 「ちょっと、私の可愛いお婿さんなんだけど」
 「ランゴくん、私はね、その別の世界と、人間とやらを使った怪しいお菓子に興味があるんだ。もっと詳しく、聞かせてくれないかね」
 大統領は言下にプレッシャーをかけてランゴに語りかけ、富裕層に食い込むどころか権力者に睨まれました(笑)
 長らく、ストマック社以外のグラニュート界の有様が不明瞭だった今作ですが、いきなり政治権力のトップが登場すると、娘ともどもかなり強権的な雰囲気を漂わせ(「大統領」の肩書きにポジション以上の意味は無いと思われ)、ランゴ兄さんの、立場がとにかく危ない!
 そんなボッカ大統領の頭部デザインは頭足類モチーフめいておりますが、大王ならぬ女王イカは既にグロッタの姐さんが居ますし、コウモリの翼めいたパーツが後部から側面を覆っている事を合わせて考えると、旧支配者クトゥルフ……?
 規格外の大物モチーフの可能性にメタ視点でもランゴ兄さんの立場がますます悪くなる中、平然と社長の椅子に腰を下ろした大統領に向けて、既に人間界を覗きに行った旨をリゼルが話している間に、(おい、どうすんだよこれ)とニエルブに視線を向けるランゴと即座に目をそらすニエルブの小芝居が面白く、大統領はどうやら溺愛している様子の愛娘に異世界別荘を約束。
 「別荘、用意してもらえるかな?」
 「……かしこまりました」
 眉間に皺を刻みつつ、へりくだって承諾する兄さん……これまで辛うじて保ってきた格があっという間に真夏のアイスの如く溶けて消えましたが……でもこれは見ていて楽しい、凄く、新しい楽しさの扉を開いているよ兄さん……!!
 落差を見せる事でキャラに愛嬌や厚みを与えるのは定跡ですが、家長として尊大かつ高圧的に振る舞ってきた組織のトップが、不意打ちで表の権力者の前に引きずり出されて従順に頭を下げるしかない姿は、巨大節穴路線とはまた違った面白さをランゴから引き出す事に成功。
 また、いくら極悪非道の悪役とはいえ、あまり度が過ぎた表現になると不快感が勝ってしまいますし、過剰な顔芸で崩しを入れるのは悪いパターンに流れがちなので、屈辱感を主にランゴの内心で示すのは、役者さんのキャリアも活かした巧い案配の見せ方となりました。
 後まあ、終盤に足下をすくわれるよりもむしろ、今の内にグリグリと後頭部を踏まれていた方が、逆転の目がありそうですし(笑)
 最終的に“ちっぽけな事”にされそうな不安はあるけど、親殺しの因縁については大きなアドバンテージを持っているのは確かなので、負けないで、兄さん!!
 ジープがそんな長男の姿に含み笑いを浮かべていた頃、はぴぱれ一同はバスケの助っ人で試合に参加しており、緊急招集されたラキアのバイト代につけられるのは、色ではなく石。
 ラキアは持ち前の運動能力の高さを活かして大活躍を見せ、ドリブルがだいぶさまになっていますが、役者さん特技回でありましょうか。ショウマは力任せのミラクルシュートを決め、グラニュートの運動能力を持ち込むの、だいぶズルい感じはしますが……社長が役に立っていないので、相殺……?
 一方、リゼルが人間の姿に化けて現れた事から、全てを知って化け人形を手配していた筈だとニエルブは兄と姉に詰め寄られ、会議冒頭でニエルブがやたら疲れた様子だったのと、大統領の登場後にランゴが弟に向けていた視線はそういう意味だったのか、と納得。
 「ジープの奴、よりによって最高権力者に企業秘密を売り渡すとは」
 「ジープがランゴ兄さんを恨むようになるのは、自然な流れだったと思うよ」
 「うちより立場が強い富裕層と繋がって、下克上を企んだってこと?」
 「ああ。……まあ、それだけじゃないかもしれないけど」
 早くも用意された人間界の別荘では、ニエルブの手によってか修復を施されたシータのメモリをジープが握りしめており、改めてアップになると、確かに頭と体で構成された人型にも見えてきます。
 「まさかこんな別の世界が在って、未知の生物が居るなんて。こんなにワクワクすること、私、久しぶりよ。あなたという可愛いお人形も、手に入ったしね」
 「ありがとう」
 ジープがリゼルに拾われた顛末が詳しく語られ、窓の外しか見ていないリゼルに対して、口では礼を言いつつ表情を殺したジープがそれに背を向ける姿で、互いに欲得で結ばれた関係である事が示唆されて、親の権力を笠に着て我が儘放題のお嬢様、というステレオタイプといえる造型のリゼルに、今後どう厚みを与えてくるのか楽しみです。
 一仕事を終えたはぴぱれでは、荷物の取り違えに気付いたショウマが、バスケチームの選手に連絡を取ろうとするも繋がらなかった事から、運動施設を狩り場にしていた猿グラニュートと激突。
 性格は少々間抜けだが動きは素早い猿グラニュートは、口の意匠をコブのようにして上半身に複数取り付ける事で、人体から離れた魁偉にして怪異なフォルムに見せているのが秀逸で、これがポップコーンの、命の爆発!! から、ヴラムの丸太アタックで猿を追い詰めたその時――
 「楽しそうな遊びね。――私も混ぜてくれる?」
 笑顔のリゼルが姿を見せて、つづく。
 絆斗母の死の真相が明らかになってから数話に渡り、かなり重苦しい状況が続いていたので、劇中時間を明確に経過させつつ明るいタッチのダイジェスト構成で、主人公の体調回復や人間関係の変化を描いた導入は、空気をフレッシュに切り替えるのに良い判断だったと思います。
 アバンタイトルのみならず、賑やかなシーンを多めに入れ、戦闘もコミカル寄りに描き、全体としては1エピソードの情報量を大幅に減らし、さらっと飲み込みやすくした作りの中で、いっけん陽性の雰囲気だが底冷えのする酷薄さの感じられる新キャラ・リゼルを中心に、ジープの帰還とストマック社の動乱、井上みちるに近づこうとする絆斗、といった布石はしっかりと打ち、新章開幕としてバランスの良いエピソードでありました。
 次回――シータの死亡後、ジープが髪型や服装をシータに寄せてくるのかとばかり思っていたら、修理した化け人形を使い、シータの姿を鏡に映し出すのは最高にいい感じで、いいぞ、その調子だ!!