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「決めるのはおまえだ」

仮面ライダーカブト』感想・第21-22話

(※サブタイトルは本編中に存在しない為、筆者が趣味で勝手につけています。あしからずご了承下さい)
◆21「誕生前夜」◆ (監督:田崎竜太 脚本:米村正二(※))
 (※配信映像のクレジットは「脚本:井上敏樹」なのですが、前回出演キャストが記載されているなどクレジットそのものが間違っており、米村正二との事)

 「去年は楽しかったな。姉さんが……」
 誕生日を翌日に控えた神代剣は言葉を途中で飲み込み、神代姉が死亡したのはこの1年以内と示唆されますが、現状、神代の記憶そのものの信頼度が低いので、100%“信用できない語り手”の感。
 任務中、ワームの目撃情報のある工場へと入り込んだ加賀美は、警備員だった父が殺害されながらも、ワームの巣窟と化した工場の中でただ一人生き延びていた少年・マコトに助けられると、共に脱出を決意。
 ワームに擬態されたりフォークリフトで大暴れする加賀美が約10分の間に3度の臨死体験に見舞われる一方、美味しそうな匂いを嗅ぎつけ、ビストロを訪れる神代。
 「おい。変なのが来たぞ」
 ひよりさん、直球。
 「誰かと思ったらおぼっちゃまくんか」
 ところがその日は店主が病欠で天道がシェフ代行を務めており……力の抜ける天道×神代パートと、命懸けのサバイバルが繰り広げられる加賀美パートが交互に描かれる趣向となり、少年を連れ出すのに失敗した加賀美は、必ず助けに来ると約束をかわすも死にかけたところをシャドウ部隊とザビーに助けられ、既にワーム工場の存在を把握していた影山は、マコト少年もまたワームに過ぎない、と断定。
 納得できない加賀美は、大怪我を負って入院中のカシラの元に今日も今日とて直談判に向かうが、ZECT本家の不穏な動きを知るカシラにより、とうとう破門を言い渡されてしまう。
 「田所くんは優しいね……」
 落ち込む加賀美を廊下で待っていたのは三島で、田所のカシラ、入院の原因が新たなるクワガタ型ゼクターの資格試験に挑んで見事に落第、だと扱いが可哀想すぎたので、多数の重傷者を出しているテストで部下に被害が及ばないよう自ら志願した為、だったのはちょっとホッとしました(笑)
 だがそんなカシラの心遣いは実らず、加賀美に接触したみっしーは、数々の挑戦者を返り討ちにし病院送りにしてきた伝説のヤクザもとい新たなるゼクター、ガタックの存在を加賀美に伝える。
 「新たなライダー……ガタック……」
 「誕生すればZECT最強のライダーとなるだろう。……ワームの巣に、一人で踏み込める程のね」
 三島は加賀美に、力が欲しいか? と囁きかけ……まあ現在、比較対象となるZECTのライダー、ザビーだけですけどね……!
 みっしーがなかなか嫌らしい立ち回りを見せる一方、ビストロではじいやまでが厨房で腕を振るい始め、神代の舌に合う味を作れるのは当然ですが、その腕前に天道さえも驚愕と共に感嘆。
 そして神代は、ひより作のスープを絶賛し、無駄な方向にプライドを発揮してけなす事なく、美味いものは美味いと素直に褒めるのは、良かったところ。
 正直、前回までの時点だと、役者さんの顔立ちも含めて桐矢京介の残像がちらつく面も多く、井上敏樹の手癖が出過ぎていた神代ですが、良くも悪くも素直、という味付けは愛嬌にもなって、ようやくちょっと、好きになれそうな部分が出てきました。
 「繊細にして大胆……初めての味だ」
 「それはひよりが作ったんだ」
 「君に名誉を与える。俺の誕生日を祝う料理を作れ」
 神代は一方的にひよりにシェフを押しつけ、おかしな状況からあれよあれよという間に繋がる思わぬ人間関係(笑)
 ……この辺りは井上テイストが漂いますが、加賀美パパの聖書引用や、天道と加賀美の関係性の解像度については、米村テイストを感じるエピソードではあり。
 「……なにげに、食い逃げなんだけど」
 360万円は、屋敷や高級車の維持費で消し飛んだのでしょうか。
 料理が人と人の縁を結んでいたその頃、みっしーに焚き付けられた加賀美は、ZECTの実験施設にわざとらしく置かれていたライダーベルトを装着。
 「俺の助けを待ってる奴がいるんです」
 これまで基本的に、正義感や使命感はありつつも私怨をベースにワームどもを一匹残らずぶちのめすんじゃ、と動いていた加賀美がここで、誰かに手を届かせる為に力を欲するのは一つの明確な転機となり、初期の加賀美と行動原理が重なっていた神代とも入れ替わるかのように差別化。
 岬の制止を振り払い、コンテナの中に飛び込んでいった加賀美はガタックゼクターへと手を伸ばすがしかし……ゼクターが求めているのは志の有無ではなく、性癖に突き刺さるかどうかだ!
 資格試験に不合格となった加賀美は重傷を負って病院に運び込まれ、
 (……加賀美め、毎度お騒がせな奴だ)
 岬から連絡を受けた天道、内心の言い回しが、天道の加賀美観としては大変しっくり来ます(笑)
 集中治療室で絶対安静の身となった加賀美を狙う擬態加賀美だが、それを阻んだのは天の道を往く男。
 「このせっかちな加賀美に擬態したワームなら、必ずオリジナルを消しに来ると思っていた――変身」
 病院の壁を突き破って宙に身を躍らせたカブトは、落下中にキャストオフから速攻クロックアップで、時間が無いので巻いております。
 ザビー率いるシャドウ部隊が工場殲滅の為に動き出す中、果たして加賀美の手はマコト少年に届くのか……加賀美ワームはライダーキックでさっくり蹴り殺され、と思ったら直前で幼虫ワームがカバーに入って身代わりとなり、残心を取るカブトの背後にワーム健在なのは、特徴的な回し蹴りライダーキックの動きを巧く利用した、印象的なカットとなりました。
 加賀美ワームは幼虫ワーム軍団に紛れて逃走し、次回――サソードそっちのけで、加賀美覚醒?!

◆22「月下蒼刃」◆ (監督:田崎竜太 脚本:米村正二
 カブトは幼虫ワームを蹴散らし、シャドウ部隊の工場突入は急遽中止され、加賀美は意識を回復。
 OPには早くもマスクドライダー・ガタックの姿が差し込まれ、これまでの追加ライダーとは、別格の扱いを受ける事に。
 「俺が世界の宝なら……あの人は人類の宝。……とでも言っておこう」
 シェフじいやに最大限の賛辞を送る天道の承諾により、ビストロでは神代剣誕生パーティーが貸し切りで行われ、メイドの扮装をさせられるひより、正直、二つ結びはだいぶ方向性が違っていた。
 「おぉ、これだけこぢんまりした誕生会は、俺が飼ってた兎の誕生会以来だ」
 マンガに出てきそうな極端な金持ち像を邁進する神代ですが、今作世界では本当に本当なのか、擬態の影響による“記憶の捏造”なのか、どうも後者の疑惑がぬぐいきれません(笑) ……それだと、どんな突拍子もない大風呂敷を広げさせても、後で辻褄が合わせられる、というのもありますし。
 天道は神代そっちのけでじいやにキラキラとした憧れの眼差しを送り……なんだろう天道、この容姿から時々、やたら“可愛い”を繰り出してくるのは本当にズルいと思います(笑)
 神「おまえさっきから敬語を使う相手を間違っているぞ」
 天「この人に敬意を払うのは当然だ」
 爺「坊ちゃまにはじいが敬意を払っております」
 天「じゃおまえは俺にでも敬意を払っておけ」
 神「なんでそうなる」
 カットを忙しく切り替えながらの3人のやり取りは、テンポも良くてかなり好き(笑)
 神代がビストロで庶民の食卓に舌鼓を打っている頃、みっしーは本日もサプリメントをバリボリと噛み砕くと、工場突入を直前で中止された不満から声を荒げる影山の乱れた襟をそっと直していた。
 「サソードを味方につけろ」
 「え?」
 「おまえなら、出来るよ」
 背景に花でも広がりそうな勢いでみっしーは耽美に囁き、ちょっと既視感あるなと思ったのですが、大教授ビアス様(『超獣戦隊ライブマン』)に近い路線でしょーか(笑) 後、劇中では「サソード」の名前はここが初出。
 巧みな人形遣いの指先により影山はビストロへと向かい、そこに待ち受けていたのは……
 「おまえは?! 天道ジ総司ロウ!」
 ……すっかり忘れていたのですが、無かった事にせずに拾われました(笑)
 これについてはもう、無かった事にしても許されたのではないかとさえ思いますが!
 神代に仕事を命じる影山だが、神代の誕生日を祝う歌を唄う羽目となり、作り笑顔で変な歌を熱唱する影山が「気持ち悪い」呼ばわりされる酷い展開ですが、唄えば唄うほど影山の魂はどんどん浄化されていくので、昨今の所業との帳尻は合ってしまっています(笑)
 一方、意識を取り戻した加賀美は少年を助けに行く事にこだわり、車椅子の田所は、単独でのカチコミを許可。
 「加賀美……確かに、おまえはバカだ。だが俺はそんなバカが嫌いじゃない」
 それ完全に、鉄砲玉の背中を押す時の台詞ですよカシラ!!
 「正しいと思ったらひたすら前に突っ走れ! それでこそ、加賀美新だ」
 “俺の助けを待ってる奴”との約束を守る為、殲滅作戦を開始しようとするシャドウ部隊の頭を飛び越え、加賀美は工場へとバイクで突入していき、ぞろぞろ現れるワームを相手にザビーとサソードも変身。
 乱戦の中、工場内部へと潜り込んだ加賀美はマコトと接触するが……そこで目にしたのは、大量のワームの卵。
 「お婆ちゃんが言っていた……誰にもわからないように、隠し味をつけるのは楽しい。だが、それを見つけるのはもっと楽しい、てな」
 前回からのビストロパートの流れを活かした巧い口上で登場した天道が変身すると、カブト・ザビー・サソードが揃ってワーム軍団と戦うが、またも胸の痛みに襲われた神代は、自らの内部のワームと入れ替わり、カブトを襲撃。
 マコトと逃げる加賀美の前にはワーム加賀美が現れて邪悪な笑みを浮かべ、咄嗟に鉄パイプ二刀流で立ち向かう加賀美、この後の戦闘への布石ではあるのですが、急すぎるぞ加賀美。
 エースで4番の二刀流な加賀美があっさり吹き飛ばされると、その横に立つマコト少年もまたワームへと変貌する残酷な真実が突きつけられ、ワームは卵を守る為の時間稼ぎとして加賀美を利用しようとしていた事が明らかに。
 カブトと互角以上の戦いを見せていたサソリワームがお薬の時間が来ると引き下がる一方、役立たず判定を受けた加賀美は前後からワームに無惨に貫かれ……死にそうで死なないサバイバー体質で20話あまり、いよいよ絶命の時が来たかと思われたがしかし――それこそが、ガタックゼクターのツボだった……!!
 「今生の希望……それは、全て、打ち砕かれねばならない。絶望の底に落ちた時、人は……真の希望で、己を、救うことが出来る」
 チェロを弾く陸が思わせぶりに呟く中、何者か(みっしー?)が倒れた加賀美の体にベルトを巻き付けると加賀美は息を吹き返し、その掲げた手に応えるガタックゼクター。
 「変身!!」
 ガタックゼクターが候補者を半殺しにしていたのはつまり、土手っ腹に風穴あけて、ひゅーひゅー息をもらしながら瞳の光が消えそうで消えないのが最高の好物だったからであり、生死の狭間を乗り越え、その期待に応えてみせた加賀美は、青く輝くガタックへと姿を変える。
 両肩にキャノン砲の付いたアーマーモードで加賀美ワームを粉砕すると、マコトワームが少年の姿と言葉を利用して加賀美の情に訴えようとする第4話のリフレインとなり、そこに姿を見せたカブトがトドメを買って出るが……それを止めたガタックが選んだのは――キャストオフ。
 楕円形でちょっとバッタぽい顔だったアーマーモードから装甲がパージされると、頭部左右に展開していたパーツが頭上にスライドしてクワガタヘッドになるギミックで誕生する、スタッグビートル。
 満を持してのクワガタモチーフが投入されて、クロックアップした蒼いクワガタは、両肩に搭載されていた二本の剣を握ると高速の斬撃でワームを切り刻み、追い詰められたワームは正座で命乞い。
 対するガタックは、工場の天井を破壊する事でマコト少年の見たがっていたムーンボウを見せ、加賀美らしい優しさと同時に、カブトの背負う太陽に対し、ガタックが月を示すのがどこか象徴的になりました。
 「お人好しだね……お兄ちゃん」
 せめてワームの中に残る少年の心を救おうとするガタックだが、差し出した望遠鏡は払いのけられ、クロックオーバー。
 ジャンピングでのガタックキックが炸裂すると同時に、シャドウ部隊によって工場が爆破されると、マコトワームは最後の最後にその爆炎からガタックを守るようにして炎の中に消え……既に、擬態である自覚の無い神代剣という存在が居る(どこまでがワームの本意なのか不明ですが)事により、人間の記憶を食ったワームが、その記憶に支配権を奪われる可能性もあるのは、例外的だろうとしても納得のいく形で収まりました……後の『ウィザード』は、その断絶を徹底して描く事にこだわった作品であったのだな、と改めて。
 「……ご子息が、ガタックになられました。しかし本当に、これでよろしかったのですか」
 「モーツアルト、だったね」
 「……は?」
 「主の為のミサ曲を作りながら……彼は死んだ。だが、その曲が、彼を殺したのか。それとも、その曲への執念が、彼を、生かしたのか」
 「……つまり、ガタックは諸刃の刃。ご子息の命を奪いもすれば、救いもすると」
 「モーツアルト……!」
 弦を手に変なポーズを取って笑みを浮かべる加賀美パパ……演出陣はみんな、本田博太郎さんを撮るのが楽しそうで何よりです(笑)
 そして、唐突に博識の趣くままに思わせぶりな事を呟き始める上司の言葉を当意即妙でいい感じに解釈しなくてはならない立場に居たら、それはみっしーもストレスから部下への嫌がらせに走りたくなっても仕方ないと納得するのでありました。
 モーツアルト……!
 「……甘いな、相変わらず」
 「俺は……俺にしかなれない。でも、これが俺なんだ」
 助けを待ってる奴の為に立ち上がり、かつて弟の記憶を前に一歩も進めなくなった己を乗り越え、力に踊らされる事なく自分自身の筋を貫き通した加賀美が、新たなるライダーにふさわしい姿を見せ、赤い装甲に青い瞳のカブトと、青い装甲に赤い瞳のガタックが、炎の中で向き合う姿は非常に格好良く決まりました。
 遂に自身のベルトとゼクターを手に入れ、物騒な形状のハサミ付きバイクを手に入れた加賀美の姿で、つづく。
 サソードがやや変化球な事もあってなのか、全く間を置かずの新ライダー登場!
 カブトムシに始まって、ハチ・トンボ・サソリを経てのクワガタは、とうとう加賀美のターンとなり、ザビーへの変身はあったとはいえ、如何にもライダーになりそうではあるが、それにしても色々と心もとない部分の目立つ加賀美が遂に本当の形でライダーになるにあたって、その説得力をしっかりと考慮した組み立ては前後編で良かったところ。
 ワームに体を貫かれて倒れた後、謎の人物にベルトを与えられる際の詳細(なんらかの蘇生処置を施されたのか……など)はぼやかされましたが、今回の件は、加賀美がヒーローになる為の「死と再生の通過儀礼」に相当するものだと思われ……そんなエピソードが神代剣の誕生日会と同時進行だったのはどうにも意味深なのですが、もしかすると神代は、前年の誕生日に、ワームに擬態され殺されたのかもしれません。
 そう、かつてイエローフラッシュ/サラは言いました。
 「誕生日っていうのは改めて命の大切さを考える為にある」
 のです!!