『仮面ライダーガヴ』感想・第27話
◆第27話「酸いも甘いも焦がす程」◆ (監督:杉原輝昭 脚本:香村純子)
激しい心臓の痛みを抱える絆斗が酸賀の研究室で見たのは、“2人の”ビターショウマと酸賀が微笑みをかわす悪夢のような一家団欒の光景――
「ねえ見て、お父さん!」
「おいおい。俺はおまえたちのお父さんじゃあない」
「あ……ごめんなさい、ご主人様」
……でも無かった。
和気藹々から一転、笑みを消した酸賀が口調を変えて、酸賀とビターショウマ“達”の間の上下関係が明確にされて、親子ごっこぐらいはしていそうだった酸賀が、主従としてビターショウマを躾けているその本質が、やり取り一つで垣間見えるのが巧み。
「……おまえ……どういう事だよ」
「絆斗くん来てたんだ」
一方、絆斗に対してはいつも通り、唇の端を軽く持ち上げて、ふっつーーーに受け入れました(笑)
このぐらいの図太さがなければ、マッドサイエンティストとして世の中渡っていけません。
「……だから出てくるなって言ったんだ」
から即座にビターショウマらには冷たい視線を向け……酸賀の場合、入り口の鍵を閉めた方がいいのでは?!
まあ、隠し事が多そうな割には家はオープンないびつさが、酸賀らしくはあるというか、基本的にどこか“壊れている”感じ……ニエルブくんがいつどこから入ってくるかわからないので、色々慣れたのかもですが(笑)
「あれ? 随分しんどそうだね」
絆斗の方をくるっと振り返ると、いつも通りの軽い調子で接し、ショウマのそっくりさんの存在など無いかのような振る舞いは、もはや開き直っている部分もありそうですが、変わり身が怖すぎます。
「だから黒チョコは預かっとくって言ったのに~。丁度良かった。今度これ使ってみて」
酸賀は、ビターショウマ産の新たな眷属もどきを平然と差し出すが、さすがに絆斗は不信感をあらわにし、画面の右端と左端の距離が効果的。
「あんたがこいつら作ったのか……なんで人間を襲わせた。あんたの目的はグラニュート退治じゃねぇのかよ?!」
「そぉんないっぺんに……」
声を荒げた絆斗が膝を付くと、あくまで和やかな態度は崩さず、そこに近づく酸賀。
「でも俺たちさ、利害は一致してるでしょ?」
「…………は?」
肝心の“人間を襲わせた”点について弁明も謝罪もなく、利害の一致の前には些細な問題に過ぎないと説く酸賀に向けた絆斗の、なに言ってるんだこいつ? の口をポカンと開けて目を剥いた表情が強烈で、普通にやるとオーバーなリアクションが戯画的になりすぎかねないところですが、体調不良で倒れこんでいるからこその苦痛と驚愕の融合に落としこむのが、不自然さを減じる上手い見せ方になりました。
「グラニュートを退治する力が欲しい絆斗くんと、グラニュートを倒せるだけの強い人間を作りたい俺。……ね?」
事ここに至って、自分が力を借りていたのは目的の為には文字通りに手段を選ばない、“グラニュートとは別の怪物”であったと気付いた絆斗は、酸賀に背を向ける。
「……ああ! ……今更怖じ気づいちゃって」
回れ右した絆斗を見送った酸賀は頭をかきむしって珍しく毒づき、酸賀にとっても計算通りではないアクシデントであったことが示されると共に、目的の為には他者の人命を尊重しようとしない姿勢への意識差を、「怖じ気づく」と表現するところに、他者の心情への理解力の薄さと、強固なそうあるべきが感じられて恐ろしいところですが、これはまた、人間の命と幸せを“良質なスパイス”としか捉えないストマック社の在り方と通じているといえそうです。
路上に倒れていた絆斗は夜逃げを手伝った帰りのショウマ&幸果に拾われ、酸賀の元へ運ばれるのを拒んだ事で、やむなくデンテのオジキの元へ。
またも、場合によっては洞穴に血の雨が降りそうなシチュエーションですが、気を失っている絆斗はベッドに横たえられ、ここで、陽気な着ぐるみ風味に描写されてきたデンテも、幸果から見れば充分に異形の怪物である事を描いてきたのは、異種族間の壁を改めて示すと共に、ショウマがデンテを紹介せずにいた事の補強にもなって良かったです。
絆斗に預けていた若い衆から事の経緯を聞き取りしようとするショウマだが、持ち物の中にゴチゾウは見当たらず、見つかったのは、黒いゴチゾウが一体。
しばらく、逃げるビタゾウを捕まえようとてんやわんやが描かれ、ゴチゾウの態度をマンガ風の記号や吹きだしで示したり、幸果が明鏡止水のゾーンに入ると背後に擬音的書き文字まで浮かべる演出などは、毎度の事ながら個人的には好みではなく。
この後ぐっと重い展開が続くので、緩めのシーンを入れておきたかったのでしょうが、全体の軽重のバランスを取ろうとするあまり、演出ラインを完全に変えた極端にコミカルなシーンを放り込んで前後と断絶を引き起こすシリーズ10年の悪癖がまたも炸裂し……画面端のゴチゾウ発電なんかはさりげなく面白かっただけに、もう少し会話の妙味だったり小刻みなユーモアだったりで調整してほしかったところです。
黙秘を貫くビタゾウの記録をスマホで強引に読み出そうとするが規格違いで読み取れず、ビタゾウは幸果の手によって空き瓶に監禁されると、ショウマは酸賀の元へとカチコミ。
「絆斗に何したの?!」
「あー、そっかそっか~。君んところ行ったかー」
目的の為にあらゆる手段を講じるのは当たり前の事なので、全ては理想へ辿り着く為の尊い歩みです!
「絆斗くんをもっと強くしたあげようとしただけだよ? それは、絆斗くんの望みでもあるし、俺の望みでもあるから。ただね~、ちょっと絆斗くんびびっちゃって。そうだ。ショウマくんさ、君も手伝ってくんない?」
「え? なに言って……」
酸賀の思考についていけないショウマは、ビターガヴの強襲を受けて囚われの身となり、目を覚ました絆斗は幸果の取りなしもあってデンテに治療された事を把握すると、ビターチョコゾウを使った場合、体内に埋め込まれたグラニュート器官が活性化しすぎて心臓に激しい負担がかかる事を知らされる。
「俺は……グラニュートを……ストマック社の奴らを、絶対ぶっ倒なきゃいけねぇんだ。それ失ったら、また無力な俺に逆戻りだ。だったら……苦しいぐらい我慢する」
グラニュート器官の摘出(やろうと思えば出来るの……?!)を拒絶する絆斗は、ショウマの眷属を使う事はそれでも躊躇うが、ショウマが酸賀の元に向かった事を伝えられると、そのタイミングで酸賀から着信。酸賀はショウマを人質に絆斗を呼び出し、絆斗はストレスによるショウマの絶不調も知る事に。
「……そういう事かよ」
「おい! まだ安静に!」
「俺のせいなんだよ! ……行くしかねぇだろ」
絆斗が飛び出していくと、幸果はラキアに連絡を取り、
「もしもし、ラキアン、儂じゃ。デンテじゃ。おまえに殺られそうになった。ははは!」
炸裂する、裏社会ジョーク。
……色々あったエピソードですが、今回一番好きな台詞は、これかもしれません(笑)
絆斗は酸賀の待ち受ける地下駐車場へと向かい、顔を合わせて開口一番、
「絆斗くんごめんねー、体調悪いとこ」
ふざけてんのか?
いや。あいつは極めて本気だ!
「酸賀ぁ……てめぇ!!」
「だからそうやってすぐ怒んないでって」
人を殺せそうな顔になっている絆斗に向け、ショウマを解放した酸賀が取り出したのは、ヴァレンバスターのバージョンアップ版である新たな武装――ベイクマグナム。
酸賀はそれに新たなビター眷属を装填すると、銃身をがちゃっと動かして起動し……マグナムの意匠に牙が含まれているので今更ながらに気付いたのですが、酸賀メイドも変身アイテムに口のイメージが入っていたのか、と納得。
「で? なんだっけ? えーー、あ、そうだ……変身」
酸賀が軽い調子で引き金を引くと、ちょっとガブリンチョメッチャムーチョな感じで、その姿はチョコチップ仮面へと変身し、以前に書いたように、ビターガヴのような、“主人公のネガにして無邪気な悪意”的存在が物語を引っかき回す展開はあまり好きではなかったのですが、ここに至る為の布石であったというのは、上手い流れの作り方となりました。
「あー……成る程ね、こんな感じなんだ」
「おまえ……自分も改造したのか」
「絆斗くんが実験台になってくれたお陰で、ある程度安全性が担保されたのよ。ありがとね。で、俺が証明しようと思って。これを使えば、ショウマくんより強くなれる、てさ」
若干ぐねっとした動きのCCガヴもとい酸賀ヴは、傷つき磨き上げる為に俺と戦おう! とショウマに銃口を向け、ショウマはやむなく変身。
「来たね来たねぇ。さあ! はりきって! 参りまショー! はははは!」
酸賀ヴがガヴに猛攻を仕掛ける一方、デンテはラキアからニエルブドライバーを受け取ると、「あの子が作ったものなら、儂にも作れるかもしれん」と絆斗用の新たなドライバーの製造に着手し、これでヴァレンの強化となると師弟繋がりにしても急に出てくる感はありますが(機材や素材もちょっと気になりますし)、成功すればデンテにとって禊ぎの一つになると共に絆斗への大きな貸しにもなり、合わせてデンテを開発者のみならず欠かしにくい医者ポジションにもスライドしていく事で、復讐心は消えなくても簡単にはバラしにくい相手の位置まで運んでいるのは巧妙な組み立て。
また、ここに来て、死のうは一定とばかり妙に潔いところも見せるので、それなら絞れるだけ絞り尽くしてから弾け飛んでもらった方がいいか、みたいな気持ちにもなってきます。
酸賀ヴはチョコチップマグナムの連射でガヴのグミ装甲を吹き飛ばしていき、改めて、流血抜きで近似のダメージを表現できるのは、巧いアイデア。
サクッと爆弾を酸賀ヴが作り出すと、剣を天井に突き刺しての回避や鉄骨を挟んだ動きなど地下駐車場の地形を活用するのが今作らしい味付けで、酸賀ヴは滑りながらの連続銃撃から、足で剣を挟んでガヴを放り投げる戦闘テクニックも見せ……古今東西、科学者が体を鍛えているのは、よくある事例です、ハイ。
「ショウマくんが、本気出してくんないと、この新システムの強さが絆斗くんに伝わらないじゃなーい」
「……本気なんか、出せない。……あなたが、何考えてるか……もっと……知らないと」
酸賀も「ショウマは人間を攻撃できない」と受け止めるのですが、言い回しからすると「考えの内容によっては潰せる」とも聞こえ、心情的に人間に寄ってはいるものの、ハーフグラニュートとしてグラニュートを狩っているのと同様、ハーフ人間として人間を狩れる覚悟もまた秘めているのかもしれない、という点に自覚的かつ意識的な作風を感じます。
……まあ実際のところはヒーローによる直接的な人間のフィニッシュは描けなそうな気はするので、そう解釈できる範囲の台詞だけは入れておいた、という辺りかとは思いますが。
「……おいおいマジか。あーなるほど、そういうアレだ……俺が人間だからだ。ショウマくんは人間を守るグラニュートだもんねー。だから俺を倒したくないと。……志が低いなぁ」
演者さんが声優主体の活動をしているだけに本領発揮の感がありますが、この「こっころざしが低いなぁ」の言い回しが非常に良かったです(笑)
「目的があるなら何を犠牲にしてでも果たさなきゃ……でしょ? 俺はやったんだよ……えー、1、2、3、えーーと……あれはアレだから……8人か。いやもうちょい居たなぁ」
ガヴを蹴り飛ばした酸賀ヴはなにやら数え始め……倫理観とかドブ川に流して捨てているとは思っていましたが、これまで犠牲にしてきた人間の数を数え上げてみせるのは、実にどぎつい描写。
後なんか、「あれはアレ」辺りの言い回しからすると、「もうちょい」に二桁ぐらい入っていそうで怖い。
「……それって……今まで、人間を……」
「そりゃそうでしょうよぉ。絆斗くんを変身させたり、ショウマくんの偽物作ったり、そんな事が一朝一夕で出来るわけないじゃない。これは、20年以上に及ぶ、研究の、成果」
ヴァレンシステムの開発に続くビターガヴの培養など、酸賀の技術力の礎は、研鑽と人体実験の積み重ねであると理由づけられ、実に、由緒正しいマッドサイエンティストでありました。
「そんな長い間、沢山の人を犠牲にして! 平然と……」
「待ってよ、平然となんてしてないって。実験台のみんなには、心から感謝してるよ? ああ勿論……――餌になってくれた人にもね」
形だけでも心苦しいとか謝ってみせるとかではなく、感謝の気持ちを述べるのが切れ味の光るところで、言葉の最後に酸賀ヴは背後の絆斗に、意味ありげな視線を向ける――。
「…………餌?」
長らく伏せ札にされてきた塩谷の死の真相が遂にめくられ、挟み込まれる回想シーンが、辛い……!
「あれ嘘でしょ絆斗くん? え、気付いてなかったの?!」
ここまで来ると本気か嘲弄か読み切れないところはありますが、気付いていたら、とっくにこめかみに新しい穴が生まれて大事な脳が外に漏れていたと思うぞ、酸賀……とはいえ酸賀、人間社会一般からの倫理的逸脱と共に“他者の心が理解できない”面が描かれているので、利害が一致しているから必要な犠牲だったよね、と絆斗も納得したつもりになっていた可能性を否定しきれないのが、怖いところ。
一つ気になるのは、ニエルブに相談して手を回してもらったとの事なのですが、赤いエージェントはランゴのエージェントの筈であり、ランゴのエージェントはニエルブの命令を聞くの……? という点。
何か予定の変更があったのか、どこかに嘘が隠れているのか……瞳の輝きからするとニエルブのエージェントは恐らく緑の筈ですが、考えてみるとニエルブのエージェントがまだ劇中に出てきていない気がするので、そこにトリックがあるのかどうか。
(※…………と、20話ほど思い込んでいたのですが、ニエルブのエージェントはオレンジだそうで、キノコグラニュートに接触していたのは普通にニエルブのエージェントだった模様。ランゴ兄さんの絡む余地は最初から無かった……!)
いやホント、これでずっと「キノコに任務を与えていたのがエージェント赤だから実はランゴと酸賀に隠れた繋がりがあるのでは?!」と抱き続けてきた儚い希望はほぼほぼ泡と消え、ランゴ兄さんのあずかり知らないところで邪魔者だけが増えている点が裏付けられてしまいました。
……強く生きて、兄さん!!
後こうなると、酸賀の持っていたグラニュート器官の出所はニエルブルートでほぼ間違いなさそうですが(そういえば、先日受け取っていたものが今、酸賀の体内にあるのか……?)、絆斗に埋め込まれた器官、ショウマ父の肝だったらどうしよう……。
「あー、二人ともそんなショックだったかぁ。なんか御免ねぇ。じゃ、一旦研究室に戻ろうか」
打ちひしがれる絆斗とガヴの姿に、戦う空気で無くなった事は理解した酸賀ヴだが、隙を突いて煙幕を張ったガヴが絆斗を連れて逃げ出すと変身を解除し、くすぶる右手が煙をあげると枯れ木のようにしぼんでいく。
「おっさんの体には負担がデカいか……やっぱり絆斗くんに頑張ってもらわないと」
予告からはてっきり、ヴァレンやビターガヴを踏み台にして自身を最強の存在にするのが酸賀の目的だとばかり思っていたら、今回の酸賀の言行は全てデモンストレーションであって、あくまでも絆斗にこだわっている――絆斗がこれからも二人三脚で戦ってくれると思っている――のが一番怖くて、つづく。
とうとう酸賀が本性を露わにするマッドマッドサイエンティストショーでしたが、溜めに溜めてきただけあって、身勝手な理屈で他者を踏みにじる事に感謝しかない精神性をこれ以上なく見せつけてきて、思考についていけないショウマ達との対比が鮮烈になりました
大事な人(母親)の復讐の為に力を求めた結果、大事な人(師匠)を代償に捧げていた事を突きつけられた絆斗、再起不能レベルの精神ダメージですが、果たして立ち直る事は出来るのか。
長らくショウマの出自バレについて心配していたら、気がつくと絆斗が地獄で釜ゆでみたいな事態に陥っておりボール回しがハイペースですが、こうなってくると、周囲の男達が揃いも揃って地獄を抱えている中で、「あたしがみんな幸せにしてやるよ!」な幸果さんもなかなか精神的にはきつい立場となりそうで、後半戦にどういう位置づけになっていくのか気にかかるところ。
流れとしては次回、新生ヴァレンが酸賀ヴを倒して酸賀は一度地下に潜りそうな気がしますが……するとそこには、頑健な肉体を持ち、業火のような復讐心を宿し、自身については捨て鉢な、最っ高の素材(ジープ)が人間界を彷徨っている筈であり、グラニュートなところが好みに合うかはわかりませんが、絆斗に殴り飛ばされた酸賀が宗旨替えする可能性は充分にありそうですし、果たして、キラキラ輝く為に2人が巡り会う事はあるのかどうか、期待に胸が高鳴ります。