東映特撮に踊らされる駄目人間の日々のよしなし。 はてなダイアリーのサービス終了にともない、引っ越してきました。
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東條昭平、登場

太陽戦隊サンバルカン』感想・第11話

◆第11話「哀しみのメカ少女」◆ (監督:東条昭平 脚本:曽田博久)
 予告の時点では、サブタイトルからして第9話(死んだ父親にダークQが成り代わって、研究の秘密を入手しようとする)と重なりすぎでは……? と思っていたのですが、今回は、死んだ娘と瓜二つのダークQを送り込み、送り込まれる側の博士も承知の上での「契約」をかわすというアレンジパターン。
 「…………ユミ」
 「パパ!」
 「同じだ。ユミの声と、同じだ」
 ブラックマグマは、植物の品種改良において世界的権威であるウエムラ博士に猛毒のシダを作らせようとしており、1年前に病死した娘の名を呼ぶ父親、にっこり笑うメカ少女、愛娘をコピーした人形にすがりつく父親、の姿が丹念に描かれ、冒頭から、重い……!
 「パパ、会いたかったわ」
 「……泣くことも、出来るのか」
 「パパ!」
 「ユミが、私のユミが、生き返った!」
 怪人の存在感が薄くなる難点もあるダークQですが、ここからどう転がるかはさておき、導入におけるこの使い方は非常に秀逸。
 「おめでとう博士、お気に召したようですわね」
 人の心の弱さに付け込み、悪魔の契約の履行を迫るゼロレディーズの言葉に視線を落とす博士と対照的に、背後に向けて、にっこりと笑うメカ少女の表情がまた凶悪で、この後、80年代~90年代半ばまで東映ヒーロー作品で大車輪の活躍を見せる東條監督(クレジットは「東条」表記)が、スーパー戦隊》初登場からかっ飛ばしてきます。
 子供達とローラースケートで遊んでひっくり返っていた美佐は、公園で博士とユミの姿を目撃。見とがめられた博士はそそくさと逃げ出すと、後を追った美佐が自宅周辺をうろうろし、博士、ゼロレディーズに怒られた(笑)
 「嵐山美佐に見られてしまったからには、用心した方がいいわ」
 美佐の目撃情報はメンバーに雑に流され、ひとり徹底調査を宣言した美佐は、シーン変わるといきなり謎の衣装でウエムラ邸内に入り込んでいたが、家の中はもぬけの殻。
 住人のプライバシーなど些事に過ぎない国防スパイの目を間一髪で逃れ、秘密アジトで研究を続けていた博士が作り出したのは……シダモンガー!
 ……何・故(笑)
 ブラックマグマから提供されたのが機械生命体の種子だったのかと思われますが、品種改良していたら怪奇シダ人間が生まれてしまい、作った博士もきっとビックリです。
 「パパ」
 「ん?」
 「許してあげる。パパがする事、どんな事でも許してあげる」
 怖いよ!
 博士が悪魔のメカ少女に魅入られていく中、シダモンガーは公園や街路樹の中に毒シダを混入していき、触れた少年がいきなり、毒ガスの被害に! 転げ回る人々の姿が描かれるとサンバルカンが出動し、挿入歌で戦闘開始。
 「やはりブラックマグマの仕業か!」
 太陽キックを受けたモンガーはシダ毒ガスを放って姿を消し、博士の秘密アジトに辿り着いた美佐は。湖畔でユミと歌う博士の姿を発見。死んだ筈のユミと瓜二つの少女にブラックマグマの関与に気付くと、そこにレディーズとシダモンガーも姿を見せる。
 「あの毒シダはなんだ!」
 博士の作り出した毒は致命的なものではなく、大量に描かれた被害者は治療可能であるとされるが、良心と娘への思いの間で揺れ動く博士は、契約の完全なる履行を迫られる。
 「ユミの前で、そんな話はしないでくれ」
 「おやおや、いいパパね」
 随所で挟まれるメカ少女の笑顔が定番ながら効果的で、事態を本部に連絡した美佐は、博士と接触。説得に耳を貸さない博士を強引に外へ連れ出すが、博士はユミを抱えて逃走し、もつれあった末に3人はまとめて急斜面から転落してしまう。
 その際の衝撃によりラバーマスクが剥がれ落ち、機械の顔をさらけ出すダークQであったが、目を覚ました博士がそれに愕然とするような事はなく、落ちていたマスクを拾うと丁寧に土を払って被せ直すのが、切なくも博士の心の壊れ方を示して秀逸で、博士の腕の中で目を開くメカ少女。
 だが、再起動と共に通信が回復すると、ゼロワンは博士の抹殺命令を下し、ニッコリ笑ったユミが左腕に内蔵された銃を博士に向けたところに、太陽戦隊が介入。
 「ユミ……」
 敵味方の見つめる中、後ずさりながらも博士に銃を向けるメカユミであったが……
 「パパは撃てない」
 「……メカ人間が感情を持ったわ」
 「裏切り者ぉ!」
 博士の狂おしいほど真っ直ぐな愛情を受け続けたメカユミのプログラムには異質なバグが発生し、それを見てとったゼロレディーズがスイッチを入れると、剥がれ落ちるラバーマスク。
 「……さよならパパ」
 博士から距離を取ったメカユミは壮絶な爆死を遂げ、個人的には、狂気を貫いた博士と心中爆死が好みでしたが、ダークQが組織を裏切る形で、ややマイルド路線に着地。
 「ユミぃぃぃぃぃぃ!!」
 役者と演出次第では、乾いた茶番劇になってしまうタイプの内容でしたが、亡き娘の幻像の為に良心は残しながらも悪魔の契約を結ぶ心の壊れかけた博士の好演が緊迫感を保ち、メカ少女に関しては要所の笑顔に焦点を合わせるのが効果的でありました。
 ……それはそれとして、後半がもし杉村脚本だったら、はちょっと見たくなりましたが(笑)
 「許さんぞブラックマグマ!」
 サンバルカンが怒りを向けてOPでの戦闘となり、アニマルアタックだ、の号令一下、鷲・鮫・豹、を模した攻撃で戦闘員を蹴散らすと、毒ガスを噴き出すシダモンガーとの激突となり、とにかく飛び回るサンバルカンは、イーグルが崖の中腹に立って号令を出す、高低差の激しいバルカンボールを放って、アタック!
 巨大戦はさくっと終了し、シダモンガーが両断されると、東映特撮名物:勝手にお墓が崖の上に作られて花を添える博士。
 ナレーション「メカ人間の感情を動かした、愛の偉大さに打たれて、サンバルカンは戦いの場を後にした。輝け、太陽戦隊サンバルカン
 ややしんみりとしたトーンのナレーションさんが締め……ちょっとバイアスもかかっていますが、画面上手の勝手にお墓から、下手に向けて歩み去って行く太陽戦隊3名をロングで撮ったラストシーンにおいて、一人だけ前後に大きく手を振りながら歩いてしまうのが、大鷲、芝居できてない感が漂います……。
 優位な高所を取りながら、メロドラマ鑑賞モードに入ってダークQによる博士抹殺にこだわるゼロレディーズの姿がやや間抜けになるなどはありましたが、一ひねりを加えたダークQの使い方でゲストのドラマに奥行きを与え、その行動を誕生に繋げて作戦行動にも関わらせる事でモンガー怪人の存在感もそれなりに出して、曽田さんの方向性の見える、なかなかの好篇。
 また、この後『電撃戦隊チェンジマン』ぐらいまでに特に顕著であり、《スーパー戦隊》作劇の基本形といえる、名乗りによるスイッチ切り替えから主題歌バトルの勢いと盛り上がりで押し切る方法論が、今作時点でほぼ完成していたのが見て取れ、その基本形を押さえつつ、前半部分にどこまで物語性を持たせて、後半のバトルの劇的さを引き上げるのか、を追及していく事になる曽田脚本と、80年代戦隊の柱石の一人である東條監督の《スーパー戦隊》初コンビエピソードとして、シリーズ史における一つ大きな意味を感じる一編でありました。