『太陽戦隊サンバルカン』感想・第7-8話
◆第7話「野獣バッターと涙」◆ (監督:服部和史 脚本:上原正三)
地球侵略を企むブラックマグマ戦略会議の模様で始まり、ゼロレディーズ、割と発言権があった(内容は好き放題ですが)。
ヘドリアン女王はそんな小娘たちの発言を笑い飛ばし……登場以来、OPのクレジット位置がラスボス扱いなのが気になって仕方ありませが、頑張れヘルサターン総統。
「そんな事では人間どもに勝つ事はできぬわ!」
「人の事を笑うからには、何か良き考えがおありでしょうね?!」
「勿論」
人間は肉体よりも精神を痛めつける方が効果的、と意外や含蓄のある事を言い出したヘドリアン女王は、人間が心の拠り所とするような偶像、スーパースターを引きずり落とすのだ、と具体例を出し……つまり、
「ベーダー野球を、この日本に確立せよ!」
ですね!!
偶像を破壊して人間どもを絶望に落とす為にはまず、若い群像を作り出すところから始めるのだ、と今生でも気の長い事を言い出すと、面白がった総統が計画を承認。
ナレーション「戦略に合わせて、機械生命体が作り出される」
戦闘員が、厳選されたミ○ノの野球用品をカプセルに放り込むとキャッチャーモデルの野球モンガーが誕生し、「新しければいいってもんじゃないんです。むしろ、人間の怒りや憎しみ、妬みといった感情に触れていたものの方が、機械生命体としての粘り腰に繋がる。そんな気がします。ま、自己満足ですけどね」と、素材調達班の戦闘員A氏は誇らしげに語ってくれた(※残念ながらA氏はこの後、太陽戦隊との戦いで帰らぬ人となった。生前のA氏の丁寧な仕事ぶりに敬意を表したい)。
ナレーション「そして、戦略を実行する、ダークQも」
白衣を着た中年男性モデルのダークQが起動し、こちらもAIの設定や、外装のそれらしさには、大変な気を遣う職人芸が必要になるという。
「若いのにはよく、シワの一本一本まで気を抜くな、と言いますね。シワは年輪。その人物の歩んできた人生が現れるんですから。人間社会に上手く紛れ込むには、そういう背景を、シワ一つからちゃんと感じ取れないといけないんです」
「いやー、この間は参りましたよ。気むずかしい老人という設定のAIを組んだんですが、いざ人間社会に送り込んだら突然、「彼ピッピが地球温暖化トークでウケる」とか言い出して大目玉。結局、最終調整を担当した奴は作戦行動班に回されて、バルカンスティックの泡で溶けちゃったみたいですね……」
こうして、ブラックマグマ各部門の不断の努力により今日も機械生命体が人間界に送り込まれ、次代のスーパースター候補として目を付けられたのは、高校球界ナンバーワン強打者・タカセ。
野生能力開発研究所の職員を名乗ったゼロレディーがタカセ父を抱き込むと首尾良くタカセにビーストシャワーを浴びせ、野獣のパワーを得たタカセはホームランを量産するようになるが性格が粗暴になっていき、悩めるマネージャーの話を聞くのは、勿論、嵐山長官です。
ホームラン急増の背後にブラックマグマの気配を感じ取った長官は大鷲に尾行を命じ、
「いったい奴らはここで何をしようとしているんだ」
大鷲に、素顔で台詞があった……!
「バルイーグル!」
すかさず変身した……!
地球平和の為に躊躇無く透視能力を発動するとダークQの関与を見破り、一旦はタカセの救出に成功する太陽戦隊だが、一度知ったドーピングの味が忘れられずにタカセは調子を崩し、ブラックマグマの甘い誘いに再び乗ってしまうタカセ父。
息子を3歳の頃から野球漬けにし、野球部の監督も務めるタカセ父は、完全に昭和暗黒スポーツお父さんなのですが、シリーズの流れとしては、闇に堕ちた伝正夫の姿でもあるのが時代の価値観の変化を感じるところです。
ブラックマグマの接触を警戒していたサンバルカンは襲撃による陽動を受け、再び野獣の力を注ぎ込まれたタカセは、金属バットを手にイーグルへと襲いかかり……なんだかもう、当初の作戦はどこかに消えていた(笑)
荒れ狂うタカセは、マネージャーの正統派ヒロインアタックに正気を取り戻しそうになるが野球モンガーの殺人ボールに倒れ、なんだかもう、当初の作戦は完全にどこかに消えていた。
サンバルカンはフル名乗りの後に、太陽の光を背に三人が手を突き上げるポーズが追加され(……あまり格好良くはない)、戦闘開始。
ヘドリアン監督仕込みの殺人ベースボールで戦闘員が次々とサンバルカンに襲いかかり、スライディング部隊・バッター部隊が敗退する度にアウトカウントが一つ増えていくのは面白い趣向……だったのですが、何故かスリーアウトで野球モンガー爆死までは描かれず。
野球モンガーの千本ノックを一本足打法で打ち返したサンバルカンは、殺人モンガー魔球による大爆発を太陽ジャンプで回避し、前作のデンジジャンプの系譜といえますが、短距離時空跳躍に事象変換系必殺技の応用が組み合わされている気配あり(デンジエンド → ブラストエンド → ビッグボンバー → デンジジャンプ → 太陽ジャンプ……?)。
太陽の不条理な力により形勢逆転したサンバルカンは、連続攻撃からバルカンボールでフィニッシュし、野球モンガーが巨大モンガーすると武器を奪っての殴打から、オーロラプラズマ返しで一刀両断。
かくして、ベーダー野球プロリーグ再興の夢はまたも破れるのであった。
正気と体調を取り戻したタカセはサファリでカレーを頬張るとマネージャーに連れ出されていき、その光景を微笑ましく見送る素顔の太陽戦隊、硬い、演技、硬いな……。
最後はそこから長官が「愛の涙を流せるのは、人間だけだ」とまとめ、今日も思想性が強いぞ太陽戦隊! 太陽はおお命の星だ!
◆第8話「父が歌う手まり唄」◆ (監督:服部和史 脚本:上原正三)
ブラックマグマの手により美佐がさらわれ、妖術・花吹雪を操る木彫りの像めいた夢幻モンガーが、面白いデザイン。
本日もブラックマグマの素材調達班が、誇りのある仕事をしています。
太陽戦隊が合流すると、その場の公衆電話が鳴り響くのが定番のサスペンスで、私服姿のゼロレディーズ(一人の衣装は、前作の桃井あきら最初期でしょうか)と太陽戦隊がオープンカフェで秘密交渉を行う国際陰謀物風味を交え、衣装の傾向からもゼロワンは完全に、前作におけるミラーケラー路線。
「美佐は私の娘だ。だが、太陽戦隊の隊員でもある」
「犠牲もやむをえないと?」
「……」
ゼロレディーズは美佐とジャガーバルカンの交換を要求し、激昂する豹が一人に掴みかかると周辺に潜ませていた狙撃兵が姿を見せ、カフェの市民を丸ごと人質に取っていると示すやり口は完全にマフィア物などの手法ですが、《スーパー戦隊》シリーズとしては渋い表現で緊張感を保ち、この辺りは、岸田森の芝居あっての見せ方といえそうです。
「巨大空母ジャガーバルカンは人類の守り神だ。渡すわけにはいかん」
「死んじまってもいいっていうんですか?!」
太陽戦隊に一時間の猶予を与えたゼロレディーズは改めて基地へと電話をかけ、太陽戦隊の一員として、その覚悟を伝える美佐。
偉い人の身内をチームに加えると、公私の線引きがあやふやになる例がたまにありますが、公の使命・責任感と、私の肉親の情は別のものである、と嵐山父娘がしっかりとした線引きを示してくれたのは、葛藤と緊張感を生んで良かったところ。
「答を聞こう。……どうした。答えろ」
「……ノーだ」
「あと30分待つ」
嵐山長官の強硬姿勢が攻守の関係に崩しを入れると、電話の背後に聞こえていた消防車のサイレン音から、人質の監禁場所を探り出す太陽戦隊。超聴覚と望遠視力で美佐を発見するとカチコミを仕掛けるが、敵もさるものそれは罠であり、無惨に吹き飛ぶマネキン美佐。
サファリでは、いつも通りに子供達と遊んでいた長官だが、作戦失敗を聞くと沈痛な表情で少女時代の美佐との思い出を振り返り、ひたすら、岸田森の芝居でもたせていく、岸田森アワー。
「嵐山長官に脅しは通用しません。娘が死んでも涙一つこぼさないでしょう」
「親子の情を断ち切ってまで信念を通すとは、ぬぅ、なんという男じゃ!」
「ジャガーバルカンが駄目なら……その頭脳を断つしかない」
真の主人公は奴だ、と標的を長官に変えたブラックマグマは、美佐の解放を条件に長官一人でアジトへ来るように要求。
「私は行く。美佐を迎えにな」
太陽戦隊の同行も変装作戦も拒絶した長官は、思い出の手まり一つを手に呼び出しの場所へと向かい、ボディチェックをパス。
「嵐山長官、死んでもらおう」
「娘を、釈放しろ」
「可哀想だが、一緒に死んでもらう」
「やはりそうか。……覚悟は出来ている。死ぬ前に一つ頼みがある」
「頼み?」
「私は、手まり唄が好きだ。娘が小さい頃、よく一緒に遊んだものだ。どうだろう? この世の別れに、手まりを突かせてはくれまいか」
「……よかろう」
なんか滅茶苦茶を言い出しましたが、あまりにも素っ頓狂なので、受け入れられた(笑)
美佐の戒めをほどいた長官は、ブラックマグマの銃口に囲まれながら淡々と手まりをつき始め、不穏と狂気に満ちた約束の30秒が経過したその時――手まりが、無数の銃弾を防いだ!
「ちょっとばかり細工をさせてもらった」
きっちり撃ってきたブラックマグマでしたが、爆発物ではないが突いている内に強い磁力を発する手まりで長官が窮地をしのぐと、《おうぉー おおおおおー おおおーおー おーおーおーーー!》と壁を破ってサンバルカン突入、からの長官による手まりアタックが炸裂し、長官の見せ場に余念がありません(笑)
「輝け! 太陽戦隊!!」
「「「サン・バルカン!!!」」」
ビル街の公園で集団バトルに突入すると、妖術・花吹雪を受けたサンバルカンはバルカンスティックを上回る多彩な幻術に苦戦するが、スクラムハリケーンによって風を起こすと次々と宙に浮かび、飛べた、パンサーも、飛べた……!
……逆にイーグルの存在感が不安になってきますが、敵の意表をついて動揺に付け込むのがサンバルカンの常道、と幻術を打ち破ったサンバルカンは、バルカンボールでアタック。
巨大化した夢幻モンガーの岩吹雪に苦しむサンバルカンロボはファイヤーパンチを発動し、エフェクトで両手が赤熱するだけかと思ったら、本当に火を噴き出した拳で殴り倒すと、オーロラプラズマ返し!
……撮影手段の気になるインパクトでした。
ラストは冒頭で中断された親子の買い物で幕を閉じ、クライマックスバトル以外の全てを持っていく嵐山父娘の情を中心に描く回でずっと戦闘服姿はさすがにどうかと思われたのか、太陽戦隊3人が出番が多めだったのは、ホッとしたところ(笑)
特に豹は、たくさん喋りました!
次回――2ヶ月にわたり嵐山長官劇場だった今作に、とうとうキャラ回の概念が……?!