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さあ、おまえの命の炎を数えろ

仮面ライダーガヴ』感想・第14話

◆第14話「奇跡の覚醒! ケーキング」◆ (監督:杉原輝昭 脚本:香村純子)
 キャンディフォームで辛うじてダメージを軽減したガヴが崖下へと落下していくと、双子は
 「この高さからでは生きていまい」
 「帰るぞ」
 ……とぽんこつムーヴを発動する事なくエージェントを捜索へと送り出し、物陰からこれを見ていたヴァレン、(勝ち目があるかはまあともかく)双子に襲いかかるよりもショウマの救出に急ぎ向かうのが、優先順位の示し方として相変わらず絶妙。
 「……遅い」
 暗い事務所では幸果が一人ショウマの帰りを待ち……満身創痍ながらも山中で目を覚ましたショウマは、スマホに並ぶ幸果からの着信に立ち上がろうとするも動けないところを絆斗に拾われると、
 「すぐに病院! て……おまえも、病院は駄目か」
 と、個々の認識を示しながら次の行動へと繋げていく手並みが地味ながら実に鮮やか。
 “尺に収める”スキルも含めて、こういうところで手抜きをせずに堅実に積み重ねを行っていくところに、改めて香村さんの脚本力の高さを感じさせられます。
 絆斗がポケットに入れていたラムネで最低限のエネルギーを補給したショウマは、幸果とケーキを食べる約束に並々ならぬ執着を見せると絆斗に肩を借りて歩き出し、翌朝――メイクも落とさずに机で眠りこけていた幸果の下に帰還すると、絆斗は割と、怪我についての誤魔化し方が、下手だった(笑)
 それからずっと、幸果からショウマへの呼びかけは「マショウ」だと思っていたのですが、スマホの登録名によると「ウマショー」でした。
 双子との再戦を控えている(からこそ)ショウマは幸果と共にケーキに向かい、
 (美味しい……でも、なんだろう、この感じ。今までと違う。美味しいって感動だけじゃない。なんか……暖かい力が、俺の心と体に満ちてく。……ケーキって凄い……作るって凄い。一緒に喜んで貰えるって……凄い!)
 1クールに渡り、人間界のお菓子とショウマとの出会いを積み重ねてきた上で、ここでそれらを越える上位フォームの誕生に繋がるのが、“初めてのショートケーキ”なだけではなく、“初めて誰かの為に自分で作ったケーキ”なのは会心のアイデアで、お見事!!
 ショウマのガヴが新たな輝きを淡く放つ中、双子はショウマを呼び出す為に派手にビルを爆破すると、そこにグラニュート文字でのメッセージを刻む。
 「俺ちょっと行かなきゃ!」
 SNSで情報を得たショウマと絆斗が飛び出していこうとすると、からまれた喧嘩の続きと誤解して、ヘルメットにデコバットを装備してついていこうとする幸果だが、それを真剣な瞳で止めるショウマ。
 「ごめん幸果さん! 危ないから……幸果さんはここに居て」
 「……じゃあ一個だけ。ちゃんと帰ってくること」
 ショウマは唇を噛み締めながら幸果の言葉に頷き、見せ方も良いですが、押し殺した感情を見事に表情に乗せて、ショウマの役者さんがいい芝居を見せてくれます。
 「……約束する」
 外に飛び出すや、爆発現場ではなく呼び出された倉庫へ向かおうとするショウマを絆斗は止めると、前日に目撃した諸々について、「見た目も、奴らの感じも……おまえの様子も」雰囲気が普段と違う事を指摘して、「さっきの爆発で何を読み取った?」かを問いかけ、この頭の回転が実に香村脚本ですが、一体ショウマはどこまでを明かしてしまうのかと充分にドキドキさせて、絞り出された言葉は――
 「母さんの…………仇なんだ」
 そこに現れた眷属ライダー隊が可児の発見を報告すると、ショウマはカニの始末を絆斗に頼み、絆斗からすれば、戦力的に不安はあるが、事情を聞くと止められないし、我が身に置き換えれば手も出しにくい、と飲み込ませるのが実に鮮やか。
 「その代わり、俺とも約束しろ。……やられんじゃねぇぞ」
 「……うん。ありがとう」
 その上で、絆斗の心配と二人の繋がりの強化もグータッチで織り込み、爆発現場では、いつの間にやら人間界に出張していたニエルブが、爆発現場を偵察していたショウマの眷属をゲット。
 「フフフ……いいもの見つけた」
 そろそろ眷属ライダー隊には自爆機能が必要なのではないかと不安になってくる中、ショウマは双子の待ち受ける倉庫の中へと突入。
 「良かった……グラニュートの文字、まだ覚えてたのね」
 「もう人間の文字しか読めないと思ってたよ」
 「俺を誘い出すために、人間を傷つけるなんて……」
 混ざり物に対する徹底的な侮蔑を露わにする双子に向けて反駁するショウマに対し、双子は激昂。
 「「おまえが逃げたからだろ!!」」
 老夫婦が狙われるのはショウマが幸せにしたから、と毒針を突きつけてきたマシュマロ誕生回と同様の論理展開は恐らく狙ったものでしょうが、ここではショウマを精神的に追い詰めようとする思惑を離れて、思い通りにならない事柄について、自省する事なく他者へと責任を転嫁する癖に囚われてしまった双子の精神性として一貫させてきたのが、巧妙です。
 「人間が、傷つくのも……!」
 「おまえが狙われるのも!」
 「私たちが見限られたのも!」
 「離ればなれに引き裂かれるのも!」
 「「全部全部赤ガヴのせい!!」」
 双子は機関銃のように言葉を重ね、個人的には青白いフィルターや画面を走るノイズによる狂気の強調は無くても良かったかなと思いましたが、前回描かれた双子の誕生パーティ、ストマック兄妹にもそれなりに穏やかな時間があったのかと思いきや、上の兄姉はプレゼントを渡すだけ渡して仕事に行ってしまった事が明らかに。
 寂しさから別宅を覗いた双子は、ショウマ親子が楽しそうにお絵描きしている光景を目にし(ショウマからは、“家族”とケーキを食べる輪に入れなかった思い出と繋がっているのが、また残酷)、父ブーシュの元へ向かうのだが……
 「ええい! 今大事な話をしているんだ! 邪魔をするな! デンテ、それで、ショウマを強化できるのか?」
 誕生日の娘を邪険に追い払うと足早に去って行き、双子がこの時点で「ショウマの為に自分たちが蔑ろにされた」とまで受け止めたのかはわかりませんが、火に油を注ぐ要因の一つとなっていた可能性は高く、安定して最低でした。
 「ジープ……ジープはずっと一緒にいてね」
 「シータだけは、一生離れないでね」
 「「何があっても、私たち二人だけは、永遠に」」
 かくして双子は、世界の中で価値があるのはお互い同士だけ、と哀れなほどに小さく歪んだ世界を作り出す事で精神の安寧を手に入れ、その箱庭を破壊しようとする者へと憎悪の炎を向ける。
 「俺たちにはもう!」
 「私たちしか居ないのに!」
 「「おまえはそれすら奪う!!」」
 閉じきった世界で他者を顧みることのない、双子の身勝手すぎる物言いにショウマは愕然とし……ここで音楽が途切れるのが好演出。
 「…………俺が……奪った? …………母さんの人生を奪って、沢山の人間の命を奪い続けたのはおまえ達だろう!」
 ショウマの激情にBGMが乗せられ、今でも「兄さん、姉さん」と呼ぶように、「家族」である事そのものは捨てきれずに居るショウマが、土壇場で情にほだされる可能性はちょっと危惧していたのですが、母親の殺害への関与と、大勢の人間の拉致(実質的な殺人)、それは絶対に許せない一線であると改めて描かれたのは情念の確認も含めて良かったところ。
 「おまえ達と私たちが、同列だっていうの?」
 「思い上がるな!」
 「「おまえも人間も、全部この世から消してやる!!」」
 双子は双子なりに、揃って仕事大好きな暗黒マフィア一家に生まれて歪んでしまった環境の犠牲者(しかも、当時の当主は紛う事なきクズ親父)の一面はあるが、自己を律せず、他者を蔑み存在価値を認めない事で自尊心を保つ、いびつな精神を膨らませてしまった存在として語られ、とうとう、会社の方針さえ逸脱。
 「……シータ、ジープ! ……ここで決着をつける。――変身」
 決定的な決裂により、「兄さん、姉さん」も消えると互いに戦う為の姿に変わり、もはや「どうする?」もいらない対峙は頷けるものとなりましたが、これをより劇的にする為には、もう少し「どうする?」の使用回数があれば、というのは惜しかったところ。
 話し合いの時間は終わり、骨肉の殺し合いが再び幕を開ける一方、絆斗はビルの屋上で歌う可児を発見すると、体当たり。
 「ストマック社だよ。闇菓子作って売ってんのは、奴らなんだ」
 「……ストマック社?」
 命乞いをする可児が雇い主の事を口にして、絆斗の超重要トピック入手がねじ込まれるのが、とんでもない(笑)
 絆斗の隙を突いて可児はまたも逃げ出し、辛うじて双子の猛攻をしのぎ続けるガヴは、疲弊した肉体を支える力の源を感じていた。
 (今戦えているのはきっと……ケーキのお陰だ。幸果さんと一緒に作って、一緒に食べたケーキ。ストマック家に居た時は、元気なんて無くなる一方だったのに……幸果さんには……元気もらってばっかりだ)
 幸果と共にはぴぱれで過ごした日々の事を思い起こすと、関わってきたゲストの何人かも画面に入るのが、ショウマが人間界で得てきた繋がりとして厚みを増し、大地に転がされたガヴは――闘志と共に再び立ち上がる。
 「……ここでやられてっ、悲しみで返すわけに、いかない! ……これからもっと! 笑顔で……お返ししていくんだぁ!!」
 実のところここまで、新フォームの誕生については“ショウマにとっての新鮮さ”で一点突破して、あまり話の内容と密接に繋がる事は少なかった今作ですが(それで不足感の少ない設計が上手かったわけですが)、ここで“誰かの為に作る幸せ”&“誰かと一緒に食べる幸せ”で幸せを二段ブーストした上で、今作の土台に組み込まれている動物報恩譚の構造で更なる火を注ぎ込むのが作品の軸をがっつり貫き、上位フォーム誕生の経緯として百点満点。
 生み出された新たな眷属が、なんだかいつもよりちょっとドスの効いた声を出すと、頭上からホイップクリームが山盛りでかかって誕生したのは、クリームの宝冠を被り、白いマントを広げたケーキングガヴ。
 「力が……湧いてくる……!」
 降臨したケーキの王様は、双子の銃撃を易々とかわし、その攻撃を軽々と弾き飛ばし、これまでのガヴとは桁の違うパワーを発揮。
 一瞬、あ、このまま高速移動で蹂躙するパターンになる……? と危惧したのですが、双子がエージェントを放つと、ガヴもまた、ホイップパーティによりホイップの兵士を生み出し、眷属には眷属で対抗する形で新たなシチュエーションを見せてくるのは、今作のバトルシーンへの強いこだわりを感じ、今後も期待大。
 眷属としては簡易版という事でか戦力としてはエージェントには劣るも、王の盾となると派手にホイップクリームを撒き散らして自爆するなど戦いをアシストする兵士、コミカルな仕草を見せるのがバランスを誤ると緊張感を削ぎかねない部分も出そうですが、下から突き出された兵士の槍をガヴが握って空中移動の支点に使うのは、組み合わせアクションとして面白かったです。
 「……あれ、ガヴか?」
 「おっとぉ、ちょっと見ない間に、また成長してるね」
 駆けつけた絆斗と出張中のニエルブが見つめる中、キングガヴは鉄骨を駆け上り、古式ゆかしい工事現場での戦いで、高所から飛び降りるや着地と同時に周囲の戦闘員へと剣を振るうアクションを決め、高低差の取り込みへの意識が強いのも、今作バトルの好きなところ。
 またこのシーン、回転しながら落下して地上に降り立つや、カット割らずにそのまま地上戦に移行しているのですが、どういう合成をしているにしても全く違和感がなく、お見事(さすがに純粋な身体能力ではないと思うのですが……)。 ※身体能力でした!
 「私たちが……赤ガヴなんかにぃぃぃ!!」
 戦闘員を蹴散らし、双子を地面に転がしたガヴは、眷属を武器にセットし、これまでとちょっと違う形(三角おむすび風味)だと思ったらホールケーキの1ピースで成る程。
 もはや身動きもままならない双子に向けてホイップチャージした剣を構えると……
 (あんた達とも……一緒にケーキ食べられれば良かったのかもな)
 どこか涙混じりの呟きと共に、ガヴの脳裏を、双子がプレゼントを受け取ってくれて一緒にケーキを食べる、あり得たかもしれない可能性がよぎるのが切なく、許せない敵ではあるが、バッサリとは割り切れない心情を抱えながらガヴは咆哮し(まさに70年代ヒーローからのストレートなアップデート!)、ここで、画面左側に構えた武器の赤熱エフェクトにより、どこか夕陽に照らされるような光がガヴに当たっているのは、感情との綺麗なシンクロになりました。
 「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
 新フォームの必殺技初お披露目ながら、スローテンポなOPのピアノアレンジをバックに、重く苦しい兄妹殺しの一撃となり、光の奔流が双子を飲み込む寸前――ジープを突き飛ばすシータ。
 「……良かった」
 ジープを守ったシータだけが影も残さず消し飛び…………そうですよね!!
 双子を殺す時は、まずはこうでないといけませんよね!!!
 「シータ?! …………うそ、でしょ……ずっと一緒にって言ったのに……シータ……」
 我ながら邪悪な方面の与太がどんぴしゃで来てしまいましたが、生き残ったジープは、シータメモリの残骸と形見となった銃をかきいだくと慟哭し…………あれ、これ、塩谷プレートと対応している…………?
 よろよろとジープが歩き去ると、エネルギーを使いすぎたガヴは変身が解けて倒れたところを絆斗に拾われ、はぴぱれへと帰還。
 「……幸果さん、ただいま」
 「……おかえり」
 …………ああなんか今、はぴぱれが本当の意味でショウマにとっての“家”になったのだな、とここで感じたのですが、“家”を手に入れたショウマと、“家”を失った双子の光と影もまた、残酷にして美しい交錯となりました。
 はぴぱれでは幸果が、ショウマと絆斗の為に豪華な食事を用意しており、早速マシュマロに手を伸ばそうとするショウマの腕をがしっと掴んで止めると、まずは手を洗ってこいと指導する幸果さん、強い(笑)
 双子の襲撃を切り抜け、新たな力でその一人を撃破し、一つの死線をくぐり抜けたショウマの笑顔で締め……ずに、激しい雷雨に打たれるジープの姿で追い打ちをかけてくるのがえぐい、えげつない……。
 道に転んだジープは、地面に落としたシータのメモリに向けて必死に手を伸ばしながら名前を呼び続け……そうですよね!! 双子を殺す時は、まずはこうでないといけませんよね!!!
 更なる狂気の淵に立つジープは、シータの名を呼びながら、短刀を自らの髪に当て、これは再登場時に、容姿をシータに寄せてくるパターンでしょうか。
 雨に濡れるジープが絶叫する中、
 「うーん……そろそろ絆斗くんにも新しい刺激与えたいんだけどなぁ……」
 酸賀は平常運転で最低だった。
 「こんばんは……酸賀さん」
 考えにふける酸賀の研究室を訪れたのは――当然のように双子を助けようとはしなかった、ニエルブ・ストマック。
 最低メガネと最悪メガネが一室に集い、新たなる刺激を求める冒険の旅に向けて、つづく。
 ……いやぁ……凄かった!
 年内あと2話ほどありそうですが、1クール目を締める、上位フォーム誕生&幹部退場編として、150点の出来。
 ケーキング誕生の理由付けと、ショウマが立ち上がるところまでで既に120点でしたが、双子の退場のさせ方で、+30点です(笑)
 なんかもう、ここから上がり目があるのかとか、このラインを維持できるのかどうかが不安になってくる出来な上で、年内残りで更なる爆弾を投入してくる可能性もあって油断なりませんが、とりあえず、年末年始の引きの為にストマック社大爆発、にはならなそうで安心しています(笑)
 ケーキング、ホイップクリームの意匠がどこか蝋燭の炎のようにも見えて、体にあしらったストロベリーの赤と合わせた印象から、不動明王のニュアンスが入っているのかな……と予告の映像から想像を広げていたのですが、誕生の経緯には“怒り”の要素は薄く、どちらかといえば後で振り返った時にストロベリー大明神なのやもしれません(それはそれとして、生と死を象徴する誕生ケーキみたいな印象も離れがたく、今日が新しいジープの誕生日!)。
 で今回、個人的なクリティカルだったのが、ともすれば出番の減りがちな幸果社長とはショウマにとって、
 「貰った元気を、笑顔で返したい人」
 であると明確に位置づけられた点なのですが、それは場合によっては「恋」と名のつく感情に近いような気がしてならず、今作にはなんとなく、そういった要素――関係性の変化――は視野に入れているのではないか、と感じています。
 経緯の詳細はさておき、物語の土台には異類婚姻の要素がありますしし、復讐テーマを扱う作品としては、今回めでたく「復讐の連鎖」要素が入ったので、そうなると、対グラニュートにおいてはこれまで蚊帳の外であった幸果も、ターゲティング可能性が上がっていきそうな悪寒もあり。
 次回――しぶとく生き延びたカニラニュートが、ショウマと絆斗の間に波乱の火花を撒き散らし、引き続き、起こりそうな問題はどんどん放り込んでくるスタイルですが、ホイップの兵士の、成る程そう使うのか、も面白く、ここから先の各フォームの見せ方も楽しみです。
 果たしてクリスマスは、シャケなんですか? チキンなんですか? アムールってなんなんですかノエルさーん?!