東映特撮に踊らされる駄目人間の日々のよしなし。 はてなダイアリーのサービス終了にともない、引っ越してきました。
旧ダイアリー保管用→ 〔ものかきの倉庫〕
特撮作品の感想は、順次こちらにHTML形式でまとめています→ 〔特撮感想まとめ部屋〕 (※移転しました)
HP→〔ものかきの荒野〕   X/Twitter→〔X/Twitter/gms02〕

めっきり寒い読書メモ

米澤屋から世界を眺めて

 先日読んだ『米澤屋書店』(米澤穂信)で触れられていた本を中心に。

●『海底バール』(ステファノ・ベンニ)
 ある晩、不思議な紳士を追いかけて海の底にあるバーに招き入れられた男。そこでは、奇妙な客たちが一人一つの物語を語り始めるのだった……。
 イタリアの人気作家による短編集。
 基本設定から、『白鹿亭綺譚』(アーサー・C・クラーク)×R・A・ラファティみたいなものを期待して読んだのですが、個人的な好みからすると、社会・文明風刺の色彩が濃いめでいまいちピンと来ず。
 風刺や皮肉を多分に取り入れつつも、奇想とユーモアを軸にした法螺話の類が主体ではあり、中にはニヤリとさせられるものもありましたが、ゴテゴテとした固有名詞の繰り返しや、長々とした形容の羅列など、装飾過多を笑う、みたいな手法の多さもツボには入らず、空振り。
 後、艶笑小咄、みたいなものを理解するセンスが私には無いっぽい……。

●『二壜の調味料』(ロード・ダンセイニ
 ファンタジーの巨匠、ロード・ダンセイニのミステリ作品集で、表題作は、かのエラリー・クイーンも絶賛した有名作品との事ですが、今読むとアイデア自体は途中でわかるものの、ラストが実に鮮やかでありました。
 多くの作品で、現在進行形の事件を主観で扱っていくのではなく、“過去にあった事件を誰かに語り聞かせる”スタイルが取られるのですが、その“語り”により物語と読者の間に薄皮一枚分のベールが張られる事で、果たしてそんな事があり得るだろうか? でも、あり得るかもしれないな……と、どこか薄もやの向こうの現実に着地するようなコントロールが巧妙でありました。
 謎解きミステリというよりは、巧みな語り口で聞かせるどこか奇妙な事件、としての面白さで、特に印象深かったのは表題作の他は、「疑惑の殺人」「ラウンド・ポンドの海賊」「新しい名人」「稲妻の殺人」といった辺り。
 後、元々の文章が読みやすいのか翻訳が良いのか、7~80年ほど前の短篇としては、全体的に読みやすいのは良かったです。

●『クライム・マシン』(ジャック・リッチー)
 350編に及ぶ作品を書いた、短篇ミステリの名手の日本オリジナル傑作集で……これが面白かった!
 「渇いたユーモアと巧みなストーリーテリング、無駄を徹底的にそぎ落とした簡潔なスタイル」というプロの紹介文以上に書く事が無いのですが、導入から主題へとテンポ良く進行し、巧妙なひねりを加えながら、結末において思わず「うまい!」と唸らされる鮮やかな話運びがとにかく見事で、優れた短編小説の醍醐味を味わえる粒ぞろいの作品集でした。
 また、簡潔とはいっても決して無味乾燥な文章ではなく、全体的にどこかユーモアが漂っており、広義のクライム・ストーリーながらクスリとさせるオチがつく作品も多く、ドキリとさせるが重苦しさは少なく、サクッと読めるが切れ味は鋭い、そんな短篇揃い。お薦め。
 特に面白かったのは、
 無実の罪で4年の獄中生活を過ごした男が、冤罪の原因となった相手の元を訪れる「日当22セント」
 飛行機で隣の座席に居合わせた二人の女性の会話で進む「旅は道づれ」
 姿を消した妻に関わる夫の疑惑を巡る「エミリーがいない」
 二人の刑事が奇妙な村で遭遇する一夜の出来事「縛り首の木」
 本格ミステリの話法を取り込みつつ気の利いたオチが光る「カーデュラと鍵のかかった部屋
 といった辺り。

●『神のロジック 人間のマジック』(西澤保彦
 11歳の少年マモルは、両親と離れて、謎めいた<学校>(ファシリティ)で生活をしている。周囲には荒野が広がり人家が見えず、北面には獰猛なワニの住む沼地があり、子供達にとっては実質的に閉ざされた世界であるこの<学校>は、果たして何を目的としているのか? いずれも<学校>に連れられてきた前後の記憶が曖昧な6人の少年少女たちは、なぜここに集められたのか……?
 いわゆるデスゲーム物だったりカルト教団の施設めいた状況設定が、ひたすら謎めいたまま進んでいき、果たしてこの物語はどこに着地するのだろう……という疑念は、しっかりと収束を見るのですが、では面白かったのか、と聞かれると、なんとも読後感の難しい一作。
 それは恐らく今作のテーマが「○・○・○」であり、読後に否応なく、それと向き合う事を求められるからではないかと思うのですが、このテーマが作品の核心そのものであるのも、なかなか厄介。
 謎めいたタイトルは個人的には、避けがたく迫る「神のロジック」に対し、「人間のマジック」が抗い続ける事により、やがて「人間のマジック」が「神のロジック」を既定する転倒が起きるのではないか……といったように受け止めました。