『牙狼<GARO> -魔戒ノ花-』感想・第25話
◆第25話「天命」◆ (監督/脚本:雨宮慶太)
OP抜きでサブタイトルが入ると、闇に取り込まれた巨大な狂獣ガロのCGはさすがの格好良さ。咆哮と共に掲げた手が満月にかかるカットも綺麗に決まり、前回の困惑を払いのけて、ここからが仕切り直しのクライマックス!(笑)
「雷牙! おまえはガロだ! 闇に支配されるな!」
冴島の男の流儀に感化されたマユリは、こうなったら力尽くだ! とエイリスの封印を試みるべく走り、巨大ガロと対峙する羽目になったクロウは奮戦虚しくぷちっと潰されそうになるが、それを救ったのは、ひとまず働いて負債を返せ、と戦力に駆り出された邪骨騎士ギル。
……正道に戻った後も、騎士としての呼び名に「邪」入りでいいのか気になります。
「大師!」
「クロウ、冴島雷牙を救うぞ」
「ハイ!」
ギルと並んでクロウも鎧を纏い、師弟が巨大ガロに立ち向かう一方、エイリス手裏剣に襲われるマユリは、番傘広げて飛んできた媚空に助けられ……ちょっと面白ギミックの人になってきていた(笑)
「クロウ、紋章だ、紋章を突け!」
これが僕の、スーパーヒロインチャンス!!
とガロのベルトめがけて渾身のヒロインムーヴを決めようとする吼狼だったが、敢えなく失敗。
師弟コンビは巨大ガロの前に手も足も出ず、マユリは巨大エイリスの内部に取り込まれ、この中では一番MPに余裕のありそうな媚空も動きを封じられ、あっちもこっちも大ピンチ。
「我は今、滅びの花。魔戒の花となろう」
タイトルを回収したエイリスは、恐らく蓮華(睡蓮)のイメージで開花していき、闇の女神として神話的存在のニュアンスを随所に感じさせますが、前回に比べると画面の明度が高くなり、開花の映像も見栄えがしたのは良かったポイント。
無数のホラーの中に塗り込められていく雷牙だが、その時――
マユリの手からこぼれ落ちた鈴が巨大ガロの脳天に直撃すると、これまで出会ってきた人々とのえにしを取り戻した雷牙は心滅を克服して正気に返り、裏ヒロインのアカリさんが大量ポイントを稼ぎつつ、ガロ巨大モードのまま飛翔するとエイリスと対峙。
「これまでだ、黄金騎士。我の手は時空を越え、我が同胞を解き放つ」
「――そうはさせるか!」
再起した雷牙が叫ぶと、満を持しての主題歌と共に鎧がガチャコン変形してガロ:パーフェクトパックが誕生するのは格好良く決まり、エイリスのあらゆる攻撃を弾くパーフェクトガロは、切っ先で黄金の狼が吼えるなんか凄い剣を手にすると妖魔エイリスをぐさっと突き刺し、ガロ・ドス・アタック。
2話をまたいでの苦戦に次ぐ苦戦+暴走を乗り越えて、ヒーロー逆襲のターンだっただけに、パーフェクトガロの出番が1分半程度しか無かったのは少々物足りませんでしたが、初心に返ってガロ召喚=必殺技と捉えると、約1分半の長い必殺技ではありましたでしょうか(笑)
「死の淵で俺は悟った! 時空を越えても、その時代、その場所には魔戒騎士が居る!」
エイリスが全時空に放った筈のホラーは次々と消滅していき、「魔戒騎士=ヒーロー」の置き換えを意識したストレートなヒーロー賛歌が最後に盛り込まれるのは、シリーズらしいところ。
黄金騎士ガロがエイリスを内部から木っ葉微塵に粉砕すると、マユリがその残滓を封印。雷牙は落下していくマユリを空中で抱き止めて地上へ降り立ち……どうだクロウ! これが真のヒロインムーヴだ!! と内心で勝利宣言をしているかもしれないマユリであった。
かくしてエイリスはホラーと共に一枚の石塊と化し、エイリスが両親について口にした悪魔の囁きについて触れるザルバだが、雷牙はそれを否定。
「俺は……いつかきっと自分の力で会いに行く」
「フフフ」
「何がおかしい」
「おまえの親が聞いたら、きっと泣いて喜ぶだろうな」
保護者代わりの1人であるザルバの言葉をもって、この戦いを通しての、雷牙の成長と一つの脱皮が手堅く描かれるのは、ほんわかシーンで良かったところ。
だが、これにて一件落着……とはいかずにマユリの身を異変が襲い、本来なら一定のホラー封印と共に眠りにつく筈のマユリだったが、誕生に関わり自我の中心に巣くうホラーが目覚め、それを妨害しているのであった!
「私は、私は忘れたくない……雷牙の事も、クロウやゴンザの事も……みんなと過ごした事も、みんなと戦った事も、私は何一つ忘れたくない」
更に、眠りにつく事で不要なファイルのクリーンアップと共に記憶がリセットされる体質(ドンブラシステム……)だったマユリは、苦悶しながらもリセットそのものを拒否。
「自分は器なんかじゃないと、雷牙やみんなが教えてくれた。私は、みんなと出会って、自分が人間だと思えるようになった。だから……忘れたくない。忘れるくらいなら、このまま……人間のまま死んでいきたい」
これまで人の世の為、魔道具としての宿命を受け入れてきたマユリは、他者との繋がりによって道具から人間の自覚を得た事で、道具に戻るよりも人間としての記憶を持ったままの死を望むが……雷牙はその肩にそっと手を添える。
「……そう、マユリは人間だ。だから、生きた方がいいんだ、何があっても。……初めからやり直せばいい……出会った時と同じに」
「……初めから?」
「目が覚めたら、いつもようのように俺が居る。ゴンザが居て、クロウが居る」
生きてさえいればきっとまた新しく手に入る、と雷牙は告げ、なんか場の勢いで一緒に画面に並んでいるけど、横の3人(四道・毒島・媚空)はいつもは居ないですけどね!
「そうですとも。それに、作りたてのスープもございます」
「そう。夜はまた、一緒にホラー狩りです」
超格好つけながら告げるクロウですが、それでいいのか(笑) …………なんだか3周ぐらい回って戦隊ダメンズみたいになってきているのが、後年の事を考えると複雑な気持ちです。
……つまりこれが「天命」?
「ああ。そして、この戦いのことを共に語ろう。おまえさんが何をやったか」
「心配するな。私たちはここに居る」
「その通りだ。俺は君に、そう教わった」
横の3人も、ずっと共に戦ってきた仲間みたいな顔で言葉を重ね、マユリの出自に関わる四道はまだともかく、有無を言わせずパーティメンバーみたいな圧を放っている媚空さんと、だいたい事の元凶な毒島が混ざっているのが、だいぶ面白い事に。
まあ、大師のエイリス解放が無ければ、そもそも雷牙とマユリが出会う事は無かった……という因果の連なりにより、番犬所命令で処刑! の流れは描きにくく、最終決戦でマユリをかばって死亡とかしなかった以上、今後は多重の首輪(呪い)でもかけられた上で、激戦地に送られるのやもしれません。
「……雷牙」
「マユリ、共に生きよう」
媚空の術により、マユリの内的宇宙へと入り込んだ雷牙は、宙に浮かぶ光の軌跡を刃の切っ先で辿っていく格好いい演出から、籠を一閃。
マユリの自我に巣くうホラーの思念を見事に断ち切ると……背後に、白ワンピース概念マユリが(笑)
最終決戦に入り、一話完結バラエティー性重視のエピソード群の振れ幅を上手く収束できずに乱気流にもまれるところのあった今作ですが、最後の最後で、冴島の男の精神をこんがり強火で灼きに来たところにシリーズを貫く一本の光が見えて、個人的には満足です(笑)
(ありがとう雷牙。私は忘れない)
そして…………
主題歌インストと共にクレジットの流れるEDパートとなり、懇々と眠り続けるマユリの枕元で毎日朝を告げる雷牙を始め、ゴンザ、毒島、媚空、四道、クロウ、それぞれの姿が描かれ、やがて夜明けを告げる日差しの如く透き通った鈴の音が響く――。
「おはよう、マユリ」
「…………おはよう。――雷牙」
目覚めたマユリが雷牙に向けてこぼれんばかりの笑みを浮かべると、寄り添い合う二人の姿で、終幕。
毒島・媚空・四道に関してはキャストの関係か変にフォーカスが強くなった感はありますが、収まるところに収まっての決着となり……話のわかる番犬所で良かった。
……まあ、元老院の廊下掃除1ヶ月ぐらいのペナルティは課されているかもですが。
視聴順として、今作から5年後に公開された劇場版『月虹ノ旅人』(名作!)を先に見ていた事で、ラストへの納得感が上がったところがあるかと思いますが、作品トータルとしては、趣向を凝らした一話完結エピソードに面白さがあった一方、ゲスト(ホラー)中心の進行が軸になる為の“冴島雷牙の物語”としての弱さが、最終盤に強引な帳尻合わせとして出てしまったのが、惜しく感じたところ。
初代への意識が強いと同時に、初代と同じ事はできない為に、ヒーロー×ヒロインの関係をどう描いていくのか、にやや難しさが出た印象ですが……そこで取った手段が、縦軸での掘り下げの積み重ねを重視せずに定番の文脈で補う、だったのが綺麗に終盤の穴とはなってしまいました(そしてクロウが、ややこしくした……というか、闇に生きてきた者が“人の心”を取り戻すテーゼを、クロウの方が体現してしまうのはどうだったのか(笑))。
また“冴島雷牙の物語”をやるには、雷牙両親をよりハッキリと描く必要があるという判断も出たのかとは思われ、そういう意味で『月虹ノ旅人』は、TV版でやりきれなかった“冴島雷牙の物語”を補完する意図が感じられて、シリーズ15年の集大成であると同時に、今作の取りこぼしを拾うカーテンコールでもあったのだなと。
印象的なエピソードは、
第2話「害虫」・第4話「映画」・第5話「星図」・第7話「神話」・第8話「家族」・第10話「食卓」・第11話「漫画」・第12話「言霊」・第13話「凶獣」・第17話「少年」・第19話「組曲」・第20話「鉄人」
といった辺りで、エピソードの趣向が一つでも刺さると印象に残るという点では、ものの見事に作品コンセプトにやられていますし、既に確立しているシリーズの世界観を土台とした、怪物退治物としてのアベレージの高さは満足のいく作品でした。
ベスト3を挙げるなら、第7話「神話」・第11話「漫画」・第19話「組曲」、といったところ(順不同)。
個人的な今作の評価はとにかく、この先に『月虹ノ旅人』がある、が前提になってしまってはいるのですが、幻影騎士クロウの活躍は色々な意味で面白かったですし、振り返って見られて良かった『魔戒ノ花』でした!
……後これは全くの余談でありますが、ヒーローテーゼにこだわりの強い《牙狼》シリーズの一作において、ホラーを内部に封印した末に祓い捨てられる天命を背負ってきた存在が、最後に「えんができたな」で人間としての生を取り戻すのが、同じくヒーローテーゼに正面から取り組む意識の強かった『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』と重なっているのは、今見て面白いところでありました。
ラストにおいてマユリが、“私”を捨てて“公の器”に徹する事に関して自覚的であったと明らかになり、雷牙がそれを否定してみせる(事で自らの“私”にも重きを置く)のも、今作の枠を越えたヒーロー観とのリンクを意識した部分ではあったのかなと。
以上ひとまず、『牙狼<GARO> -魔戒ノ花-』感想、お付き合いありがとうございました。