『仮面ライダーガヴ』感想・第12話
◆第12話「ドーナツがつなぐ絆」◆ (監督:上堀内佳寿也 脚本:香村純子)
「辛木田さん乗って!」
前回ラスト、てっきり爆発のドサクサで逃げたかと思われたワニグラニュートは、むしろ戦意横溢でガヴと絆斗に迫り、バギーを召喚したガヴは絆斗を乗せて撤収。
「……成る程な」
それを見送るランゴは、余裕を漂わせながらなんとなく思わせぶりな事を呟く100点満点の大物悪役っぽいムーヴをキめ……終盤にパーフェクト節穴ムーヴをキめないかが、今から大変心配になります。
ガヴは傷ついた絆斗を、ひとまず人気のない路地裏に横たえ、
「俺だって正体バレてんだ。……フェアじゃねえだろ」
は、予告で切り取られた際に理屈ガバガバすぎるのではと思っていたのですが、咄嗟の事とはいえ逃走の際に口を滑らせていたので、だいたいショウマの自爆でした。
「俺が……暴いたわけじゃない」
とは言いつつもガヴが変身を解除すると、現れたショウマの姿に納得しながら絆斗は気絶。
ショウマは絆斗を事務所へと運び込み、重めの負傷描写から応急手当てに繋げて、絆斗の腹部に口は無いが手術痕があると確認する流れは成る程で、ショウマは絆斗が「改造されたグラニュート」ではなく「改造された人間」である事を知る。
「助けてもらったこと……一応、例は言う。でも……なんであの場でグラニュートを倒さなかった?」
「え? それは君が危なかったから……」
「そんなの別にいい!」
「よくな――」
「あいつを野放しにしたら! また誰かがさらわれて食われるんだぞ!」
目を覚ました絆斗は感情の高ぶるままにショウマを突き飛ばし、「グラニュートを倒す」事に意識の強い絆斗と、「人間を守る」事に意識の強いショウマ、より言えば、グラニュートを出来る事なら根絶やし対象と見ている絆斗と、そうではないショウマとの本質的なズレが浮き彫りにされ、ここからそれが、広がっていくのか埋まっていくのかはわかりませんが……最終的に「世界の運命を賭けて二人が戦う事になる」みたいな話運びはあまり好きではないので、出来れば違う道を見たいところ。
「一日でも早く、一匹でも多くグラニュートを倒さねぇと、どっんどん被害者が増えるんだ! おまえは! 俺なんかほっといてグラニ」
「駄目だよ!!」
胸ぐらを掴まれるショウマだが、絆斗の言葉を遮ると、しっかりと相手を見据えて異論を告げる。
「……気持ちはわかる。……でも……生きてるから、誰かを助けたり……グラニュートを倒したりできるんだ。生き残ったから……出来ることがあるんだ」
戦えるのは生きている者だけだと、時に自己犠牲に陥りがちなヒーローの在り方を否定してみせる言葉の後ろに、ショウマの歩んできた人生を置く事によってショウマならではの説得力を加えるのが、抜かりの無い作り。
ショウマが決して絆斗から目をそらさないのも、ショウマの現在地を示すに際して、格好良く決まりました。
「それに……君を助けずにあの場で戦い続けるって事は、俺の目の前で、グラニュートの被害者が一人増えるってことだよ」
「…………そうか……そうだな……悪かった」
そして、対グラニュートにおける根本的な意識(視線)には当然のズレを抱えるショウマと絆斗ですが、行動原理の一つとしての「悲劇を繰り返させない(他者に同じ痛みを味わわせない)」点においては一致しており、それは彼等自身においても例外ではないからこそ、ショウマの言葉が絆斗の心に届くのは巧い組み立てとなりました。
Aパート前半、互いの正体を知ったショウマと絆斗の対峙を通して、両者の間の相違点(今後ぶつかりかねない部分)と共通点(現在わかりあえる部分)をぎゅっぎゅっと詰め込み、次の展開への土台を視聴者に明示しつつ、衝突と相互理解の第一歩を描くのが、鮮やかな手並み。
「……もしかして……おまえも目の前で誰かをやられたのか」
「…………母さんが。闇菓子のスパイスに」
落ち着きを取り戻した絆斗は、ショウマの言葉の示すものに気付き、自身も母親をさらわれた事を明かすと、絆斗母子の写真を見たショウマは何故か、激しい頭痛に襲われる。
……ショウマ母と絆斗母、「母親」にして「似たような時期?」に「グラニュート被害に遭っている」と、一つの物語の登場人物としては符合の重なりが多く、とはいえ同一人物とするには顔も名前も違うしな……と思っていたのですが、ここでショウマに、記憶や認識を弄られていそうな描写が入って、嬉々としてそういう事をやりそうな関係者が居るだけに、きな臭さが増して参りました。
……考えられそうな可能性としては、ショウマ母は工場ベキイッよりもっと前に死んでおり、息子の養育の為にブーシェが人間の女を乳母としてさらい、母親の姿に見えるように認識を弄っていた……とか……?
「奪われたのは母親だけじゃねぇ。グラニュートども……絶対許さねぇ!!」
絆斗の抱える傷と怒りの深さに、ショウマがぎゅっとパーカーの裾を押さえるのは、前回の双子と重なる形で、机の下で見せる強い内心の表現として印象深くなり、その頃、パニック状態の栄美を無事に発見した幸果は、姉妹の家で仮面ライダーについて説明。
一緒に栄美を落ち着けようとしながら、寄り添う姉妹の姿に目を細めた幸果は、次いで目線を下に向け、主要キャラの共通項からも家族関係で何やらありそうな気配は引き続き伺わせます。
一夜が明け、ショウマが上下同時に器用に歯磨きしているところに幸果が出社。栄美の不安を解消しようとする幸果は、ニワが同様の手段で女性を引っかけようとしているのではないかとネットの交流系SNSを泳ぎ回っており、目標と思われる人物を発見していた。
「見てよこの温暖化トーク」
に大笑いしたのですが、前半、互いが仮面ライダーであると知ったショウマと絆斗が、明度を落とした室内で対峙した場面からの空気の緩め方が絶妙にはまり、画面を埋め尽くす温暖化トークの数々は、スタッフ一同で頭をひねったのでしょうか(笑)
「なんか……栄美さんが騙されたのと似てる」
速攻で待ち合わせの約束を取り付けた幸果は、時間と場所をSNSで伝えて、仮面ライダーを大陸間弾道ミサイル代わりにぶつけてやる、と割と物騒な事を考えており、徹夜で標的に接近した幸果を気遣い、後の事を請け負うと約束したショウマは絆斗に連絡。
「……この回復の早さ……やっぱ改造の影響かなぁ」
酸賀の元で治療を受けていた絆斗はショウマと合流し、酸賀は本日も胡散臭くほくそ笑み、ストマック社ではランゴが出張から帰還。
「で、赤ガヴはどうだったわけ?
「想像だにしない成長ぶりだ。あの強さにシータとジープが手を焼いたのもわからんでもない」
過大でも過小でもなく、冷静に評価を下して出来る男ぶりをみせるランゴの言葉に、グロッタは剣呑な笑みを浮かべ、もはやグロッタ姐さんが右手でメイスをぷらぷらさせているだけでちょっと面白いのですが、女性幹部のパターンとして電磁鞭みたいなのが伸びるのだろうな……と思っていたら実質棍棒だった事で好感度が上がる、珍しいパターン(笑)
赤ガヴの精神面の弱さを突こうとするランゴは新たなバイトの雇用を計画すると、有能な人材を選び出す為に手を貸せとグロッタに持ちかけ……つまりこれから、「歯ぁ食いしばれ」と候補者めがけて右手の棒が唸りをあげ、ストマック精神が注入されるのでしょうか。
ストマック社で地獄の緊急バイト面接が始まっていた頃、幸果に代わって待ち合わせの場所へと向かった女装ショウマがワニグラニュートを見事に引っかけ、《スーパー戦隊》では定番ともいえる女装ですが、《仮面ライダー》では割と珍しい印象。
「赤ガヴ?!」
「見つけたぞ、グラニュート」
「おっと、昨日はもよくやってくれたな」
前日の失敗で焦りもあったのか、少々仕事が雑になったワニグラニュートの退路を絆斗が塞ぎ、目には目を、歯には歯を、詐欺に詐欺を。うちの社長に手を出そうたぁふてぇ野郎だ、と事務所に連れて行かれそうになったワニが正体を現すと、ショウマと絆斗は揃って眷属セット。
「「――変身!!」」
劇中初の同時変身で、前屈みになったガヴが顔を上げるのと、膝を付いた姿勢のヴァレンが立ち上がる姿がきっちり重ねられ、ヒーローが悪に立ち向かう姿を見せる、こうでなくてはの格好良さ。
「ぶっ潰す」
一方、同時変身するとどうしても、ガヴの方から衝突の種は蒔きにくいのですが、同族殺しのテーゼ強調は今作の面白みの一つだと思うので、どうにか上手く残してほしい要素です。
怖いお兄さん二人に別室に連れて行かれそうになったワニ(闇菓子を強奪しようとしたクラゲグラニュートがエージェントに取り押さえられて面接に連れて行かれるのは、狙った照応だと思うわけなのです)が廊下を砕いて地下空間での戦闘となり、強敵ワニグラニュートを前に、ヴァレンはチョコでポテトガヴの剣をコーティング。
敵に背を向けてポテト剣をチョコ溜まりに浸すのはやや緊張感の無い画になりましたが、ポテト×チョコが現実に存在するお菓子なのは、今作ならではの楽しさのある趣向になりました。
素顔を認めてから初のタッグバトルという事で仲間意識も強まり、ガヴが「例しにどれか使ってみて」とヴァレンの前に眷属を3つ並べたところで「どうする?」を入れるのはニヤリとさせますが、見たいのはそれじゃない感もあって悩ましいところ(笑)
ヴァレンが若い衆を適当に掴んで鉄砲玉にするとドーナツフォームが発動し、今回も甘ったるそうな姿となったヴァレンは、もふもふボディで衝撃吸収。
「当たりだったな」
ヴァレン版マシュマロといった感じのドーナツヴァレンは、もふもふボディを活かした格闘戦から、実質タイヤの要領でワニの口と動きを封じるとメカガヴにスイッチし、おどれの未来はサイフ工場行きじゃぁぁぁ、とキャンディガトリング&ミサイルで木っ葉微塵。
詐欺対決はチームはぴぱれの勝利で幕を閉じ、前半から一転、バトルは多彩な能力を駆使した軽快路線で進行し、今作における「犯罪と死」を背景に据えながらも戦闘を中心にポップな明るさを強調したバランスの取り方は、個々のエピソードそのものは割と重い一方でコアメダルを巡るバトル部分は楽しさ重視の見せ方だった『オーズ』と似た雰囲気を感じます。
しばらく活躍の場の無かったポテトを出した上で、ポテト → チョコ → ドーナツ → キャンディ、とダブルライダーの活躍バランスの割り振りも良く、また、これまでより一歩進んだ共闘にふさわしい強敵として、ワニグラニュートが良い怪人でありました。
後日、これ以上は栄美が狙われない証拠として、怪人の撃破映像が栄美と葉奈に提供され、今回は犯罪被害者のアフターケアが重視される――中で社長が存在感を見せる――作りでしたが、人外の怪物扱いとはいえ、爆殺映像を見せつけるのは、少々複雑な気持ちにさせられます。
とはいえ、プレスから救出した被害者へのアフターフォローという、今作ここまで押さえきれなかった要素を埋めつつ、“仮面ライダーの理解者”を増やすのは手堅い作り。
「正直……ホッとしてる。なんつーか……わかる奴が居るんだなぁって」
ショウマと絆斗の間には、共闘の先の共感が生まれ、
「辛木田さん」
「……絆斗でいい。これから、よろしくな、ショウマ」
「先輩を付けろや花柄野郎」
……じゃなかった
「……わかった」
少しばかり口ごもったショウマは、顔を上げると笑顔を浮かべて握手をかわし、軽くじゃれあう二人の姿にゴチゾウ達も喜ばしげだったが……手を取り合える仲間を得ると同時に、ショウマの心中には巨大なわだかまりもまた生まれていた。
(……絆斗は人間で、俺の事も人間だと思ってる。だから信用してくれてる。俺は……ストマック家のグラニュートなのに)
ガヴとヴァレンがそれぞれの正体を知り、勘違いの片方は解消される一方、絆斗を動かす怒りと憎しみを肌で知ったがゆえに、ショウマの抱える自身の秘密はより重くのしかかる事となり、一つの問題解決や状況変化が次に繋がっていく手並みの鮮やかさは、香村さんの18番。
とにかく、カードの広げ方・伏せ方・開き方の手さばきが光ります。
二人の仮面ライダーに大きな関係の変化が訪れた一方、家出中の双子@無職は、情報管理と社内コンプライアンスの厳しくなっている昨今、「関係者以外立ち入り禁止です」とストマック社の事務所から容赦なく叩き出され、雨の降りしきる路地裏に放り出される見事な落ちぶれっぷりを見せていた。
「……どうしよう、もう行き場がない」
「……全部赤ガヴのせいだ」 「……そう。全部赤ガヴのせい」
「……許さねぇ」 「許さない」
「許さねぇ」 「許さない」
「許さねぇ」 「許さない」
「許さねぇ」 「許さない」
…………
腹筋の強さを試される双子は、もぎ離された手を再び重ねると、逆恨みをエネルギーに歩き出し、赤ガヴへの恨み言を繰り返す幽鬼のごときその姿は、如何にしてショウマに迫るのか――次回、今度こそ激突!