『電子戦隊デンジマン』感想・第47話
◆第47話「朝日に消えた人魚」◆ (監督:服部和史 脚本:曽田博久)
ベーダーの攻勢を警戒していた赤城は、デンジランド周辺のパトロール中に白いワンピースの少女と出会うが、生まれるのはロマンスではなく、職務質問だった。
なにやら不思議な雰囲気をまとった少女は、空・海・陸を見物していると要領を得ない答を返し、疑いの眼差しを向けながらも赤城が立ち去ると、デンジランドの入り口を探すベーダー一族が監視装置の設置を開始。
物陰でそれを目にした少女が不思議な笛の音でベーダーを妨害すると、海からボートラーが飛び出して迎撃に当たり、ボートを逆さにかぶっている頭部がインパクト絶大(笑)
少女の危機に赤城が舞い戻るとデンジスパークし…………多分、不審な少女がベーダーの手のものでないか遠くから見張っていましたが、ここは地獄で戦場なので、人の心は昨日に置いてきたのです。
「なんて強い人……!」
デンジレッドに蹴散らされたベーダー一味が這々の体で逃げ去って後日――青空空手教室で指導していた赤城は、着飾った少女に強引に引きずられていき、取り残される教室の子供と仲間たち。
「赤城さんのガールフレンドかな?」
「馬鹿いってるんじゃないよ! 赤城がそんなにモテるわけがない!」
「ああ」
青梅と黄山は醜い嫉妬の炎を燃やし、街に引っ張り出された赤城は、世の常識というものをとんと知らない少女の為に服の代金その他を支払う羽目に陥り、少女の行くところ、海水がこぼれていたり魚の鱗が落ちていたりで、黄山の鑑定スキルが大活躍。
自分本位な少女に振り回されて色々と腑に落ちない表情の赤城だが、相変わらず、背広がやたらに似合って私が得。
「……君はいったい誰なんだ? ……どこから来たんだ?」
ボートで池に漕ぎ出すも、デート気分どころか詰問口調になる赤城だが、女は回答を拒絶。その間に、湖岸の青が遠隔デンジスコープを用いると、そこに映ったのはなんと人魚の姿?!
そうこうしている内に湖面のボートが水中からボートラーの奇襲を受けると、デンジスパークした赤城は、一人で、跳んで、逃げた。
通常、ヒーローならあり得ない対応で自分一人だけ湖岸に退避するデンジレッドですが、ここは地獄の船上なので、束の間のイチャイチャどころか、八割方スパイだと想定した対応に終始し、安易なハニートラップには引っかからないという、決然たる意志を感じます。
「人魚姫はベーダーがいただく!」
「人魚姫だと?」
ボートラーが娘の正体を暴露すると、電子戦隊一同は少女をデンジランドへ連れて行き、「人魚族のプリンセス、人魚姫に間違いない」とアイシーも判定。
ベーダー一族は、人魚姫を人質に取って人魚族をベーダーの傘下に組み込もうとしており、久方ぶりの現地戦力調達路線。
「帰りなさい」
「……嫌です!」
高貴な生まれ故の窮屈な生活を疎み、地上における自由への渇望を吐露する姫だが、赤城はひたすら真正面からの説得を続けた末、姫が召喚した岩の下敷きにされた(笑)
……まあ、これまでの視線が視線なので、因果応報と言えばちょっぴり因果応報でありますが、「人魚一族も立ち上がって、共にベーダーと戦うべき!」と言い出さない辺り、デンジ姫の一件を反省はしているものと思われます。
「……ここも海の底と同じ。私はひとりぼっち」
逃げ出した姫はバーで寂しく呟き、姫は姫で、人間社会のルールについて学ぶ気も従う気もゼロ・素性を説明する気もゼロ、と地上の他者とまともに向き合おうとしない困った我が儘姫なのでありますが、道中で衣装チェンジをしながらいずれも「白」をまとっているのは、あくまでも他界の存在として(地上においては)一種の無垢なるもの、ひいてはデンジマンが守るべき存在としての象徴的意匠かと思われ、これは第18話「南海に咲くロマン」(監督:竹本弘一 脚本:曽田博久)における、善良な魂を持ちながらも人間社会に馴染めずにいた海彦一族の青年・洋太郎の変奏曲、といえそうでしょうか。
その洋太郎が第18話において希求した南海の楽園にはニライカナイの幻想を重ねる事もできそうですが、海彦一族・人魚という二つの要素がいずれも海に縁ある存在と描かれたのは、曽田さんなりに(金城哲夫-)上原正三ラインに寄せた意識もあったのかもしれません。
同時に、“ここではないどこか”に楽園があるのかといえば、他者と向き合わない者においてはどこにも存在しない、とする皮肉な寓意も見ようと思えば見えますが、最終的には、ここを守ろうとする者が、ここではないどこかを探す者に、それぞれにとっての戦いの場があると諭す構造に至り、最終盤にまた、今作のフォーマットの中で何が描けるのかへの曽田さんの試行錯誤は窺えるところ。
ベーダーに追われる人魚姫は、こぼした涙が真珠となって散らばり、周囲に軽いパニックが生まれた事でメルヘン逃走に成功し、ここにもまた、地上の人間と人魚一族にある異種の断絶が浮き彫りにされますが……曽田さんといえばかつて『キカイダー01』の初参加回が「狂った街 恐怖の人魚姫大逆襲」(監督:今村農夫也)だったので、単に『人魚姫』のモチーフが好きな可能性もゼロではありません!
走り疲れた人魚姫が地面に倒れ伏すと、地上での活動限界に達して足が魚に戻っ……たりはせずに、スーツ赤城が現れて手を差し伸べ、夜の街でワルツを踊りながら、3000年前のデンジ姫について人魚姫に語り聞かせる。
「昔々、デンジ姫という人が居いました。若くて美しい御姫さまでねぇ、やはり、窮屈なお姫様暮らしをしていました。ところが、デンジ星がベーダーに襲われて、お姫様の生涯は一変した。……彼女は、デンジ星人の先頭に立って、ベーダーと戦わなければならなかった。辛く、苦しい旅に出た。遊びたい年頃なのに、青春の全てを犠牲にして、戦いに明け暮れた」
……だいぶ適当に盛っている気はしますが、ここに、80年代曽田戦隊の中核を担う「青春」と「闘争」の二大テーゼが盛り込まれている(※実作においてはそこに「科学」が追加)のは、シリーズ史において非常に興味深い点。
「でも、デンジ姫は泣き言を一つも言わなかった。これが運命と、敢然と立ち向かったのさ」
「運命?」
「人それぞれ、持って生まれた運命というものがある。俺達はデンジマンとしての運命が……」
赤城は言葉の途中で流血の痛みに顔をしかめ、その傷を負わせたのは、目の前に居る人魚姫です……!
「戦いに明け暮れているデンジマンにとって、ワルツを踊るチャンスなんて滅多にないんだ。踊りましょう……朝まで」
「朝まで? ……ありがとう。踊ります、朝まで」
青梅ら4人がじっと見守る中、二人はワルツを踊り続け、「戦いに明け暮れているデンジマン」でなくても、ワルツを踊るチャンスはあまり一般的とは思えず、やはり赤城一平は、上流階級に所属する資産家。
そして夜は泡沫の夢と閉じ、夜明けと共に姫を海へ送り届けようとするデンジマンの前にベーダー一族が立ち塞がり、ボートラーのスクリュー返しに翻弄されるデンジマンだが、姫が物陰から念動力で援護を入れると、デンジパンチ! ダブルパンチ! 稲妻落としでフィニッシュ!
巨大化したボートラーは、飛び交うヘッドボートと、小型のボード爆弾でダイデンジンを苦しめるが、無慈悲なデンジボート爆弾返しから、満月斬りで一刀両断。
赤城らは、浜辺に真珠の粒で描かれた「サヨナラ」を目にして姫が無事に海へ戻った事を知ると、その4文字が打ち寄せる波に洗い流されて消えるのは、美しい画でありました。
(さよなら……)
後年を知っていると洗練されているとは言い難いものの(ざっくり加減に「運命」が飛び出してきたり)、第45-47話は、ぶっとんだ要素もありつつ、電子戦隊デンジマンの戦いとは何か? を再確認していく曽田さん3連作の趣となり、上原大先生が途中でだいぶ手癖になってしまったのと比べると、曽田さんはやはり、「非・職業戦士の戦隊とは何か」「戦士となった元一般人の心の在り方」……といった点に意識があった事が窺えます。
ラストの演出が決まったのと、スーツ赤城で+20点で、サブタイトルが実に不吉だったので、白い白い海の花が弾け飛ばなかったのは、ちょっとホッとしました(笑)
青春を生贄に捧げ、デンジタワーは100万パワー!
次回――急展開・牢屋に捕まる女王たち(笑)