『電子戦隊デンジマン』感想・第45-46話
◆第45話「二人いたデンジ姫」◆ (監督:服部和史 脚本:曽田博久)
(俺は、久しぶりに街を歩いた)
ようやく秋服に着替え、そぞろ歩きの中に季節の移り変わりを感じる赤城……すっかり戦闘マシーンと化していた心をリフレッシュしていたが、偶然通りがかった喫茶店の窓際に座っていた女性は、なんとデンジ姫に瓜二つ?!
第26話(銀河ハニー回)・第29話(念写刑事回)に続く劇場版との接続エピソードでデンジ姫に焦点が当たるのですが、街でそっくりさんを見かけて、よく似た人が居るものだとか、他人の空似に違いないとか常識的な判断を下さず、あれはデンジ姫に違いない、と前のめりになる赤城がだいぶ病んでいて、ここは地獄だ戦場だ!
女性は赤城と目が合うと慌てた様子で席を立ち、喫茶店の店員は、急に立ち上がった女性がわざわざ裏口から出て行った後、店に飛び込んできて足取りを聞いた男に素直に答えては駄目だと思います。
妙にムーディーなBGMでデンジ姫?を追いかける赤城だが、桃井とバッタリ。
「デンジ姫? ちょっとー、どうかしてるんじゃない?」
……前回に続き、男達に対する桃井さんの言動が妙にきつい(笑)
「本当なんだよ! 確かにこの目で見たんだ!」
クラブの休憩室に戻った赤城は、魔法のランプは本当にあったんだよ! ……じゃなかった、デンジ姫を見たと主張するも、皆の反応は超クール。
「俺の目を信じないのか?!」
「女性を見る目はね」
「アイシー、どうなんだ?!」
「曖昧な証言での断定的発言は差し控えたいと思います」
コミカルな味付けを挟み、孤立無援の赤城は一人で聞き込みに回るが、それが無駄骨に終わろうとした時、何かから逃げているように走る当の女性とバッタリ出会い、満面の笑みで女性の行く手を阻むのが、完全に事件だぞ赤城!!
「俺は怪しいものじゃない!」
「じゃ、何故つけまわすの?!」
どうやらストーカーと誤解を受けていたらしい赤城は(若干、身に覚えがありすぎますが……)、女性を見張っていたベーダー怪物の擬態を見破ると、デンジスパーク!
そこに仲間達も駆けつけて戦闘員らを蹴散らすと、ベーダー怪物オニラーは撤収し、電子戦隊は揃って、デンジ姫のそっくりさんを確認。
「デンジ姫が、幼稚園の先生だったとは……」
……どう考えても、“凄くよく似た他人”と受け止めるのが自然なのですが、やたらと断定的なのは、デンジ星人には遺伝子レベルでデンジ王家に対する忠誠心がすり込まれていて、3000年が経過してもなお、魂が共鳴したりしているのでしょうか。
「なに?! やはりデンジ姫だったというのか!」
ベーダー側も断定……というかデンジマンの動きから確信を深めると、デンジマンとデンジ姫が手を組むのを必ず阻止しなくてはならないと動き出し、どれだけ武闘派と認識されているのか、姫。
かくして、赤城が火種にガソリンを撒いた事によってデンジ姫そっくりの女性・ユウコは自宅に襲撃を受ける羽目になり、デンジマンによる救出のどさくさで生徒達と引き離されると、デンジランドへと拉致される。
毎度お馴染み海釣りカタストロフその他の記録映像を見せると、ほーら、3000年近く前の記録映像に、貴方と瓜二つの女性の姿が!
「わかりましたか。何故あなたがデンジ姫か」
全くわかりません!!
一般市民の女性に対してやたらと強硬な態度で迫り、全体的に錯乱気味の電子戦隊、昨夜はみんなでアンパンパーティーでも楽しんでいたのでしょうか……。
「第一! デンジ姫は、地球から去っていったではありませんか」
ユウコのザ・正論に対し、敗北して地球に戻ってきたのではと黄山が適当な理屈を捏ね、すかさず桃井が「デンジ姫の血を引く人」とまだ納得しやすい表現で落としどころのラインを下げると、ユウコも見た目がそっくりである点にはついてはやむなく同意。
別に地球にデンジ王朝を再興しようとしているわけでなし、血の因縁からベーダーに狙われている可能性が高いので守ります、ならそれ以上の問題は発生しなかったのですが、何故か電子戦隊一同(特に赤城)は、ユウコに対して執拗に「私はデンジ姫(の子孫)」と認めるように迫り、赤城たちからして「なんとなく自分たちはデンジ星人の子孫ぽい」レベルの認識にすぎないのに、ことユウコには自身のルーツを、現在のアイデンティティを捨ててまで受け入れろと繰り返すのは、だいぶ狂気。
「しかし、ベーダーの暴虐を許せるのですか」
ユウコは、それでも自分はただの幼稚園の先生にすぎない、とかぶりを振るが、大いなるアンパンの声に導かれる電子戦隊は、3000年前に滅びた王家の血を引いているかもしれないから、という理由で、やたらめったらユウコを戦いの神輿として担ぎ上げようとし……つまるところこれは、今までアイシーの網の目を逃れていたようだが、今後は自分たちと同じ立場になれと迫っているわけで、劇場版においてうっすらと血統的宿命を背負っていた事にされた電子戦隊が、より濃い血筋を持つ者を同じ穴の中に引きずり込もうとする姿には、宿命強制型ヒーローへのアイロニー……を感じてしまっていいものなのかどうか。
……その点では、青梅ではなく、父を失っている緑川に同じ台詞を言わせると、嫌な説得力が生じていたかもしれません(ところで最近、緑川の口数が極端に少ないような)。
「これを見て、デンジ星人の血が騒がないのですか」
追い込みを図る青梅は第1話の記録映像をユウコに見せつけ、ほうら奴らを、皆殺しにしたくなってきただろう?! と復讐心を煽ろうとし、もはやデンジ星人の血(遺伝子)が地球人類を蝕む呪いと化しているのですが、現実になぞらえるなら、古代周王朝の王家の血を引いている者として君には中華の覇権を取り戻す義務がある、と強要しているようなものであって、トんだ王党派革命組織と化しています。
「デンジ姫とデンジマンが力を合わせれば、必ず新しい力が生み出せる!」
特に根拠もなく青梅はユウコを戦いの海に駆り立てようとし、思えば冒頭で赤城が、街の情景に対して
(それは、ベーダーとの戦いの中で、すっかり忘れていたものだった)
とこぼしていたのは、血で血を洗う戦いに次ぐ戦いの中で人の心を失いつつあるデンジマン、その殺伐とした心象の中で生まれてしまったヒーローの暗黒面があぶり出されるこの流れに向けた、入念な布石だったの?!
よってたかってユウコの精神を追い詰め、なんとしてでも契約書にサインさせようとする電子戦隊だが、幼稚園の生徒をさらったヘドラー将軍(結果的にデンジマンが一線を越えるの食い止めた、今回の陰のMVP)からユウコを呼び出す通信が届き、飛び出していこうとするユウコと二人きりになる事を求めたアイシーの……目が光った!
「やはり私……行きます」
「しかし……」
「もし、私がデンジ姫だったら、こういう時どうしますか?」
一同無言になり、その人の事、実は、よく知らない。
デンジマンがこっそりガードする中、ユウコはデンジ姫の扮装で呼び出しの場所に現れると偽デンジストーンによるブラフを仕掛け、たじろぐベーダー一族だが……あ、コケた。
まさかの転倒でアイシー仕込みのブラフは失敗に終わるが、その隙にデンジマンの人質救出が間に合い、反撃の、見よ! 電子戦隊・デンジマン!!
巨大な刃物を振り回すオニラーの爆発攻撃に追われるデンジマンは、ドラゴンフライで反撃するとデンジブーメランでスパーク。巨大戦では爆弾と火炎放射のコンビネーションに苦しめられるが、一家に一振りなんでもリターンでお馴染みデンジ剣は炎さえも跳ね返し、満月斬りが唸りをあげてオニラーを切り裂くのであった。
無事に子供たちと再会を果たしたユウコが、手に抱えていたデンジ姫の扮装を投げ捨てて子供たちを抱き止めるのは、押しつけられようとした過去の因縁を拒絶して“今”を手にする象徴として気持ちよく、基地に戻った赤城たちは、アイシーより真相を告げられる。
「え? デンジ姫ではない?!」
ユウコの瞳はアイシーの魔犬サーチに反応を示さず、遺伝子的にデンジ姫の子孫には違いないが、数多くの世代を経て既にデンジ星人としての能力は消えている、と至極当然の結論を聞かされると5人はようやく正気を取り戻し、哀しい哉、闘争とは、かくも人の心を歪め、狂わせるものなのでありました。
命懸けで子供を救う気高き魂を描くなら、「デンジ姫だから」よりも「デンジ姫でなくても」の方が当然効果的なわけですし、
〔ベーダーに襲われていた女性を赤城が助けるとデンジ姫と瓜二つ → もしかしたら姫の子孫かもしれないけれど彼女の今を守る為に戦うデンジマン → 最後に偽装トリックでデンジマンの窮地を助ける姫の子孫(?)〕
とでもすれば、ゲストのみならずデンジマンも普通に格好良くなったと思うのですが、何故かデンジマンが
〔「姫とそっくりだ!」 → 「デンジ姫(の子孫)に違いない!」 → 「ならば共にベーダーと戦うべきだ!」〕
と狂気を孕んだ論理の飛躍を繰り広げ、ゲスト市民を“守るべき存在”ではなく“先陣を切って戦うべき存在”扱いする魔境が生じてしまう奇々怪々な一編。
……なのですが、ここで描かれる「狂気」こそまさに、後に井上敏樹が『鳥人戦隊ジェットマン』に計算尽くで取り込んだような、“70~80年代ヒーローが内に宿す狂気”そのものであるが故に、筋の破綻を飛び越えて、正気の世界を侵食するぶっ飛んだ面白さを発生させるに至っており、これを80年代戦隊の柱石となる曽田博久が書いている点も含めて、興味深い一本でありました。
後日――
ナレーション「赤城一平は、もう声をかけなかった。デンジ姫の子孫の、平凡で、小さな幸せを、そっと、祈るのであった」
街で子供たちと手を繋いで楽しそうに歩くユウコの姿を目にした赤城はそれをそっと見送り、最初からそうしてほしかったのですが、最後はあるべきところに綺麗に着地してホッとしました(笑)
◆第46話「腹ペコ地獄 X計画」◆ (監督:服部和史 脚本:曽田博久)
「まさに21世紀は、地獄です」
ベーダー怪物・鳥籠ラーの扮したサバイバル評論家・五代万作は、人口爆発と食糧危機や水不足の深刻化などにより、21世紀に待ち受けるのは絶望のサバイバルだと世の不安を煽り、『仮面ライダー(新)』におけるネオショッカーの目的ともども、当時の世相がなんとなく窺えるところです。
「甘いよ、将軍さん」
「なにぃ?」
「子供というものは、案外、へこたれないものだ」
飛び出してはきたものの、すっかり食っちゃ寝のニート生活に溺れるバンリキ魔王が何故か子供について語ると、ミラーの映し出した鏡に映ったのは、21世紀に生き残る三分の一になろうと、自発的にサバイバル訓練に赴こうとする子供たち。
早朝から5人の子供たちが親に無断で山へと向かって家出騒ぎとなり、久々のコスプレでトラック運転手に扮したケラーさんが、子供たちに接触。
「ハイキングじゃ本当のサバイバル訓練とはいえない」
「生きるか死ぬかの本当のサバイバル訓練をやらせてあげる」
荷物を奪われた子供達はベーダー地獄のサバイバルキャンプに放り込まれ、その先で覚醒するのは、果たしてアースフォースなのか、それともオーラパワーなのか?!
先行して子供たちを追っていたデンジブルーは鳥籠ラーの奇襲を受け、戦闘員の銃撃と卵爆弾に挟まれて崖から転落。
幸い子供たちに発見されるが、男子4人が、体の弱い女子1人を山小屋に置き去りにしてきた事が発覚し、ここも地獄だ戦場だ! 少年たちを連れて山小屋に戻った青梅は少女の無事を確認すると食糧確保に向かうが鳥籠ラーの妨害もあって失敗し、これが前世(曙四郎)なら、その辺りの木の根や葉っぱを掘り出して煮込み、極限サバイバルには最適の人材だったのですが。
後続の4人が戦闘員のケチな仕掛けに翻弄されて山中を彷徨っている間に、極限サバイバルを演出するベーダーにより投げ込まれた水筒の争奪戦が子供たちの間で発生し、分け合う事をせずにただ奪おうとするその醜さに、青梅がとうとう子供たちを一喝。
「馬鹿もん! 恥ずかしくないのか? 自分だけ良ければそれでいいのか?!」
「強い奴だけが生き残るんだ!」
「それじゃあ……ベーダーと同じじゃないか。人間は違うぞ! 強い者は弱い者を守ってやらなきゃ。男の子は女の子を守ってやらなきゃ。……それが人間だ」
陰でせこい嫌がらせを繰り返すベーダーが、そもそも何を目的にしていたのか忘れそうになってきた辺りで、追い詰められた人間の醜さを子供たちに身をもって学ばせようとするベーダーと、それを敢然と否定するヒーローの姿が対比される構図が浮かび上がってきたのは、ホッとしました(笑)
なお作戦の目的を考えると、心身ともに追い詰められ、仲間意識をズタズタにされて人間不信を徹底して植え付けられた後、子供たちは丁寧に家まで送り届けられる予定だったのかと思われ、覚醒するのは邪メンタル。
「みんなは小さくても男だ! 俺はそう信じてる!」
もはやほとんど宇宙刑事ギャバンなノリで、青梅は硫黄ガスを撒き散らす鳥籠ラーに単身で挑み、山道を逃げる子供たちの中でいち早く、サンタ少年がカラテパワーで少女を背負い、ブルーの窮地にようやく辿り着いた4人は、見よ! 電子戦隊デンジマン!
この後、〔デンジマンの戦闘 → サンタと少女を少年2人が助ける → デンジマンの戦闘 → 先に逃げていた少年も反省して合流〕の流れで、手を取り合って共に困難を乗り越える子供達の姿が描かれるのですが、一度シーンを切り替える事もあり、〔子供/戦闘・子供/戦闘・子供/戦闘〕の3セットは、ちょっとくどくなった感。
テーマとしての重視はわかりますが、先に逃げた男子3人はまとめて戻ってきて、2セットで良かったかなと。
羽を象った手持ち武器が格好いい鳥籠ラーは、ブルーロケットからのスクリューアタックで窮地に追い込まれると巨大化し、ダイデンジンに卵爆弾を跳ね返された末に、満月斬りでスパッ!
ナレーション「強い者だけが生き残る世の中であってはならない。デンジマンは、人間の誇りを守る為に、明日も戦う! ゆけ、電子戦隊デンジマン!」
“デンジマンはなんの為に戦うのか?”はサブライターとして曽田さんが繰り返し意識を向けている点となり、次回――今度は人魚。