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スクランブル劇場版

劇場版『超力戦隊オーレンジャー』感想

◆劇場版『超力戦隊オーレンジャー』◆ (監督:こばやしよしあき 脚本:上原正三
 一番心に響いた台詞は、
 「人質救出!」
 です。
 1995年4月15日(オーレンジャーロボが登場する本編第7話翌日)に、東映スーパーヒーローフェア――「東映まんがまつり」がアニメのみを扱う「東映アニメフェア」に移行した事により生まれた、特撮ヒーロー版の映画枠――で公開され、この年の併作品は、『人造人間ハカイダー』と『重甲ビーファイター』。
 戦隊シリーズ20周年記念と力強く銘打たれ、主題歌に合わせて滑走路をバイクで爆走するオーレンジャーは迫力の導入となり、入りは非常に格好いい……のですが、軽いキャラ紹介みたいなノリで、金銭の絡むイジメの構図を見せられて、テンション急落。
 バラノイアではブルドントが『機械帝国の世紀』なる映画を撮ろうとして地上にスタジオを構えており、ちんどん屋のテーマに乗せてセスナからキャスト募集をばらまくアチャ、チャップリン×魔女という扮装で風船と共に現れると凄絶な焼身自殺を遂げるバラノイア兵、馬にまたがり現れるやたらごついマシン獣、など奇天烈な映像が次々と繰り出され、前半戦は他にも、巨大な目を映して並ぶブラウン管や、学生服を身につけた不気味な人形の恋愛喜劇など、小林監督好みの軽い悪夢のような画がひたすら続きます。
 ブルドント映画のキャストとして集められた4人の少年少女がVRの世界に取り込まれる中、さらわれた子供たちを救うためにスタジオに乗り込んだ超力戦隊は次々と現れるマシン獣に翻弄され、豪華に4体も投入されているマシン獣ですが、名前のパターンが「バラ○○」ではないのは、『百化繚乱』のデザイナーコメントでも特に触れられておらず、謎(なおデザインには、小林監督からのオーダーがかなり反映されているとの事)。
 後、本編中盤に唐突に出てくるカメラトリック(その名の通りのカメラ鳥)は、この劇場版が初出でありました。
 「やったー! これで父ちゃんの工場、倒産しなくて済むぞ!」
 出演料を先払いされた少年は札束を手に喝采をあげ、どうしていきなり、そんな重い背景を突っ込んでくるのか。ロケバスの外では、見送りのスタッフが首をかき切る仕草を見せ、そんな事は知らずに子供たちは銃撃シーンのまっただ中へ。
 オーレン一同は馬にまたがると、暴走するバス内部から子供達の救出に成功するが吊り橋で挟み撃ちを受け、お馴染みの吊り橋バトル……かと思っていたら、空中からの攻撃を受けて、吊り橋が真ん中から割れて、オーレン全員落下は、映像の派手さと意外性があって良かったです。
 折り返しの辺りで、バッカスフンドとヒステリアが登場すると、人間は戦争を繰り返して地球を痛めつけている! と言い出し、
 「そろそろ交代の時期が来た。次に君臨するのは、地球に優しい、我がマシン帝国バラノイアだ」
 と宣言。
 人間は弱いものに残酷だ、と決を採ったバッカスフンドは、地球をプレゼントすると告げてヒステリアに薔薇の花を贈り……ブルドント映画の台本設定だったのかもですが、見た事も聞いた事もないバラノイアが出てきて、困惑します(笑)
 ……マシン帝国バラノイア、TV本編においても、如何なる“悪”なのか? を構築できないまま迷走を続けた組織でありますが(日本国内における重大テロ事件発生の影響もあったようですが)、制作時期の問題もあっただろうにせよ、敵サイドの抱えるテーゼ部分のふらつき具合は、悪い意味で実に『オーレンジャー』。
 まあ、後にキング先輩復活と共に明らかになった過去(追加された設定)を視野に入れ、ここでバッカスフンド――古代超力文明に作られた労働階級マシン出身――の言う「人間」とは、現生人類ではなく超古代文明人を指していると考えると、話が繋がるといえば繋がってしまうのですが(笑)
 オーレンジャーが吊り橋から落下し、再びバラノイアの手に落ちた子供たちは収容所に捕らえられており、今作のシンプルに辛い要素として、物語を進めていく動力部分である、救出目標の少年少女たちに全く好感が湧かない点があるのですが、ここで唐突に少女が、“最前線に残って傷病兵の手当てを続ける愛の天使”にクラスチェンジすると、取って付けたように命の大切さが訴えられてバラノイアの悪と対比され、急旋回すぎて頭がクラクラ。
 更に少女は、大地に横たわって空を見上げると、「風が見えるわ」と宣い始め、この点に関しては冒頭に布石がありますし、“地球の力=超力”という本編の要素も接続しているのですが、それにしても、もはや別人と化した少女がバラノイアを相手に延々と命や自然について語り始めるのは主題らしき要素の入れ方があまりにも粗雑な上、ゲストキャラを実質的な霊媒として口寄せをさせる非常に好かない手法で、大変残念。
 (横たわる少女の語るに任せ、バラノイア撮影班がぐいっとカメラを寄せていくのは、メタ的に“台本通り”のドキュメンタリーと捉えると皮肉と毒の効いた映像とはいえますが、春の戦隊映画でそんなブラックジョークを突っ込まれても……ですし)
 少女の処刑寸前、オーレンジャーが駆けつけると5人揃って超力変身するも、道中ここまで、半端な変身とピンチを繰り返していた為に、満を持しての揃い踏みとしての盛り上がりも弱く、本来ならシリーズの強みである、ここからヒーローのターン! というスイッチの切り替えも効果的に機能せず。
 大量の戦闘員を相手の派手な立ち回りの後、4隊のマシン獣はいきなりビッグバンバスターで超ざっくり倒されると、マシン獣スチームパンクス(機関車モチーフ)に合体そして巨大化。
 オーレンジャーロボがそれに立ち向かい、基地の参謀長が「人質救出!」と宣言すると、命令厳守が軍人の務めと単身で敵の内部に乗り込んだオーレッドが少年少女を救出してのけたのは、この劇場版で一番、『オーレン』ぽいところ(笑)
 ちなみにこの映画、割り切りなのか、最低限の基本設定の共有すら間に合っていなかったのか、オーレン側はキャラクター性皆無で進行していくのですが……〔不安定な敵サイド・個性の薄い戦隊メンバー・後半にマジックワードで雑に盛り込まれるテーマ性〕と、その後のTV本編の惨状を予見するような内容なのも、辛い。
 内部の人質を奪われ、機関車モードで逃走を図ったスチームパンクスは、オーロボが必殺剣で鉄橋を切り落とすと谷底に落下して転落死を遂げ、一応は劇場版のボスキャラが、やたら軽い口調かつ聞き取りにくい早口でごにょごにょ喋り続けている見せ方は、一体どうしてそうなったのか、首をひねるのでありました。
 果たしていったい、どこまでが現実で、どこまでがバーチャルだったのか……ブルドントは侍従コンビと月面基地に逃走していき、ブルドントスタジオは消滅し、日常に戻る少年少女だが、いじめっ子コンビは全く相変わらずで、『美少女戦士セーラームーン』パロディから「帰って『オーレンジャー』見よ」のメタ台詞まで飛び出して、うーん…………で、おわり。
 怪作、と聞いて一度見てみたかったのですが、残念ながら個人的なツボには全く合わず。
 メインの題材「映画」と、チョビ髭と風船の組み合わせなどを見るに、名作映画のオマージュが色々と盛り込まれていて、それが判読できるとまた受け止め方が変わったりもする作りだったりしたのかもですが、個人的には苦手分野でよくわからず……印象だけの話でいえば、『イナズマンF』と似た匂いを感じる一作でありました。
 OPのバイク激走と、見慣れているほど意表を突かれる吊り橋が割れたは、良かったです(笑)
 後、軽快なBGMに乗せて本編の登場人物たちがそれぞれカメラに向かって歩んでくるED映像は、お洒落でした。