東映特撮に踊らされる駄目人間の日々のよしなし。 はてなダイアリーのサービス終了にともない、引っ越してきました。
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命を生み出し、命を喰らう

仮面ライダーガヴ』感想・第1話

◆第1話「おカシな仮面ライダー!?」◆ (監督:杉原輝昭 脚本:香村純子)

 異世界より地上に降り立った異形の青年は、果たして世界を救う英雄か、はたまた世界を喰らい尽くす怪物か――。

 (これが……かあさんの、いた……世界……?)
 階段と扉が無数に並び、上下左右がこんがらがった謎の空間でパーカーの青年が黒服の存在に追われ、目まぐるしい画面の動きで視聴者を混乱させつつ引きつけようとする導入。
 虚空に浮かぶ扉の一つが開いて、その向こう側へと転がり落ちた青年は、ネオン輝く夜景も眩しく、東京タワーらしき存在の見える“世界”へと落下していく途中で意識を失い…………浜辺で波打ち際に転がっている姿には『アギト』を思い出すところですが、他界からの墜落により擬似的な「死」を経験し――「改造手術」の寓意に相当――、此岸の浜辺へと漂着する事で「再生」と共に来訪神の性質を与えられたのは、この後の展開を見ると意図的なものではないかと思われます。
 「いや、ついてこられると怖いから。不審者だから」
 浜辺で青年を見つけた少年は、空腹を訴える青年に食べ物をあげると約束はしたものの、リアクションは大変、常識的(笑)
 ところが歩道を横断中に信号無視のトラックに轢かれそうになったその時、咄嗟に身を挺した青年が少年をかばうと、青年に衝突したトラックの車体の方がひしゃげ、青年は大変、非常識な存在だった。
 シリアスに描くと脇見運転で青信号に突っ込んで小学生を轢ききかけるドライバーの問題が大きくなりすぎる為か、砕けるトラックと吹き飛ぶドライバーの映像がギャグっぽく処理されるのですが、それはそれとして勢いよく運転席から飛び出したドライバーの命が危ないのでは……と思ったら、ドライバーも空中でキャッチしたのはホッとしました(笑)
 主人公は、そもそも人間社会において“異世界から来た異質な存在”として突飛さが担保され、青年×少年パートが定番を活用しながらコミカルに描かれる一方、失踪事件と“モンスター”を追う胡散臭い自称フリーライターと、更に胡散臭いその師匠、冒頭で青年を追いかけていたとおぼしき黒服仮面に、人間を素材にしたような何かを“収穫”として渡す代わりに、キューブ状の“報酬”を受け取る薄汚れた男……と、別パートはだいぶ不穏。
 少年の秘密基地に招かれた青年は、お礼としてひとまず備蓄のお菓子を貰うと、なんてことのないグミを口にするや大興奮で食レポを始め……生まれてこの方、ディストピア飯しか食べていなかったりする感じ……?
 「これが人間のお菓子か……最っ高すぎる!」
 歓喜のバンザイから…………なんか、産んだ。
 第1話で男性主人公が出産(??)する特撮ヒーロー物は多分『ガヴ』だけ、とだいぶ思い切りのいい展開から、青年がパーカーをめくると、お腹にくっついた四角い箱から次々と小さな箱が生み出されており、青年と少年は揃って目を白黒。
 「……多分……俺の、眷属……?」
 「あのさ……もう面倒くさいから言うけど、お兄さん、人間じゃないよね?」
 多分このまま深入りせずに済めばそれはそれでと判断していた節はある、行き倒れを見捨てられない程度には善良で、同時に常識的判断の一線は持った少年が諦めてツッコむと、青年はそれを肯定。
 「俺の種族はね……お腹にも口があるんだ。ガヴっていうんだけど」
 「もしかして……人間を食べるの?」
 「食べないよ! ……俺は」
 青年はさらりと怖い事を口走り、どうやら、“人を食わない鬼”にして“種族の中の異端”という位置づけで、プロローグ部分からかなり明確に、原典『仮面ライダー』を本歌取りする気配が窺えます。
 不審者はひとまず親切な少年の秘密基地にご厄介になり、海外出張から帰ってきた母との再会の為に家路を急ぐ少年だが、なにやら人間の幸せの感情を狙うらしいキューブ男に目を付けられたその時、ただの高速ダッシュではなく、壁走りダッシュで青年が助けに入ったのは、格好良かったところ。
 「おいおいおいおい。邪魔するならおまえもまとめて、菓子工場送りにしてやろうか」
 キューブ男は、お腹の口の中から歯形のメモリを取り出すと(……リミッター的なものを引き抜いた?)、牛の怪人へと変貌。
 「おまえ、なんで驚かない?」
 「――こう見えて俺、あんたと同じグラニュートだから」
 形はまるで違うが同じく腹の口を見せた青年は、牛怪人に雄々しく立ち向かって派手な飛び蹴りを入れるも、全く効かずにあっさりと地面に叩きつけられると、右手に走る震えにどうやら母親を菓子工場送りにされた時のトラウマを思い出すが、少年を助ける為に必死に立ち向かっていく。
 「なんでだよ……なんで俺は弱いんだ…………。だから何も守れない…………でも…………ここでは……! …………これからはぁ!!」
 死と再生をくぐり抜けた青年は、牛怪人のパンチを受けながらも、踏ん張ってカウンター。
 「この子は絶対、お母さんと幸せに暮らすんだぁ!!」
 絶望的な力の差を見せつけた上で、それでも抗おうとする主人公の足下を支える情念が、「母親」繋がりにより強化された、かつての喪失を埋めようとする想いであるというのは受け止めやすく、助けられる側の少年もまた、一番最初に青年を助けようとしているのが、手抜かり無し。
 それはそれとして筋肉の差は如何ともしがたく、再び派手に殴り飛ばされ地に叩きつけられる青年だが、その周囲に若い衆もといグミの眷属が群がり、求められるままに食べようとしたら……泣かれた。
 ところどころでちょっと外して笑いを入れる作りから、どうやら腹の口らしい、と眷属をガヴにセットしてハンドルをグルグル回すと、色とりどりの無数のグミが青年の周囲に浮かび上がって一気に体内に吸い込まれると体表面にアーマーを構成していき、マスクが顔半分を覆って目が紫色に光るところで、明らかにドクロを思わせる造型が強調されるのも、原典への意識を強く感じるところ。
 「――変身」
 グミアーマーが全身を覆い尽くすと、ムニュムニュボディの異形の戦士が誕生し……主人公ヒーローを示す擬音が「ムニュ」なのは、前代未聞でありましょうか。
 顔の第一印象は、キバ×ゼロワン、といった感じで……多分、顔のモールドと、耳……?
 「……そうか……これが、俺の、眷属の力…………これなら守れる!」
 グミの戦士は猛然と牛怪人に殴りかかり、打撃を入れる度に、ぐちゃぁぁぁぁと眷属が弾け飛んでいるような……。
 牛のパンチはムニュムニュボディで無効化し、ヒーローサイドが打撃無効のマシュマロボディに苦戦するのは3年に1回ぐらいはありそうな定番ですが、逆は珍しいような……と思ったら、打撃を受ける度にアーマーが削れていき、完全打撃無効体質ではなく、発動の度にリソースを消費するパッシブスキルの模様。
 攻撃と防御の双方でアーマーを消費する度に、眷属を補給してアーマーを再生産していくのは面白い基本ギミックで、そう、これが、極彩色の生命の輝き――!!
 無効化と補充を繰り返すグミの戦士と牛怪人の壮絶な殴り合いは少年の母に目撃され、
 「聞いたか? おまえ化け物だってよ!」
 「……そうだな。――化け物だ。俺も、おまえもな!」
 人の世において異質な存在としての自覚と共に戦う姿勢が明確にされ、お菓子で変身・ムニュっとボディ、のポップさを押し出す一方で、“異形のもの”としての《仮面ライダー》の原典への意識がやはり強く、またその異形ぶりを補強する要素として設定された“異邦より来たるもの”としては、「人間(社会)に属さぬ者が、なぜ人間(社会)を守るのか」という、『仮面ライダーアマゾン』最序盤のテーゼも、射程に入れた広がりは期待したいところ。
 感情の発露が影響するのか、グミの戦士がお腹の口から剣を吐き出すと倉庫に挟まってのバトルとなり、逃げ腰になった牛めがけて放った必殺攻撃は……不発。
 その隙に牛怪人はドーベルマンのような四つ足の姿になって逃走し、キャンディの眷属をガヴっといってグルグルすると、生み出されたのはバイク、ではなく、巨大な4輪バギー。
 背後から思い切り犬を轢いてヒーローのイニシエーションを果たすと、CGでの派手なチェイスシーンに突入し、剣を見せておくとか乗り物に乗っておくとかはノルマ消化の要素が強い場面ですが、話の流れを壊す事なく盛り込んで、安心して見られる出来。
 「馬鹿な……同族にこんな奴が!」
 「…………どうする? 二度と闇菓子に関わらないか、この場で俺に倒されるか!」
 「闇菓子を諦める? ありえねぇ! 答はおまえをぶっ倒すだぁぁ!」
 牛怪人を追い詰めた後、戦いを続行するかを問いかけるまでの間(ま)と、相手の選択を受けて必殺グミをガヴにセットするまでの無言により、同族殺しの葛藤と決断を表現したのは光った部分で、これが有ると無いとでは大きく印象が変わってくるので、演出面で今回の白眉。
 自暴自棄の突撃を仕掛けてくる牛怪人に対して、オレンジグミが消化吸収されると右足が超強化され、連続キックから再チャージ、ハイジャンプからの宙返りキックそして渾身の踏みつぶしにより牛怪人の腹の口を押し砕くと盛大な爆発と共にグミの雨が降り注ぎ、ヒーローの腹の口がいわゆるドライバーに相当するのは驚きでしたが、敵グラニュートの腹の口は怪人ベルトに見立てられているようで、本歌取りの徹底として成る程。
 そして、鉄砲玉の役目を果たしたオレンジグミはさらっと昇天していくのであった……先に向こうで待ってるぜ、オジキ……。
 「俺にも…………守れた」
 後日、ガレージに大量のお菓子を持っていく少年だが、そこには青年――ショウマの置き手紙だけが残されており、てっきりガレージを根城に少年を通して人間社会の事を学びながら戦っていくものだとばかり思っていたので、自ら別れを告げて去っていったのは驚き。
 先行きはあまりにも不安ですが、街で人間社会のバイクを見かけたショウマは、キャンディー眷属に人間世界風のバイクに変身してもらう事に成功し、
 「目指せ、俺の、新天地!!」
 そこから主題歌とクレジットが流れ出す近年恒例のパターンで、免許を持たず、マイナンバーカードも持たず、事あるごとに公道で腹を出す異邦人ショウマ・ストマックの新天地が灰色の鉄格子の中にならないか不安で仕方ありませんが――1週間後。
 官憲のご厄介にこそならなかったものの、案の定、公園で行き倒れていたショウマは派手めな女に声を掛けられ、次回――……………………ヒモ?
 基本の顔がだいぶのっぺりしているのは、後々フォームチェンジでギザギザするので差別化だろうか、と思っていたら、次回さっそくギザギザしてくる様子で、お菓子とフォームチェンジの組み合わせ、“異邦人ゆえに未知(なのでワクワク感が自然)”は上手いアイデアだと思うので、面白く転がってほしいです。
 顔といえば、なんとなく顔の第一印象がキバ(&ゼロワン)だったのですが、戦闘中の前傾姿勢や、ハイジャンプからの必殺キック、そしてストレートな同族殺しのモチーフも少々重なるところがあり、もしかすると武部P繋がりで『キバ』への意識が多少あったりするのかどうか。現時点の劇中情報の限りでは、主人公は恐らくハーフグラニュートではと思われますし。
 拾ってくれた少年といきなり別離するなど、まずは、作品の方向性・主人公の土台・本歌取りのこだわり、を示す全体のプロローグな作りで、人間関係などが繋がり物語が動き出すのは次回以降、といった感じでありますが、1話にこれだけきっちり収めてきたのは、香村×杉原の座組が、さすがの安定感でした。
 アクション面では、ところどころで露骨にMCUっぽい映像が入るのは気になりましたが……これはもう、仕方ないといえば仕方ない部分はあるでしょうか。変身前のショウマの人間離れした身体能力、をどう見せるのかは、工夫を期待したい部分。
 次を見ると変わるかもしれませんが、個人的に第1話から受けた印象は、「動物報恩譚」の構造で、動物に限らずとも、道で拾った(薄汚い)男に食糧を無心されて恵んだところ実はその男が凄い存在だった……をなぞっているのですが、グミを貰ったのをきっかけに痛々しいほど利他的な存在になってしまうとちょっと辛いものの……現在時点で、私的な動機としての「(母親を失った)喪失を埋める」「自身の生きていける世界を探す」の2点が設定されているので、上手く噛み合っていってほしいです。
 後、今回を通して強調された「同族殺し」は、香村脚本作品では以前に『ゼンカイジャー』で手を伸ばそうとした気配はあるも上手く扱いきれなかった印象なので、改めてこのテーゼにどう取り組んでいくのかは、興味深いところ。
 諸々、次回どう転がしていくかになりそうですが、まずはすんなりと見られるプロローグでありました。
 …………個人的に今ちょっと不安なのは、番組タイトルに冠された「ガヴ」は腹の口の名前らしいので、劇中でヒーローネームが設定され名乗ってくれるのかどうか、です!(笑) フリーライターの人が、都市伝説方面から名付けをしてくれそうな気配はありますが、してくれたら、3ポイント加算。