『爆上戦隊ブンブンジャー』感想・第26話
◆バクアゲ26「宇宙の秘密」◆ (監督:中澤祥次郎 脚本:冨岡淳広)
先斗とビュンディーが空きっ腹でカレー屋ブンブンを訪れていた頃、大也は3回目の登場となった内藤から極秘の届け仕事を受けており、射士郎の
「……信頼してるんだな」
の台詞と多くを言葉にしない大也のリアクション一つで、“内藤から信頼されている事への大也の喜び”“大也/ブンレッドへの信頼を語る内藤”“大也から内藤への強い信頼”に、それぞれの意味を乗せているのは、上手い導入でした。
一方、爆上げフィニッシュされる悪夢で跳ね起きた三下トリオは、役立たずだった自分たちを見捨てずに活を入れてくれたマッドレックス様との回想シーンを再生し……
――「止まるんじゃねぇ! いいか、暴走魂フルスロットルでいきやがれぇ! ノーブレーキで突っ走れィ!」
……サンシーター、あなた達、改造の副作用でありもしない幻覚が見えているのよ……。
まあ通常なら、これぐらいの過去の捏造は許容範囲ではあるのですが、前回から妙に、“誰よりもスピードの向こう側を求めた、熱いハシリヤン魂の持ち主”みたいな具合でマッドレックス様を持ち上げ始めたのには、好きなキャラながらも困惑が募ります。
それはそれとして神谷浩史の、激しく上下するギアでいきなり奇声をあげるマッドレックスの芝居は、実に芸達者。
かつて叩き込まれたノーブレーキ魂を思い出した三下トリオが、たとえ本家からの連絡が無くてもギャーソリンを集めようとパラリラしながら街へと繰り出していた頃、ISAには細武の上司にあたる常槍本部長が登場(今作のネーミングパターンからすると「よこやり」のもじり……?)。
常槍が細武から報告を受ける形で、届け屋やブンブンについての基本設定が確認され、夏休み総集編とまではいかないも、新展開のプロローグとしてこれまでの『ブンブンジャー』を軽くまとめるのですが、「届け屋」の存在意義は半ば風化していますし、ブンブンに至っては……
「あれはただの巨大ロボットではないのか?」
え、細武さんそこ、上層部とまだ共有していないの……?!
……ここから導き出されるのは、
・細武が意図的に情報を止めていた
・大騒ぎした割にはISAが実はブンブンジャーにそんなに興味がない
・常槍本部長が(表面上)無能
のいずれかないし複合的な状況なのですが(多分、二番目)、
「彼は巨大化も出来る宇宙人なのです」
と、食い気味にブン様のフィギュア(玩具)を取り出し力説を始める細武さん……のギャグの前振りとしては、あまりにもまた、大きな穴を空けてしまった不安があります。
高く評価している監督ではあるのですが、中澤監督がちょっと細武さん(の演者さん)を好きすぎるのが、とこどころで悪い方向に転がるのを加速させているような。
そこから、紫を始めメンバーの紹介も軽く行い、9月からの本格的な新展開スタートを前に、物語前半に描かれた基本事項を振り返っていくという意図はわかる、意図はわかるのですが……「ブンブンジャーの基本を説明される相手」が「ハシリヤンについて独自の情報ルートを持った人物」なのが致命的な相性の悪さで爆発事故を引き起こしており、どうせ今まで、通信2本ぐらいの影しか無かったわけですし、新たに着任した食わせ物感のある上司に改めて説明、とかにしておいた方が良かったのでは。
ISAがブンブンハイウェイの更なる破壊活動に勤しんでいた頃、ノーブレーキでパラリラする三下トリオは公衆トイレに突入し、渾身のハシリヤン魂をフル充填して、イグニッション! ガッチャン。
「マッドレックス様が地球で最初に造ったクルマ獣に、思いを込めて――」
「その名も! トイレグルマー:リミテッドなのカー」
「よし! 地球人どもにギャーギャー言わせてやれぇ!」
「見よ! リミテッドの新機能!」
疾走するトイレグルマー(再)が、トイレ詰まりを直すやつを人間に押し当てると、その人間の「芯」がすっぽんと抜き取られてしまい……え、なんか、凄く怖い新機能だぞ……ギャーソリンが集まるのかはともかく。
「全人類の、芯を抜いてやるーー!」
そして、芯が行方不明真っ最中な作品の台詞としては、なにか別の意味で、怖い。
芯が抜けて倒れた人間からは何故かギャーソリンが回収されていき、まあ、2話前の初恋暴露回の時点で、「眠りに落ちた対象の生命エネルギーをギャーソリンに変換」みたいな事を言っていたので、対象に恐怖を与える事によってギャーソリンを放出させるのは、必要不可欠ではなく、あくまで効率的な手段、といった扱いなのでしょうが……重ねて、《スーパー戦隊》としては、ギャーソリンの扱いにはこだわってほしかった部分。
どうも『ブンブンジャー』、「目標設定」が下手な作品なのですが……
ハシリヤンサイドは、小目標となる「ギャーソリン集め」の扱いが曖昧な為、未だ完全不明な大目標と合わせて、悪役としての足場が終始不安定。
ブンブンジャーサイドは、もはや話の内容に関わる事が少ない「届け屋」も、対ハシリヤンのカウンターである「ブンブン活動」のいずれの小目標も、大目標である「BBG出場」と目に見える形では関連しないので、毎回の小目標達成が大目標に向けた積み上げにならず…………ここで大きな問題になるのは、「ハシリヤンの完全撃破は、ブンブンジャーの大目標ではない」という事なのですが、そこに対する制作サイドの意識が弱い感。
唯一「BBG出場」に繋がる小目標である「ブンブンカー製造」も、結果的にブンブン活動の役に立ってはいるが、ブンブン活動の為に造っているわけではないので点と点が大目標に向けて繋がっていくわけではなく、とにかく、敵も味方も、トイレットペーパーの芯もとい、全体を有機的に繋いでいく為の背骨が行方不明。
「……カオスな事になってんなぁ」
そこに先斗が姿を見せ、全面的に「爆上げ」に宗旨替えしたわけではなかったようですが、なら前回、決めの台詞をどうして「爆上げ」に変えてしまったのかは、首をひねります。
先斗が変身する一方、ISAでは偉い人への説明が続き、
「……しかし、自分の仕事と時間を持ちながら、彼等は何故、自らハシリヤンとの戦いを買って出ている?」
え、今、そこなの……?!
…………ま、まあ、細武の上司もハシリヤン対策ばかりしているわけではなく、むしろこれまでブンブンジャーについては些事扱いだったのかもしれませんが、が、今作の場合、実際にISAの介入を招いたように、ハシリヤンを撃破して華麗にデビューし、“世界中の注目を集める事になったブンブンジャー”の強調からスタート(戦隊としての特徴付け)しているので、担当窓口となっている細武の上司がブンブンジャーに興味が無かったような態度を見せるのは、辻褄は合わせられるかもしれませんが、感触としては途方も無く違和感。
重ねて、これまでの軽いまとめそのものは悪くないと思うのですが、わかりやすく要素を整理するにあたって説明を受ける側の役どころが悪すぎる上、それを「説明が自然になる相手」にしようとする工夫がどうにも見えず、一体全体、どうしてそうなった。
また、強調部分として触れられた「自分の仕事と時間」についてはここまでのところ物凄く雑な扱いなので、そこを味付けしないから薄味になっている部分を、まるでヒーローの魅力のようにアピールしてくる、随分と倒錯とした事に。
「聞こえた悲鳴を、決して無視しない。したくないからというのが、その理由です」
細武の台詞に合わせて定番の盛り上げBGMが流れ出すと、ブンブン活動に出動していくメンバーの姿が描かれるのですが……ここが盛り上がる前提は、普段から「“自分の仕事と時間”と“ブンブン活動”の両立」が描かれてこそなので、前回に続いて、前提条件が成立していないのに“字面の上では盛り上がる状況”を出力してしまう為、出来上がったものの中身がスカスカ。
(あと個人的に、届け仕事の途中でブンブン仕事が始まると、届け仕事は後回しで寄り道だ、は両立とは言わないイメージ)
「……理解できんな」
「……届けてみればわかります」
細武さんがぼそっと呟くのも、「届け」にこだわっていれば良い台詞になったと思うのですが、なにぶん「届け屋」そのものが開店休業というか羊頭狗肉というか思い出したように導入に触れる程度の扱いなので、材料不足で具もスパイスも足りない、自称カレーライスが皿の上に並びます。
「あの水だけは、絶対にかぶるな!」
「は?」「え?」
再生トイレグルマーの姿に、シロクロ事件を思い出して狼狽する射士郎は赤と紫に具体的な説明を避けるが、遅れて未来・阿久瀬・玄蕃が到着すると、建前を流して本音を露わにするその効果を、未来が解説。
「それは御免だねぇ」
「自分は平気です!」
「そうだろうね」
は、ちょっと面白いやり取りとなり、水洗攻撃に対し、赤をかばいながらよける青・当然かわす橙・なんら問題が無いので盾になる黒・むしろ浴びせてみろと構えている紫・そのせいで逃げ損ねる桃、と各自のリアクションで色を出し、今作、アクションは見栄えがする一方、変身後の芝居に変身前のキャラが見えて良いな、と感じる事があまり無かったのですが(変身前のキャラが薄いので、当然といえば当然なのですが……)、その点でここは良かったです。
ちなみに、公式配信中に言及しておけば良かったのですが、変身前後の芝居の繋がりで人間関係の厚みを増していくのが凄く上手かったのが、『烈車戦隊トッキュウジャー』で、今でも印象的(※なお筆者は『トッキュウジャー』大好き人間なので、話7割ぐらいで聞いて下さい)。
敵の特殊能力に弱い事には定評のあるブンブンジャーは、青が一人で戦慄を続けるが黒桃は当然平気でそのまま切り込んでいき、紫は高笑い。
「……くっだらねぇ。宇宙じゃ本音と建て前、使い分けるような奴は生きてけねぇよ」
宇宙さん、建前全否定。
紫の口から凄く嫌な「宇宙の秘密」が明らかになりましたが、ここで怪人の能力と絡めて、本音と建て前を使い分ける組(赤・青・橙)と、使い分けない組(桃・黒・紫)を分けてきたのは、今後に機能してほしいところ。
「裏表のない人たちだねぇ」
橙がしみじみ呟く中、桃黒に加わって、紫も突撃。
「俺はいつでも本気の本音! なに一つ隠しゃしねぇ!」
それを見つめながら、ここで一つリーダーらしい存在感を出さないと背景にされてしまうと危機感を覚えたのか、おもむろに脱税や不正な利権とは無縁な叩いても埃一つ出ない体である事をアピールし始めるブンレッド。
「本音が出るぐらい、別にいいだろ」
え。
他人の質問にまともに答えない事には定評のある赤が何か言い出しているのですが、この場合、やたら必死に止める青の方が正しい気がしますね……。
そうこうしている内に当の青が水洗シャワーを食らってしまうが、隣の赤はちゃっかり119して防水機能で防いでおり、うん、君はそういう奴だよね……。
そしてトイレグルマーは新機能の代わりに旧機能を失って、飛び出す水はただの水流攻撃だった事が判明し、ドタバタの末にブンブンジャー本格的な反撃開始。
……まあ実際のところ、紫は自称「本気で本音」が、本当に「本気の本音」か怪しいタイプだとは思われますし、青の一人相撲を活用して、橙絡みの布石を置きつつ、変身後の戦闘シーンでキャラの色を積極的に出せていけたのは良かったと思います。
トイレグルマーは何故か水洗攻撃にこだわった結果、超強力な筈だったすっぽん攻撃をろくに使用できないまま(使ったら多分、ブンブンジャー全滅していた)、赤&紫のダブルフィニッシュを受け、爆上げパニッシュ。巨大トイレは無駄に過剰威力な爆盛りフォーメーションで瞬殺され……これを使うのが一番、尺を稼げてCG費用も勿体なくなかったのでしょうか……?(笑)
「……そのこだわりが、彼を傷つける事にもなるかもな」
「……どういう意味でしょうか?」
「興味深い人物だという事だ」
戦いが終わった頃には細武の報告も終わり、大也について思わせぶりに呟いた横槍本部長の部屋には、細武の退出後、人相のだいぶ悪い内藤が近づき……“上の方”に何か怪しげな動きがある、という見せ方にシフト。
一方、届け屋のミッション完了も束の間、依頼品を強奪して大也らの前に姿を見せたのは、ピンクの靴でステップを踏む、今回は道化師路線?の新たなハシリヤン。
「おまえは……」
その姿を目にした瞬間、憤怒の形相を浮かべた玄蕃が地球人離れしたワイヤージャンプと共に斬りかかって、つづく。
………………あ、あれ、ホントに、宇宙の秘密、「本音と建て前、使い分けるような奴は生きてけねぇ」だったの?!
とんだサブタイトル詐欺疑惑でしたが、パイロット版と同じコンビで、ところどころのキャラ描写への細かい目配りと、冒頭に射士郎が大也に告げた「……信頼してるんだな」が最後にしっかりと効いてくるのは、良かったところ。
知り合いの偉い人が実は~……パターンが面白くなるかどうか自体に疑念はありますが、玄蕃の秘密ともども、面白く転がってくれる事を期待したいです。
一方で、前半戦のまとめの形でブンブンジャーの魅力や個性として強調された要素が軒並み、大事にすれば良かったのに放棄してきた要素だったのは、「今後は改めて大事にする」という事なのか、「実態はともかくそういうつもりで作っています」という事なのか……。
キャノンボーグが期待外れだった分、新幹部(?)が盛り上げてくれる事にも期待したいですが、爆上げならぬ爆撃続くブンブンハイウェイの行き先はどっちだ!