『忍者戦隊カクレンジャー』感想・第29話
◆第29話「史上初の超対決(スーパーバトル))」◆ (監督:東條昭平 脚本:杉村升)
「おまえの父親を殺したのは、この私だ」
「先生が父を殺したなんて、許せない!」
怒りのジライヤ反撃から流血にまみれた激しい生身バトルが続き、壮絶な拳による対話を通し死線と向き合う事で、ジライヤ26の秘密の一つ、ジライヤ反転3段キックがアンロック。
その直撃を受け、吹き飛んだガリの腕から外れた鉄の爪を拾うと地雷は右腕に装着し……え、それ、付けていいの……?!
ジライヤ認識では、父を殺した凶器では……?
貴様を冥土に送るのにふさわしいのはこいつだ! 父と同じ痛みを思い知れぇぇ!! と鉄の爪を振り下ろしたジライヤは、続けざまに強烈な回し蹴りをガリの顔面に叩き込み、盛大に吐血したガリが血を噴き出しながら倒れるのは、割と思い切りのいい演出。
感想の文字情報だけなので実際にどれぐらいだったかは記憶に無いのですが、前作第26話でも、嫌な嫌な嫌な奴との決闘に敗れ「亮、凄い勢いで血を吹いて倒れてピクピク痙攣」していたようなので、鮮血度合いも試行錯誤の時期ではあったのかもしれません(90年代後半戦隊では、印象的な吐血シーンの記憶は特に無いですし……『カーレン』終盤で、痴情のもつれから恭介が流血はしていましたが)。
「ジライヤ……ぐぁ……」
トドメの鉄の爪で突き殺すまでは出来なかったジライヤの前で、猛虎アーマーが消滅し、道着姿に戻ったガリは思い出の首飾りをまだ手にしており……事ここに至った真相を告白する。
「許してくれ……私が馬鹿だった……」
全ては8年前――ガリが脇見運転をしていて起こした事故で、同乗していた娘が瀕死の重傷を負った事に端を発しており、前回の「ひょんな事から間違いを起こし」発言から、博打で借金を作ったとか、魔が差して強盗を行ったとかではなくて、ちょっとホッとしました。
医者にも匙を投げられ絶望するガリの前に、当時ジライヤ父の捜査活動により窮地に陥っていたヌエが現れると悪魔の取引を持ちかけ、ガリは娘の命と引き替えに、親友であったジライヤ父を暗殺。
その事を深く後悔し、忘れ形見のジライヤを引き取ったガリは師としてジライヤに武道を教え込み……鶴姫を例外として、なんの宿命も使命感も背負っていないところから始まるのが一つの個性だったカクレンジャー、そこに忍者のDNAに自覚的な一種の異分子として最後に登場したジライヤですが、結局ただ、“そういう一族だった”で済まされてしまったのは残念なところ。
……まあ1クール目早々に、“自覚あった組”も“自覚なかった組”も概ね一緒くたにされており、意味の薄い初期設定にはなっていたのですが、そういう“色分け”を掘り下げられなかったのは、今作序盤のつまづきの一つ。
「なんの償いにもならないとわかっていたが、おまえのお父さんに代わって、おまえを戦士に育てようと…………いや、いつの日か私は、おまえの手にかかって死ぬことを、望んでいたんだ……」
「……せんせぇ!!」
ヌエの手駒として暗殺家業を請け負っていたガリは、ジライヤ抹殺を命令されたのを契機に、8年間の全てに決着を付ける覚悟を抱き、「私は喜んで、おまえにやられようと思って、日本へ来たんだ」のくだりから迸る、だいぶ駄目人間感。
同情できる発端(ヌエの罠ぽさもあり)に始まって、ズルズルと深みにはまっていく中での自己防衛の発露、という一面はあるにしても、真実を明かした時に復讐を成就させる事に凝り固まっていて、相手の意志に身を委ねようとするところが全くなく、命の重さを背負わされる相手の事は何も考えていないので、どうにも自己憐憫が滲み出ます。
「ジライヤ……確かに私は愚かだった。だが、平気で人を殺め、人を苦しめる、真実の敵は、いつも見えないところにいる事を知れ。……それを見つけ出し、倒すのが…………おまえに与えられた使命なんだ」
自分の非を認めつつも、この期に及んで微妙に責任転嫁したガリは絶命し…………あれ、ジライヤ、人を殺した…………?
ヌエに魂を売った時点で半ば妖怪カウントなのかもしれませんが、ジライヤは戦士としてのアップグレードと同時に、重すぎる師匠殺しの実績を解除。
杉村脚本では前作でも、天火星・亮の生き別れの父親が格の違う駄目人間だった事が明らかになるエピソードがあるのですが、今回も父代わりだった存在が偽悪的に最後の教えを伝える師匠プレイを満喫しながらジライヤに大荷物を背負わせて退場し……道士カクとか大獣神とかまで広げて考えてみても、杉村さんはもしかして、「父性」を描こうとすると、ちょっとおかしなスイッチが入るのでしょうか(そういえば《レスキューポリス》の正木本部長も、亡き親友の娘を隠密同心に任命していた……)。
刑事ドラマ時代の脚本は知りませんが、言い方を変えると、杉村さんが「父性」として出してくるものが、ナチュラルに少しぶっ飛んでいるというか……杉村さんといえばナチュラルボーンマッドサイエンティストの書き手なわけですが、そこに何か関連性があるのかもしれず、そう考えると、父親×マッドサイエンティストを真っ正面から融合したジニアス黒田(『オーレンジャー』)が、杉村升マッドサイエンティストテーマの極みといえる一作になったのは、必然であったのかもしれません(この前章として『特警ウインスペクター』第31-32話があり)。
「父の仇……ガリ先生の仇……この手で貴様を倒してやる!」
「……俺もやるぜジライヤ!」
出てこられるのかちょっと不安だったヌエが地下から飛び出してくると、前回は変身要員、今回は連絡要員だったサスケがジライヤの横に並び、
「スーパー変化!」
「「ドロン・チェンジャー!」」
「人に隠れて悪をキル!」
「「カクレンジャー見参!!」」
巨大ヌエとの戦いになると極意の巻物が自発的に飛んできて、黒はゴッドガンマーに搭乗。
「人の心を苦しめ、操る妖怪、絶対に許さない!」
下半身の如何にも巨大ロボ用の足と、申し訳ない程度についた前足のギャップがちょっと気持ち悪いゴッド蝦蟇は、口から大量の子ガマを放って自爆させるビックドッキリギミック・ガンマーダイナマイトから追撃のガンマーファイヤで巨大ヌエを苦しめ、そこに鶴姫らが合流。
全員で超忍獣の術を発動し、ゴッド猿の必殺攻撃に続いて白黄青の超忍獣が標準装備の光線を浴びせるとヌエは呆気なく爆死を遂げ、カッパ回と今回で、人の心の弱さにつけ込んで操ろうとする“悪”のキャラづけを統一したのは良かっただけに、一応3話に渡って登場した強敵怪人としては、あまりにも残念な退場っぷり。
ツバサ丸が途中でしれっと混ざって(カクレンジャーからはノーリアクション)ダメージを追加しなければまだ格好がついた気はするのですが、3話連続で出さないわけにはいかなかった都合は透けて見えるものの、そもそもカッパ回で何故か登場せず、無敵将軍が脈絡なく敗北する時点で歪みが生じていたので、どうにも今作の巨大ロボ関連は、いやもう少し組み立て方があったのでは……? が、つづきます。
試練を乗り越えたジライヤは、東映ヒーロー名物:勝手にお墓に花を捧げると妖怪を滅ぼすまで戦い続ける事を誓い、師匠が置き土産に残した憎しみの炎により、見事な皆殺し思想になるのでありました。
次回――……あ、ユガミ博士、忘れられていなかった、から鶴姫を改めて掘り下げてくれそうなのは良いのですが、「裏切りの師匠」と「裏切りの父」が物凄い被り方の上に、杉村脚本の地雷パターンの気がして、大変不安。