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カクレン、ダンディズム

忍者戦隊カクレンジャー』感想・第21話

◆第21話「サルマネ必殺技」◆ (監督:東條昭平 脚本:曽田博久)
 「忍者を馬鹿にしちゃいけないよ」
 満面の笑顔で木の上から飛び降りてくるとイジメっ子達に向けて水鉄砲を放つサイゾウが、忍者の悪口を言った者に制裁を与えて回る謎の怪人みたいで、凄く、怖い(笑)
 「私、三ヶ月前より道場を構えましたが……」
 サイゾウが関わった、ござる喋りの中年男性は、その名を霞大五郎(演じるのは、Vシネマの常連から映画俳優として知名度が上がり出していた頃の大杉漣さん)。
 妻子ある身で霞流忍術道場を新築し、嫌がる娘を無理矢理忍術修行に付き合わせていた凄く駄目な人であり、入門者が一名も現れぬまま虚しく時が過ぎる内に心臓の弱かった妻が倒れると娘がそれを甲斐甲斐しく看病をしており……今作の曽田さんは、何か昭和テイストにこだわりがあるのでしょうか(笑)
 「忍術一筋に生きてきたそれがし、忍術だけは捨てるわけにはいきません」
 妻子の平穏な生活よりも己の忍道、と時代に取り残された不器用な男というよりも社会不適格者ぶりを丸出しにする大五郎に「道場さえ流行れば、家内の病も治せます。娘もそれがしを……見直してくれるでしょう」と泣きつかれたサイゾウは、
 「これが泣かずにいられようか。任せなさい、大五郎どの!」
 と承諾し…………これ、詐欺なのでは??
 遠い未来における“大いなる力”詐欺案件などが脳裏をよぎる中、サイゾウは仲間を巻き込んで霞流忍術道場の売り込みを図り、軽い調子でハイテンション。
 「これまでのあなたが古すぎたのです。現代の忍者は、もっとブッ飛ばなきゃ!」
 ところどころ、劇中の台詞の形で、『カクレンジャー』のスタイルを宣言してくるのが巧妙で、忍者を馬鹿にするヤツは摩天楼でブラックホールに吸い込まれてしまえばいいと、一同EDテーマに合わせて忍術エアロビを始め、マッスルボーイ! マッスルボーイ!
 結果的にはこれが好評を博し、武突参流古武術、じゃなかった、霞流道場の前に集まったギャラリーに向けてサスケ達はアクロバットな模擬戦を披露すると、風を切る手裏剣! 閃く忍者刀! 爆裂する藁束! と忍者を馬鹿にした人間の末路を徹底的に見せつけるが、世は1991年に発足した日本初のプロサッカーリーグ・Jリーグブームのまっただ中。
 冒頭で、大五郎娘を嘲っていたサッカー少年トリオから「いくら忍術が出来ても、サッカーは出来ないだろ」と煽られると、よろしい、本当の忍者の殺意というものを、見せてやりますよ。
 「鶴姫、カクレンジャーボールだ」
 おい。
 10話ぶりに陽の目を見たカクレンジャーボールは観衆の背後にあった石碑を粉々に粉砕し、皆、悲鳴を上げて逃げた(笑)
 「カクレンジャーボールの威力、見たか」
 これでどんなGKが相手でも、木っ葉微塵だ!
 超次元サッカーの先取りに恐れ入ったサッカー少年トリオは平伏して弟子入りを嘆願し、Aパート早々にして本気になった忍者の殺意の前に、忍術道場の問題は解決……? かと思いきや、意気揚々と次の街へ向かおうとするサイゾウらの前に姿を現す妖怪サルガミとその配下たち。
 いつになくアクロバットな動きを見せる下忍軍団がカクレンジャーの剣技をコピーして次々と放ち、過剰さを面白さに繋げる為の、多少のお遊びついでにメンバー各自の個人必殺剣を見せるサービスシーンかと思いきや、れっきとした伏線でした。
 下忍軍団に思わぬ苦戦を強いられたカクレンジャーは必殺のボールを取り出すが、発動途中で割り込みを受けると、鮮やかなインターセプトから「サルガミカクレンジャーボール」を叩き込まれて、完敗。
 売れない忍術道場の師範を装ってサイゾウに近づいた霞大五郎こそ妖怪サルガミの正体であり、病身の妻と健気な娘、サッカー少年3人組は全て下忍の変装で……本当に、詐欺でした(笑)
 「ナーイス! ナーイス! ナイス! ナーーイス!」
 貴公子ジュニアは劇団サルファミリーの名演に喝采を送り、『カクレンジャー』にしてもやりすぎな気はするけど『カクレンジャー』ならギリギリありか……? と思われた要素が全て伏線として機能する、参加3本目にして、曽田先生がようやくの切れ味。
 道場の天井裏に忍び込んだジライヤが真相をもたらすと、騙されたサイゾウは怒り嘆き、格好つけきれないお人好し路線をブースト。
 「すまねぇ! 俺がお人好しすぎたんだ!」
 「……でもね。それが・あな・たの・いいと・こ・ろ」
 「こんな時に、そんなギャグを」
 ……何かの時事ネタかと思われます(※当時流行していた、山口智子さんによるビールのCMとの事)。
 「さあ、騙したヤツを騙し返してやるか」
 復讐はヒーローを急成長させる極上の栄養剤、と満面の笑みを浮かべたサスケ達は、妖怪に襲われて怪我をしたという設定で霞道場に駆け込んで派手に泣きつくと、ニュー必殺技の特訓に協力して下さいと持ちかけて大五郎を6人制カクレンジャーボールの最終キッカーに指名する。
 「トドメのキックをする為には、気力を充実させる為に、最後のキッカーは、カズダンスをしながら待つのです」
 「僕が教えます!」
 ここまでテクニックで作ってきた話を破壊しかねない勢いで、ブームたけなわのサッカー界から濃厚な時事ネタがロングスローで放り込まれて一瞬目が点になりましたが、一同揃ってオーレオレオレオレーと唄う中で前に進み出たサイゾウが、グルグル踊ってガッツを溜めてから放つオーバーヘッドキックの威力を見せつけ、まんまと踊らされた霞もノリノリ踊り始めると、見事に放たれるバモカクレンジャーボール。
 これでカクレンジャーの新技を覚えたぞ、と劇団サルファミリーが正体を見せると、サスケたちもスーパーチェンジ。
 わざとらしくカクレンジャーボールのフォーメーションに入ると、またもボールをカットしたサルファミリーが、キングカズの加護を身にまとうバモカクレンジャーボールを繰り出すが、勿論それこそがカクレンジャーの仕掛けた罠で、猿神がオーバーヘッドを決めたボールを青がリターンする事で、猿神一座は大爆発。
 「騙したヤツは騙されんだ! 思い知ったかサルマネ野郎!」
 「このインチキ猿め! こっちは正統派の流れを汲む、猿飛の猿だい!」
 「おのれ、こうなったら大きくなってやる!」
 妖気を集めて巨大化した猿神に対してファイターを繰り出したカクレンジャーは一心同体。挿入歌に乗っての格闘戦となり、ファイター組体操の新作が直撃して、南無三。
 基本設定に難のある獣将ファイターですが、ある程度話の筋がしっかりとしていて、納得のいくクライマックスバトルとしての巨大戦に突入すれば、巨大戦の工夫としては面白く見える時もあるな、と。
 無敵将軍が前作の大連王の系譜を継いだ瞬殺ロボ(というか、やはり本体が別にあるようなので、必殺の忍術)なので、敢えてファイターを出す理由がほとんど無いのはいかんともしがたいですが、そこの設計さえ上手く詰められていれば、戦闘のバリエーションとしてもう少し面白くなったような気はします。
 その一方で、敵を倒しきる必要のないチーム必殺技がおざりな扱いなのは今作のバランスの悪いところでありますが、等身大バトルにせよ巨大戦にせよ怪人ポジションの扱いにせよ、とにかく変化球を一度にまとめて投げすぎていたので、〔チーム必殺技vs怪人の謀略! から、変則巨大戦〕の構図にする事で、結果的に双方が引き立つ形となったのは良かったところ。
 苦闘の末に劇団サルファミリーを撃破し、ヒーローと心を通わせるゲストの子供なんか居なかったと、ある意味非情なオチになるが、通りすがりの公園で子供達に囲まれると、物事の基本は体力……! と皆で遊具で遊ぶシーンを挟み、フォローを入れてのほのぼのエンド。
 オチに出てきた講釈師は「さて、本日のなぞなぞ」と、なんの前振りもなくクイズを捨て去ると、本編と全く関係ないなぞなぞが出題されて、ますますもってコーナーの存在意義が問われる事になるのでありました。
 序盤、古くさすぎる家族ドラマや少々派手すぎるデモンストレーションが、『カクレンジャー』としてギリギリのライン際をひた走ると、実は全て猿芝居の伏線だった! と鮮やかなクロスが上がったところからゴール目前で超時事ネタが飛び込んできたのは驚きましたが、ここまで思い切りがいいと、30年後の今日ではリアルタイムとはまた違う熟成された味わいも出ています(笑)
 前作『ダイレンジャー』ではサッカー回があり、次作『オーレンジャー』ではヒーローの決め台詞に「オーレ!」が取りこまれた時代のサッカー回でしたが、ゲストの大杉漣さんはプロ化以前からの大のサッカーファンとの事で、当時の流行に乗ったという以上に、ゲストサービスだったり、現場の盛り上がりでサッカーネタが加速した部分もあったのかもしれません。
 ただでさえ貴公子ジュニアのテンションが物凄い今作ですが、そこに、忍者装束をまとって全力でカズダンスを踊る大杉漣、の画が加わるのが凄まじい一本でした(笑)
 同時に、前半はしっかり技巧が凝らされつつ、それが映像面での面白さとも繋がっていて、ここまでの『カクレンジャー』ではベスト級の出来。