東映特撮に踊らされる駄目人間の日々のよしなし。 はてなダイアリーのサービス終了にともない、引っ越してきました。
旧ダイアリー保管用→ 〔ものかきの倉庫〕
特撮作品の感想は、順次こちらにHTML形式でまとめています→ 〔特撮感想まとめ部屋〕 (※移転しました)
HP→〔ものかきの荒野〕   Twitter→〔Twitter/gms02〕

特訓しなければヒーローじゃない

『ひろがるスカイ! プリキュア』感想・第12話

◆第12話「ツエェェェ! キュアスカイ対カバトン!!」◆
(脚本:加藤還一 絵コンテ:頂真司 演出:土門健一 作画監督:爲我井克美/廣中美佳)
 サブタイトルでこう表記されると、「ダーーーーカァッ!」とか「ズバァッ!」の仲間に見えてくる、俺「ツエェェェ!」。
 「ランボーグじゃ、プリキュアたちにはかなわねぇ。もう、あの奥の手を使うしか……」
 ダーク上司から最後通牒を受け、ガード下のおでん屋台でリストラの危機に怯えるカバトンは、楽しく語らいながら歩くソラたちを見かけると前に立ちはだかって恨み言をぶつけ、屋台のオヤジ視点ではこれは、通報案件なのでは……?
 「そもそも、ぜーんおまえが悪いのねん!」
 ソラに逆恨みの炎を燃やすカバトンは、最後の賭けとして、3日後に一対一での勝負を要求。
 「最っ強につぇぇ奥の手で、おまえを倒してやるのねん!」
 負けたらどうせ処分されるカバトンが、敗北の暁にはプリンセス・エルには二度と手を出さないと空手形を条件にすると、それを知るよしもないソラは挑戦を承諾し、必要なものはつまり……
 「――特訓だ!」
 そうオーラパワーおじさんは言いました。
 人はその体を鍛えれば鍛えるほど強くなり、そして人知を越えた力、想像を絶した力を引き出す事が出来るのが常識です(※独自の研究です)。
 「全ての人間と関係を絶って、心を無に出来るよう修行してきます!」
 そう田村直人先輩も言いましたが、これは参考にしてはいけません。
 「こうなったらソラちゃんを応援しようよ。決戦までまだ三日もあるし、いい考えがあるんだ」
 止められないなら押すしかない、とましろはあげはに運転手(保護者代理)を頼んで山ごもりを提案し、
 「特訓特訓、楽しい特訓♪」
 滝に打たれたり、山の主(リス)に教えを乞うたり、ザゼーン(古代ムー帝国の精神修養法)を組んだり、筋トレしたり、流木に立ち向かったり、ヒーローの基本は、特訓……!
 「己自身と戦え。それに勝たねばならぬ」
 そうタバ老師も言っていた。
 それぞれ役割分担で、保護者に勉強に割く時間を与える成長を差しはさみつつ、Aパートはだいたいギャグで終わり、いよいよ決闘当日――河川敷でソラと対峙するカバトンは溜め込んだアンダークエナジーを自らに注入する事で強化巨大化する奥の手を用い、目の周りの縁取りの関係で、顔が、ザクみたいに。
 「みなぎるぜ。これが俺の奥の手だ。最強に、TUEEEEEッ!!」
 ここに、一撃必殺・暗黒カバトン空手と、電光石火・穿空プリキュア拳法が激突する!
 ツエェェェェ!
 チェーーース!
 基本、パワーのカバトンとスピード&テクニックのスカイという構図でタイマン勝負に突入するのですが、外野の応援席から小刻みにコメントが入るのがテンポを阻害するのも含めて、単純に、バトルシーンとしての出来が悪かったのが残念。
 回避カウンターで鳩尾に叩き込まれたスカイの一撃に、なんとか踏ん張ったカバトンは巨大な手の平でスカイを圧殺しようとするが、ましろ達の声援を受け死中に活ありメディテーションの境地に達したスカイは、逆転チェーーースト!
 「応援だぁ?! そんなもん、強さにゃ関係ねぇぇぇぇぇ!!」
 “独り”の強さを極めんとするカバトンが全力で繰り出した拳を正面からはじき返したスカイは、ヒーロースカイパンチを叩き込んで、強化カバトンD型に完勝。
 「ま……負けた……」
 地面にひっくり返ったカバトンは力勝負での敗北を認めざるを得なくなるが、頭上に生じた黒雲に気付くと粛正への恐怖から最後の悪あがき。観客席のエルに魔手を伸ばすがプリズムとウイングがそれを阻止し、エルとあげはをウイングが退避させている内にプリキュアアブダクションを受け、とうとうキャトルミューティレーション
 遂に(内蔵が)澄み切ってしまったカバトン、悪の心がカタルシスウェイブされて子豚の妖精とかになったらどうしようかと思っていたのですが、基本的にそういう生命体だったらしく、身にまとうダークエナジーこそ消えたものの外見や性格はそのまま継続すると、頭上に迫る恐怖に怯えて地面を後ずさりする。
 「アンダーク帝国じゃぁ、よえぇヤツに価値はねぇ。だから俺は必死に、つえぇヤツになろうと……」
 「アンダーク……」
 「帝国?」
 1クール目の締めにして遂に、プリセンス誘拐計画を背後で操っていた組織の名がプリキュア達の知るところとなり、強さこそ全てのネロス帝国みたいな価値観も判明。
 にわかに黒雲が広がり、雷鳴が轟き、いつでも落雷に対応できるよう、エルとあげはを抱えて浮いたままのウイングが紳士ポイントを稼ぐ中、闇の力に吊り上げられたカバトンが虚空で処刑寸前、咄嗟に飛び上がるキュアスカイ。
 「カバトン! 今助けます!」
 「俺はおまえの敵なのねん! な、なぜ?!」
 「わかりません!」
 「え?」
 「でも、こうすることが、正しいと思ったからです!! はぁぁぁぁぁぁっ!!」
 タイマンバトルの出来は悪かったですが、ここで理屈よりもヒーローの直観に従って動くのは大変キュアスカイらしく、作画・演出ともにこちらの方が気合い入っている感もある、良い見せ場でありました。
 (これが……本当の強さ……)
 スカイの体当たりにより、すんでのところでカバトンは落雷の直撃による丸焼き処刑を回避し、落下。
 (フ……俺の負けだ。おまえはつえぇ。俺なんかよりずっとな……あばよ)
 完敗を認め、空中で格好良く決めたカバトンはそのまま川に落ちて流されていくと……今回の内におでん屋に姿を見せ、過去を捨てての再出発を宣言し、えんができたと完全退場は回避されました。
 アンダーク帝国についてはお祖母様も初耳で、どんなテロ組織にも負けはしない、と誓いを新たにするソラたちの姿で、つづく。
 キュアスカイに、「悪いのは、アンダークの心だ!」(=滅殺)はやらせにくそうに思われたカバトンの始末は、身内処刑ルートで帝国の存在と性格を示すと共に、キュアスカイのヒーロー性を打ち出させて脂を搾り尽くした上で、再登場の可能性を多いに残す穏当な落着となりましたが、1クール目を支えたといってもいい幹部クラスの退場回としては、凡庸な一本。
 演出面では決闘シーンのテンポの悪さが一因ですが、物語面では、カバトンとの決闘を上手く1クール目の集約に落とし込めなかったな、と。
 これまで、執拗な精神攻撃でいやらしさを出してきたカバトンですが、ことソラに関していえば第1話の時点で既に乗り越えられ勝負付けが済んでいた面があり、エル誘拐作戦において一時的に優位に立つ事はあっても、ヒーローが乗り越える壁としてはもはや機能せず、修行シーンを含めて「みんなの力で――」の表現が不足していたわけではないものの、ソラが強大な敵に立ち向かい、皆の声援を受けてそれを突破する構図としては、カバトンの高さも厚みも足りずにうまく成立しませんでした。
 立ちふさがる障害が困難だからこそ盛り上がる構図を、既にハリボテの壁に対して、そのまま使ってしまったなと。
 どちらかといえば「おまえは俺の疫病神だ! おまえさえ倒せば、全部うまくいく!」と台詞があるようにキュアスカイがカバトンにとっての“壁”になっている片思いの構図だったのですが、さすがにカバトンを、片思いの構図が面白くなる粘着系ライバルとするのは、今後の話の転がしようを考えても、無理がありますし(笑)
 カバトンを“壁”としたマッチアップとしては、プリズムとかの方がまだ成立したと思うのですが、1クール目の敵幹部退場編でプリズムに集約するのもおかしな話になりそうですし、「特訓」ネタをやりたいありきで、ここまでの物語の流れと相性の良くないタイマン勝負を強引に持ち込んでしまった印象。
 良くも悪くもセルフパロディ的要素に自覚的な作りに見える今作ですが、今回に関してはそれが悪い方向に転がってしまい、新展開で良い方向に転がり直してほしいと思います。
 ……カバトンさんは、5話に一回ぐらいちらっと出てきては、画面の片隅でソラたちとは接触せずに少しずつ出世していってほしい(笑) 最終目標は勿論、都知事、じゃなかった、ソラシド市長で。