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おうさまはひとり

『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』感想・第49話

◆ドン49話「さいごのおもいで」◆ (監督:田崎竜太 脚本:井上敏樹
 ジロウ、新生ドンブラザースの9人に含まれていた。
 これで、野球が出来ます。
 タロウ・猿原・ジロウ・はるか・雉野・犬塚・ソノイ・ソノニ・ソノザ……9名となったドンブラ超人たちが色とりどりのジャージ姿で集って点呼を取り、「5」と手を広げたところで雉野が左手薬指の指輪の痕にしばし言葉を失うのが、良かったところ。
 全員集合させたタロウは次の大会に向けて特訓を宣言するが、出版社に持ち込んだ読み切り短篇が好評だった事を報告したはるかは、ソノザと共に長編用の原稿制作へと走り去り、雉野も引っ越し準備の為に歩み去り、その様子を心配して後を追う犬塚、そして更にその後を雛鳥のように追いかけていくソノニ。
 次々と押しのけられてプライドを害された猿原も理由をつけて去って行くと、後にはタロウ・ジロウ・ソノイの3人だけが残り、宿敵だったソノーズを取りこんで新たなスタートを切りはしたが、ドンブラ活動はドンブラ活動、各自の生活は各自の生活、というスタイルを冒頭で改めて強調。
 456の奇襲を受けた3人だがこれをあっさり撃退し、ままありがちではありますが、それにしても456は戦闘力が乱高下しすぎて、話の都合丸出しの存在になってしまったのは、印象のよくないところ。
 前年ステイシーの好評も受けてなのか、今作、着ぐるみ+声優に頼らずに(勿論これは、東映ヒーロー作品の大きな武器とした上で)、“生身の演者”を押し出す悪役サイドを1年間貫いた事は、井上脚本の強みを出せる点も含めて、近年の主流から外しての良いチャレンジであったとは思うのですが、生身の蓄積のあるキャラクター達を押しのけて、最終盤ポッと出の悪役を急に面白くするのは難しい(それこそ、着ぐるみ怪人的な極端な描写にせざるをえない)、というデメリットが最後に力強く噴出してしまい、生身の悪役を貫くのに生身の悪役のメリットが活きる構成ではないのは、終盤の失点の一つになってしまいました。
 「ソノイさん、改めて挨拶させてください。桃谷ジロウです。ようこそドンブラザーズへ」
 戦い終わるとジロウはソノイに向けて手を差し出し、最終回直前にして、ドンブラザースのメンバー顔して先輩風を吹かす事に違和感があるのですが、手打ちの多数決にも加わっていませんでしたしね……!
 前回の感想で触れた事にも関係しますが、いわゆる「追加戦士」が概ね現在の形で定着してから約20年、もはや「途中で出てくるのがわかっている6人目」は新鮮さを失って久しく、参加タイミングや設定によっては初期メンバーと存在感を削り合うなど、作劇の足を引っ張る事態もしばしば見られ、外部からの素人目としてはこの「必須化した追加戦士」こそ現行戦隊作劇における停滞要素の最たるものだと思うのですが、結局この2年、その存在に関してこれといって新たな切り口を打ち出せずじまいだったのは、少々残念だったところ。
 商業的な存在感が大きくて外せないなどの事情もあるのかもしれませんが、結局今年も普通に追加戦士出るのか……は前半にちょっとガッカリした点ですし、それこそ『恐竜戦隊ジュウレンジャー』の現場に居た白倉Pが、“戦隊の面白さ”を革新しようと2年続けてプロデューサーを務めたならば、「追加戦士」枠に対してはメスを入れて欲しかったなと。
 ジロウと握手を交わしたソノイは(なんて野暮な奴)から認識を変え、この後タロウからも「(いい意味で)普通になった」と評させて、神霊の持つ二面性を自身で制御できるようになったジロウが「変わった」事を外から台詞で“そういう事”にしていくのですが、タロウをずっと見てきたからルミちゃんの一件を乗り越えられたとか言われても説得力は皆無ですし、煮物はジロウが無意識に自分で作っていたと説明を付け加えられても今そこ? ですし、とにかく、その「変化」を劇的に示すシーンが用意できなかったのは大きすぎる手落ちとなりました。
 ジロウについては、一応のチーム加入後も他のお供メンバーとは明らかに区別された使われ方から、何か仕掛けを考えていた節は窺えるのですが(逆に、特に仕掛けを用意していなかったのにあの仕打ちだとしたら、本当に持てあましていたのだなと単純に酷い)、それが上手く行かなかった以上、ただただ出番に恵まれなかったキャラになってしまって残念。
 そんなジロウ、そしてソノイから勝負を持ちかけられるタロウだが
 「俺はもう、どうでもいい。誰が強いかなんて、どうでもな」
 となぜか気乗り薄……その頃、会社に退職願を出して(大鬼回ではなんとなく心の繋がっていた)部長と熱い抱擁を交わし、オフィスを微妙な空気にした雉野は、犬塚そして夏美と出会う。
 雉野にみほの一件を乗り越えて貰うために、夏美との対面をセッティングした犬塚であったが、通りすがりの警官に、この顔、ロックオン。慌てて逃げ出そうとした犬塚の伸ばした手は夏美に拒否され、警官隊に囲まれたところをソノニに助けられた犬塚は、俺たちに明日はないゲッタウェイ
 一方、夏美は引っ越し準備中の雉野の部屋を訪れ……
 「翼から……聞きました。私そっくりの、獣人のこと」
 「馬鹿ですよねぇ化け物なんかに夢中になって……全部夢だった、そう思って忘れないと……」
 「……私も、同じ夢を見ていました。この部屋で、あなたと生きて、楽しかった……」
 思わず、といった勢いで雉野の胸に飛び込んだ夏美は、事態を飲み込めない雉野を残して走り去り、くすぶっていた導火線に再点火。
 雉野がみほから全肯定される事で世界に居場所を手に入れて充足を得ていたように、夢の中の形とはいえ、夏美もまた、自分が居ないと駄目な男に寄り添う良き妻で居る事により世界に居場所を手に入れていたのだ、というのは今作を貫く「反転」のモチーフからも一定の納得は行き、そうなってみると、はるかの目撃した鶴野夏美は、みほとは別の形で「女優としてタニマチにちやほやされたい」という夏美の夢を叶える姿であったのでしょうか。
 ……急転直下、雉野の元に走った夏美を雉野が受け止めたりすると、それはそれでなんだかなという気はしますが、雉野がみほの喪失と犬塚との男の友情にどう向き合うのか、そして犬塚は己の立ち位置をどう見定めるのか……決定的な結論までは描かれないとしても、雉野と犬塚、二人の生き様をどう描くのかは、最後の一跳ねを期待したいところです(演出陣を中心に、乙女ソノニに肩入れしすぎでは感はあるわけですが(笑))。
 喫茶どんぶらで原稿を広げるはるかとソノザに、マスターがイベントを提案していた頃、456は対ドンブラの為に、飛騨忍法・欲望吹き矢を連続で打ち込む事で最強のヒトツ鬼――王様鬼を誕生させ、次作『王様戦隊』モチーフのようですが、甲虫+王冠の融合はモチーフを活用しつつ見栄えもして、久々に良いデザイン。
 また、「王様」というモチーフが最後に上手く、流離する王という、今作の背景に存在していた題材と繋がったな、と。
 王様鬼をドンブラにけしかけようとした456は、特に上下関係にない王様鬼の攻撃を受けて蹴散らされ、ここで流れているBGMは今作ここまでのラインとは違って聞こえますが、次作の主題歌アレンジとかでしょうか。
 自分たちでヒトツ鬼を作り出すも制御に失敗する不祥事を引き起こした456は、ドンブラザーズを接待して王様鬼の相手を押しつけようとし、何故かタロウが456について初対面と認識している一幕を挟んで、9人のドンブラザーズ+ネオソノーズと、5色に分裂した王様鬼が激突。
 怪しげな黒フードの二人が見つめる中、ドンモモは5体の王様鬼を居合いでまとめて薙ぎ払い、チームの強さよりも個人の強さを見せつけて、俺こそオンリーワン。
 どんぶらを訪れたタロウはお供一同から誕生日を祝われるが、誕生日にはまだ早く……企画を提唱するも勘違いだったと誤魔化したマスターは、執着が薄れたり記憶の欠落が窺えるタロウと此の世との縁(繋がり)を強化しようとしているのか、或いはサブタイトル通りに「さいごのおもいで」作りなのか……。
 折角だからそのまま前倒しでいいだろう、とパーティが執り行われ、ありましたね……誰も来なかった誕生日(笑)
 だが今のタロウは、8人のお供たちから誕生日を祝われ、ドンブラ一同からは桃のマークの枕が、ソノーズの一同からは朱塗りの箸が送られ、素直に礼を言うタロウ。
 「そういえばさ、タロウ。前に言ってたよね。幸せの意味がわからないって」
 「ああ、覚えている」
 「その後どうかな? 少しは、幸せがわかったかな?」
 「……ああ。……少しわかった」
 「なになに?」
 「それは…………と……」
 「あ、わかった! 私たちと一緒に居る事、でしょ?」
 「ぅ……バカなことを言うな! 誰が…………そんな……」
 喉を押さえて、バッタリ倒れた太郎の脈を、雉野がチェック。
 「……脈がない。死んでますー! やったーー!!」
 主人公の心停止を確認し、喝采をあげる仲間たちという、とんでもない絵は今作ならではのアクロバット飛行で、ここはとても、らしくて良かったです(笑)
 仮死状態で床に倒れながらも、どこか満足げなタロウの表情から最終回予告へと入り、年が明けてから終盤の失速はいかんともしがたいですが……
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 「さあ、これでおまえ達とも!」
 「ドン最終話」
 「「「「「えんができたな」」」」」
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 は大変良かったです。
 EDテーマをバックに皆に笑顔で囲まれて幸せを感じるタロウ、というまるで最終回のような構図がその1話前に持ち込まれ、脳人の世界からの追放者としてこの世界に現れた暴君・桃井タロウには、


 漂泊放浪する異人として来訪し、死か追放によって外なる世界へと去って行く、原型としての<王>。
(『王と天皇赤坂憲雄

 のモチーフは見え続けていたのですが、漂泊する貴種であり異人であり外来神の性質を持つタロウが、王権にまつわる物語にまま見られる循環形式に則って、此の世を去って行く結末が見たいかといえばあまり見たくはないので、繋がる縁が果たして何をもたらすのか、その着地点をどう描くのかは、楽しみにしたいと思います。