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出られなければ生き残れない

20年ぶりの『龍騎』メモ・第44話

(※サブタイトルは本編中に存在しない為、筆者が勝手につけています。あしからずご了承下さい)
◆第44話「幸福」◆ (監督:石田秀範 脚本:井上敏樹

  • 一体そこに目的意識はあるのか、川原でうじゃうじゃ取っ組み合う、士郎軍団と優衣軍団のモンスター。
  • 敢えて全く見栄えするように撮っていないのが、得体の知れない気持ち悪さを醸し出します。
  • 龍騎はミラーワールドの路上に転がっていた優衣を発見。意識を回復した優衣は正気を取り戻すが、これまでの成り行きを何も覚えておらず……〔ミラーワールド/モンスター/神崎優衣(兄妹)〕の謎は深まるばかり。
  • 今作における「ミラーモンスター」は、ライダーバトルとは別に、ヒーローフィクションを成立させる為のアリバイめいた扱いが主だったのですが、中盤から仄めかしはあったものの、最終盤に入ってその存在そのものが物語全体の謎を構築する要素にスライドする事に。
  • 「休みなのよ……えいえんにね…………」……一方、住み込みのバイトの相次ぐ無断欠勤と音信不通により、おばさんの世界も崩壊しようとしていた。
  • 大会社の創業トップである父親から勘当され、貧乏暮らしで塗炭の苦しみにあえいでいた佐野だが、その父の急死にともない遺言によって社長に就任するのは、如何にも井上脚本な、運命の飛躍。
  • 良し悪しは勿論ありますが、もはやそれ自体が寓話を構成するモチーフとして、ここまでの飛躍は井上敏樹の中ではアリ、みたいなものを感じます。
  • ミラーモンスターの写真を掲載したOREジャーナルは購読者から大顰蹙を買い、抗議や解約の電話で大騒ぎ。……それにしても浅野めぐみ、普通に最終盤までセミレギュラーしていてビックリ(笑) 全く、記憶にありませんでした……。
  • 佐野の餌付けによって心の隙間に忍び込まれ始めた東條は、“英雄”になれば「みんなが好きになってくれるかもしれない」と初めて心情をこぼす。
  • 「でも……ライダーの戦いが終わる前に、願いがかなってしまったら……」……図らずも飛び込んできた運命の好転により、「仮面ライダー」である意味を失ってしまう佐野の前に現れるのは勿論、神崎士郎ーーー。
  • 「一度ライダーになった者は、最後までライダーであり続ける。それが掟だ」……士郎は足抜け禁止を宣告し、原典でいえば「改造人間は元の人間には戻れない」を、「悪魔との契約」モチーフに再構築しているのが『龍騎』の一つ特色といえるでしょうか。
  • 元々、“死と再生”のメタファーとしての「改造手術」のように、原典の内包していた呪術的要素を、オカルト寄りに組み立て直したといいますか(70年代悪の組織は、しばしば科学を標榜しつつも実態はオカルトに寄りがちであったり)。今作の場合、ミラーワールドは明確に「異界(死の世界)」であり、変身によってヒーローが一時的にその「幽冥界(かくりよ)」と「顕界(うつしよ)」を行き来する構造なのですが、では異界の側に存在可能な優衣ちゃんとは……。
  • 「戦え。そして生き残れ。そうすればおまえはライダーを辞めることができる」……かくして佐野の戦う理由が、望み通りになった自分の世界を手放さない為に、に変わるのは、面白い反転。
  • 協力する代わりに報酬を、と売り込んできた立場から一転、トランクに札束を詰めた佐野が真司と蓮をスカウトに訪れるのもまた反転で、真司には追い返される佐野だが、北岡先生は札束を目にするやあっという間に尻尾を振り……と、ここまでの展開を布石に使い、井上敏樹の筆が冴え渡ります。
  • 「友達だよな……俺たち」……餌付けで絆レベルを上げた東條を自陣に引き込む事で、自ら死亡へのロードマップにハンコを押した佐野には、ちょっといい雰囲気になる女性も登場し、えげつない……。
  • (俺は勝つ……必ず俺の人生を守ってみせる)……モンスターに給料を払う為に龍騎を襲ったインパラは、タイガと協力して龍騎を追い詰めるが、勿論、背後からトラに襲われる(笑)
  • 念入りに3回、コーナーポストでの頭部攻撃。
  • 「ごめん、君は大事な人だから。君を倒せば、僕はもっと強くなれるかもしれない」……東條との絆LV上昇は地獄への片道切符、という事で、仮面ライダー」をトラで引きずること通算3回、オルタナティブを殺害2回、終盤の悪役ライダーなので浅倉に負けないような存在感を、という要請はあったのでしょうが、ここでもインペラーの腹をクローでぐっさり刺して実質3回目のキルカウントを稼ぎ出しており、記憶より凄いぞ東條!
  • 龍騎に助けられ、必死に逃げるインパラだが、じゃーんじゃーん! 伏兵もとい通りすがりの暴力の化身にエンカウントしてしまい、こちらは逆に、東條に持ってかれすぎるわけにはいかないと追い打ちのライダーキックを叩き込み、吹っ飛ぶインパラ、砕けるデッキ。
  • 「出してくれ! 出してくれよぉぉ! 俺は帰らなくちゃいけないんだ俺の世界に! ……やだ……やだぁ! 出してくれ! 出してぇぇぇ!」……通行証を失い、鏡の世界から出られなくなった佐野は、“向こう側”が見える鏡の欠片を手にしながら絶叫し、“俺の世界”に生まれた繋がりに声の届かないところで消えていくのが、凄く井上敏樹で、えぐい。
  • 割と乾いたリタイアが多い今作では珍しく、じっくりとその末路が描かれ、役者さんの熱演に因果応報譚のベースも重なって、インパクトの強い最期となりました。20年ぶりですがこのエピソードは割と記憶にありましたし、最終盤ポッと出で話の本筋に絡めない宿命への配慮があったのか、佐野はこの退場回でかなり跳ねたなーと。

 最終章を前に井上敏樹が4話連続で登板し、テレビSPでちらっと先行登場するも出番の無かったインペラーをお片付け(ちゃんと、タイガとセットで謎ポーズでの登場も拾われた!)。
 登場から退場までのインペラー編といえる4本ですが、佐野のキャラ付けに始まり、同時進行で香川先生のリタイアも描く詰め込み具合といい、実に濃厚な井上敏樹テイスト。
 商業展開や劇場版のセールスポイントなど諸事情あった事は窺えますが、こういった形で主要メンバー以外のライダーを適宜○○編で片付けて、TV本編にきっちり13人を出した方がTVシリーズとしての完成度は上がったのではないか、とは思うところで、そういう意味では、「あったかもしれない『龍騎』の1パターン」でもありましょうか。
 まあ、それはそれで単調になった可能性もあり、「劇場版をどう位置づけるか」といったリアルタイムでの盛り上がりと切り離された、後年からの視点でもありますが。
 安易な欲望の為に過ぎた力に手を出して破滅していく佐野は定型のモチーフであり、最終的にはつぶし合うしかない他のライダーを手駒にできると考える浅はかさや、社長になってからの増長ぶりなど、「仮面ライダー」ではなくても遠からず破滅したであろう人間として描かれており、特に社長になってからは芝浦2号も思わせるのですが、俗な欲望にまみれているが求めるものは超常の力である北岡とも、その傲慢を誇大妄想的に拡張していた芝浦ともまた違う、その徹底した俗物ぶりは、身の丈に合わない力を手に入れた人間の末路として、どこか等身大に突き刺さってくるものでありました。
 芝浦にしろ佐野にしろ、その賢しらな計算の枠外に居る存在によって、人生の深い谷底に蹴り落とされるのは、面白いところ。……まあ東條に関しては、劇中の誰にも理解できないのですが!
 (一応今回、他人に愛された事が無いから愛し方がわからない、的には肉付け)。
 ところで、《平成ライダー》としては2010年代前半ごろから目立ってくる、シリアスパートとギャグパートの――「パート」と言ってしまえる程に――極端な温度差の土台は、やはりこの時期の石田監督の演出からかとは思いますが、正直あまり好きではないので、演出陣がこぞってそれに倣っていた時期の作品(『オーズ』中盤~『エグゼイド』ぐらいまでが一番露骨でしょうか)は、演出面での引っかかりは増えるな……と改めて。
 今回も、脚本ベースか現場判断かはわかりませんが、トランクに詰まった札束を凝視する蓮、はやりすぎだったと思いますし。花鶏に子供が溢れて大騒ぎ、なども面白さは感じず……ここに話芸が入ってくると、また話は変わるのですけれど(ただ、笑いのツボは個人差が大きいので、色々なパターンを入れておく事そのものは納得はできます)。
 勿論、ずっと張り詰めていても平板になってしまうので、緩めどころは必要なのですが、石田監督はホント、回によっては緩めすぎる傾向が、『龍騎』ではもうだいぶ目立ってきているな……と。
 この問題を、「電車の中のイマジン」に担当させる事で作品の空気を調整していたのは『電王』の上手い工夫であったなとも改めて。
 次回――いよいよ明らかになる神崎士郎の目的?!