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キカイダーをハカイせよ

人造人間キカイダー』感想・第38話

◆第38話「ハカイダーがジローを殺す!」◆ (監督:永野靖忠 脚本:長坂秀佳
 光明寺博士殺害の容疑をかけられた人造人間ジローに迫る、城東大学の教授による分解手術。
 「ものを言えないジローは、これに抗議するすべがない。どうするジロー?!」
 答は、腕力に訴える。
 前回ラスト、罪のない大学教授を傷つけるわけにはいかない、と触れられていた煩悶など分解の危機の前にはあっさり放り棄てたジローは国家権力の壁をぶちやぶり、大脱獄。
 だが、逃亡者となったジローの足下に銃弾が突き刺さり、テーマソングと共にジローより高いところから現れたのは、ガンマンスタイルの黒い戦士ハカイダー
 「驚いたかキカイダー。これはほんの名刺代わりの挨拶だ。俺はダークの悪の戦士、ハカイダーだ。この俺の居るかぎり、どんな事をしてもおまえは逃げられない。おまえの命は俺がもらう!」
 低い声で悠揚と迫るのが、従来のダークロボットと一閃を画していきなり格好良く、潰せ壊せ破壊せよ、と左手の銃が火を噴き、ジローはチェンジ。
 ここに宿命の兄弟機が激突すると、ハカイダーは回転アタックと大車輪投げを防ぎ、放たれる高周波弾ハカイダーショット!
 「動けないのかキカイダー? 俺は弱いヤツを見るのは嫌いだ! 死ね!!」
 突きつけられた銃口を前に、無言で、逃・げ・た。
 「それでこそキカイダー。俺も殺しがいがある」
 基本、逃走に躊躇のないキカイダーはフライングするが、その後をこれも飛行して追うハカイダー
 両者が空中で激しく殴り合いに突入するのが割と面白い絵で(水中での取っ組み合いみたいな映像を空中でやっている感じ)、続けてキカイダーがサイドマシーンに乗って地上を逃げると、今度はそれをバイクで追うハカイダー、とキカイダーに比肩するハカイダーの能力を激しいアクションで畳みかけるように見せていき、悪のライバル出現を盛り上げます。
 激闘は地上での格闘戦にもつれ込み、左腕を損傷し、ハカイダーの放つ低い体勢からの連続回し蹴りを浴びていよいよ追い詰められるキカイダーだが、悪魔の銃口が火を噴く寸前、突如として激しい頭痛をハカイダーが訴えると、
 「キカイダー、今度会った時は、必ずおまえの命をもらうぞ」
 と言い残して早退し……凄く、東映悪のライバルです。
 光明寺博士への暴力行為、音声回路の故障、逮捕と分解の危機、そして突然現れた粘着系ライバル! と立て続けてのトラブルに見舞われながら辛うじて命を拾ったキカイダーだが、今度はパトカーのサイレンの接近に逃走を余儀なくされ、基地に戻ったハカイダーの方は医療班によりなにやら調整中。
 「これだけがハカイダーの唯一のウィークポイントだ。一定時間内に光明寺の脳の血と交換しないと、ハカイダーは死んでしまう」
 ギルが凄い事を言い出し、早退の理由・強さのリスク・光明寺への執着、が手早く一つに繋げられると、ヒトデムラサキを呼び出したギルは、ハカイダーの充電中にミツ子たちを人質に取ってキカイダーにトドメを刺すように命令。
 そのミツ子たちは、ジローが腕力により大脱走した事実に衝撃を受け、もはやジローは良心回路の機能不全により、暴力への歯止めを失った荒ぶる鬼神と化してしまったのではないか……と落ち込んでいたが、そこに口笛を吹きながらビル壁を垂直に降り、謎の青年が姿を見せる。
 「やあ、ミツ子さん……マサルくん、君が半平か」
 黒革ずくめに黄色のスカーフを巻き、人間離れした動きで現れた青年は、宮内洋系の端正な二枚目で、その名は――
 「俺はジローの弟、サブローだ」
 立ち上がりの今作が『仮面ライダー』との差別化を意識して見えたのと比べると、派手なスカーフは逆に意識も感じられますが、光明寺との再会・ジローびりびり・光明寺への右ストレート・ダークによる光明寺捕獲・ハカイダー誕生・ジロー逮捕・サブロー登場、と物凄い勢い(前回時点だとハカイダーに「ジローの弟」感は全く無いので、サブタイトルに若干の気負いすぎは見られますが)で新展開が加速。
 「ジローの体が壊れた時、俺の体は長い眠りから覚めるように設計されていた。自動的にな」
 OPクレジットバレはともかく、ハカイダーのガンアクションと共通するナイフアクションなど視聴者には特に隠す気のないサブロー/ハカイダー、ミツ子らから見ると胡散臭い事はだいぶ胡散臭いものの、光明寺ならやりかねないのが、実の家族からしても判断の難しいところです。
 示し合わせたかのような(※偶然)ヒトデムラサキの襲撃を、投げナイフであっさり撃退したサブローは、先回りすると
 「俺はただ、人質作戦などという汚い手が嫌いなだけだ」
 と警告を発し、登場間もなく《悪の美学》を発動する芸術点の高さを見せつけて、凄く、東映悪のライバルです。
 一方、警察に追われるジローは修理の為に自ら電気店に向かうと部品を買い求め……日本円は所持しているのジロー?! 暴力は支払いには使えないのよジロー?!
 見えないところで罪状が増えていないか心配が増える中、警察に呼び出されたミツ子たちは再登場した女記者マリが現像した写真を見せられ、ジロー(信頼する仲間)が光明寺(実の父親)を襲うシーンを嬉々として見せつける女記者、立場からすると悪意は無いのですが、人の心が、無い。
 「きちがいになったのよ、ジローは」
 言い逃れの出来ない証拠写真に打ちひしがれる一同に追い打ちを掛け、人の心が、全く、無い。
 通算3話目の登場となった女記者(見習い)、現状トラブルに灯油をかけて火勢を強めるばかりの役回りで、その行動と物言いにはマスコミ風刺も入っていそうですが、このままちょくちょく登場する扱いになったりするのやら……前回の反動もあるかもですが、マリとのバランスを取る為なのか、今回は半平がだいぶまともで、ドタバタ要素が部分的にマリにスライドしている感じの作り。
 ……まあ、半平とマリが下手に化学反応を起こすと、マサルくんが鈍器を半平の後頭部に振り下ろすような事態が起きそうではありますし。
 廊下に飛び出したマサルは、良心回路の制御を失い、悪魔の笛に操られるジローが可哀想だと涙を流すと共に、そんなジローに父の仇として引導を渡すのは僕の役目だと70年代スピリッツに燃え、ここでマサルくんがジローをどう捉えており、自分がどうあろうとするのか、その心情に焦点を当てたのは良かったところ。
 果たしてジローが持つのは本当の正義の心なのか?
 それとも結局は、神ならぬ人の手によって造られた脆く不完全で、外部からの干渉プログラム、回路の故障一つでひっくり返ってしまうものに過ぎないのか?
 そこには当然、では、そういう人間の“心”とは何か、という不滅の問いかけを孕みつつ、半平もまた、マサルの覚悟に賛同。
 唯一ジローを信じようとするミツ子さんが、マサルくんどころか半平にまで、私情だけで物を言う人扱いされて、もはや全く聞く耳を持たれていないのがちょっと可哀想ですが、まあ実際のところミツ子さん、ジローの為なら半平の愛車やマサルくん思い出のミニカーの一つや二つ、カジュアルに分解してみせるダークの女ですしね!
 普段は忍法・笑劇時空の展開に消費しているニンジャエナジーを全力投入(つまり、今ダークに襲われたら、多分死ぬ)した半平は、鎖分銅を用いてジローを捕らえる事に成功し、物凄く格好良く解釈すると、いざという時に命がけでミスター・ジローを止めるのが吾輩の役目、と任じていたのかもしれず、普段おちゃらけている日常ギャグ要員だと思われていた友人キャラが、最終決戦を前に秘密を明かし「今まで黙っていてすまなかった。実は俺は、この封印の為に全ての力を回していたのだ!」みたいな感じですが、半平なので多分まったく、そんな事は、ない。
 一度はサブローに退けられるも、ギルの命令によりミツ子を追っていたヒトデは、ジローが運び込まれた半平の事務所を襲撃。半平&マサルの背後に浮かぶ星型の影に気付き、必死に危険を知らせようとするジローの、他者を守ろうとする強い意志が音声回路を復帰させ、拘束を自力で解いたジロー復活。
 ビルの屋上に立つサブローに気付いたヒトデがアジトに撤収すると、後を追ってアジトに侵入したキカイダーはそこで、カプセルの中に懇々と眠り続ける光明寺の姿を発見し、またも爆発的に増大する光明寺のヒロイン力。
 「あなたに造っていただいたジローが、今お救い致します!」
 もはや扱いが、姫。
 だがそこに響く、プロフェッサー・ギルの不気味な笑い声。
 「キカイダー、おまえは光明寺を殺しに来たのか?」
 「なんだと?!」
 「聞けぃ、キカイダー! そこにあるのは光明寺の体。だが、その体には脳が無い」
 ダーク本拠のモニター映像のズームアップからジローの居る現場へと同じカメラ位置でそのまま場面を切り替えるちょっと珍しい演出と共に明かされる、恐るべき真実!
 「脳は?! 博士の脳はどこにあるんだ?!」
 「……おまえはもう、光明寺の脳を見ている筈だ」
 そう、それは……
 「――ハカイダーの中」
 「その通り! 光明寺の脳は、ハカイダーの頭の中に組み込んである。ハカイダーは、光明寺の天才的頭脳を持った、ダーク戦闘用の、サイボーグなのだ!」
 物語の開始当初から光明寺に執着し続けていたプロフェッサー・ギルが、光明寺が作り出したキカイダーに心を折られかけた末に、可愛さ余って憎さ1000%、光明寺自身をもってその子供ともいえるキカイダーと戦わせる強烈な悪意を見せつけ、カメラ目線の一人芝居が実に迫力満点。
 非常に有名な設定なのでさすがに知っていましたが、脳の強調された頭部デザインと、定期的に血液交換を必要とする(今更ですが、『仮面ライダー THE FIRST』のショッカー怪人の設定はこのオマージュでしょうか)理由が、ハカイダーの特性をこれ以上なく示すものとして明らかになり、遂に、「カプセルの中に囚われながら最強兵器のエネルギー源となる」を実績解除する光明寺姫。
 東映ヒーロー史上に伝説として名を刻むライバルキャラ誕生と同時に、東映ヒーロー史上最強クラスのヒロイン力の持ち主が、生まれていた!!
 「ハカイダーを殺せば、光明寺の脳も死ぬ。脳の無い光明寺の体を助け出しても、同様に死ぬのだ」
 手詰まりの二択を突きつけられて狼狽するジローを悪魔の笛が襲うと、そこに宇宙生物っぽく降りてくるヒトデムラサキ。
 「キカイダーーー、この部屋は俺とおまえのデスマッチリングだ」
 (その部屋はデスマッチリングであると同時に、おまえの墓場だ。死ね、キカイダー
 ダークロボットの台詞を拾うプロフェッサー・ギルだったが、調子に乗りすぎたヒトデが基地のコンソールにジローを叩きつけてしまい、その爆発音が笛の音をカットした隙にジローはチェンジ。
 「くそ! キカイダーめその方が俺も、やりがいがあるわ!」」
 「勝負したければついていこい!
 キカイダーはアジトの外に飛び出してアンドロイドマン部隊を交えた主題歌バトルとなり、前回今回と劣勢の多かったキカイダーのターン!
 特撮界には、ヒトデを宇宙生物(UFO)ぽく扱う派閥、が存在する印象なのですが、ひゅんひゅん飛び回りながら銃撃してくるヒトデに向けてキカイダーも空中戦を挑み、ダブルチョップ!
 そして、膝が思い切り入った!
 対クロガラス辺りから、ミニチュアや吊りを駆使した空中戦の描写が増えているのですが、Aパートのvsハカイダーと同じような構図の空中での打撃から、トドメのフライングデンジエンドでヒトデムラサキは空中で木っ葉微塵にはじけ飛び、しかし勝利の余韻に浸る間もなく、ハカイダーショットがキカイダーを襲う。
 「なかなかやるなキカイダー。おまえの力は充分に見せて貰った。だが、おまえより強い改造人間も居るぞ」
 どうやらハカイダー、生体部品(光明寺の脳と血液)を使っているので、ダークロボット(アンドロイド)との区別としてサイボーグ(改造人間)を用いているようで、人造人間キカイダーvs改造人間ハカイダーの戦いは、ラウンド2へ。
 ナレーション「だが、キカイダーハカイダーを倒すことは出来ない。ハカイダーを傷つけたら、光明寺博士の脳は死んでしまうのだ。どうするキカイダー?!」
 腕力で解決?
 後の東映ヒーロー作品における悪のライバルキャラに多大な影響を与えているとおぼしきハカイダーが鮮烈なデビュー戦を飾り、〔黒くて・強くて・ちょっと芝居がかっていて・独自の美学を振り回し・早退する〕とこの時点で主要なエッセンスがほぼ出そろっていて衝撃(勿論、更にその背後には、時代劇や西部劇、講談などの文脈があるのでしょうが)。
 光明寺の脳を内蔵して動く悪夢のような設定もインパクトがある一方、「キカイダーが本気で戦えない理由」にもなっているのがちょっと不安点ですが、ライバルキャラの戦闘力をアピールしつつ、ヒーローが正面から力負けするのを防ぎたい、という事情も絡んでいそうでしょうか。
 トリックスター的な要素を持つサブローの配置に加え、これまで固い絆で結ばれていた…………と思うミツ子たちとのすれ違いを引っ張るのも面白い展開で、前回はどうも中途半端だった「官憲との対立(社会規範からの逸脱の明示)」も、なんとなくで解決してしまうのではなく、連続した要素としてエスカレートさせていく事により面白みを増しそうで、力の入った新展開にようやくスピードが乗って参りました。
 次回――父の仇と誤解したジローに代わり、サブローに懐くマサルは、サブローから腹にダイナマイトを巻く方法を教わる。
 「ジロー! オヤジの仇じゃぁ!!」
 危ない! マサルの導火線に火が付いた!
 果たしてジローは、この窮地を乗り越えてマサルを救う事が出来るのか。どうするジロー?!